春烙

寒いなあ…

四神伝 一章 四.朱雀<14>

2008年05月23日 20時49分22秒 | 四神伝 一章<完>
(やはり。奴の方が目覚めたか)
(はやいどすな)
(さすがだよ。現世の朱雀って)
(フッ、まあよい。見せてもらおう。我らが目覚めるまでな――)

 翼乃が唱えると、五芒星の中から何かが現れてきた。
「なに!?」
 首に注連縄がさげてあり、背中から顔を覆う銀色の輪、鋭い目つきをした紅い獣。
「妖、怪……」
『我は、焔斬。永き眠りより、今解き放たれた』
「その声は!」
 焔斬は後ろを向いて、翼乃を見た。
『お主が呼ぶまで、わしはお主の中にいた』
「うわ。なんかいやっ」
 嫌な顔をして、翼乃は一歩下がった。
『仕方なかろう。わしらはお主らとともに転生したのじゃから』
「俺達と、一緒に?」
『天界の者と契約した妖怪は、みな妖(あやかし)と呼ばれる』
「呼び方が違うんだな」
 と言って、翼乃は焔斬を眺める。
『長と天帝が親しい友じゃったからのう』
「ふ~ん」
 翼乃は焔斬の背にある輪を触り出した。
『わしらは、天将とともにいる事が多いのじゃ』
「じゃあ。天界にもいったんだ?」
 問いながら、翼乃は首にある注連縄を引っ張っていた。
『さようじゃ。契約を結んだのじゃから』
「契約したら、呼べるんだな」
 と言いながら、翼乃は焔斬の尾を握っていた。
『……聞いておるのか』
「聞いてる、聞いてる」
『妖魔につく妖怪もおる。そやつらは妖魔族と呼び。契約を結ばず、妖魔につかぬ妖怪は、はぐれ妖怪と呼ぶ』
「ほう、ほう~」
 翼乃は尾を握ったり離したりと、繰り返して聞いていた。
『……』
 翼乃の手をするりと逃れると、焔斬は尾を閃かせ、翼乃の額を強く叩いた。
「いたっ!」
『もう遊ぶな。そうでないと、お主を蹴るぞ』
「うわっ。やなこと言うな」
 翼乃は打たれた額を押さえて、焔斬を睨んだ。
『わしは本気じゃぞ』
「あー、はいはい。やらないから」
 翼乃はそう言って、焔斬の背中を叩いた。
「これはこれは」
 焔斬の出現を見て、ミダラは感慨を言った。
「まさか、大妖怪である、焔斬が現れるとはな」
『妖魔とは、異国の妖怪。それゆえ、本当の姿を見せぬ』
「つまり、変化か?」
『半分じゃな。妖魔は人間を殺し、皮を剥ぎ、人間を被るのじゃ』
「……わりぃ。気分が悪くなってきた」
 翼乃は顔色を悪くして、胃の辺りをさすった。
『お主らとて、同じことだろ』
「違いますぅ――! 生まれた時から、人間でした――ッ!!」
 翼乃は顔を引きつけて、焔斬に怒鳴りつけた。



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