話の種

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年功序列と成果主義

2023-08-14 12:24:31 | 話の種

「年功序列と成果主義」

私のサラリーマン時代は「終身雇用」「年功序列」で、若いころは年上の人達との給料の差に対する不満を感じ、これらはおかしいと思っていたが、今考えると、これは日本人の特性に合った制度だったのではと思うようになってきた。
近年米国式の「成果主義」が取り入られるようになったが、このことにより仲間同士の協力関係が希薄になり、他人を蹴落としてでもと利己的な人間が増えてきたように感じる。
日本人はスポーツなどでも見られるようにチームワークが得意だが、この成果主義の導入により、会社内でも個人プレーが増えてきたようにも見える。

また、「正社員」「非正規社員」「派遣社員」という区別は当時もあったにせよ、今ほど非正規社員、派遣社員が多かったという記憶はなく、また格差もそれほどひどくはなかったのではと感じている。
日本経済の長期低迷により、これまでの日本的な「終身雇用」「年功序列」制度ではダメだということで、米国式の経営システムが取り入られるようになったが、企業は内部留保をため込むばかりで賃金は一向に上がらない。(最近は内部留保を減らして配当や自社株買いに向ける動きにはなってきているが、これも結局は米国流の株主重視の一環で、株主の利益にはなっても従業員のためにはなっていない。)一億総中流といわれた時代からいつの間にか格差社会と言われる時代になり、持てる者はますます富み、これまで普通だったほとんどの人は負け組の側になってしまい二極化が進んでる。少なくともこれ迄の日本は、米国のように一握りの勝ち組が全てを持っていくような社会ではなかったはずである。

*内部留保:
(企業のP/L上の当期純利益から配当を差し引いた部分。内部留保と言う勘定科目はなく、B/S上では利益剰余金となる。つまりB/S上の利益剰余金は内部留保の累計額となる。
日本企業の場合、バブル崩壊以降この内部留保は増え続けており、一方賃金や設備投資はほぼ横ばいで推移している。つまり会社は企業業績が好調であるにもかかわらず利益を貯めこむばかりで、従業員の賃金には反映されず、将来の利益の源泉である研究開発や設備投資などにも有効活用されていないということになる。(なおこの内部留保は人件費を減らすことにより増やすこともできる。この場合は経費を減らして利益を増やすという形になる。)

*(日本の企業はPBR(株価純資産倍率)が1倍を下回るところが多く、最近東証はこれら上場企業に対して改善要求を行い、これに応じて企業も内部留保を減らす動きになったもの。PBR1倍割れということは、その会社に対する市場の評価が低く、資産効率が悪いと見られているということで、株価が上がらないのはこのことにも起因するとして、東証はこれに危機感を強めたもの。内部留保を減らせば純資産も減り、PBRは上がることになるが、これは一過性なものに過ぎない。)

米国は昔から競争社会で、アメリカンドリームという言葉があるように上昇志向が強く、まずは自分ありきの考え方をする国である。
寄付やチャリティーなどがあるが、これらは成功者達の特権意識や優越感によるものとしか思えない。チップ制度などもその例ではないだろうか。
一方日本人はと言えば、平等意識や協調性が強く、普通でいい、平凡でいいとする国民である。
ネットの投稿サイトを見ても、日本人は他者を尊重する、他者への敬意が凄いといった讃辞がよく見られる。確かに職業に貴賤はないという考えから、旅館などに宿泊しても仲居さんなどに「お世話になりました」と言うし、店員さんなどにも決して威張った態度はとらない(一部にはいるかも知れないが)。

「終身雇用」「年功序列」が上手くいっていたのは確かに高度成長期で、グローバリゼーションにより発展途上国の勢いが急速に増している今日のような時代では通用しないという意見もあるが、果たしてそうだろうか。これらは日本人の特性を上手く活かした制度だったのではないだろうか。
終身雇用、年功序列では人は現状に安住してしまい、特に上の人間は余り働かなくなり労働生産性は上がらないという見方があるが、確かにそのような傾向もあるにせよ、一方この方が上の人間は下の人に自身の経験を通しての知識や技術を移転しやすいという側面もある。
近年日本では革新的な技術は生まれていないというが(例えばノーベル賞の受賞者が多いのも過去の実績によるものとのことだが)、その代わり日本人の得意とするチームワークによる改良や応用技術は今でも高い水準にある。(日本の中小企業でも技術力の高いところは海外企業からの引合も多い。)
逆に、近年問題とされている大手企業の中小企業に対する値下げ圧力や、最近のビッグモーターの問題などは、成果主義の弊害の最たるものと言えるだろう。

ともかく、何よりもこの終身雇用、年功序列の利点は従業員の生活が将来的にも安定するということ。人の幸せの尺度は様々だが、別に勝ち組に入らなくとも、そこそこ普通の生活が出来ればそれでよいという日本人には、昨今のようなギスギスした成果主義の社会よりは合っているのではないだろうか。また、生活が安定すれば心に余裕もでき、目先の利益に追われることもなく、新たな発想も生まれてくるかも知れない。

今考えると、どうも米国流の社会システムは彼ら狩猟民族には合ってはいても、我々農耕民族、特に日本人には適していないのではと思えてならない。

(以上、終身雇用や年功序列の良さを取り上げてきたが、これはあくまでも成果主義との比較において日本人にとってどちらが良かったかと言うことであり、勿論終身雇用や年功序列には問題点もある。世の中に絶対的に正しいなどと言うものはなく相対的なものであること、またそれも時代と共に変わりうるものであることは言うまでもない。)

(参考)

(*企業の利益剰余金(内部留保)はバブル崩壊後2000年頃までは20%前後だったのが、2016年は40%前後、2020年には企業の内部留保は9年連続で過去最高となっている。
またPBR1倍割れの企業は2022年7月時点で、TOPIX500構成銘柄で43%、米国S$P500構成銘柄では僅か5%、欧州Stock600では24%で、日本が格段に多い。時価総額が大きい企業は合格点ということにはなっておらず、日本企業は国際競争力がなく、価値想像力も極めて貧弱だと海外投資家からは思われていることになる。)

(*日本経済の長期低迷の原因としては、競争力を失った企業の存続、AI技術への乗り遅れ、企業利益が従業員の給料や設備投資などに向けられていないなど、いろいろと考えられるが、これらは従業員側の問題ではなく、バブルの崩壊やリーマンショックなどを経験した経営者側の保守化(内部留保の過剰な蓄積や既存分野に安住する姿勢、戦略思考の欠如など)によるところが大きいと考えられる。半導体産業の衰退などはそのいい例であろう。)

(*半導体については日本はかつて世界市場の50%以上のシェアを持っていたが、現在では6%程度までに落ち込んでしまっている。その理由としては米国からの圧力などがあったにせよ、当時の日本の半導体の製造は全て総合電機メーカーの一部門として存在しており、経営者が半導体に精通していなかったので、半導体を利用する或いは製造方法を分業化するなどの市場の変化についていけず、迅速かつ大胆な決定が出来なかったことなどが大きい。しかし今でも製造装置など製造過程の基礎的分野では強みを発揮している企業もある。)


(備考)

奨学金制度だが、私たちの時は日本育英会の特別奨学金制度というものがあり、確か月額8,000円で、内5,000円が給付、3,000円が貸与だったが、この貸与は無金利だった。従って私などは(後輩たちのことも考えて)入社2-3年でこの貸与部分を全て一括返済してしまった記憶がある。
現在は奨学金とは名ばかりで、実態は一般のローンと何ら変わりはない。
社会に出てからも、この奨学金返済に苦しんでいる人達は多いと聞くが、何時からこのようになってしまったのだろうか。

教育の機会均等ということについても、大学に行けるのは裕福な家庭の子女が多く、貧困な家庭で育った人たちは家族の為に進学を諦めざるを得ないというケースが多いという。
要するに生まれながらにして格差が生じているということであり、奨学金制度がこのようなものだと機会の平等ということも失われ、最早どうしようもないということになってしまう。

どうも近年世の中は変な方向に向かって動いているとしか思わざるを得ない。

 

 

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