酔月庵 A Side

設計屋系システム屋から見た世界

運とジーコと戦略と

2005-06-16 02:47:14 | 時事
 前回勘について書いてみたので、今回は運について書いてみます。

 「ついてない」「運がわるい」と口癖のように言う人がいますが、その人の不運とやらをよくよく聞いてみると、実は事前に予見可能で、ちゃんと対策を打っていれば回避できた事である場合がほとんどだったりします。
 例えば、天気予報で降水確率が30%であるという予報を見ていながら、傘を持たずに家を出るようなものです。30%の確率であれば、起きない確率の方が大きいですが、起きても不思議ではありません。

 実は、「ついていない」とばかり言っている人の不運とやらは、実は単なる怠慢である場合が多いように思えます。

 一方で運の強い人は、「運に頼らない」という共通した特徴を持っているように思います。
 事前に起こり得る可能性について考え、例え確率は低くても発生する可能性のある好ましくない状況に対しての準備を行なう。たとえ確率が高いとしても好ましい事が必ずしも起こらないと言う前提で、計画を立てる。好ましく無い事が起こる確率が少しでも下がるように手を打ち、好ましいことが起こる確率が少しでも上がるように手を打つ。運の強い人というのは、このような努力を無意識に行なっているように思います。

 運に頼る人は、例え幸運に恵まれたとしても、事前にその幸運を織り込み済みならばそれでやっとゼロになります。運に恵まれなかったら、その分だけマイナスになります。
 一方で、運に頼らない人は、幸運が訪れればその分だけプラスになります。例え運に恵まれなかったとしても、事前にそれを想定して何らかの対策が打てていれば、マイナスの程度を減らす事が出来ます。
 運の強い人とそうでない人の違いは、この辺にあるのではないかな、と私は思うのです。

 さて、週間木村剛[ゴーログ] キリン・カップはジーコのトラップだったのか?!という、サッカー日本代表チームにおけるジーコ監督の強運についてのエントリーがありましたので、ジーコジャパンについても言及してみます。

 ジーコは運が強い、と言われていますが、それは本当に運でしょうか?
 試合二日前に主力の小野選手の骨折による離脱や、主力3人が警告累積で出場停止という状況が発生しながら、チームとして十分に機能していたという事は偶然ではありません。それまであまり有名ではなかった大黒選手が、点を取った瞬間にピッチの上にいたのも、決して偶然ではありません。起こりうるアクシデントに対する想定と対策が行なわれていた事により、起こった幸運がそのまま結果につながったのではないでしょうか。

 今のサッカー日本代表において、特定の選手に対する批判は全くといっていいほど聞かれません。
 ジーコ監督が選手をかばっているという理由も大きいでしょうが、チームとして特定の選手の頑張りを前提としないチーム作りがされているのも原因の一つなのではないかと思うのです。

 今までの日本代表チームは、各選手が十分な働きをする事を前提とした戦術が用いられていたように思います。確かに全選手がうまく実力を発揮できれば非常に強力なチームになりますが、誰かが不調だととたんにガタガタと崩れてしまう。そうして、「**選手が敗戦の原因だ!」というように、選手が批判にさらされます。

 しかし、これは本当にその選手のせいなのでしょうか?
 例えば、11人の選手全員が100%の力を発揮すれば200の結果が出せるが、一人でも80%以下の力しか出せないと50の結果しか出せないチームと、20人の選手のうちの11人が90%の力を出せば150の結果が出せるチームと、どちらが強いチームとでしょうか?
 ジーコ監督が作ったのは、後者のチームなのだと思うのです。

 一方で、今のバブル後の日本の企業において、前者のような場面が多く見受けられます。各個人の頑張りを前提とした計画。頑張りが少しでも足りないと失敗してしまうような計画。そのため常にプレッシャーにさらされ、失敗すれば全ての責任はおまえのせいだとばかりに猛烈な非難にさらされる。JR西日本などは、この典型的な例だと思うのです。
 ハイリターンに目がくらんで、ハイリスクな部分に目を向けず、リスクを減らすための努力もせず、失敗したら失敗の原因となった人間に全ての責任を押し付けようとする。
 失敗を犯した現場の人間よりも、現場の失敗に対して耐性の弱い戦略を選択した司令官こそ、責任を問われるべきだと、私は思うのです。

 ジーコ監督は、自分で結果に対しての責任を負う選択をしたのでしょう。このような上司の下でならば、喜んで上司のために働く事でしょう。「ハイリスクハイリターンの仕事を成功させてこそ勝負の醍醐味!」というような考え方も確かにあるだろうが、私はジーコ監督の選択を支持します。(確かに、全てがぴったりはまったときの爽快感の無い、迫力に欠けるチームという印象はぬぐえませんが、しぶとさは今までで一番のように思います。)
 多少の失敗を個人がしても組織としての失敗にはつながらず、リスクのある仕事に幸運にも成功を収める事が出来たなら、その結果がそのまま組織としてもプラスの成果になるとしたら、こんなにやりがいを感じられる環境は無いでしょう。リスクのある仕事も成功させて当たり前と思われ、失敗したらみんなに迷惑がかかるようなプレッシャーの中で働くのとは雲泥の差です。