小1時間ほどして、妹がホカホカのおかゆを持ってきた。土鍋のふたを開けると香ばしい湯気が立ち上る。
「奈良風のほうじ茶のお粥にしてみました♪ ショウガのすりおろしも入れたから温まるよ」
おかゆはとろんとやわらかで、不器用な妹作とは思えないほどの出来だった。とくに香りが秀逸だ。
「一人暮らしになって、腕が上がったんじゃない?」
妹は得意満面の笑顔。
「でも、何でおかゆ?」
「へ? だってお姉ちゃん…」妹の顔がみるみる青くなる。どうやら気がついたようだ。「お姉ちゃん、どっちかって言うと、病人じゃなくて、ケガ人?」
「おかゆだと足りないぐらい元気」と、私。久しぶりの妹の天然ボケは、涙が出るほどおかしかったが、当の本人は泣き出しそうだ。「ケ、ケーキ。ケーキも食べよう。今津駅の三番館で買ってきてくれたんでしょ?」と、すかさずフォロー。あいかわらず世話のかかる妹だ。
けれども、私が結婚出来たのはこの妹のおかげ。奥さんを亡くして小さな娘の幸花を育てる彼と、両親を亡くして年の離れた妹の雫を養う私は、仕事先でたまたま知り合って自然に意気投合した。が、いざ結婚が前提になると、逆に子供や妹がいることが、お互いの引け目となり、急速に歯車が合わなくなった。
クリスマスイヴの夜、ふいに雪が降り始めた。初雪でさらに華やぐ街角とは対照的に心が沈んだ。はかなく白い雪は、両親との永遠の別れを思い出させた。彼ともまた……。
家に戻ってからもぼんやりと夜空に舞う白い雪を眺めていた。すると、妹が彼と幸花を連れて帰ってきた。あっけにとられて玄関で立ち尽くす私。妹と目が合うと、妹は今までで見た中で、最高の笑顔のまま、最大の涙をぼろぼろとこぼした。後から彼に聞いた話だと、妹は彼の会社のある御堂筋のあの大通りで人目をはばからず「お姉ちゃんと結婚をしてください」と、土下座したのだという。
「お姉ちゃんから選んで♪」
妹の声で我に返る。目の前には例の大箱。中には色とりどりのケーキが所狭しと並んでいた。
「たくさん種類があってどれもおいしそうだったし、病人で食べられないものがあると思ったから、いっぱい買っちゃった。それからお姉ちゃんがいつも三番館で飲むって言ってたコーヒーの豆も買ってきたよ。挽きたてだから、すごくいい香り!」と、妹の笑顔といつの間にやら用意されていたコーヒーの香りがふんわり広がった。
「だから、ケガ人だって」と、私もつられて笑う。
(つづく)
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「奈良風のほうじ茶のお粥にしてみました♪ ショウガのすりおろしも入れたから温まるよ」
おかゆはとろんとやわらかで、不器用な妹作とは思えないほどの出来だった。とくに香りが秀逸だ。
「一人暮らしになって、腕が上がったんじゃない?」
妹は得意満面の笑顔。
「でも、何でおかゆ?」
「へ? だってお姉ちゃん…」妹の顔がみるみる青くなる。どうやら気がついたようだ。「お姉ちゃん、どっちかって言うと、病人じゃなくて、ケガ人?」
「おかゆだと足りないぐらい元気」と、私。久しぶりの妹の天然ボケは、涙が出るほどおかしかったが、当の本人は泣き出しそうだ。「ケ、ケーキ。ケーキも食べよう。今津駅の三番館で買ってきてくれたんでしょ?」と、すかさずフォロー。あいかわらず世話のかかる妹だ。
けれども、私が結婚出来たのはこの妹のおかげ。奥さんを亡くして小さな娘の幸花を育てる彼と、両親を亡くして年の離れた妹の雫を養う私は、仕事先でたまたま知り合って自然に意気投合した。が、いざ結婚が前提になると、逆に子供や妹がいることが、お互いの引け目となり、急速に歯車が合わなくなった。
クリスマスイヴの夜、ふいに雪が降り始めた。初雪でさらに華やぐ街角とは対照的に心が沈んだ。はかなく白い雪は、両親との永遠の別れを思い出させた。彼ともまた……。
家に戻ってからもぼんやりと夜空に舞う白い雪を眺めていた。すると、妹が彼と幸花を連れて帰ってきた。あっけにとられて玄関で立ち尽くす私。妹と目が合うと、妹は今までで見た中で、最高の笑顔のまま、最大の涙をぼろぼろとこぼした。後から彼に聞いた話だと、妹は彼の会社のある御堂筋のあの大通りで人目をはばからず「お姉ちゃんと結婚をしてください」と、土下座したのだという。
「お姉ちゃんから選んで♪」
妹の声で我に返る。目の前には例の大箱。中には色とりどりのケーキが所狭しと並んでいた。
「たくさん種類があってどれもおいしそうだったし、病人で食べられないものがあると思ったから、いっぱい買っちゃった。それからお姉ちゃんがいつも三番館で飲むって言ってたコーヒーの豆も買ってきたよ。挽きたてだから、すごくいい香り!」と、妹の笑顔といつの間にやら用意されていたコーヒーの香りがふんわり広がった。
「だから、ケガ人だって」と、私もつられて笑う。
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