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こじやん、くるくる!

写真×短歌の旅日記です。ここしばらくは、スーパーの袋に荷持つを詰めて巡ってた(笑)、ゆるいアジア旅から。

カフェ三番館街角物語<第5話> 2

2006-06-11 02:01:10 | (ショートストーリー)
小1時間ほどして、妹がホカホカのおかゆを持ってきた。土鍋のふたを開けると香ばしい湯気が立ち上る。

「奈良風のほうじ茶のお粥にしてみました♪ ショウガのすりおろしも入れたから温まるよ」
 
 おかゆはとろんとやわらかで、不器用な妹作とは思えないほどの出来だった。とくに香りが秀逸だ。

「一人暮らしになって、腕が上がったんじゃない?」

 妹は得意満面の笑顔。

「でも、何でおかゆ?」

「へ? だってお姉ちゃん…」妹の顔がみるみる青くなる。どうやら気がついたようだ。「お姉ちゃん、どっちかって言うと、病人じゃなくて、ケガ人?」

「おかゆだと足りないぐらい元気」と、私。久しぶりの妹の天然ボケは、涙が出るほどおかしかったが、当の本人は泣き出しそうだ。「ケ、ケーキ。ケーキも食べよう。今津駅の三番館で買ってきてくれたんでしょ?」と、すかさずフォロー。あいかわらず世話のかかる妹だ。

 けれども、私が結婚出来たのはこの妹のおかげ。奥さんを亡くして小さな娘の幸花を育てる彼と、両親を亡くして年の離れた妹の雫を養う私は、仕事先でたまたま知り合って自然に意気投合した。が、いざ結婚が前提になると、逆に子供や妹がいることが、お互いの引け目となり、急速に歯車が合わなくなった。

 クリスマスイヴの夜、ふいに雪が降り始めた。初雪でさらに華やぐ街角とは対照的に心が沈んだ。はかなく白い雪は、両親との永遠の別れを思い出させた。彼ともまた……。
 
 家に戻ってからもぼんやりと夜空に舞う白い雪を眺めていた。すると、妹が彼と幸花を連れて帰ってきた。あっけにとられて玄関で立ち尽くす私。妹と目が合うと、妹は今までで見た中で、最高の笑顔のまま、最大の涙をぼろぼろとこぼした。後から彼に聞いた話だと、妹は彼の会社のある御堂筋のあの大通りで人目をはばからず「お姉ちゃんと結婚をしてください」と、土下座したのだという。

「お姉ちゃんから選んで♪」

 妹の声で我に返る。目の前には例の大箱。中には色とりどりのケーキが所狭しと並んでいた。

「たくさん種類があってどれもおいしそうだったし、病人で食べられないものがあると思ったから、いっぱい買っちゃった。それからお姉ちゃんがいつも三番館で飲むって言ってたコーヒーの豆も買ってきたよ。挽きたてだから、すごくいい香り!」と、妹の笑顔といつの間にやら用意されていたコーヒーの香りがふんわり広がった。

「だから、ケガ人だって」と、私もつられて笑う。

(つづく)


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