「青い虫が青葉にとまる」。星一徹の手によって、ついに大リーグボール2号の秘密は100%暴かれた。そして、中日側の刺客は親友伴に命じられた。
伴は、宿命のライバル花形、左門を出し抜いて、大リーグボール2号を確実に打倒するはずだった。運命の中日戦、むざむざと大リーグボールを打たせるわけにはいかない。その川上の心の裏を読んで、ついに飛雄馬がマウンドに引きずり出された。すかさずピンチヒッター伴の名が告げられる。
飛雄馬は伴がどういう手段で消える魔球を打ってくるのか見当がつかない。そこで、川上の命令で、大リーグボール1号を投げた。一徹は、そこまで読んでいた。大リーグボール1号を投げるやいなや、伴は思いっきり体を地面にたたきつける。かつての柔道王なればこその離れ業だ。大リーグボール1号はバットに命中するが、倒れざまのバットでは打球はファールになってしまう。それを何度か繰り返し、飛雄馬の集中力も限界になる。そして、いよいよ勝負、消える魔球を投げた。
しかし、ホームベース手前は、先ほど伴が転倒を繰り返したことで、地面が固められ、砂埃がたたなくなっていた。そしてボールは消えず、秘密の軌道が明らかになった。しかも、三塁コーチボックスの一徹からは「打て」のサインがでている。伴は懇親の力を込めてボールを打った。ボールは完全に視界から消え、大ホームランになったと思われた。その時、サード長島の野生のカンが働いた。ボールはとんでもない高さのピッチャーフライだった。そう、消える魔球はボール球だったのだ。
悔しがる伴、なぜボール球に打てのサインをだしたのか。一徹に怒りをぶつける伴が聞いたのは意外な答えだった。
一徹「伴よ、ゆるしてくれいっ。打てのサインはどんなジェスチャアだったかのう」
伴「ぼうしのひさしを、右手で深く下げ、そのひさしの影で左の二本指でVサインですわい」
一徹「ふふふっ・・男が泣いて、その涙恥ずかしさに、ついぼうしのひさしをさげ、あわてて、指で涙をぬぐうと、それとそっくりになる」
「しかも、重大な場面でコーチたるもの、涙で目がかすんどっては、えらいことになると焦りもしてのう」
「わ・・・わしは無理を重ねとったのかもしれぬ。飛雄馬に対して・・・やつの姿を見とったら、ふいに泣けた!父にいじめ抜かれ、元親友と対決し、チームのためカビの生えた大リーグボール1号まで投げる姿に泣けた!」
伴「鬼の目に涙じゃったか。星コーチ、今、この場で伴宙太、とことんあなたに惚れたわい。これでこそ人間、これでこそ男。男心に男が惚れて、野球一代、火にも水にもとびこめるわいっ」
「なんの、消える魔球の打倒ごとき、ライバルの先輩として花形、左門にゆずっておくわいっ」
はじめて一徹が他人に見せる、親の情であった。とことん厳しく、つけいる隙のないような冷徹な態度をとり続けた一徹も、心の底では葛藤していた。
「これでこそ人間」、鉄壁のごとく固められた隙間から、本のわずかにこぼれてくる「情」その情に、相手の真意を見て、だまってついて行こうと決める。男が男に惚れるというセリフは昔の漫画にはよくあった。
今のように、感情の大安売り、感情の垂れ流しの中では考えられないだろう。たまにこぼれてくるからこそ、値打ちがある。深いところからこぼれてきたからこそ、真実みがある。その真実と深さに心を動かされ、必死で頑張ろうという気持ちになる。本当の意味での信頼感が生まれる。
感情の大安売りでは、真実みも深みもない。「つらかったね、よくがんばったね、よく言えたね、もうあなたは一人じゃないのよ」とか浮いたようなセリフを言って涙されるより。黙って、深くうなずきながら、何も言わずに最後まで話を聞いて、黙って一筋の涙を流される方が、遙かに心に深く響く。本当に分かってくれたのだと感じるだろう。
○○業とか、○○技法とか、マニュアル通りのパターンで人の心に響くと思ったら大間違いだぞ!浮いたようなやりとりばかりが横行して、深い人間関係、深い感情体験が失われてしまったことが悲しく寂しい・・