
会社に一本の電話があったのは、2カ月前の4月上旬。
「1500万以下の中古住宅を探しているのですが何かございますか?」
およそ電話の内容は、上記のようなものであったと記憶している。
生憎と中古の持ち合わせがなく、他業者の物件を紹介しその資料を速攻で電話主の住まいにポストインした。
その日の夕方近くになってから、電話主から日曜日に内覧したいがいいだろうかの旨の電話が入り案内が決まった。
案内当日、現地にて電話主を待っていたら、古びた軽乗用車で年の頃30代前半と思われる一人の若者が車を降り立った。普通住宅を購入するパターンは、ご夫婦か年配者と決まっているが電話主のパターンはこの通り一辺倒のパターンに該当しない。
身なり風体も突っ掛けにジーンズという今の若者に多い恰好で、とても住宅を欲している人とは到底思えない。
それでも、折角来て頂いたお客様ですから懇切丁寧に説明をし別れたが、その翌日、その電話主から意外な事に申し込みが入った。
独身で30代の若者、身なり風体からしてとてもお金を持っていそうもない、そのお客様から住宅購入のお申し込み、ダメ元でやれる所までやってみようという事で、事前審査の書類を銀行から取り寄せた。
準備する書類は、源泉徴収表、自己資金明細等々。
その旨を電話主に話すと、その日の内に会社まで届けてくれた。
お会いしてよくよくお話を聞いてみると、私の所へ電話をくれた当日中古住宅の問い合わせを業者にした件数は、驚くなかれ50数件、その1件に当社が当選したという事である。
何となくその時、その電話主と出会うべきして出会ったという運を感じた。
電話主の持参した源泉徴収表の金額はかなり低かったが、年収が低い割には自己資金、積立や定期預金が年収以上にあってもしかすれば事前審査、通過するかも!という予感を抱かせてくれた。
事前審査を申し込んでから2日目の夕方、銀行から一本の電話が会社に入った。
「Aさんの事前審査ですが、承認降りました。」
この時の私の心境は、してやったり!
即その旨をAさんに電話で報告すると、電話の向こうで嬉々として喜んでいる様子が垣間見られ、こちらまで嬉しくなってきた事を覚えている。
今はそのAさんも、3LDKの住宅に一人悠々自適に住まいしておりますが、このような堅実な方も世の中にはおられて、身なり風体だけでその人となりを判断してしまうと大魚を逸してしまうというお話でした。
「人は見かけによらぬもの」
広辞苑では、人の性質、能力などは外見だけで判断できないと書いてある。
