紫苑の惑星

若柳菊のプチ日記や寿菊派若柳流からの日本舞踊公演会のお知らせなどを更新します。

【大蛇】

2004年11月15日 | 演目ガイドブック
【義太夫 大蛇(おろち)】

日本振袖始(にほんふりそではじめ)
作者は近松門左衛門。初演、元禄16年大坂・竹本座。
八岐大蛇退治の伝説による 『日本王代記』の改作です。

天孫瓊々杵尊の妃となった美しい木花開耶姫(このはな
さくやひめ)の姉・ 岩長姫は醜女であったと古代神話
では語られていますが、近松はこの岩長姫を国の十握の
宝剣を奪い取った悪鬼として、また自身の醜さを呪って
美女に祟りをなす存在として描くことにより薄幸の女性
の悲しみと嫉妬の怨念を神話的スケールで表現すること
に成功しています。
本来は全5段からなる物語ですが明治以降は「大蛇退治」
の5段目だけが上演されるようになりました。

少し長くなりますが、ここで物語のあらすじをご紹介致し
ます。博多座の舞台は一人立ちですが、これを読んで観て
頂けるとより楽しめると思います☆

出雲の国、簸の川岸…。今日は八岐大蛇に生け贄の稲田姫
を捧げる日です。
しかし、稲田姫を愛しく思っている素戔嗚尊(すさのおの
みこと)は姫を助けるために毒酒を入れた8つの瓶を用意
し、大蛇が毒酒を飲み干した折を見て討ち取ろうという計
略を立てます。生け贄として今朝一人捨て置かれたことを
嘆き悲しむ稲田姫…。この時、発熱に苦しむ稲田姫の両袖
の下を開けてやるのが<日本振袖>の由来とされています
が、そこに俄の雨の異変と同時に現れた怪しい女こそ、
嫉妬の怨念がその身に悪鬼を呼び八岐大蛇の化身となった
岩長姫でした。岩長姫は稲田姫を一口に飲み干そうとしま
すが瓶の酒に気付き、次々に飲み干していきます。毒酒に
酔った岩長姫は稲田姫に襲いかかりますが、素戔嗚尊が退
治に登場。正体をみせた八岐大蛇でしたが毒酒に力つき見
事討ち取られ、十握の宝剣も無事素戔嗚尊の手に取り戻さ
れるのでした。

なんだか、おどろおどろしいイメージの『大蛇』ですが、
これは、目に映るもの全てを正直に解釈しないで欲しい
と思う演目です。
『大蛇』はただの一人の女でした。美しい木花開耶姫が
妬ましかった。嫉妬と恨みが心を蛇に変えたのです。
胸に手を当てると私もにも良く分かる心情です

岩長姫を退治した素戔嗚尊は「嫉妬心」をやっつけた
と考えると、何も語らない立方が言わんとする事は何か。
そして何故ひとりで二役を演じるのかを感じて頂けると
思います☆




【元禄花見踊】

2004年11月15日 | 演目ガイドブック
【長唄 元禄花見踊(げんろくはなみおどり)】

この曲は、明治期に舞踊のために作られたそうです。
いかにも満開の桜を思わせるような華やかで明るく、
舞台の幕開けのとしても相応しい演目です。

幕が上がると時は元禄、花盛りの上野の山を背景に
花見に集まった湯女や丹前の武士・町娘などが、
元禄風俗を思わせる浮世絵風のきらびやかな姿で
踊ります。
登場人物は特定の人物を踊ったものではなく、
あくまでも爛熟した元禄期の花見らしい華麗な美しさ
を見せるのが、この演目のみどころとなります。

鳴物の賑やかさと浮き立つようなメロディー、
そして派手な振付けを存分にお楽しみ頂きながら、
元禄の大平であった頃の面影を舞台の上に感じて下さい☆

少し前に、海老蔵さんが出演しているお茶のCMで、この曲
が使われていたのを覚えている方いらっしゃいますか?
しなやかな手踊りがとても印象的でした

博多座公演でも「あっこの曲知ってる。」と思わず声が
出そうなくらいポピュラーな音楽です☆
お三味線の音ってイイなぁ日本だなぁと感じて下さい

【臥猫】

2004年11月15日 | 演目ガイドブック
【長唄 臥猫】

臥猫は、長唄三絃の名手「鳥羽屋三右衛門」が作曲した
“三鳥三獣の秘曲”のなかの一つと言われています。

〈あらすじ〉
第一景は屋根の上の物干場の場面です。
のどかな春の日に、牡猫と牝猫が日なたぼっこをしながら
居眠りをしています。辺りを飛び交う蝶に起され目を覚し、
お互いの存在に気付いた二匹の恋模様が描かれます。
蝶を追ったり戯れ遊ぶ姿をお染と久松の扮装(歌舞伎の
「お染の七役」から)で演じ、人間の男女の恋する気持ち
を猫らしい身のこなしで、ほのぼのと明るく表現します。

のびーっをしたり、柱をひっかいてみたり、これも振付けの
一部と思うと日本舞踊の楽しさが倍増します☆

『もつれて遊ぶ…』から猫の本性を見せて楽しく踊っている
うちに『立木にのぼる…』で屋根から転げ落ちてしまいます。

ここの転げる場面は博多座などで大道具の用意が出来るから
こその見せ場です!!

第二景は気分がガラリと変わり秋の場面で、ますます猫らしい、
どこかおどけたコミカルな振りになります。
猫のやわらかな動きからにじみ出る面白さと、何とも言えない
男女の微笑ましい情愛を、この舞台でお楽しみください。

博多座で初めて出される演目ですので、
是非みにきて下さいね

【鞍馬山】

2004年11月06日 | 演目ガイドブック
【長唄 鞍馬山】(くらまやま)

最近では、舞踊会で演じられる事も少なくなりましたが、
もともと歌舞伎の顔見世狂言として「倡女誠長田忠孝」の
中の「宗清」を見せた後に上演されていました。

舞台は、『夫月も鞍馬の影うとく 木の葉おどしの…』の
唄い出しからも分かるように、木立に覆われ暗く木の葉が
風にざわめく鞍馬山の怪しい雰囲気を漂わせています。

花道から現れる牛若丸(のちの義経)は、父の敵である
平家に恨みを果たすため、この山深く寂しい鞍馬山の
多門天に、大願成就を祈りながら毎晩お参りをしてい
ました。
ある夜、疲れて岩にもたれうたた寝をしていた牛若丸は、
まだ母(常盤)のふところに抱かれていた幼子のときの
夢を見ます。
ここの部分は長唄を良く聞いている分りやすいですよ

伏見の里で宗清の情によって助けられ、出家のため
鞍馬山の東光坊に預けられていた事を思い出し、その
思い出がこの演目の趣向になっていますが、いまでは
大部分が省略され、天狗と牛若丸の立ち回りが見せ場
となっています。

夢に見た母との別れと現在の境遇、そして平家(父の仇)
に一太刀報い、源氏の再興を祈願する、牛若丸の切なる
心を可憐に気高く演じます


【三社祭】

2004年10月08日 | 演目ガイドブック
【清元 三社祭】本名題「弥生の花浅草祭」
1832年の3月。 江戸中村座初演
善玉 四世坂東三津五郎(現在10代目板東三津五郎) 
悪玉 二世中村芝翫

あらすじ
 
幕が開いた舞台にもう一つの幕(浅黄幕[あさぎまく]浅葱色=みず
いろ)が張ってあり、チョンと云う柝(き)を合図にその幕が一気に
舞台に落とされます。(この演出法を“振り落とし”といいます。)
その浅黄幕が落とされると、船に乗った漁師が後姿でゆれています。
これは祭りの山車(だし)の上についている人形がゆれている様子を
表しています。それから漁師同志の、息の合った踊りの後に二人の
頭上に雲がおりて来ます。

 怪しんだ二人は、

「こんにゃく玉かかね玉か」
(やわらかいものだか、かたいものだか)
「何でも怪しい二つの玉」
(何かわからないけれど怪し気な二つの玉がみえる)
「こいつぁけうだわぇ」
(これは何とも不思議なものだなぁ)

と云ってこの雲を打ち落とそうと櫂(かい)をふり上げ切り
かかりますが、二人に善玉悪玉が取り憑き、善悪の面を付けて、
それぞれを象徴する踊りとなります。

源氏と平家や男と女になぞらえて軽妙でシャレのきいた踊りが続き、
「玉づくし」でさらに踊り狂います。

「早い手玉や品玉の 品よく結ぶ玉だすき
 かけて思いの玉くしげ あけてくやしき玉手箱
 かよう玉鉾 玉松風の もとはざざんざで
 うたえやうたえ うかれ烏のうば玉や
 うややれ やれやれ そうだぞそうだぞ~」

と「玉」を連ねてラップ顔負けのノリの良さ☆

「謡うも舞うも 法の奇特に善玉は
 ※法の奇特=仏法のききめ
 消えて跡なく失せにけり」

で、幕切には元の姿の漁師になり、舟に乗り込み幕が降ります。


「三社祭」は浅草神社の祭礼の事で、三社とは、宮戸川(浅草川、
隅田川の下流)で観世音像を網ですくい上げた士師中臣知と、その
家臣の檜熊浜成、武成の3人を祀っている事から由来しています。
【清元 三社祭】の主人公も浜成、武成の漁師が面白おかしく善悪
を踊り演じます。

美しい衣裳をまとい優雅なイメージの演目が多いなか、簡素な
扮装で跳んだりはねたりする動きの多い【三社祭】は、異色な
作品と言えます。またテンポが早く息を合わせる事や、砕け過ぎ
ないように心掛けるのが難しい演目です。

女性が演じる事は稀なのですが、今回は私も善玉を踊ります