記念

まだ、お互いの気持ちを確認できていなかった頃。

残業の後、いつものようにあの人が駅まで一緒に来てくれた。
オフィスのあるビルでは、最後に出る人が守衛さんのところに
鍵を持っていくことになっている。
その日は最後ではなかったけれど、そんなことについて話していた。
朝早く行くときにも、休日の出勤でも、
最初の人が守衛さんに鍵をもらいに行く。
そのときに必要なのが社員証。
私も転勤してきてしばらくしたら作ることになった。
もちろん、彼も。

「ねぇ、見せて」
彼が言ったので、見せてあげた。
その写真は、たまたま良いデキだったし
「やめたらいらないんでしょ？」
「うん」
「じゃ、記念にくださいよ」
ちょっとびっくり。
「いいよ」
ドキドキを悟られないように、さらりと答えたつもり。
彼には、すでに写真入りの名刺もあげてたんだけど。
どういうつもりで言ってくれたんだろう？
単にその場のノリ？

でも。
退職してすぐに、クリスマスプレゼントとして進呈した。
CDと一緒に。
「真に受ける私がバカかも」と思いつつ

あげたはいいけど「どうするのかな」と思っていたら、
しばらくしたある日、彼が言った。
「課の人もいる前で名刺入れを落としたとき、
　いつも入れてるアノ社員証が、
　名刺と一緒に散らばっちゃって。
　他の人に気づかれないように素早くしまったけど
　ホントに焦ったよ」
そりゃ、大変
でも、いつも持ち歩いてくれてたんだ～って
内心すごくうれしかったよ

今はもう処分しちゃってるだろうな。
だってね…家族に見つかったら言い訳できないよね。
名刺ならともかく、他人の社員証持ってるなんて…
特別な関係があるハズって普通は疑うよね。