NPO法人 地域福祉協会

清掃事業  森林事業(植栽・剪定)

ショートショート 弥陀ヶ原

2022-02-22 | 文学

春。

 

私は

馬に乗り

片貝川のほとりで狩りをしていた。

 

 

私は

豪族の息子で

暇をもてあそび

我が儘な人生を謳歌していた。

 

 

刹那。

 

 

背の高い雑草の陰に

黒い影を見た。

 

 

熊だ。

 

 

私は手綱を絞り

熊を追った。

 

 

矢を射る。

 

 

刺さった。

 

 

黒い野生は

恐るべき速さで

疾走していく。

 

 

川岸を遡る野生。

 

 

その黒い野生は

どこかへ逃げ帰ろうと

焦っていた。

 

 

しかし

私はその帰巣と安逸を

打ち砕き

残酷な野生のテーゼを

見せつけようと野望した。

 

 

私が生まれてからの人生の原理は

武人のそれ以外なく

力により他を屈服させ

命を奪う荒魂こそが

自らの魂の相であった。

 

 

よって

逃げる敵を

見逃すわけにはいかない。

 

 

走る野生は

射刺さった矢を

激しく振り乱し

川岸を川上へ遡っていく。

 

 

あれほど遠い幻影のような立山が

眼前に迫ってきた。

 

 

ここはどこか。

 

あ。

 

黒い野生を

見失う。

 

 

立山の麓にはちがいないが

よく分からない。

 

広々とした野原。

 

鬱蒼とした林縁に

崖と洞窟を見つけた。

 

 

洞窟に入る。

 

 

中はひんやりとした

闇であり

静寂であった。

 

 

入り口に

血塗りの矢が落ちていた。

 

 

しばし

安逸を貪る。

 

 

意識が薄れる。

 

 

と。

 

 

洞窟の奥から

黄金の光が差す。

 

 

中心に

大日如来か阿弥陀如来の如く

光輝く仏様がおられた。

 

 

そして

光輝なるお方は

私にあるお願いを託された。

 

 

仏様が

私に何を宣われたかは

言うまい。

 

 

ただ

私は

その原っぱで

荒魂を捨て

和魂をまとった。

 

 

私は

立山の頂きに

純白を観た。

 

 

 

おわり

 

 

高橋作(この話は佐伯有頼公の伝説をもとにしたフィクションです)

 

 

 


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