『蕎麦がき研究入門』

知らない・映えない・バズらない。なのに昔からある食べ物“蕎麦がき”に今、光を当てます。普通に食卓に上がるその日まで。

9/27(日)、マニアフェスタオンラインで蕎麦がきの生配信やります!

2020-09-23 23:44:36 | その他
いつも片手袋研究家として参加している「マニアフェスタ」というイベントがあります。

森羅万象、あらゆる対象に愛を注ぐマニアックな人々が集い、研究成果をまとめた冊子やオリジナルグッズを販売する最高のイベントです。
しかし今年は御存じの通り、この現状。リアルイベント再開はまだなかなか難しく、秋のマニアフェスタはオンラインで開催されることになりました。参加者が動画をアップしたり、生配信をしたり、グッズ販売をしたり。逆に世界中どこに住んでいても参加出来る、状況を活かしたイベントになった、とも言えるかもしれません。

私は片手袋研究家としても、蕎麦がき理論家としても参加しますが、当『蕎麦がき研究入門』では蕎麦がきのイベントを告知させて頂きます。


やるのはなんと生配信イベント。「蕎麦がきで生配信?」と思われるかもしれません。安心してください。私もそう思ってます。

でも企画してみたら面白そうな内容になりましたよ。ちょっと要素が多いので箇条書きにしてみると…

①参加者は5人。「片手袋を見守る会(私、マリボ、ゆき)」の3人と、明太子マニアの田口めんたいこさん街角狸マニアのむらたぬきさん
②第1部では基本の蕎麦がきを皆で試食し、感想合戦。
③第2部では田口さんに明太子料理の傾向を伺いつつ、明太子を使った新しい蕎麦がきメニューを考案する。
④それを私が実際に試作。その間、むらたぬきさんによる「マニアソングス」の生ライブ。
⑤明太子蕎麦がき新メニューを皆で実食!

こんな感じになると思います!まあ到底予定通りに進むとは思えませんが、ハプニング含めてワイワイと楽しくお届けしますので、皆さんも是非ご視聴ください!よろしくお願い致します!

マニアフェスタオンライン参加企画
『緊急開催‼ 明太子蕎麦がきメニューをみんなで開発しながらマニアソングスも楽しもう!』
・2020年9月27日(日)20:00配信開始
・出演:片手袋を見守る会(石井公二、マリボ、ゆき)田口めんたいこ、むらたぬき
・配信アドレス

新時代の蕎麦がきのリアル「ナイトフィッシング野外蕎麦がきとは何か?」

2020-09-20 00:26:56 | その他
まだ暑さが残る9月のある晩。東京は夜の8時。俺はお台場にいた。夜釣りだ。ナイトクルージングだ。
ルアーを正確にキャストする。リールを巻く速度は間違ってないか?Walkig in the rythm だ。
Wonder Wheel。ゆっくりでも良いよ、回ってくれ。
魚の気配がない。まだ夏の悪い水が残っているのか?Aguas de setembro。
粘ってはいけない。ポイントを変えよう。俺には聞こえる、夜のメロディが。
夜の散歩。海辺の遊歩道。そこでは思わぬものを目にする。
例えば橋の構造を真下から眺められるのに、ほとんどの人は知らない。これなら荒れた水にもビクともしなそう。Bridge Over Troubled Water.
高速道路の真下。フリーウェイ。右手にはレインボーブリッジ。
数か月前には、赤く染まっていた。コロナの馬鹿野郎。

全く釣れない。「釣りは釣れなくても楽しい」。釣り人以外には中々伝わらない感覚。しかし海を通過した夜風を浴び、美しい夜景を独り占めしてみろって。良いさ。誰にも伝わらなくたって。俺は風の王と踊る。

腹が減った。誰のせい?それはあれだ。夏のせい。だったら食えば良いんだ。蕎麦がきを。
俺は火が使える場所を探し、移動する。ちょうど良い場所を見つけ、シートを広げ、カセットコンロを取り出す。

鍋に蕎麦粉を投入だ。それが正論。
水はいろはす。さっき自販機で買った。
良いぞ。ほど良く混ざった。
今晩の俺は悪い子だ。こんなもんも買っておいた。
こういう時、ルアー釣りは助かる。手は汚れてないからな。
生ハムはこうだ。
チーズもこうだ。
フィッシングバッグのポケットには醤油を隠しておいた。
直接入れちまおう。今晩の俺はワイルドサイドを歩いているのか、それとも、メイン・ストリートのならず者か。
着火。のち、即ぐるぐる混ぜろ。

どうだ。手が早すぎて映らない。ローリンローリン、回り続けるよ。

出来た。みんな好きだね、蕎麦がきが。
蕎麦がき食べたい、美味いの食べたい。
うん、美味い!
しかし、今宵の俺は止められない。もっと良い景色を求めて、わざわざ移動。
良い東屋があった。
誰も知らない夜明けは、まだ明けないで。
だれも見てないなら、立ち食いだって、へいっちゃら。
完食。人類が初めて目にする、蕎麦がき食べ終わった後の空の鍋と東京の夜景。
ご馳走様。
適度な満腹感。この景色。今夜のいろはすには、ロマネ・コンティだって敵わない。
ヴゥホッ‼40間近になると、何食っても何飲んでもムせる。
良いな良いな。人間って良いな。本当は何やったって自由なんだ。外で蕎麦がき食って、腹いっぱいなら東屋で寝たって良いんだ。

釣り忘れてた!(完)

※野外で火を使う場合、場所選びと火の管理には十分に気を付けてください。

蕎麦がきアレンジレシピ~揚げだし蕎麦がき~

2020-09-11 22:44:00 | アレンジ蕎麦がきレシピ
どうも。片手袋研究家、蕎麦がき理論家の石井です。この写真は、今年の桜の時期に使おうと思って買っておいた花麩です。先日、冷凍庫を整理してたら奥から出てきました。そう、今年はコロナで花見どころではなくなってしまい、使わないまま忘れてたんですね。

桜というと片手袋研究においては一つの目安になるものでして。
これは私が2018年に私が出会った片手袋、全400枚の月別データ。手袋というと冬のイメージが強いですが、ゴム手袋や軍手もある訳ですから夏でも当然出会えます。しかし、そこに防寒やファッション用の手袋が加わる冬は、やはり圧倒的に出会う頻度は上がります。

ではいつ頃までが冬の旬の時期と言えるでしょうか?私の15年におよぶ観察の結果、どうもそれは「桜が散るまで」と言えそうなのです。それ以降はガクンと出会う頻度が減る訳ですが、逆に言うと桜が咲いてるような時期でも結構みんな手袋を持ち歩いてるんですね。

でも、桜と片手袋を同じフレームに収めるのって中々難しくて、長年苦労してきました。
これは片手袋研究のごく初期、2006年頃ですね。この頃はデジカメの性能も悪くて、夜桜と片手袋を両方くっきり写す事なんて私の腕では不可能でした。
これは2014年頃?子供用のミトンの後ろに僅かに桜が見えるんですが、まあ分かりませんよね。
これも2014年かな?これも後ろに僅かに…。
これは2015年!やった~!完璧に映ってる!でも肝心の片手袋が黒くて見辛い!
そしてこれが2019年。これは文句ないでしょう。でも何故軽作業類の片手袋がこんな植え込みに引っ掛かってるのか?
一応、今年も撮ってるんですよ。でも、桜は散りかけてるし、やっぱり今年を象徴するようになんか物悲しい雰囲気ですね…。

何の気兼ねもなしに桜を楽しんだり、お花見で仲間と集ったり。そんな生活がいつ戻ってくるんでしょう?それは誰にも分からないけど、私は冷凍庫の奥から出てきたあの花麩を供養してやることに決めました。

揚げだし蕎麦がき(2人前)
(材料)
蕎麦粉・・・50g
水・・・・100ml
めんつゆ・・・150ml
お好みの野菜や魚介類
花麩

②蕎麦がきを含め、具材を油で揚げていく
※蕎麦がきはスプーンですくい取って油に落として下さい
※油は180℃くらいでしょうか
※野菜は素揚げします。今回はナスとシシトウです

※運が良いことに穴子があったので揚げました。穴子だけは醤油で下味をつけて軽く片栗粉を振りました
③めんつゆ(濃さはお好みで)を火にかける。今回の花麩は冷凍だったので、つゆに入れて戻す
④皿に盛り付けてつゆをかけて完成!

前回の「バター醤油蕎麦がき」の時も思いましたけど、こういうオーソドックスなレシピを何故最初の頃にやっておかなかったのでしょうかね?凄く簡単で美味しいレシピになりましたよ。

季節感を大事にする日本料理ですから、こんな暑い時期に桜の麩なんて絶対にありえないですよね。でも後から振り返れば、それもこの2020年という大変な年を象徴するような出来事になってるかもしれませんね。

そういえばマニア仲間のむらたぬきさんとコロナ禍において、リモート環境で一緒に曲を作るプロジェクトを進めてます。その記念すべき一曲目、『超ひま理論』のサビがこんなフレーズでした(こちらに制作の経緯と音源がアップされてるので是非聞いてみて下さいね)。

「いつかまた会おう(桜の“頃な”)」

思えばコロナウィルスというものの恐ろしさを決定的に意識したのって、「え?花見すらできないんだ!」っていうのが大きかったような気がします。

来年は桜を取り巻く環境、そして桜と片手袋を取り巻く環境はどうなってるんでしょうか?「日常」という言葉が意味するもの自体、変わってしまうんでしょうか?ウンウンと悩みながら、蕎麦がきを頬張る私でした。

今回のレシピを「おかず系」の「揚」に加えて、分類図を更新しました。
そうそう、9/26,27に開催される「マニアフェスタオンライン」。私は片手袋と蕎麦がき、両方で参加する予定です。蕎麦がきの企画は今のところ9/27にやる予定(おそらく生配信をやります)なので、是非ご参加ください。

それでは、また次回!

蕎麦がきアレンジレシピ~醤油バター蕎麦がき~

2020-09-04 22:05:00 | アレンジ蕎麦がきレシピ
どうも。蕎麦がき理論家、片手袋研究家の石井です。これは豊洲市場の「小田保」で食べられるチャーシューエッグ定食です。私は仕事の都合で20年近く築地市場(現在は豊洲市場)に通っています。市場に通う楽しみの大部分は、朝ご飯です。我ながら朝からこんな重いご飯を食べられるのが驚きですが、市場の雰囲気の中では軽く行けちゃうのが不思議です。
これは築地時代から市場飯で一番有名かもしれない、「中栄」の合がけカレーです。辛口・甘口・ハヤシの中から二種類選んでかけてもらうんですが、普通はハヤシと辛口か甘口どちらかを選ぶと思うんです。でも私のお気に入りは、辛口と甘口の合がけ。食べてるうちにどっちがどっちか分からなくなっちゃうけど、逸れもまた良し!
これも美味いんだよな。「ふぢの」のチャーシューとシュウマイの盛り合わせ。ご飯の盛りが豪快ですけど、この店では70歳くらいの方達も普通にラーメンと半チャーハン食ってたりするから負けてられません。

まあこんな感じで毎週市場の朝ご飯を楽しみにしてる訳ですが、大学生の頃に市場に通い始めた私も今年40歳。昔と同じノリで飯を食べてたら、取り返しがつかないくらい太ってきてしまいまして。さらにコロナ禍で一ヶ月近く家でボケーッとしてたら、過去最高体重を記録してしまいました。

なので最近はさすがに市場でもセーブしてるんです。「食いたい」という気持ちと「痩せなきゃ」という気持ちの落としどころとして出した結論がこちら。
バタートーストと目玉焼き!これならほぼカロリーゼロですからね。しかも私はバターが異常に好きなのですが、ここのバタートーストはとにかくバターの塗り具合が素晴らしいんですよ。まったくケチってなくて。おかげでカロリーゼロでありながら満足感も得られる、という夢のような朝食にありつけてます。

ただ…。なんかたまに「ケチらないにもほどがあるだろ!」っていう時がありまして。先日なんて、これですよ?
「え?これマーガリンじゃないの?」って思うかもしれませんが、バターなんです。「もしかして、ゴッホ、生きてた?」って言いたくなるくらいの厚塗り!

でもこういった地道な努力のおかげで、おかげさまで徐々に痩せてきたような気がしますよ!バター万歳!

醤油バター蕎麦がき(2人前)
(材料)
蕎麦粉・・・75g
水・・・・150ml
醤油・・・大さじ2
バター・・・10g
海苔・・・・数枚
①基本の蕎麦がきを作る

②水に濡らしたスプーンで一口大に分ける(今回は5個)。手を濡らして丸める。


※毎度のことですが火傷に注意!
③フライパンにバターをしき、こんがり焼き色が付くまで蕎麦がきを焼く


④醤油をつけ焼きする。ドボンとたっぷりつける。火は少し弱めて焦げないように。


⑤海苔を巻いて完成!
今回はいつもに比べて手順も少なく、あっという間に出来上がりました。っていうか、本来ならこういうシンプルなレシピから始めるべきでしたよね。

バターに醤油に蕎麦がき。不味くなる要素が一つもありません!当然美味しかった!それにバターに醤油に蕎麦がき。太る要素も一つもありません!当然痩せてきた!

築地の朝ご飯に蕎麦がき研究。どちらも美味しくって引き締まったボディも手に入れられるんだから、もうやめられませんよね?これからもどんどん、追及していきます!


※最後にこっそり教えちゃう、ダイエット最大のコツ
体重計には乗らない!
蕎麦がき分類図、「おかず系」の「焼」が埋まったぞ!あと空白になってるのは、「おやつ系」の「煮」ですけど、う~ん、なんかあるかな?

「弁当とは持ち運びできる最小の家庭である」

2020-08-25 19:32:00 | その他
弁当とは持ち運びできる最小の家庭である。

故に、弁当には色々なものが出る。各家庭独自の価値観、家族構成、金銭事情…。いや、本来そんなものを読み取ってはいけないし、40歳を間近に控えた今なら自分も他人もどんな弁当を食べていようと別になんとも思わない。しかし、あらゆることを人と比べて気にしてしまう思春期は違った。私は弁当によって傷ついたことが幾度もある。

中学生になって最初の遠足。行き先は鎌倉。事前の説明会で少し不良っぽい生徒達が先生に提案した。

「先生!ジャージじゃなくて私服でも良い事にしませんか?」

ちょうどお洒落に目覚める年頃である。しかも私が通っていた中学のジャージは信じられないほどのダサさだったので(スカイブルー!)、この提案に生徒達からは歓声が上がったが、私を含め一部の生徒は静かに俯いた。そりゃあファッションセンスもあって、好きな洋服を買える環境にある奴らは良い。しかし、ジーンズメイトに入るのもビビりながら、しかも軍資金は極めて乏しい、という環境にある我々のような人種は、学生服やジャージというのは極めてありがたい存在だったのだ。そこにセンスの良し悪しは発生しないのだから。

しかし、願い虚しく、こんな時だけ聞き分けの良い教師達はあっさり私服を許可してしまった。「遠足のためだけに服を買いに行くからお金が欲しい」などと親に言い出せるわけもなく、私は兄の部屋に忍び込んだ。こういう時、6歳年上の兄は頼りになる存在だった。既にバイトなどもしていたので流行りのアイテムも取り揃えている。私はキャップとリュックをこっそりくすねた。

遠足当日。さすがにお洒落なグループは眩いばかりの光を放っている。私の時代はスケーター風のファッションが流行っていて、皆、太いズボンを腰まで下げて穿いている。私はというときちんとお腹の下あたりでベルトを締めたチノパンに、何回も着過ぎてヨレヨレになったネルシャツ。しかし当時は珍しかった肩紐が一本の斜めがけするタイプのリュックのおかげで、なんとか悪目立ちはしないレベルに持ち込めている。ほっと一安心して、いざ鎌倉へ。

個人的に気乗りしない要素が出発前にあったとはいえ、やはり楽しい遠足である。普段よりハイテンションではしゃぐ我々を乗せて、電車は進む。私は極めてお調子者だったので、人一倍下らないギャグなどを言いまくっていたと思う。もうお洒落問題のことなどすっかり忘れていた。しかし、鎌倉まであと少し、という横須賀線の車内で同じ班の女子が冷静に言い放った。

「石井くん、リュックがビシャビシャだよ」

え?驚いてリュックを前に回して確認すると、確かに全体が濡れている。そして、何やら肉々しい香りを車内に放ってもいる。中を開けてみて、すぐに理由は判明した。母親が弁当箱のゴムパッキンをつけ忘れ、中に入っていた炒め物の汁が全て外に漏れ出していたのだ。

「あ、シャツも濡れてるね」

顔面蒼白になっている私をさらなる地獄に突き落とすように、女子は冷徹に言い放つ。いわゆる残酷な天使のテーゼである。汁はリュックから染み出し、ネルシャツの背中あたりにまで浸透していた。

終了。私の遠足はここで終了した。精神的に。先ほどまでのテンションが嘘のように、私は静かになってしまった。もう、お洒落どうこうの話ではない。私は、肉汁が染み込み、昼時の新橋のようなにおいを纏った人間に成り果てたのだ。原理的には肉豆腐の豆腐とほぼ同じなのである。ようやく鎌倉につき、これから遠足が始まる、という時に、私だけは既に弁当の時間を迎えているのである。においの面では。

そこからはあまり記憶が残っていない。一つだけ覚えているのは、銭洗弁天のトイレでリュックを水洗いしたことだけである。皆が千円札などを洗ってはしゃいでいる中、私だけリュックを洗っているのである。「え!あんた、銭洗わないで何洗ってんの?」。弁天様もびっくりである。

さらに、帰宅してからは兄にこっぴどく怒られたのは言うまでもない。そりゃあそうだ。一生懸命バイトして買ったリュックが、豆腐になって帰ってきたのだから。

勿論、大人になってみた今では忙しい時でも弁当を作り続けてくれた親への感謝、というのは自然に抱けるものだが、思春期真っ只中の私には難しいことだった。パッキンの締め忘れ、弁当が全体的に茶色い、見たこともない謎の物体が入っている、などの経験をあまた繰り返した結果、私は弁当に対してすっかり怯える仔犬のようになってしまった。しかし、それはどうやら私だけではなかった。

中学2年生の時、私は文化祭実行委員になった。学校が早く終わるある日の土曜日。私を含めた実行委員の男4人は、放課後に文化祭についての話し合いをする事になった。しかし給食が無い日なので、皆弁当を持参していた。 


同級生が帰った後、4人は同じ教室に集まる。いつも通り馬鹿話に花を咲かせていたが、会議までの時間がさほど無かったので早速弁当を広げる事に。机を4つくっつけて、一応テーブルクロスも敷いた。 


「さあ、食べよう!」


皆が弁当箱の蓋に手をかけた瞬間、私の心に突然、妙な気持ちが湧きあがってきた。


(なんか、弁当の蓋を開くのが恥ずかしい・・・)


既に弁当仔犬期に突入していた私である、今日も親が何かをやらかしている可能性は十分にある。しかしこの時は、一番視線を気にしてしまう女子がいるわけでもなく、仲の良い男友達だけ。それでも、なぜか蓋が開けられない。


が、不思議な事に、なんとそんな状況に追い込まれていたのは私だけではなかった。その場にいる全員が何故か同じようなプレッシャーを感じたらしく、誰も蓋を開けようとしないのだ。誰かが一番最初に開けてくれないか、互いに窺っている。そんな気配がみるみるうちにその場を支配してしまい、益々開けられない。 わずか10秒ほどの沈黙であったと思うが、それが永遠にも感じられる。


私は勇気を持って切り出した。


「なんだよ、この空気!おい、お前開けろよ!はやく食えよ!」

「え~、やだよ~。勘弁してくれよ~」


突然振られたIはニヤニヤと照れ笑いを浮かべ開けようとしない。


「じゃあ、お前開けろよ~」

「え?俺は嫌だよ~」

「じゃあお前は?」

「俺はサンドウィッチだから最後でいいよ」

「何それ?意味分かんない。いいから開けろ!」

「嫌だって~」・・・。 


そんなやり取りが永遠に続くが、誰も弁当を開けられない。そしてとうとう文化祭の会議を始める時間になってしまい、先生が教室に入ってきた。


「あれ?おまえら、まだ弁当食ってないのか?早く食えよ!」


しかし、私達は全員一致で弁当を食べずに会議を始める事を先生に告げたのだった。 


なんだか分からない雰囲気に支配され、突然、弁当の蓋すら開けられない状況が発生してしまう。本当にどうでもいい出来事だが、「思春期」という言語化が難しい時期を象徴するような出来事でもあったような気がする。


大人になった今、自分の子供にはつい「自分だけの将来の夢」や「独自の感性」を求めてしまう。しかし、なんの変哲もない、没個性の極みのような学生服やジャージ、味気ないと思ってしまいがちなコンビニ弁当などがむしろ救いになることもあったと、自分の経験からも忘れずにいたい。