本の国星

読んだ本、買った本の実験的覚えがき帖。

天地明察*冲方丁

2010-05-27 20:49:43 | 男性作家あ行・か行


2010年本屋大賞受賞作品ということで手に取った。

確かに設定はおもしろい。江戸は四代将軍家綱の御代に実在した渋川春海という人物が、それまで用いられていた暦に誤差が生じていることから、日本独自の太陽太陰暦を作る生涯を描いたもの。
歴史上の人物が活き活きと描かれており、歴史物、という堅苦しい感じもなく軽く読める。

ただ、文章力がもうひとつ。文体が過去のものとして語る口調が随所に現れるのだが、その語り口が中途半端。その時代の視線で書ききってしまった方がずっとよかった。

またこれは読み終えて始めて知ったのだが、著者が天文の知識不足のまま書き上げてしまったということ。渋川という人物に魅了され、彼と彼の人物関係を調べて力尽きてしまったのか。この物語で天文知識の誤認はかなりの痛手だ。

登場人物が実在する人物をモデルにしたフィクションを描いた方が著者には向いているかもしれない。とはいえ、おもしろく読むことは出来た。

あられもない祈り*島本理生

2010-05-26 21:45:56 | 女性作家さ行・た行


会社勤めのリストカットを繰り返す「私」を取り巻くのは、仕送りをせびる母、女癖の悪く倒れて意志の疎通の出来なくなった義父、愛を表現できをず暴力を振るう同棲している恋人。そんな「私」の前に現れた婚約中(その後結婚するのだが)の「あなた」。
ありきたりの設定、そしていわゆる不倫モノだ。

意図的に時系列を混ぜていることで「私」のもやのかかった世界を表現したり、「私」の語り口をあくまですっきりさせることで「私」の心の動きが鋭利な刃物のように読者に突き刺さる。
著者は知っているのだ。自己否定によって誰からも傷つけられずに済むぬるく温かな世界を。
この主人公の気持ちに添えない人にとっては、少しもおもしろくない小説だろう。しかしこの主人公の気持ちに少しでも沿うことができる人にとっては忘れがたい物語になるはずだ。

新参者*東野圭吾

2010-05-24 22:44:55 | 男性作家な行・は行


加賀恭一郎シリーズ。といっても、私は「赤い指」しか読んでいないのだが。

最初に読者が短編集と思わせるような構成。読んでいくとこれが1つの事件を様々な関係者の角度から見た物語から成り立ち、章によって時間が進むのではなく、同人進行になっていおり、徐々に真相に近づいていく1つの長編だと気がつきおもしろくなっていくという仕組み。

日本橋で1人暮らしの40代の女性がマンションの一室で首を絞められ殺される事件から物語りは始まる。この事件を担当することになったのはこの地に着任したばかりの所轄の刑事、加賀恭一郎であった。事件とは距離を置いた支店で日本橋に残る風情や江戸っ子の人情を描いているように見せておきながらも、少しずつ事件の謎が解けていく構成はなんとも上手い。
読後感もよい。



オー!ファーザー*伊坂幸太郎

2010-05-15 22:14:23 | 男性作家あ行・か行


久々に伊坂ワールド全開!と喜んで読んでいたのだが、あとがきにこの作品が書かれたのは「ゴールデンスランバー」の前であり、著者が「ゴールデンスランバー」以前を一期、それ以降を二期と区別しているようで、二期は試行錯誤・模索中とあった。ということはこういったこれぞ伊坂!という作品は今後は出てこないのかもしれない。古くからの伊坂ファンの多くは一期のスタイルを支持しているだろう。その時代に戻らないのであればこの模索期間を早く抜け、早く三期が訪れないかと思っているのは私だけではないのではないでは。

主人公の高校生の由紀夫には父親が4人いる。というのも母親が4股をかけていた時期由紀夫を妊娠し、その父親を特定しなかった(できなかった?)ので全員家族になってしまったという突拍子もない設定。
その由紀夫が全く異なる性格の持ち主である4人の父親と自称ガールフレンドの多恵子など個性溢れる同級生たちとの日常から、由紀夫はいつの間にか事件に巻き込まれていく。

一期の最後であるならもっと他の作品とリンクした登場人物を描いて欲しかったし、風呂敷を広げただけ広げてちょっと大雑把にラストをたたみすぎではないかとも感じた。とはいえ、この手のノリの伊坂作品はやはり好み。

真昼なのに昏い部屋*江國香織

2010-05-11 13:41:51 | 女性作家あ行・か行


まさに江國ワールドという物語。

主人公の美弥子は専業主婦として抜かりなく家事を行い夫に「尽くして」いた。昼に美弥子が1人に家にいると様々な来客があったが、その1人がジョーンズ氏。彼は50歳半ばで家族をアメリカに残し1人で来日し大学で教鞭を取っている。彼は美弥子に好意を持っており美弥子との距離を縮めるべくフィールドワークと称した散歩へ誘う。

童話のような語り口。そして美弥子の住む家はコンクリートの高い塀にぐるりと囲まれていることから、読み手にお城の中のお姫様を思わせる。実際美弥子は外の世界に興味を持たず家の中で夫と2人の生活で完結していた。そこに王子のような魔法使いのようなジョーンズ氏が現れ色彩豊かな外の世界を美弥子に教える。

世界観は繊細なのだが言ってしまえば不倫もの。こういう物語がハッピーエンドになるのはいかがなものかと思っているが、それなりのラストが待っている。毒のある辛口の大人の童話のようだ。


RDGレッドデータガール*荻原規子

2010-05-10 14:03:50 | 女性作家あ行・か行




舞台は現代の日本。山伏の修験場として知られる玉倉神社に生まれ育った泉水子は高校進学を考える年頃に差し掛かった。それまで山の奥深くに隠れるように外の世界とほとんど接する機会がなかった。高校への進学にあたり、父親の古い友人の息子深行との再会することで物語が始まる。
1では物語の舞台や設定が説明が主。2になり高校へ入学することで自分の置かれている立場や初めての友人との関わりが描かれる。

大人も楽しむことができるファンタジー。場所によっては児童書に分類されていることもあるだろう。軽く読むことが出来後味が良い。個人的には表紙の酒井駒子がうれしいところ。