本の国星

読んだ本、買った本の実験的覚えがき帖。

アンダスタンドメイビー (上)(下)*島本理生

2011-04-05 23:19:57 | 女性作家さ行・た行




デビュー10周年。著者の作品の中で一番の長編。著者は「ある『事件』と『秘密』を抱えた家族があって、その中で一人の少女がどのように成長し、大人になっていくのか。そのプロセスを書きたいと思ったのが執筆のきっかけです。私が小学生のころ、オウム真理教の事件があり、その後も新興宗教を巡る事件が相次いで起きました。今回の作品は、そんな社会的状況のなかで年齢を重ね、大人になっていった私自身の記憶も物語のベースになっています。」と、この小説について語っている。


舞台は茨城県つくば学園都市。時代は現在40歳辺りが子供の頃。主人公の中学生の黒江(くろえ)は母子家庭。母親は仕事が忙しく自分に興味がないと感じている。ある日東京からの転校生弥生がやってくることで物語りは始まる。中学校を卒業し高校生になった黒江は学校に馴染めず、カメラマンを目指し上京する。アシスタントをしながら自分の心の傷に向き合うことになる。

あらすじを書こうとするととても陳腐になってしまう。しかし読んでみれば分かる。ありふれた心の問題の設定でも、著者が描く世界は広く大きい。上下巻とあるが一気に読み終えてしまう。最近いわゆる若手女性作家を読んでいたが著者が一歩リードという感じ。

寝ても覚めても*柴崎 友香

2010-10-20 12:42:03 | 女性作家さ行・た行


人は相手のどこに恋をするのか?

大阪に住む主人公の朝子はある日、ひとめぼれのようにして麦(ばく)と出会い恋に落ちる。朝子は彼について何も知らないまま一緒に過ごす。そして予定していたかのようにある日突然麦は朝子の前から姿を消す。
その後朝子は上京。そこで麦そっくりな亮平に出会う。朝子は戸惑いながらも亮平と付き合うことになる。そんな折、朝子はテレビのブラウン管の中に麦の姿を見つける。彼は俳優としてデビューしていた。

22歳から31歳までの朝子について語られている。
恋の物語だというのに心理描写は意外に少なく、背景の描写や時の流れによって語られていく。
この手法が絶賛されているのだが、物語の流れを遮断してしまうような読みにくさも感じた。物語の後半は慣れてきて感じなくなったが読み始めはこれがネックでなかなか読み進められなかった。

ラストは裏切ることなく予想通り。そのせいだろうか、読後は爽やか。


あられもない祈り*島本理生

2010-05-26 21:45:56 | 女性作家さ行・た行


会社勤めのリストカットを繰り返す「私」を取り巻くのは、仕送りをせびる母、女癖の悪く倒れて意志の疎通の出来なくなった義父、愛を表現できをず暴力を振るう同棲している恋人。そんな「私」の前に現れた婚約中(その後結婚するのだが)の「あなた」。
ありきたりの設定、そしていわゆる不倫モノだ。

意図的に時系列を混ぜていることで「私」のもやのかかった世界を表現したり、「私」の語り口をあくまですっきりさせることで「私」の心の動きが鋭利な刃物のように読者に突き刺さる。
著者は知っているのだ。自己否定によって誰からも傷つけられずに済むぬるく温かな世界を。
この主人公の気持ちに添えない人にとっては、少しもおもしろくない小説だろう。しかしこの主人公の気持ちに少しでも沿うことができる人にとっては忘れがたい物語になるはずだ。

真綿荘の住人たち *島本理生

2010-02-26 16:13:16 | 女性作家さ行・た行


まだ30代そこそこの綿貫という女性作家の経営する真綿荘は安普請ながら食事付き門限なしの下宿。そこに住む北海道から東京の大学へ通学するためにやってきた大和、綿貫曰く「内縁の夫」である画家、レイプされてから男性恐怖症になった椿、がっしりした体型がコンプレックスの鯨井が織り成す物語。

章ごとに主人公が変っていく。大和から見た下宿人、椿から見た下宿人・・・というふうに順繰り周りながら過去にさかのぼったりしながら物語が進む。
誰が誰を好きで、という恋愛要素がかなり含まれているのだけれど安っぽいラブストーリーにならないのはさすが。
心の闇を描きながら、それを抱えながらどう他人と接しどうやって自分や他人を愛していくかという部分が丁寧に書かれているからだろう。
読後心が温かくなる。

余談だが、読んでいる間中「めぞん一刻」が頭にちらついていた。「めぞん一刻」自体のストーリーはほとんど覚えていないのだが若い女主人と安普請の宿という設定からどうも頭から離れなかったのだ。

君が降る日*島本理生

2009-06-12 22:03:40 | 女性作家さ行・た行


さすがに「1Q84」の後に読んだものだから軽く感じてしまった。とはいえ読みやすく、読後いつまでも何となく心に残るものがある。

3つの短編からなる。表題作である「君が降る日」は恋人を交通事故で亡くしたばばかりの女の子、志穂の話。恋人は親友である男、五十嵐の運転によって死んだ。五十嵐は育った環境から内に大きな闇を持っていて、志穂が恋人を亡くしたことで抱えるようになった闇と引き合うようになっていく様子を描く。

「冬の動物園」は男運のない(男を見る目がない)OLの主人公が英会話スクールで知り合った男子高校生に振舞わされるという話。この高校生の言動は破天荒に見えるのだが、とても健やかな心を持っていてそんな健やかさに触れるたび主人公が少しずつ変っていく様子を描く。

「野ばら」は高校生の男女の物語。主人公の女の子佳乃と祐は仲の良すぎる友人。異性として意識するタイミングが絶妙にずれてしまうことで友人であり続けるのだ。男女の関係としては成り立たないことで永遠に別れることもないいばらの道と例え野ばらとタイトルをつけている。

「冬の・・・」の明るさが間に入ったことで上手くバランスが取れているなと思う。
著者は闇のある人物を描かせると上手いと思う。今回はその闇の部分を十分味わえなかったかなと思った。短編だったこともあるかもしれない。
そして改めて著者の作品は男性読者は好んで読むのか?という疑問を持った。どこまでも「女の子」の目線で描かれていると感じたからだ。

読んだのがこの時期ではなかったらもう少し楽しめたかもしれない。

幻冬舎:図書館蔵書

星のしるし*柴崎友香

2008-12-18 21:35:45 | 女性作家さ行・た行


平凡な毎日の中にあるちいさなできごとを綴ることが得意な作家だな、と改めて思った。大きな展開がなくてもラストまで読み手をひっぱる文章力がある。

主人公は会社勤めをしている30歳を目前にした女性。職場と恋人の家に集まる友人達との交流が彼女の世界。一番特異な登場人物は恋人の家に居候している「カツオ」と呼ばれる男。名前も住んでいるところも何をしているのかも分からないけれど、そこにいても大きな違和感を感じさせない。それは主人公を含めた一見平凡に見える登場人物が多かれ少なかれ何かしらの不安を抱えていて、見たくないものや知りたくないもの、そしてささやかな出来事を自分のいいように解釈したいという小さな欲が存在するからかもしれない。

また死、UFO、占い、ヒーリングなど目に見えないものを上手く物語に織り込むことで登場人物の漠然とした行き場のない思いが浮かび上がる。

特に大きな展開もないところは典型的なフランス映画を髣髴とされる。

文藝春秋:図書館蔵書