デビュー10周年。著者の作品の中で一番の長編。著者は「ある『事件』と『秘密』を抱えた家族があって、その中で一人の少女がどのように成長し、大人になっていくのか。そのプロセスを書きたいと思ったのが執筆のきっかけです。私が小学生のころ、オウム真理教の事件があり、その後も新興宗教を巡る事件が相次いで起きました。今回の作品は、そんな社会的状況のなかで年齢を重ね、大人になっていった私自身の記憶も物語のベースになっています。」と、この小説について語っている。
舞台は茨城県つくば学園都市。時代は現在40歳辺りが子供の頃。主人公の中学生の黒江(くろえ)は母子家庭。母親は仕事が忙しく自分に興味がないと感じている。ある日東京からの転校生弥生がやってくることで物語りは始まる。中学校を卒業し高校生になった黒江は学校に馴染めず、カメラマンを目指し上京する。アシスタントをしながら自分の心の傷に向き合うことになる。
あらすじを書こうとするととても陳腐になってしまう。しかし読んでみれば分かる。ありふれた心の問題の設定でも、著者が描く世界は広く大きい。上下巻とあるが一気に読み終えてしまう。最近いわゆる若手女性作家を読んでいたが著者が一歩リードという感じ。