本の国星

読んだ本、買った本の実験的覚えがき帖。

まぼろしハワイ*よしもとばなな

2007-10-23 09:50:15 | Weblog
書き上げるまで5年の歳月を要したという作品。

父親が死んだ後、義理の母、とはいえ娘と年はほとんど変らない、といっしょにハワイへ旅行することになった主人公。ハワイという土地でお互いが大切な人の死という傷から癒されてゆく様子を丁寧に描いた物語。

よしもとばななはどんどん易しい言葉で物語を書くようになっている。それに関しては、昔の作品から読んでいる読者には賛否両論あると思う。私自身、最初は受け入れにくく、前の方がおもしろかったな、と思っていた。しかしここ最近になって、この作風がしっくりとくるようになり好むようになった。
長い年月をかけているだけあって、会話一つ一つにきちんと意味があるし、易しい言葉だからこそ、言葉の裏にある物言わんぬ表情などを読み取れるような気がしてくる。これはいしいしんじにも当てはまるだろう。

読んだ時の読者の環境によって読後の受け取り方が異なるだろう。時間を置いてまた読んでみたいなと思う作品。

幻冬舎:図書館蔵書



わたしのマトカ*片桐はいり

2007-10-22 09:38:09 | Weblog
映画「かもめ食堂」とタイアップ?した本。
というのも、映画のロケでフィンランドに滞在した片桐はいりがその様子をエッセイにまとめたものだからだ。

よくあるタレント本、といえばそれまでだが、演じる役柄のように旅の様子もどこかユニークでおもしろい。

軽く読みたい本を探していて、そしてかもめ食堂を鑑賞した後なら勧める。

幻冬舎:図書館蔵書

夜明けの縁をさ迷う人々*小川洋子

2007-10-10 12:06:37 | Weblog
9つの短編集。

久しぶりに毒のある著者の作品を読むことができてうれしかった。「博士の愛した・・」あたりは確かに面白けれどきれい過ぎて物足りなかった。ブラックな世界を品良く仕上げることができるのはやはり小川洋子ならでは。

大怪我をしながらも曲芸の練習をする女、殺した教授の部屋で留守番をする女、エレベーターで生まれ育った男を外に出そうとする女、愛する男のために自らの体を一部分ずつ切断する女。
グロテスクで行き過ぎた行動をとる女たちが数多く出てくるが、嫌味なく仕上がった短編なので後味は悪くない。
男性読者は好まないかもしれないが。

角川書店:図書館蔵書

みずうみ*いしいしんじ

2007-10-09 11:56:57 | Weblog
三部構成からなる久しぶりの長編。

第一部はまさに「いしいしんじワールド」。水の湧く湖を持つ村のはなし。湖の水を汲む者、湖の奥底に涼むように眠る者、湖を守る者、村人は肉体的にも精神的にも湖の水に満たされて過ごしている。その湖が枯れて村が消え行くまでの話。

第二部、三部は場所や時代が現代といしいしんじにしては珍しい設定。二部ではタクシーの運転手が、三部では4人の男女が軸になる。どちらの物語りの登場人物も一部で語られた昔話のような湖が心と体の底辺にある。水が体と心の奥底から湖のように溢れてくる様子を静かに語っている。

設定が現代になってからは村上春樹のような感じがしてきた。大きく違うのは村上氏のように何か語りたい事柄があって読者はそれを追いかけてゆくという物語ではないとうところか。この作品はただ、水があって一部から三部までどれが始まり(過去)でもなくぐるりと回っていて表裏一体で、何の答えもなく文章が水のように流れているだけ。

一部だけ、でもよかったのかもしれないと思ったが、すべて揃って湖の話が出来上がるのだろう。読後しばらくしてからそう思った。深く考えず文章から空気を読むといった読み方がふさわしい。

河出書房新社:図書館蔵書