本の国星

読んだ本、買った本の実験的覚えがき帖。

ひな菊とペパーミント*野中柊

2006-05-31 21:05:51 | Weblog
大人も楽しめる児童文学というのだろうか。主人公は15歳未満でまったくの子供ではないけれど、大人になり始めるちょっと前の微妙な時期。友達、家庭といった自分を取り巻く環境の中に自分の位置を見つけようとしていくストーリー。特に凝った設定もなければ難しい言い回しもなく容易に読むことができるが、読後はなんとなく心温まる。
最近このタイプのジャンルは多いようだ。この作品はまさにそういったジャンル。

中学生の主人公の結花は両親の離婚、そして初恋といった生活の中でたくさんの出会いを重ねていく。その時々にしかない出会い一つ一つを大切にしようという著者のメッセージが伝わってくる。主人公と同年代でも楽しめるだろう。しかし、大人になってしまうと忘れてしまう些細なことも、その年頃にはとても大切で時に悩みとなることを思い返すためにも、思春期を控えた子供を持つ親に読んで欲しい。

イルカ*よしもとばなな

2006-05-21 23:33:01 | Weblog
何かで著者が「もっとスピリチュアルの色濃くして、どこか海外のそういった出版社から出来るものならば出してみたい」というようなことを話していた。
今でも十分その要素はあって、最近の作品はみなそちらの方へ傾いている。
この作品も読者の好き嫌いははっきりするだろう。

主人公はどこか地に足の付かない生活を続けてきたが、もう若さの勢いだけでは生きていくことが難しくなった女性。インフルエンザによる高熱・解熱がきっかけになり物語は始まっていく。やがて女性は妊娠し、結婚せずに出産をすることになる。
否応無く物語の中の出来事の多くは著者自身の体験で、その体験を通して感じたものを描いている。
そういった土台も含め良い意味でウソの無い作品。

ただし、バイブルのように書いてあることを真っ向から受け入れて癒しの本として読むのは疑問に思うけれど。

文藝春秋:図書館蔵書

雪屋のロッスさん*いしいしんじ

2006-05-16 21:00:51 | Weblog
いろいろな仕事(ここでいう仕事は世間一般の仕事ではないけれど)を持ったいろいろいろな国(ここでいう国のほとんどは実在するようなしないような架空の国ではあるけれど)のいろいろな世代の人の小さな話が30話入っている。そのどれもが子供のころに夜寝る前に読んでとせがんで読んでもらったような話ばかり。

それは短いストーリーであるという理由だけではなく、短いストーリーひとつひとつに毛布にくるまれた安堵感にも似た、包まれているような温かさがあるからだ。

枕元に置いて寝る前にひとつ、ふたつとゆっくり時間をかけて読んでほしい。

メディアファクトリー:図書館蔵書