本の国星

読んだ本、買った本の実験的覚えがき帖。

夜明けの街で*東野圭吾

2009-10-26 20:04:19 | 男性作家な行・は行


東野圭吾の新境地、といわれた小説。というのも東野版恋愛小説だから。私は知らずに読んでいて、あれ?と思ったのだが。

主人公は中年男性。勤務先に派遣でやってきた秋葉という女性と不倫の関係になる。

あらすじを語るとこんなものになってしまう。東野エッセンスがあるとしたら秋葉の自宅で15年前に強盗殺人事件が起き、その時効がもう直ぐやってくることを物語と絡ませていることだろうか。
もしかしたら秋葉は「白夜行」のようにとんでもない悪女で、仮面をかぶっているのでは?など期待もしたのだが、そんなこともなくさらりとした物語で終わってしまった。
男性が不倫と考えるとこんな感じなんだなあという描写がいくつもあって、同じ設定でたとえば江国香織が書いたら全然違うものになったのではないかな。と思ってしまった。良くも悪くも男性目線。

それにしてもいつから不倫が純愛のように扱われるようになったのか?
何となくハヤリモノの感が拭えない。

告白*湊かなえ

2009-10-21 10:59:56 | 女性作家ま行・や行・ら行・わ行


「少女」を読んで、こちらを読むのを悩んだけれど結局読んでしまった。しかしこちらはおもしろかったので結果としては良かった。

中学校女性教諭の4歳の娘が勤務先の学校のプールで死亡することから物語りは始まる。警察は事故と断定するが、母親である教諭は自分の担当クラスの生徒による殺人であったと知る。

第一章では女性教諭が辞職する前のホームルームで、娘を殺した犯人はこの中にいると語った文章。
第二章では、その後クラスで犯人がどのようになったかをクラスメイトが教諭に手紙を書く形式。
第三章は犯人の家族から見たその後。第四章と第五章は犯人目線の一人称で綴られ最終章で再び第一章と同じように女性教諭の語り口で物語が終わる。

語る者が変ることで1つの事件に厚みが出て、読み手をぐいぐいひっぱて行く。構成も凝っていておもしろい。
だからこそ、この後書かれた「少女」が残念。

憂鬱たち*金原ひとみ

2009-10-20 11:17:19 | 女性作家あ行・か行


2006年から2009年にかけて発表された短編を収めている。

主になる登場人物は全て同じ、主人公の神田憂とカイズという中年男性とウツイという若い男性。神田憂は被害者意識が強く、今日こそは精神科行かなくてはと予約をして診察券を持ち外出するのだが、途中様々な設定になっているカイズとウツイに出会い結局病院に行けない。
7つの短編でその設定が変りながらもこの同じベースで物語が語られる。

初期の作品よりも精神の倒錯した主人公が語る文章は読みやすくなった。しかし
同じ主人公で設定が変る物語を一気に読むのはかなり疲れる。読み手を疲れさせ気持ち悪くさせることで主人公の錯乱を疑似体験するような作者の意図があるのかもしれないが、この物語を通じて作者が何を伝えたいのかが分かり難い。
楽しむような内容でもないので、読後なんともいえない後味。




赤い指*東野圭吾

2009-10-09 22:55:38 | 男性作家な行・は行


いくつか東野作品を読んできたが、個人的には一番読んでいて不快感を感じた作品であった。

会社員の前原昭夫は母と妻、中学生の息子の4人家族。母親と妻の関係は悪く母親は認知症、息子はいじめにあってから引きこもるようになり、妻はそんな息子を腫れ物を触るように溺愛する。家庭の問題から逃げたいが為に残業や浮気をする昭夫。良くも悪くも典型的な日本の一般的な家庭像。
しかしそんな毎日の中事件は起こる。息子が幼女を家の中で殺してしまうのだ。
前原夫婦はなんとか息子に罪がかぶらないよう行動を起こす。

ここに登場する人物は皆現実から逃げてばかりで、誰一人自分の責任を負うことをしない。警察だけが仕事を全うしているような物語。
最後にタイトルにもなったどんでん返しも用意されているけれど、この不快感は拭われず、読後に嫌な後味だけが残った。

引きこもりや認知症の人々と関係した経験がある読者の多くは同じ不快感を感じるのではないだろうか。
現代社会の問題を取り上げた社会派ドラマでありながら、著者自信がそういった問題から離れているといった感覚を覚えた。

ヘヴン*川上未映子

2009-10-03 22:01:27 | 女性作家あ行・か行


正直に言うと著者の経歴からなんとなく読むのを避けていた。しかしヘヴンはダヴィンチのプラチナ本に選ばれたり、村上春樹好きの読者も絶賛していたので興味を持って読んでみた。これが大正解。偏見はいけない。

中学2年生の僕は斜視でクラスメイトからいじめを受けていた。そんな僕にある日差出人不明のメモのような手紙が届くようになる。差出人は同じクラスメイトでやはりいじめを受けていたコジマという女の子だった。ふたりは文通を通じてお互いを理解していく。それとは反比例するかのように2人へのいじめはエスカレートしていく。

と書くととてもありきたりな設定、物語。湊かなえの「少女」と同じようだ。
しかし決定的に異なるのはこちらの著者は心の深い闇に触れたことがある(あるいは真摯にその闇と対峙したことがある)ということだ。そして、こういった題材を扱うにはかならず何かしらの救いがなくてはならない。こちらにはその救いもきちんと描かれている。個人的にはこういった題材を娯楽小説のように扱うのは好まないのだと痛感した。

そして、この物語はいじめを題材にはしているが、決していじめの物語ではない。「高くて、固い壁があり、それにぶつかって壊れる卵があるとしたら、私は常に卵側に立つ」これは村上春樹がエルサレムでスピーチした言葉だが、この物語は卵側の話なのだ。いじめの描写が強く前面に出ているのでそこにばかり目を向けていては、この作品を半分も楽しめないだろう。

コジマに対しての物語はあまり多く語られていない。これは読者への宿題といったところだろうか。


きりこについて*西加奈子

2009-10-02 22:00:06 | 女性作家な行・は行


「さくら」が犬の物語ならこちらは猫の物語。

きりこは世間一般では「ぶす」と評価される容姿。しかし両親から愛情たっぷり受けかわいいかわいいと言われ育ったきりこは、自分の容姿をそのように捉えることなく、きりこの最大の理解者である黒猫のラムセス2世と成長する。
しかしある日、好きだった男の子に「ぶす」と言われてから自分は「ぶす」なんだと自覚する。
きりこが容姿=入れものについて考え、きりこの周囲の人間とともに成長していく物語。

ライトに平易な言葉で書かれている物語だけれど、人間の本質を問うような内容。
読後気持ちが良くなる一冊。

個人的には最近の作風の方が好み。

角川グループパブリッシング


少女*湊かなえ

2009-10-02 18:18:12 | 女性作家ま行・や行・ら行・わ行


本屋大賞になってから気になっていた作家。著者の本を読むのはじめて。

主人公は高校2年生の少女達。
アルツハイマーの祖母から受けた暴力によって握力が3になった左手を持ち、その後、喜怒哀楽を現さないようになった由紀。中学校時代剣道部を全国大会まで導いた実力を持っていたが大事な場面で足を捻り負け、仲間だと思っていた部員にネット上で悪口を書かれてから周囲にあわせることに必死な敦子。2人は幼馴染だったが高校に入ってからお互いが遠くなってきたと感じる。そんな中転校して来た少女から友人がいじめが原因で自殺をしたという話を聞き、2人は「死」に恍惚とし人の死ぬ場面を見たいと思うようになる。

多感な思春期の心の暗闇を上手く描いているなと思った。数人の少女を一人称で描くことで、他人と上手く交流ができない部分も表現できている。
しかし、本当に思春期に暗闇を見たことがある人にはここに出てくる少女達の闇は作り物で、暗闇を「ネタ」にしていると感じ不快を覚えるだろう。
女子高生の心理を知ったような覗き見精神を満足させるので多くの読者を喜ばせたのだろうが。

思春期の女の子は何を考えているか分からない、なんて言っている女子高生のお父さんには読んで欲しいかもしれない。本屋大賞になった「告白」を読もう思っていたが、読むのを悩んでいる。