本の国星

読んだ本、買った本の実験的覚えがき帖。

SOSの猿*伊坂幸太郎

2010-01-28 23:03:42 | 男性作家あ行・か行


物語は「私の話」と「猿の話」の2本立てが交互に語られる。「私」はイタリア留学時代の経験をもとに帰国後エクソシストのようなことを行う。ある引きこもりの青年に対して悪魔祓いを行うことがら物語が始まっていく。
どちらの話も「西遊記」が引用されベースとなる。昔テレビで「西遊記」を見た程度しか知識がない私にとっては理解できない箇所が多く、こればかりは「西遊記」の知識があったほうがおもしろく読めたのにと無念でならない。

この小説にはいくつかの制約?の上で書かれたものである。
まず新聞の連載であったこと。文字数が限られた紙面で前回のストーリーを忘れてもらわないように、そして次回のストーリーを楽しみにしてもらえるようにと書かれたはずだ。
そして、またもや漫画と連動しているということ。あるキーワードが与えられていてそこから話を広げることが前提で書かれた。
こういった制約の中で書かれた物語は「陽気なギャング・・・」から伊坂ファンで、どの小説も登場人物がリンクしている伊坂ワールドが好きな読者にとっては不満があるだろう。今回だけならまだしも前作「あるキング」から初期の作風、伊坂ワールドは遠くにいってしまったのだからファンにとってこの作品を酷評したくなる気持ちも分かる。
ただ私はそこまで裏切られた感じはしなかった。どこか「魔王」に通ずる暴力の考えも語られていて伊坂らしさを感じたからだ。
さらに個人的に連動する漫画家五十嵐大介の「海獣の子供」のファンなので、漫画のほうも楽しみに思っている。これが五十嵐氏でなかったらまた違った感想を持ったかもしれない。

今までのようなミステリーを求めている人には薦めない。



TRIP TRAP *金原ひとみ

2010-01-27 22:50:04 | 女性作家あ行・か行


15歳の少女がパチンコ屋の社宅に住む彼の家に同棲している「女の過程」、何となく作者を思わせるような主人公の「憂鬱のパリ」などボリュームは異ながすべて旅繋がりの6つの短編からなる。

何かのインタビューで作者が「分かりやすいように書いた」と話していた。確かに今までの作品で一番分かりやすい。作風である混沌とした精神を表すような文字の羅列は初期と比べるとだいぶ押さえられている。荒々しい勢いがなくなったことを好まない読者もいるだろう。しかし、文字の羅列が抑えながらも精神の混沌を伝えるほうがずっと難しいはずだ。

これからも楽しみ。


別冊図書館戦争1 別冊図書館戦争2*有川浩

2010-01-21 21:47:27 | 女性作家あ行・か行




別冊を読むのは図書館戦争にはまった人が前提。本編のスピンアウトだからだ。

本編ラストではそして数年後、のような感じで笠原郁が堂上が結婚していたのだが、その経緯の物語であったり、くっつきそうでくっつかなかった同期の2人の物語といった具合でファンサービス旺盛。
そこまで語らなくても良かったような気もしなくもないが、しっかり楽しませてもらった。
時間のあるときに一気に読んだ方が良いかもしれない。

図書館危機  図書館革命*有川浩

2010-01-14 20:28:37 | 女性作家あ行・か行




図書館シリーズ第3、第4。
全6冊あるがうち2冊は別冊ということで本編からずれるようなので、本編はこれで終わり。

最初は文章のノリについていけなく、辟易していたのに、気がついたら一気に読んでしまった。
4冊ということだからか、起承転結が一冊一冊に割り振られている。
3冊目の「起」では笠原の同期である手塚の兄がトップに立つ完全な本の検閲をなくすためには一時的な検閲も認めるという「未来企画」が動き始めたり、堂上が笠原の憧れの王子様であったことが分かったり。
4冊目では「上手くまとまりすぎでは?」というほどキレイにまとまり、読者の希望通りの結末。
設定などの足固めは不十分だろう。上手く行き過ぎることも多い展開。とはいえ登場人物に負けないくらいドタバタのストーリー展開でそういうこともまあいいかと思ってしまう。

多少ボリュームはあるものの漫画感覚で読むことが出来るシリーズだ。

図書館内乱*有川浩

2010-01-08 22:29:13 | 女性作家あ行・か行

シリーズ全6巻の2冊目。

相変わらず職場の上司にその言葉遣いはいくらなんでもないだろうという会話が続く。現実ではなく物語りだと割り切ってしまえば、この独特な世界にも慣れてしまうものかもしれない。
「図書館内乱」では各登場人物の恋愛話が中心。
相変わらずページ数は多いが、前巻より一章ごとに話は分かれているので読みやすい。

ここまで読むと、最後まで読んでしまおうかという気持ちになってきた。

図書館戦争*有川浩

2010-01-07 21:15:59 | 女性作家あ行・か行

過去に本屋大賞に名の挙がった作品。連続モノで一冊も厚みがあったので手を出さずにいたのだが、年末年始の時間のある時にはよいかもと思い手を伸ばした。

舞台は昭和以降平成ではなく正化という年号になったパラレルワールド。その世界では公序良俗を正し人権を守るといった名目でメディア良化法が施行されている。良化委員が望ましくないと判断したメディアは抹消されることになる。図書館の本も例外ではなく、図書館は自衛のため武器を手にし本を守る道を歩み防衛隊を結成する。
主人公の笠原郁は高校生の頃良化委員に取り上げられそうになった本を守ってくれた図書隊員に憧れ、武器を持つ図書隊員になる。そんな主人公の所属する図書館対良化委員との抗争の物語。

設定はおもしろい。ただあまりにも文章が軽い。「事故を起こす」ことを「事故った」とするようにこの著者は名詞を動詞のように使う造語を乱発するのだ。さらにその名詞があまり日常会話では使わない単語。ライトノベルというかテーン向けの文庫?という会話の掛け合いにもついていけなく、何度も挫折しかけた。ただ、登場人物は活き活きとしており、テンポはよい。この独特のノリについて行けるかついて行けないか(ついて行きたくないか)が評価の分かれ目だろう。

実は漫画化されたほうも少し読んだ。漫画のほうが向いているような内容だと思う。


ファミリーツリー*小川糸

2010-01-06 22:06:53 | 女性作家あ行・か行

なんだかんだと新作が出ると手に取ってしまう。「食堂かたつむり」も映画化され、今年著者はクローズアップされるだろう。

流星と姉の蔦子そして、近いような遠いような血の繋がるのあるリリー。中学生まで安曇野で過ごした流星の元に毎夏東京からやってくるリリー。3人での幼少期。姉が抜けて2人で過ごすようになった中学生時代。夏の思い出とともに成長していく2人を描く。

前作を読んだ時は非常にがっかりしたのだが、今作はちょっとこの先気になるなと思わせてくれた。その一因として文章の上達もあるけれど、それ以上に空気感がよくなったのだ。前作は無理に押し付けてくるような善意のようなものを感じてしまったのだけれど、今作はそういった嫌味は感じなかった。
よしもとばななの影響が濃いように思う。彼女のようなスピリチュアルな世界の影響を受けすぎて自分を見失うことがなければおもしろくなるのではないだろうか。

泣ける、といった感想も多い本だけれど私にとっては泣ける本ではないことは確か。また、少しだけ舞台になった場所に住んでいた者にとってはとてもなつかしく感じた。