本の国星

読んだ本、買った本の実験的覚えがき帖。

みずうみ*よしもとばなな

2006-02-22 19:09:40 | Weblog
最近の作品の中ではかなり好きな作品。「王国」と流れている空気は一緒なのだがやはりあの作品は内容を詰め込みすぎて長くなりすぎた。この作品を読んでそのことがよく感じられた。

今回は内縁の子として育った女の子が、母親を亡くしたことで一人で生活を始め、恋をして行く話。よしもとばなな特有の背景設定は、ともすればいやらしくなってしまうのだが、そういうものは一切感じない。雰囲気は表紙の川内倫子の写真そのもの。あまりにぴたりとしていて驚くほどだ。

確かではないけれど、こんなようなフレーズがあった。
他人の大切な(内容の重い)話を聞くというのはお金をもらうようなもの。聞いたほうにも責任が生じるから。だから無理して話してもらったら(聞いたら)だめ。
このフレーズは読む人によっては変な意味合いになってしまうかもしれない。ぎりぎりのところで上手く表現した言葉だなあと感じた。

フォイル:図書館蔵書




麦ふみクーツェ*いしいしんじ

2006-02-18 11:24:17 | Weblog
これはちょっとした愚痴になるけれど、ベストセラーと呼ばれる小説はひとつの回答しかないようなストーリーであるのはなぜだろう?100人読んだら100人の解釈があって、どれもハズレなんてなく、どれもが正解なのだ。ヨクウレルホンの多くはここで涙して、ここで笑って、ここでハッピー。答え付きの問題集のよう。

いしいしんじの作品は童話のような語り口で難解な言葉回しはない。しかしとても難解。クーツェの言葉を借りるなら「いいもわるいもない。」一つの出来事には良い面も悪い面もあるし、それを楽しい出来事ととらえるのも悲しい出来事ととらえるのも読者次第。だからとっても難しくて楽しい。

ストーリーは田舎の荒っぽい港町に住むのねことよばれる大きな体躯の男の子が主人公。ねこのおじいちゃんがきっかけになり町に吹奏楽が吹きこまれる。ねこは音楽を学ぶために大きな町に行き、変わり者だけれど天才的な音楽家と一緒に過ごすようになる。

読後いしいしんじこそがクーツェだと思ったが、これは読んだ人には分かるだろう。

木の匙*三谷龍二

2006-02-15 21:45:46 | Weblog
木工作家の三谷龍二の生活の中のエッセイ。
正直、生活系の雑誌、ムック本などあまりに一編に似たようなものがここ数年で販売されており、おなかが一杯でもう手に取ることも少なくなった。
そういった今この本をここに載せるかどうか迷ったのだが(エッセイと書いたが、エッセイといっても本当に書き留めたような小さな文章)、男性の生活を男性の編集でというところに面白さを感じたので載せることにした。
男性に共感されるのでは?

新潮社:図書館蔵書

シシリエンヌ*嶽本野ばら

2006-02-14 21:40:03 | Weblog
官能小説と煽り文句を掲げているのは知って読んだものの、予想以上にグロテスク。
エロスを美に見せようとしている試みは半分は成功。半分は失敗というところか。
読者を裏切り、衝撃を与えたいのは分かるのだが、少々しつこい。前半と後半をかいつまんで途中はなくてもよかった。エロスは表現を荒っぽくするだけでただ俗ものに成り下がってしまい品性に欠けてしまう。そういった意味で中だるみが失敗してしまった。
そして何作出しても完成度がいまひとつ、というところに惹かれてしまうのだ。

新潮社:図書館蔵書

砂漠*伊坂幸太郎

2006-02-05 10:46:44 | Weblog
東西南北と鳥の漢字の入った名字の5人の大学生活を伊川節の軽快さで描いた長編。
設定は伊川自身の出身である大学の法学部なのだろう。そこに入学した5人の男女が麻雀をするといったストーリーなどはほとんど実体験なのでは?(今の大学生はこんな風に麻雀をしたりするのだろうか)
しかしそこは伊川といったところ。実体験ではあり得ないだろう事件や超能力者といった人物設定などを巧みに織り交ぜつつ、歯切れの良いテンポで物語は進んでいく。
「魔王」の後に読んだので、前作の方が良かったかもしれないとも思ったが、重いテーマの後だからこそこの軽快なリズムは食後のデザートのように心地よく響く。
また刊行時期も絶妙。
新しく大学生活を送る予定、大学を卒業し社会にでる予定、そういった人に是非読んで欲しいし、周囲のそういった人に勧めて欲しい。
私も彼らの学長の卒業式の挨拶の言葉と同感だからだ。

実業之日本社:友人より