本の国星

読んだ本、買った本の実験的覚えがき帖。

四畳半神話大系*森見登美彦

2008-09-27 22:33:44 | Weblog
そもそも著者の作品は「きつねのはなし」から手をつけ「夜は短し歩けよ乙女」と新しい出版順へと読み進めてしまったので、さすがに登場人物や舞台設定がリンクしていると頭の中が混乱してきた。ファンサイトで誰か相関図を作っているのでは?と本気で探してしまったがないものだ。

いつもの文体、舞台設定。(おそらく京大生の)主人公は3回生になったというのに、勉学はおろか学生ライフも満喫していないと悔やみ始める。これも悪友であるたった一人の友人のせいであり、新入生の時他のサークルに入っていたら彼と会うこともなく今頃こんな風になっては居なかったはず、と思うところから物語が始まる。
この物語は4つに別れており、それらはパラレルワールドとして繋がっている。
新入生の時に選んだサークルによって3回生になった時どのように自分は異なっていたか比べることが出来るようになっているのだ。
この仕組み(?)に2編目を読んでいる途中まで気がつかず、なぜ同じ時間軸で同じ登場人物が出てくるのに設定が違うのか分からなくなってしまったが、気がつけばその比較がおもしろくなってくる。

結局はどんな道を選んでも自分が変らなければそう大した違いはないものだという哲学のようなことを面白おかしく語っている。

なかなかおもしろい志向だが、森見節にそろそろ飽きてきてしまったのも事実。
変化を求める読者も少なくないのでは?

太田出版:図書館蔵書

容疑者Xの献身*東野圭吾

2008-09-26 12:03:44 | Weblog
著者の作品は初めて。ドラマ化した「ガリレオ」のシリーズに興味はあったのだが手にする機会はなかった。今回映画化により再び話題に上ったこの原作の作品を読むことが出来た。

内容は通称「ガリレオ」も天才と認める「数学者」の仕掛けた謎を解くというもの。そこには数学者の不器用な愛が込められているのだが、そのあたりのストーリーは好き嫌いがあるかもしれない。とにかく謎解きといったミステリーの要の軸がしっかりしていて読者を惹きこむし、引き込んだ読者を放さないテンポのよい展開。謎が解けても「なんだ」と読者をがっかりさせないしっかりとしたトリックだった。文章自体が生き生きとしてそれが読み手にも伝わってくる。
エンターテイナーとしてすばらしと思う。

なかなかミステリーを読む機会がないのだが、純粋に楽しむことが出来て時間が経つのもあっという間だった。
他の作品も読んで見たいと思う。

文藝春秋:図書館蔵書

通天閣*西加奈子

2008-09-18 22:38:51 | Weblog
短編集を読んだので今度は長編を、と思い手に取った。

同棲していた男が突然N.Y.に行くと出て行きひとり残されたフリーターの20代の女。人と関わることを極度に避けてひとりで暮らしている40代の男。この2人の主人公が交互に日常を語ることで物語が進んでいく。

主人公が入れ替わる時に挟まる短い文章は、本文とは全く関係なく少しばかりクレイジーな文章。しかし読み進めるうちに本文とリンクしてくる感覚に陥る。また、全く無関係だと思われた2人の主人公は、ひとりで暮らしているが孤独を孤独と思わないでいるといった共通点があるばかりではなく、一時期同じ屋根の下で暮らした時期が合ったことなどが明らかになっていく。

「若い女性作家が書く文章」にありがちな無難な一冊かもしれない。とはいえ読後なんともいえない温かな気持ちになったことも確か。
もう少し読んでみたい作家。

文章とは関係ないが装丁の画も本人が手がけていたり、テヘラン生まれエジプト育ちという経歴がおもしろい。

筑摩書房:図書館蔵書


しずく*西加奈子

2008-09-05 20:04:35 | Weblog
初めて手に取った著者の本はタイトルになった「しずく」を含めた6編の短編集だった。

切り口がおもしろく、読者を飽きさせない文章を書く人だな、というのが第一印象。切り口がおもしろくても奇をてらい過ぎるようなことなく、ささやかな日常を丁寧に描いている。特に印象深いのが嫉妬や怒りといった不の感情を描くことが上手だということ。人間生きていればおもしろくないこともたくさんある。それをきれい事ではなくリアルに描くことで、登場人物に温かみを感じるのだ。

長編も読んでみたいと思う。

光文社:図書館蔵書

ラン*森絵都

2008-09-04 18:46:20 | Weblog
マラソンもの、というのだけは知っていたのでまた「DIVE!!」のようなスポーツものと思って読んでしまったのが失敗。どちらかというとマラソンは設定であってメインではなくファンタジーものだったのだ。そういった情報抜きで読んでいたらもう少し楽しめたかもしれない。

幼くして家族を亡くし、面倒を見てくれていた叔母も病死し天涯孤独の身となった主人公「環」。生きているのか死んでいるのかよく分からないような投げやりな毎日を過ごしていたある日、ひょんなことから「あの世」へ行く方法を見つけてしまい家族と再会を果たす。この方法はレーン超えと呼ばれていて、環の場合40kあるレーンを6時間以内に一定速度で止まることなく進み、あの世でガイドをしてくれる死者がついた場合にしか超えられない。環がレーンを越えられたのは憑いている自転車をたまたま手に入れ、それにガイドされ超えてしまったのだが、本来自力で超えなくてはならないし、その自転車もあの世にいる本来の持ち主に返さなくてはならない。そこで家族を会い続けるためにレーンの40k走れるようにマラソンを始めるようになる。

環が走り始め、人と関わりを持つようになってからの心の成長や変化は丁寧に描かれていてリズムもあり読みやすい。
とはいえ、22歳にしては少し幼すぎるのでは?と思うような主人公の行動や発言が気になったり、走ることといまひとつ噛みあってないような気もした。
生きることに前向きになるといった成長を描くのとマラソン、どちらかに絞ってもよかったのではないだろうか。一方を切って中編にするかどちらも描くなら上下巻に分けてももう少しマラソンの部分を描いていれば両立できたように思う。

とはいえこれだけの長編を一気に読ませる力はある。

理論社:図書館蔵書