インターネットの憂鬱

仮想空間と現実の狭間で

ビジネス書を読むと失敗します

2012年05月17日 | 雑感

のっけから乱暴なタイトルで恐縮だが、今回はインターネットから少し離れたお話を。

世の中には「ビジネス書」というものが、それこそ腐るほど売られている。商品として需要があるから
それだけ出版されているわけだが、その内容はと言ったら玉石混合なのはご存知の通りだと思う。
と、いうよりも、大半は役に立たない「成功者の自慢話」か「インチキなでっち上げ」だ。
広告・出版業界で長年仕事をしてきた私の経験では、そう思わざる得ない。

壊滅的な出版不況の下、出版社も生き残りをかけて必死だ。そうなると金を回すために
後から後から中身の無い本を出すようになる。そう言った意味で、現在は粗製濫造の状況にある。
で、手っ取り早く買ってもらえそうなのがビジネス書なので、ヘソで茶を沸かすような話を
さもありがたいように見せて売りつけるのだ。F出版なんていうのが、その典型かと思う。

では、まともな、身のありそうなビジネス書はどうかというと、これもまた大して役に立たない。

先ほど言った「成功者の自慢話」はもちろんだが、「成功のノウハウ」「逆転の法則」「儲けるルール」といった
“こうしたら儲かった”的な話も、参考になる部分は確かにあるが、本当のところは役に立たない。

そこに書かれている話は「過去」のことである。
そこで成功しているのは「あなたではない」。


つまり、あなたとは生まれも育ちも学歴も経験も人間関係も、まったく異なる「アカの他人の過去」が
あなたの現実の人生や仕事にどれだけ関わることができるのか。

そして、そこで書かれていることと同じことをトレースできるのか。仮にトレースできたとしても、
それは二番煎じどころか百番煎じがいいとろで、あなたが成功する保証なんかどこにもないのである。
むしろ頭から信じてマネをして失敗するのが関の山だ。

そういった点で、巷にあふれるビジネス書は、情報商材とそっくりだ。

なにしろ、成功している経営者や、仕事ができる人間は、絶対と言っていいほどビジネス書なんか読まない。
彼らが好んで読むのは古今東西の文学や哲学書、あるいは誰かの回想録や自伝であることが多い。
これがなぜなのかと考えてみると、そこに多く見受けられるのは、失敗事例や悲哀ではないかと思うのだ。
それは人生で避けて通れない、真理であるからだ。

同時に、「成功」には様々な形態や規模があり、それこそ人の数だけそのスタイルがあるが、「失敗」にはそれがない。
言ってみれば「失敗」した結果は誰にでも平等で絶対的なものである。不渡り、倒産、民事賠償、刑事罰、終着点はみんな同じだ。

光あるところに陰がある。成功の裏には失敗がある。人生、楽ありゃ苦もあるさ。

どうにも人は弱い生き物で、良いところしか見たがらない。でも、同時に悪いところも見なくてはいけないし、
実際に「失敗」した時にどのような行動をとるかが、その後の「成功」を決定づけるのも真理である。

「失敗は成功の母」
「失敗を恐れるな」
「人間の価値は逆境で試される」

これは、古今東西、言われ続けてきた言葉であり、あなたも自分の部下や子どもに言ってきたはずである。
なのに、あなたはどうしてビジネス書を読むのか。どうして出来もしない他人の成功事例に関心を持ち、お金を払うのか。
理由はいろいろあるだろう。こうして偉そうなことを言っている私とて、同じような人間だ。僻(ひがみ)も嫉妬も羨望もある。

ひとつだけ、はっきりしているのは「覚悟」の違いではないかと思う。成功と失敗には必ず「責任」が伴うわけで、
そのどちらにおいても、まさに文字通り「誠心誠意の、最大限の、自己犠牲も厭わない責任をとる」という「覚悟」がある人は、
他人の成功など気にならないのだろう。そういう人は、いつでも自分の仕事や、商品のことや、会社の明日を考えているから、
余計なことを考えているヒマもないし、自ずから成功する人だろうから他人の成功など気にしないのである。

また、ちょっとしたことでも、ちゃんと謝れない人間が増えている今の世の中、頭の下げられない経営者も多い。
そんな人は「失敗」したときにどうすればいいか分からないし、逆境の中で自分の活かし方も分からない。
謝らないから、謝り方をしらないから、誰も手を貸してくれないし、その「失敗」の情状も汲み取ってもらえない。
本来、そこで得られるはずの反省や経験、信頼関係こそが、「成功」への大きなステップになるはずだったのに。

こうして「失敗」のフォローができない人に限って、頼るものがないから、ただやみくもに「成功」の糸口ばかりを
見つけようとするわけである。おそらくそれは、進歩がなく、悪循環で、破滅への行進にもなりかねない。

要は「覚悟」がある人とは、自己の小ささを知っていると同時に、他人の「怖さ」と「優しさ」を知っている人ではないだろうか。

そういう点で、参考になるのは経営に終わりはないという本だ。

これは、本田技研工業の初代副社長だった藤澤武夫さんの回顧録で、世の中的にはビジネス書のような扱いになっているが、
ご本人は当然ながら成功したとも失敗したとも言ってない(笑)。私としては「経営」の在り方を考えるにはもちろんだが、
失敗や逆境に直面したときの行動など、人として周囲とどう向かい合って行くべきかを教えてくれる貴重な一冊だと思っている。

そして、倒産の危機など何度かあった苦境を乗り越え、浜松の町工場から世界的企業へとホンダを発展させた
実質的な経営者であった藤澤さんと同様に、私の中で壮絶な「覚悟」を持った経営者として畏敬の念を抱いているのは
ジャパネットたかたの高田 明社長だ。

51万人分の個人情報が漏洩した事件では、一切の宣伝と販売を1ヶ月半に渡って自粛しその社会的責任を示した。この間の損失は150億円。
会社の清算すら考えたという高田社長の誠実で実直な対応は結果的に消費者の好感と支持を呼び、さらなる業績向上を果たしたわけだが、
この会社も佐世保にある街場のカメラ屋から年商1,700億円にまで発展した企業である。

「エラそうなことを言うな。まだ成功もしてないのに、失敗のことなんか考えられるか。まずは成功する話を書け!」と怒られそうなので、
次回はこの「ジャパネットたかた」が成功した理由などを中心に、商品の売り方について書いてみます。