『 うさぎの言霊 』 Rabbit's Kotodama 

宇宙の謎、神と悪魔と人とは?

《 序章 》 〈 第一話 〉 最期の天の岩戸

2019年01月30日 12時23分58秒 | 小説




        ( 推奨BGM ) 

  ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン作曲
  交響曲 第三番 『 英雄 』 変ホ長調 作品五十五 (第一楽章)
      ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮
      ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団





二〇XX年 十二月十八日(木) 午前十時十分十秒より三十分前 

       カウントダウン開始




ここは日本の東北地方、青森県と秋田県の県境にある十和田湖。 

  気温零度。

辺りには先日から降り積もった雪が暖かな太陽の光を受け、
白銀の真綿のような姿を横たわらせている。

その純白の雪に囲まれた十和田湖は余りに神秘的で美しく、
全くと言っていいほど邪気は感じられない。



  無風状態の湖面は一点の波紋も無く、
  生命の根源とも言うべき太陽の姿を映し出す為だけに
  神がお造りになられた鏡のようである。

その鏡面の端に視線を移すと、光を帯びた人らしからぬ姿が見える。

  これは ・・・ 妙だ。        

その姿とは、湖畔大畳石の上に佇む少女と老紳士の姿である。
やはり、どう見ても人ではない。

少女の服装は洒落たセーラー服っぽいが、あまりに斬新なデザインである。
特に帽子は大きく派手で変っている。

 服の生地はシルクよりも光沢があり、
 白を基調とした紫の濃淡の縦縞模様が彩り鮮やかである。

季節は冬ですが寒さの影響は無いらしく、
半袖のブラウスに肘より上まで伸びた長く洒落た白い手袋。

 金糸銀糸もふんだんに使われているようだ。
 胸には巨大なルビーらしき光輝く宝石が輝いている。

有り得ないのは宙に浮いている幾つもの光沢のある球体であるが、
これもデザインの一部のようだ。スカートは膝丈。
ストッキングは光沢が有り透明。

 靴は紫のハイヒールで、先端は上向きに尖がり、
 その延長線場に真珠色の球体が浮遊している。

 あ~、想像付きません? そう言われましてもねぇ ・・・



長く艶やかな黒髪は中央で分けられ、帽子の下の後頭部で左右共に、
円筒形の金細工の中を潜り、まるで生き物の様に大きくうねり伸びている。

その伸びた髪は途中で左と右が交差している。
更に伸びた髪は先端で一つにまとまり、金龍の髪飾りに納まっている。

この中央部分を、縦に一本のポールが宙を貫いている



その金細工の龍の左手には、
生命の設計図と言われる二重螺旋DNAのような
デザインの杖が握り締められている。

 柄を左手で持ち、右掌に杖の先が乗せられています。

この二重螺旋の杖は実に意味深である。
まるで色鮮やかな炎にしか見えない。

その螺旋の先端は鋭く尖っていて、
その又先には5センチ程空間を隔てて黄金の球体が付いている。

 他の部分も興味深い。

柄は金色、鍔はパールホワイトで厚みがあり、
上から赤・青・黄色の平行の線で縁取られている。

長さはどうでしょう ・・・ 1メーター程でしょうか?
果たしてこれは魔法の杖なのか? いや、剣に見えなくもない。 
神の武器?

 う~ん、興味深々です。

これを使われる場面があるといいのですがねぇ ・・・    



 信じ難いのは、このヘアースタイルです。

横から見れば二体の龍に見え、上から見れば8の数字か無限大マークに見える。
更に正面からは、何と大きな円の中にハートが見える。

 が、そこに龍の姿は無い。 驚愕、有り得ない髪型。 人間には無理です。

  女神だからハート? しかし後ろでは龍が牙を剥いている。

その髪を延ばせば2メートル程の長さになるでしょう。
ふわりと漂っている様子から、重力の影響は微塵も受けていないと思われる。

どの部分を取ってみても神の芸術と言えるでしょう。
できれば、あなたにもお見せしたいのですがねぇ ・・・



ただ特筆すべきは、衣装が派手で豪華というだけでなく、
少女の体自体が気品に満ち溢れた光を放っていることだ。

実に神々しい。その際立つ美しさは尋常ではなく、
白く輝く肌、大きな瞳、スタイル、姿勢、どれを取っても非の打ち所が無い。

 間違いなく相当次元の高い光の女神であると思われる。
 が、神様は男女一体である場合があるので特定はできない。

何にしても現代の上辺だけ表面だけを飾り立てて、
自己満足的美しさを競う女性の方には、
どんなに求めても得られない美の極致である。


 老紳士のほうは、黒いシルクハットに黒いスリーピースのスーツ。

それに艶やかな黒いステッキと、磨き込まれた黒い革靴。
白いワイシャツは襟と袖の部分がフリル状になっている。

それに、ワインレッドの蝶ネクタイ。
手には真っ白なシルクと思わしき手袋をはめている。

 立派な眉毛は白く艶があり、ふさふさしている。
 同じく白い口髭はしっかりと手入れがなされ、
 髭の両端がくるりと上に巻いてある。

これは黒と白のコントラストが実に見事である。
表情はとても穏やかで常に笑みを湛えている。

 見た感じは位の高い貴族といったところではあるが、
 少女よりかなり控えめで派手さはない。

この場合、美しい女神を引き立てる為に自分は遠慮するという、
細やかな配慮と取れなくも無い。

とは言え、ただならぬ風格、気品に満ち溢れている。
さしずめ若く美しい女神の執事か、単なるお供といったところであろう。
良く見れば二人ともしっかりと足が地に着いていない様だ。

 宙に浮いているのか影すら見当たらない。
 この二体の神の正体は、目的は果たして何なのか?

面白いことになりそうなのは間違いないだろう。


 ところで私は何故ここにいるのか? 夢か幻か? 現実か?
 実際区別がつかないのです。 まあ気にしない事にしましょう。  


 《 いよいよですね、スミレさん。》


老紳士が言うとスミレという女神は、こう答えた。


 《 そうですネ・・・叔父様。》 ・・・ ああ、叔父様なのですねぇ。


二人は特別口を開けた様子が無い。

私が思うに、想いの中で言霊を発し、意思の疎通を図っているのだろう。
つまり人間界でテレパシーとか言われているものである。

  故に私の脳裏に響いて来たのだろう。 
  意図的にかな? なぜ私に??

   ・・・ だとすれば実に妙だ!

  その時スミレは左目でウインクをした。

チンッ ✬ とかいう音がして星マークが一瞬キラリと光って散った。
まるで漫画かアニメだ。

すると雲一つ無かった快晴の空に、黒々とした雲が周辺から集まって来た。
だが、これはどう考えても可笑しい。

 周辺の雲が、まるで十和田湖目掛けて四方八方から
 吸い寄せられるように集まっているのだ。

その雲の大きさは見渡す空一面を覆い尽くす程だ。
雲は巨大な十字に形作られ、やがて十和田湖を中心に右に回転し始めた。

 かといって台風などでもない。 あろう筈が無い。

突然起こった有り得ない光景に、周辺の住人や気象庁も慌てふためいた。
皆窓を開け、或いは外に出て四方を見渡し、口々にこう言った。

 「今度は何が起きるんだ。この世の終わりだ。」  と ・・・

そう言うのも無理はない。
科学的物理的に言っても不可能な出来事なのだ。

雲は風の流れに乗って動く。
その自然な流れを無視し、
一箇所に吸い込まれるように集まるとは如何なる力なのか?

 それが回転するなど ・・・ 

  ああっ、十字だったものが何時の間にか、
  中心部から延びる五本の腕の様に ・・・

   これは似ている ・・・ 我等が天の川銀河に ・・・



この小さな天の川銀河は、下から見ての右回転であるから、
宇宙空間からでは左回転になる。

通常、北半球では台風もハリケーンも左回転だ。
決定的に違うのは、台風の目のような空洞部分が無いのである。

実際の銀河は、中芯部の棒状構造の「バルジ」左右から
伸びる五本の腕から成り立つ。
その中のオリオン碗に太陽系が存在するのだが、
そこまで酷似している。

 天文学に詳しい人なら一目見て分かる筈だ。

その中心、バルジと呼ばれる棒状部分には、
ブラックホールの存在を示唆する学者が多いのだが、
まさかこの雲で形成された銀河中心核バルジ部分には、
小型ブラックホールが存在しているのだろうか?

  大気中で ・・・ こ、こわっ。
  それを、ウインクしただけで大気中に発生させる等 ・・・

だ~が、中心部に何らかのエネルギー源が無ければ起こり得ない現象である。
故に有り得なくは無い。

増してや、神の奇跡の御業であれば尚更である。
とすれば、人の想像を絶する能力である。

 地球上で、雲が原料の天の川銀河を見上げている我々人間。
 それを、いとも簡単に創造しコントロールする二体の神。

恐らくは、あの女神が全ての現象を起こしていると思われるが、
いったい何のデモンストレーションなのだろう?

 まさか、暇つぶしに造られた訳でもあるまい。

二体の神は、先程から意味有り気に微笑むだけである。
恐らくこの超常現象は、神や奇跡を信じない人間達に見せた神の御業と思われる。

ところで実際の天の川銀河は二億年を掛け、波打ちながら一周するそうだが、
この雲の渦巻銀河の一周はどれ程だろう。

  あそこの腕の部分を起点に数えてみよう・・・

    いち、にい、さん ・・・・・ 五十九、六十 ・・・

  ええ~、大体一分ですが、まさか単なる秒針計だったりしてぇ ・・・
  いや、考え過ぎ考え過ぎ!

しかし面白過ぎる。次は何が始まるのだろう。楽しみだ。

もしかすると星の生成過程を大気中で人に披露して下さるのかもしれない。
生命の誕生も早廻しで見られるかも。
それと引き換えに恐ろしい代償があったりしてぇ、いや、それは怖過ぎる!

この謎めいた現象は、あっという間にインターネットで世界中に配信された。
NASAは勿論の事、あらゆる分野の学者達が注目していた。

  その注目度が高い訳 ・・・

 それは、あなたが恐らく体験するであろう近未来の事柄 ・・・
 それに先立ちお教え致しましょう。 




    (推奨BGM) 

トマソ・アルビノーニ作曲 『 アダージョ 』 ト短調
   注 : レモ・ジャゾット作曲が真相らしい? 
ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮     
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団  


       

世界はこの時点で、昨年2月に発生した新型インフルエンザ鳥バージョン+
エボラ出血熱が猛威を振るい、
既に世界で累計 5,500万人の犠牲者を出していた。

更にその後、世界各地に起きた大地震と、それに伴う大津波や大洪水、大火災、
地震と連動したかのような噴火で数千万人。

 畳み掛けるような寒波と熱波の嵐。あらゆる天変地異は、
 汚れた魂を持つ者と土地に容赦無く襲い掛かった。

当然その状況下に於いては、水と食料の確保はままならず、
餓死者は増加の一途を辿った。

現時点での各災害全体の死者数は推定 5億人とも言われ、
日本の犠牲者は100万人を下らなかった。

  その為、世界の政治経済は麻痺状態。

度重なる大災害と衛生的に劣悪な環境により、数種類の疫病が蔓延した。

更には、各国の数10箇所の原子力発電所も大きな被害を受け、
放射能漏れを起こし、その周辺地域は大きく汚染された。

その一方で、水と食料の奪い合いから、暴動、紛争は日常茶飯事に起きた。
外に出て放射能の脅威に晒されても、渇きと飢えを欲する本能には影響が無かった

 まだある。

去年暮れから急激に太陽黒点の活動が活発になり、
太陽フレアによる電磁波が地球を襲い、
人工衛生は誤作動や故障を起こし、ある物は地上に落下した。

 また、発電所や電子機器に悪影響を及ぼし、
 停電を起こす都市は全世界で一割を越えていた。

当然各地の破壊された変電所は直ぐに建設し直すことは出来ない。
建設費も労働力も確保出来ない現状なのだ。

 それに大きな変電所であれば建設には一年ほど掛かる。
 故に人々は絶望した。

各国のインフラストラクチャー(経済・産業基盤となる交通・
上下水道・電気・ガス・通信などの施設の総称) が麻痺することにより、
更に暴動紛争はエスカレートしていった。

富と権力を持つものは影で政治家や企業、マフィア等に強力な圧力をかけ、
金と暴力で欲しい物を手に入れた。

 もう人間とは言えない。 地べたを這いずり回る人型の汚物である。

各地には死臭漂う屍の山が築かれ、
その屍の上をハイエナのような盗賊どもが徘徊していた。

河川はどす黒い血の色に塗り替えられ、
人間と動物の死体や瓦礫は絶え間なく海に流れて行った。

 特に発展途上国の状況は絶望的で、
 国連や各国政府に於いては被害状況が把握し切れず、
 支援にはかなり苦慮していた。

正にこの世の地獄と言えるが、
死んだ者達がこれから味わう地獄は
人の想像など遥かに超えるものとなります。

  人々には、当然と言えますがこんな声が上がりました。

「 これは神の裁きだ。
 人類の罪、己の罪を悔い改めなければならない。」

 この時代で正気を保つ事は至難の技と言える。
 多くの国は自暴自棄になり、次は戦争という頭しかなかった。

必要な物が無くなれば武力で他者から奪う、
知性の欠片も無い発想です。

とは言え化学兵器や最終兵器の核をちらつかせられれば、
大国でも尻込みをし睨み合いが続いていた。

だが、裏で糸を引いて同盟を結ぶ国を探す動きがアメリカとロシアにはあった。
EU・中東・インド・その他の国は、どちらと同盟を結ぶかを問われた。

 中国は不気味な沈黙を続け、他国の動向を見据えていた。
 ややもすると三つ巴戦に成りかねない状況です。

えっ、日本? 日本はアメリカの飼い犬です。
だから従順でお利口さんでしょ? いや、お世辞にも利口とはねぇ ・・・

 一方でアメリカ・ロシア両国の傲慢な態度に、
 不満を募らせる国があるのも否めなかった。

ここ数ヶ月、世界は只ならぬ緊張感を保ったまま、
何時勃発するかもしれない第三次世界大戦の影に怯えて過ごす他無かった。

その為、各国の政府や軍関係者の精神病患者は爆発的に増えた。

何しろ既に、新型インフルエンザやその他の災害で
家族を亡くした者が多数いたのだから ・・・

  世界の陰で暗躍する裏組織。

戦争商人とも言うべき連中からすれば、
戦争を起こせば人口も減ることで食料危機は解決し、
武器は売れ科学も医療も開発が進み、いい事尽くしである。

巷ではインフルエンザですら、
人工的に作ったウイルス兵器ではないかと訴える者もいた。

 裏の組織の動きや企みは、一般の者が知る事は無い。
 更なる奥の邪霊を操る邪神の陰謀は、
 人間の類が知る由が無いのである。

ただ人間界の支配者は更に神の化身を
気取っているのだから始末に終えない。

 故に、「早くやれよ馬鹿野郎!」 とけしかけているのだ。

こやつらは神の化身ではなく、悪魔の化身か悪魔そのものなのかもしれない。
まあ、言いなりになる人間もどうかと思いますが ・・・ 

 いやはや人類総獣人化は近いと言える。  
 そんな中で起きた超常現象である。  

頼みの綱のネット回線もかなり混乱していたが、
世界中固唾を飲んで見守っていた。


  場面を十和田湖に戻します。




   ( 推奨 BGM )

ペーター・チャイコフスキー作曲
ピアノ協奏曲  第一番 変ロ短調 作品二十三 (第三楽章)
シャルル・デュトワ指揮 / ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団
マルタ・アルゲリッチ(ピアノ)




 空では、どす黒い雲の小銀河が更に成長し厚みも増して来ていた。

今にも雪が降り出しそうだ ・・・ いや降ってきた。
しかも急激に激しくなってくる。

 おまけに稲妻まで ・・・ だが二人は微動だにしない。  

良く見ると二人の体には何と風雪が当たっていないようだ。
その体をすり抜けているようにしか見えないのである。

二人の目線は荒波と化した湖の中心、
湖面よりやや上の辺りにあり、涼しげに見つめている。

 雲の銀河は回転速度を増し、台風並の強風を生み出している。
 見ているだけで寒くなってきた。

  しかし地吹雪になった雪が、

  ヒュウゥ~~ッ、ピュウウゥゥーーーーーッ!

  と、唸りを上げるが二人は瞬き一つせず、
  謎めいた笑みを浮かべるだけであった。

それに加え激しい稲妻が連続で起き、震度4か5位であろうか?
地震も起きている。

 まるで地球が怯えて、否、喜びに震えているのか?

この世の終わりなのか?
・・・ いや何かが始まろうとしているのだ。

   二人の神の存在がそれを感じさせる。 


 《 そろそろいいでしょう。》


スミレが静かに言霊を発し、胸の辺りで合掌をした。

すると表情が先程までとは打って変わり凄まじい気迫。
それに、これは神気というものなのだろうか?

次元の低い人間の私には、
あまりに強烈過ぎる光がスミレの体から発せられている。
直視すると目眩がしてきそうである。

 やがて、湖面の中心を軸として左回転に波が渦を巻き始めた。

スミレは次第にゆっくり左腕を上に挙げ人差し指を立てると、
指先にエネルギーを集中し始めた。

 すると眩い黄金の光が発せられ、球形に広がって行く。

スミレの神気はさらに膨れ上がり、そのエネルギーは周りの時空を歪ませ、
蜃気楼か陽炎の様に見える。

その神気に満ちた中のスミレの姿は、あまりに幻想的で、
この世のものとは思えない美しさである。

 私は魂を奪われたかの如く見入ってしまっていた。

  その時、スミレは大きく息を吸い込み、
  地球の隅々まで響き渡るような強烈な言霊で、こう言った。


《 最期の天の岩戸よぉ、 開けぇーーーっ!
     破ああああああああーーーっ!!! 》


スミレは間髪を入れず、上げた左腕を一気に振り下ろすと同時に、
有りっ丈の神気を指先から放出した。

 真っ直ぐに向けられた指先は、
 湖面中心の上空数百メートル付近を指している。

強力なエネルギーを伴うビーム光線は、
湖面中心の上空で次第に球形と成り、グングン膨らんで行く。

 光の球体が直径百メートル程に成った頃であろうか、
 光球の真下からは湖水を巻き上げ、
 上空からは雲の一部が渦を巻いて降りて来た。

  竜巻だあ~~! しっ、しかも相当巨大だ。

    その時スミレの口元が、微かに動いた。


      《 アウム!》


と呟いたその瞬間、膨れ上がった光球が更にとてつもない光を発すると、
轟音と共に一瞬で竜巻と光球は掻き消えた。

湖面は何事も無かったかのように静まりかえり、真っ青な空を映し出しいる。
しかもその空には、
直径百メートルはあろうかと思われる巨大な光輪が出現した。

  その光輪、ん?・・・ 妙だ。

  光輪と言うより円形の鏡だ。
  鏡の枠が光を放っているだけなのだ。

静寂の中、光鏡か神鏡共言うべき鏡は、
音も無く縦軸を中心に左回転をしている。

  空中の鏡? これが最後の天の岩戸? ・・・ 実に妙だな???

この鏡は片面のみで、裏は十字の紋章が鮮やかに浮かび上がっている。
それに加え鏡の奥には、よくは見えないが黒い空間 ・・・?
に、強い光が映っている。

 回転しているから見づらいのである。

  私はどうしても覗きたい衝動に駆られた。
  でも何故か悪いような気もする。
  何者かの視線を感じるからだ。

 私は恐る恐るスミレ様の方を向いてみた。

スミレ様は既に腕を降ろしていて、
ニコニコというよりニヤニヤこちらを見ている。

やっぱりまずいのだろうか?・・・ っていうか私がぁ見えるのっ?


 《 どーぞ、どーぞ。》  私の右の耳元で何者かが叫んだ。

  「 ああ~っ!」


   意表をつかれた私は、
   叫ぶのと同時に体を窄めコワゴワ声の主を見つめた。

  あっああ~あ、あの老紳士ではないか。

 そう言えば先程から姿が見えなかったが何時の間に ・・・
 それにしても近過ぎるし、人が悪い? 

   いや ・・・ 神が悪い?


《 はいはい、悪うございました。
 あのねェ、そんなことはいいですから鏡の中見たいんでしょ。》


  老紳士は、楽しそうに私の好奇心をくすぐった。


 「 あっ ・・・ はい。」


  私は思わず返事をした。思ったこと筒抜けじゃないか。
  これはえらい事になった。

   すると叔父様の神様は、ニヤニヤと笑われた。


《 それじゃあ、どーぞどーぞ、いってらっしゃあ~い。
    がちょ~ん。 ぷくくっ、 パクッちゃった ・・・ 》


叔父様の神様は、お口を手で押さえられて楽しそうにお笑いになられた。
はは、こっちは顔が青ざめ、冷や汗ダラダラである。

 しかし今のは、ふっ、古いギャグ連発。
 それに ( いってらっしゃあ~い ) じゃなくて、
 ( いらっしゃ~い ) でしょうに ・・・

   いかん、睨まれた。スミマセン。 

     え~、やりにくい。 ぶは~ ・・・



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