迷路・・・別の道へ

一剤ずつ薬の服用期間が切れるたびに
獣医さんとは連絡を取っていた。

抗生物質の投与が終わる頃、脱毛の広がりは小さくなり
首の赤みも引き出して、経過観察になったのだが
日が経つにつれて、また首のぽつぽつが一個、二個と増えてきた。
診察から10日が経って薬を全部飲み終わり、犬を連れて再診に行くと
また抗生物質の一日量が倍量になって処方された。

「ステロイドはもしかしたらずーっと飲み続けなくてはならないかもしれない・・・」
二ヵ月半の経過で、それが獣医さんの出した結論だった。

毎日あるいは隔日と言うように、
痒みの様子をみながら私が調整して薬を飲ませるように・・・
と、三回分のステロイドが出た。

処方されたのは、ステロイド・抗生物質・抗アレルギー剤・整腸剤。



・・・ステロイドが切れない・・・
これは私にとっては大きい問題だった。
クーはまだ若い。
乱暴な言い方をすれば、たかが皮膚のアレルギーくらいでステロイドをいつまでも使いたくなかった。
将来、もっと重篤な病気にかかるまで、伝家の宝刀は取っておきたい。



「やっぱり、セカンドオピニオンをお願いしよう・・」

一人で悩んだ末に私が出した結論だった。


クーがお腹に寄生虫を持っていなければ、
そのことに私が慌てなければ行くつもりだった獣医さんに電話をした。

迷路・・行き止まりかもしれない

薬長者になったクーの病状は、なにかとっても微妙だった。

ステロイドを飲ませれば痒みは止まる。
抗アレルギー剤を飲ませ続ければ、小康状態。
でも薬が切れると元に戻る・・あるいは悪化する。
二ヶ月間、そんなことの繰り返しだった。

お腹の具合も・・・
日曜日に病院に行く。
下痢止めが出る。
飲ませれば一時良くなり、整腸剤に切り替えるとだんだんまた緩くなってきてしまう。


皮膚炎もそうなのだが、お腹の具合が悪くなる理由が本当にハテナ？で
何を食べさせたか、どんなときになるか、毎日事細かにクーの生活の記録をつけて、
診察のたびに報告をするのだが、さっぱり原因が掴めない。
土、日は家族がいて興奮するせいかもしれない・・と推理すると
その直後は木曜日に下痢便になったり・・・
6月になるとクーのお腹はより過敏になってしまい
カルドメックチュアブルでも下痢をしたために
あのおやつみたいなお薬はとうとうクーの口には入らなくなった。
（今は錠剤を飲ませている）

私はネットを調べまくった。
餌をいっぺんに与えないほうがいいと知ると
一日量を三回に分けてみたり、下痢がひどいときは餌の量を減らしたり・・・
獣医さんは健康な成犬は少しくらい食べ過ぎたって下痢はしないとおっしゃる。
食事量は減らさないように、と。
でも、整腸剤だけではお腹の具合をコントロール出来ず、
1週間のうち半分は下痢止めを飲ませなければならない状態が続いた。

下痢止めの常用は、なんとかやめてやりたかった。

「何かにアレルギーを起こしている」ことだけは疑いない事実に思われた。


実は私は先生がお気に入りのドッグフードがクーには合わないのではないかと疑いだしていた。

人間において、長年地域ごとに培われてきた食の伝統がそれぞれの身体に違いを与え
欧米人と同じ食事やカロリーを日本人がとり続けると、病気を引き起こす可能性が高くなる場合があるように
日本犬の雑種の犬ならば、輸入品のドッグフードが身体に合わないことはありえそうな気がした。

ネット上でアレルギーをもつ犬がたまたま飼い主の都合で低栄養の餌しか与えられないため
重篤な状態に陥っていないという論文も目にした。
もしかしたら脂肪の量かな？
食事を変えてみたいという気持ちがむくむくとわきあがってきていた。

けれど、獣医さんに言い出せなかった。
先生は一生懸命やってくださっている。
私のような素人が専門知識を持つプロに「食事を変えてみたい」などと
自分の意見を言うのはいけない気がした。
また先生と話して、この間のようにクーの前で自分の感情の揺れを見せてしまうのは
それよりもっといけないことに思われた。

どうすればいいのか、頭の中が空回りしていた。

獣医さんの勧めで、散歩はハーネス型の胴輪にした。
だけど、胴輪では興奮したときの抑えが効かない・・・・

＃　04年6月　クー10ヶ月　良く見ると（良く見なくとも？）首のところが禿げている。

迷路 その３

膿皮症は犬にとってはよくある皮膚病のひとつらしい。
犬の免疫力が低くなっていると、
皮膚が傷ついたときに、そこに細菌が入り炎症をおこす。
クーの場合、首の脱毛はつけっぱなしのエリザベスカラーの刺激が影響していると考えられた。

減ってきていた薬がまたどーっと増やされた。
１．ステロイド剤は副作用を考慮して、初回1.5錠、二日目、三日目一錠。あとは隔日に4回分。
２．抗生物質は約二ヶ月間飲ませたり中止していたものとは別の種類のものに変えて5日分。
３. 抗アレルギー剤は一日の服用量が二錠から三錠に変更。
４．下痢止めが頓服で4回分。
５．整腸剤が三日分。
６. ビール酵母が入った整腸剤のサプリメントが10日分。
７．あとは、フィラリアのカルドメックチュアブル。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　以上

動物のお医者さんは人間の小児科のお医者さんと同じで
動物ごとの大きさや、薬を代謝する能力の違いで
薬の分量を微妙に匙加減しなければならない頻度が高くなるようだ。
そうするとどの薬も割ったり砕いたりで、調剤をするのに手間が掛かるし
おまけに服用に注意がいるステロイドが処方されているから説明も大変だ。

薬の説明と犬の身体の症状の説明。
獣医さんは汗だくで「大丈夫ですか？分かりますか」を繰り返した。
「大丈夫！です」
と私が言っても、先生は心配だったみたい・・・

診断により私が指導を受けた要点は８つ
１、ステロイドで痒みが改善されたら、エリザベスカラーをはずす。
２、薬を飲ませて皮膚状態が改善されるかどうか経過観察。脱毛がもっと広がれば細菌検査。
３、便の状態の確認。整腸剤は三日飲んだらサプリメントへ移行。
　　サプリメントでお腹の状態を普通に維持できるかどうかを見ること。
４、下痢止めは下痢をしたら使用すること。
５、抗アレルギー剤は増量。
６、検便は今回も異常なし。
７、ドッグフードは結果が現れ始めるまでに3ヶ月くらいはかかると考えること。
８、シャンプーは当分の間は三日に一回。

薬の飲み方を私に説明するのに時間を取られた先生は
診察料を計算する段になって、またまた時間が掛かった。
犬の症状にあわせてトントントンと薬を出してから、薬代を計算してみて
「えっ？こんなに掛かる？」
とご本人が驚いてしまっている風情だった。

薬の計算方法は、うんと高い薬は別だろうが
たいてい一剤を何日分出したかを計算して、全部を足していく。
たとえば抗アレルギー剤なら一日分150円×10日分・・・
一日分の薬の値段は種類によって２００円だったり１００円だったりいろいろだ。
今回は6種類分プラス「カルドメックチュアブル」がお薬代。

いつもトレーナーにジーンズ姿で、雑種の犬を連れてやってくる私の懐具合を
気にして下さってるのだろうなあ・・・と思いつつ・・・
何回も計算をやり直す獣医さんに
思わず、「代わりに計算しましょうか？」と言いたくなった。

薬が効いて、早く治りますように・・・


＃　写真は庭にある鉢植えのヒソップ（ハーブ）
　　この頃、犬ブログの他には素敵な写真が載ってるブログがお気に入り。
　　あんなふうに撮れたらイイナア～～。
　　このデジカメ使い出して一年半も経って、初めて説明書を読みました。
　　マクロ撮影？ふ～ん！で初めて写した一枚。

迷路 その２

ステロイドを飲むと痒みはおさまる。
が、やめると次の症状がやってきた。
・・・耳だれ・・・
散歩中に頭を振るのが気になって調べたら
左耳の耳の付け根に茶色の湿潤液が固まりこびりついたような状態になっていた。
獣医さんからは水で拭いて様子を見るようにーとの指示。
子供が赤ん坊のころ良く使った清拭綿で２．３日拭いてやると耳は良くなった。

耳が良くなり始めたらお腹ににきび様のポッチを一個発見！
今度はなあに？



抗アレルギー剤がなくなって、獣医さんに連れて行く。

今回の注意事項は三つ。
高い餌で（4.5キロで7千円弱）様子を見てるのだから、餌以外は与えないこと。
粘液便がでたら、すぐに下痢止めを飲ませること。
ステロイドを使わずにコントロール可能かどうか抗アレルギー剤で様子を見ること。

その次の日、首の周りの抜け毛に気づく。
あ～ぁ、昨日分かっていれば一度で用が足りたのに・・
全身からも換毛ではなく、どう見ても脱毛という感じで毛がごそっと抜ける。
ほんの2日ほどで、首の下側の抜け毛はひどくなり
首と左後ろ足付け根の部分ににきび様の発疹が広がって、痒みも今まで以上に強くなった。

診断は「膿皮症の疑い」だった。

迷路 その１

０４年４月から始まった原因不明の皮膚炎は
一ヶ月たってもさっぱり良くならなかった。

アレルギーかもしれない。
ホルモンバランスのせいかもしれない。
すべてはかもしれない・・だった。

引き続いての5月がどんな風だったかというと
ドッグフードを「アレルギーの犬に良い」とペットショップで勧められた
ラム＆ライス（ヒルズ）に完全にきりかえたのが5月の始め。
便の状態が軟便から画期的に良くなった・・と喜んだのもつかの間
一週間後にはまた軟便に戻ってしまった。
痒みのほうといえば、処方された薬を飲むと落ち着くのだが
やめると2.3日で痒みが出て、また薬に頼るという繰り返しだった。


五月の半ば、処方された抗アレルギー剤を飲み終わった2日後には顔の痒みが出始めた。
それから2日後に抗生物質が切れた。

すべての薬がなくなって二日後には、クーのあごは後足で掻くために傷だらけ
軟便が粘液便に変わった。

初めて粘液便を見たときは「何？コレ？」
焦った。
見た目がぬるっとしているだけでなく、ニオイも臭さが違っていた。
素人目にも明らかに異常だと分かった。

次の日に便検査をしたが寄生虫、消化物の異常はないといわれた。
問題点は二つ。
痒みと便の状態の改善。

まずは痒みへの対処として、ステロイド剤を3日分。
抗アレルギー剤の種類の変更。
痒がるところは洗ってやること。
シャンプーは3日に一回。
次にお腹への対処法として、下痢止めを3日服用後、整腸剤を服用。

痒みと下痢より食物アレルギーが疑われるために
ドッグフードはヒルズのプリスクリプションダイエット＜犬用＞ｚ/ｄ低アレルゲンという
食物アレルギーの療法食が処方された。
クーが口に入れられるのはドッグフードと薬と水のみ。
庭に繋ぐと、草を食べてしまうので
前以上に、飼い主の絶対監視下に置かれることになった。

気を紛らわすためにと唯一豚皮ガムが許可になったが
豚ガムを食べると、便の状態が一層悪くなった。
豚ガムも禁止。
エリザベスカラーの取れない犬は欲求不満。
飼い主さんが絶体絶命・・・

絶対してはいけないこと

犬のしつけを「群れの上下関係」の中で考える犬の躾け本に
必ずといっていいほど書かれている言葉がある。

「犬の前では家族で喧嘩をしない。子供を叱らない」

決してこの言葉のところを読み飛ばしたわけではないが、
ほとんど読み飛ばしているのと同じ生活態度であることは認めないわけにはいかない。
だって、犬はいつも家の中にいるんだよ。
喧嘩をするときはうんと冷静にするの？
それとも、犬だけ外に出す？
そんなの不可能じゃない？
と、バンバン・・・普通に生活していた。

が、この言葉が本当であることに気づかされた。
犬のしつけの本ってすごいなあ・・・と思った。
まったく、クーは黙って良く見ていると犬の観察眼に脱帽した。


４月にクーが皮膚炎を起こして以来
私は毎週、動物病院に通い、三日に一回は経過報告の電話をかけていた。
今、手元に残る動物病院の去年４月の領収証は５枚だが
薬を出さないときには再診料も受け取らない獣医さんだったので
たぶん、少なくてもそれより２．３回は多く掛かっていたと思う。

とにかく頻繁に通っていたので、そのことがあったのがいつだったのか、正確には覚えていないのだが
病気で図に乗ったクーが手に負えなくなり、ドッグトレーナーに出張してもらった後のことだった。
トレーナーさんのことで獣医さんに確認の電話をしたこともあって
私はご報告のつもりで、訓練の様子を先生に話した。

話が『ご褒美としてのおやつの与え方』になったとたん、
先生の表情がみるみる硬くなった。
「私はそのやり方は認めません。おやつで犬を釣るのは取引であって躾ではありません」
その時の私にしてみれば「へっ？」という感じだった。

クーは子犬のとき、散歩の途中で怖いものがいっぱいあった。
特に自転車、オートバイ、トラックなどの走るものは苦手だった。
野中の一軒やではないから、それが怖くては散歩にならない。
どうしたものかと相談したときに、おやつを使う方法を教えてくださったのは他ならぬその先生だった。
だが、その日は先生は「犬と人間は愛と信頼で結ばれるべきでありおやつを使うのはもってのほかだ」とおっしゃる。

犬との信頼関係は大事だし、おっしゃることは理想だ。
でも実際問題として、クーはエリザベスカラーをした不機嫌な犬で
注目されているのが皮膚炎で自分ではないなどと思っていないから威張り犬になっていて、
家族は噛まれたことで「後はシーラナイ」と手を引いて
「噛んだことで勝った！」と勘違いをしているクーが、散歩でも気ままを始めている。

この状況で理想論かよ。
だったら最初に自分の理想の飼育法はこれだと、飼育本を紹介してくれるなり
「当地域に私がお勧めできるしつけ教室はありません」なんて言わず
沖縄でも北海道でもアラスカでもお勧めのしつけ教室を教えてくれればいいじゃないか・・


その頃の私は、クーのことでは、かなり追い詰められた心境だった。

トレーナーさんに励まされて、私は犬のしつけにやっと少し自信が持てたし
クーは少しは落ち着いて散歩するようになったところだった。
実をいうとおやつをたくさん使うというやり方は
食いしん坊だが賢いクーには、常時使うと足元を見られることが判明して
あっさりとほとんど使わない方向に転換してしまっていたのだが
（トレーナーさんもだんだん少なくしていくと考えだった）
だからと言って先生の言葉を聞き流すという対応が出来なかった。


私は獣医さんと「お互いに不満は残るが、まぁ理解が出来ます」というところまで
クーの前で徹底的にやりあってしまった。
私はもともと事なかれ主義の人間だ。
結婚して「夫が反対しますので・・」という水戸黄門の葵の御紋も手に入れて
自分の意見の主張の仕方を学ばずに生きてこられた。
だから、自分の意見を言おうとすると動揺が声に出てしまい、この会談は悲惨だった。

飼い主のそんな不甲斐なさを、「早く帰ろう」と時々騒いでいたくせに、犬はしっかりと見ていた。
その夜、私はクーに徹底的に反抗された。
しつけ本の話はこれだったのだ・・・と私は初めて理解した。
その夜クーは私に宣言した。
「あんたがリーダーになれないんなら、おいらがリーダー」

だからと言って「立派なリーダーになろう！」なんてこの私が決心するはずがない。
私はしばし頭を抱え、それから思った。
獣医さんと喧嘩するのはやめておこう・・・
感情がぶれそうなときは、クーの前ではやり過ごそう。

犬を育てるって？どっちかというと私が育てられてるじゃん！！

頭の大きな犬

ドッグトレーナーさんに来てもらった次の日、
散歩をさせながら動物病院へ行った。
前日の朝まで興奮して散歩にならなかったのに
歩いて２０分ほどの道のりをスムーズに散歩できた。
トレーナー効果？

皮膚炎のほうはまた悪化してしまい
もう一度抗炎症剤５日分と抗生物質７日分の処方が出た。
抗生物質の量が前回より多くなった。

が、処方された薬はあまり効いていない様子で
舐めて拗らせてしまった陰嚢の他に顔を痒がり出した
エリザベスカラーをしっかりしておくと自由に掻き毟れないため、じれてヒーヒー鳴いている。

監視するのが大変になった。
２，３日すると今度は左目に痒みが出始めた。
人間で言うところのアレルギーマーチというヤツだろうか？
再度受診して、抗ヒスタミン剤が追加された。

エリザベスカラーは２Ｌから３Ｌに変更された。
エリザベスカラーって、どのくらいの大きさまであるんだろう？
ラブやシェパードなら５Ｌかなあ。

２Ｌのはかなり使って傷ついているにもかかわらず、実費だけで交換していただいた。
これで２回目の交換
今度は、タオルを首に巻かなくても、見張っていなくても
口が患部に届かない・・・少し楽になった

帰り際、獣医さんが言った。
「この犬は特別な犬だよ」
「それって野性的ということですか？」
「いや、なんて言うか・・・・」
獣医さんは少し口ごもり、言葉を選んで言った。
「うんと頭がいい。大事に育てなさいね」
「はぁ」
私の先生へのお返事はため息と共にだった。

もしかしたらエリザベスカラーをこんなに交換しなきゃならない犬ってクーぐらいなのだろうか？　
エリザベスカラーをこんなに何度も取り替えるのと頭の関係（大きさじゃなくて良し悪し）って何かあるのかな？
頭が良いより、身体が丈夫のほうが良いのになあ。

４月の末で、外はぽかぽか陽気だったが
クーに振りまわされっぱなしの私はいい加減疲れ始めていた
「珍しく、先生に褒められた？」
「ゴツ！ゴツ！ゴツ！」
「クー！エリザベスカラーをぶつけないで歩けない？」
「ガツ！ガツ！ガツ！」
クーはうんと大きいエリザベスカラーを道路にぶつけながら下を向いて黙々と歩くだけだった。

出張トレーナー その４

勝手口から家の中に入る私と犬を見送ってくれてから
トレーナーさんは玄関から家に入った。
足を拭いてもらったクーは、トレーナーさんを見つけると、
私の「ハウス」のコマンドは無視して
トレーナーさんの下にコロコロ転がるように一直線に駆けていった。

そこでクーはげんちゃんに取り押さえられて
首根っこを掴まれると持ち上げられて「きゃんきゃん」言いながらハウスに強制的に入れられた。

「この犬が噛むんですか？」
トレーナーさんは納得できないといった顔をした。
（が、残念ながら噛んだんです）


結果としてクーには訓練所送りの診断は下されなかった。
躾けに対しての環境の問題（クレートの位置とか生活上の注意のようなもの）に対する指摘もなかった。


ちょっとした散歩上の注意を残してトレーナーさんは去っていった。
もしかしたらそういう日常のちょっとしたことの積み重ねが大事なのかもしれない。
帰りがけ
「なにかあったらまた呼んで下さい。でも今日と同じ理由では呼ばないで下さい」
と笑顔できっぱりと釘を刺された。

彼女との約束通り、あれから一年彼女には電話をしていない。

でも何かあったら相談に乗ってくれる人がいる
散歩も頼めるあてがあるというのは、本当に心強いことだ。





トレーナーさんから教えていただいたクーの散歩の注意事項をまとめてみると・・・
大事なことは「犬にとって散歩は、運動ではなく社会見学と捉えて欲しい」ということ。


これはクーがまだ１歳前の犬だったこととも関係するのかもしれないが、
犬の社会化を促すためには、どういう道を散歩コースに選ぶかも大事なのだそうだ。
盲導犬の訓練みたいだ。

クーの散歩道は、相性の悪い犬同士ががすれ違うのにも無関心を装える位の幅のうんと広い歩道で、
グリーンベルトまで付いているという恵まれた環境だ。
車道はそれなりの交通量で、大型の車の出入りもかなりある。
近くに学校があるので、時間帯に応じて登下校の小学生、部活の中学生、自転車通学の高校生に会えるし、
ジョギングをする人、散歩中の年配の方も多い。
おまけにいくつかの散歩コースの中に子供たちが球技が出来る程度の広さの公園が三つある。



たくさんの経験を積むことで、犬も大人になるということなのだろう。
そういう観点からすると、クーの散歩道はまあまあ理想的だと言われた。

一回の散歩の長さより、短くても小まめに連れ歩くほうが体験できることは多くなると勧められた。




具体的な散歩のさせかたの注意点

①リードは常には引かない。常に引っ張らせない。
　問題のあるときは、一回だけ強く、道路と平行に引く。
②興奮したときは吊り上げる。しばらくしてから静かに下ろすと犬はお座りをする。
③早めに強く抑制して、興奮をさせないように
④ご褒美は多めに与え、声では軽く褒める。ご褒美の量は徐々に減らしていく。

私のリード使いの問題点は、リードに頼りすぎることだと言われた。
リードはあるけど、ないみたいな使い方・・
右に行くよ、左に行くよ、マテの指示をリードではなく声と呼吸で理解させるように。



料金は３０分、５０００円だった。
クーが子犬のときに出張訓練がどういうものか分かっていたら
クーの成長に合わせて、数回、ヒロさんをお願いしたかったと思う。
一月に一回、４ヶ月で２万で躾け方が修正できて安心が買えるなら、高くはない気がする。



あれからほぼ一年たって、リードを意識しない散歩が邪魔が入らなければ出来るようになった。
お互いが並んで歩いていて、あれっ？リード付いてたっけ？と慌てて確認する。
本当に少しずつだけどクーが大人になっている手ごたえがあるのが嬉しい。

出張トレーナー その３

ドッグトレーナーは、犬を躾けに来るわけじゃなく
飼い主の飼い方の問題点を洗い出しに来てくれる人なのだ。

きちんと指示すれば、クーは動く。
問題は飼い主がきちんとした指示を犬に与えられるかどうか・・・

まず、トロイ私は「リードを緩めて引き戻す」という行為を瞬時に出来ない。
理由は状況に対しての反応が遅いことと瞬発力を出せるだけの筋力がなかったためだ。
その技術で何度もクーに対して同じ行為を繰り返せば、かえってクーが興奮してしまう。
そこで、クーが興奮したら、リードを持ち上げて後ろ足で立たせるようにして（早く言えば首をつったような状態にする）
その後そーっとリードをおろしてシットさせるという方法を教えてもらった。


いつもの道をいつものように・・・でも散歩中の疑問は他にもあった。

獣医さんには、のみ・だに予防にフロントラインをした上で、草のあるところは歩かせないようにと言われていた。
犬に会うとガウガウしてしまう犬は、犬に近づけないようにとも言われていた。

優先順位の問題なのは分かっているのだが、なんだか納得できないまま
けれどクーがクーなので仕方ないのかと諦めて過ごしていたことを聞いてみた。

「公園の草のほうを歩かせて構いませんか」
と言うと
「犬はそういうところがダイスキだから」
との答えが返ってきた。
そうだよね・・犬だもんね。

散歩の帰りにいつも犬小屋の前につながれている唯一の友達に挨拶した。
そのとき、トレーナーさんが脇で本当に嬉しそうな声をあげた。
「ア～良かった。クーちゃん、犬友達が一匹もいないのではと思っていたんです。お友達がいたんですね」

彼女の笑顔に私は胸につかえていたものがおりていく気がした。
クーの散歩に問題がなくなったとき
私はその日に教わったことを全部忘れるか
それとも前から知っていたことであるかのように知識がなかった自分を忘れるだろう。
それが当たり前のことになれば「問題だったこと」は忘れられるのだ。

だけどきっと「犬には犬友達がいたほうがいい」と彼女が話したときの声や
クーと友達の様子や、私が嬉しいと感じた思いはずっと忘れずに心に残るのだろう。

彼女に来てもらってよかったと心から思った。

出張トレーナー その２

「今飼い主として一番困っていることは何か」
と問われたので散歩の途中で興奮して散歩にならないことをあげると、
「いつもと同じように散歩をしてみて下さい」と言われた。

私はいつものように勝手口からクーを連れ出した。
階段は引っ張られると危ないので、とにかく一段ずつ止まる。
リードを引っ張られたら止まって動かない。
横断歩道で赤なら「シット」

「フフ～ン！」とクーは言うことを聞く。
困ったなあ・・・・来ていただいた意味がないなと思った時
「ちょっと、リードを貸してください」と言われた。

トレーナーにリードを渡して３歩歩いたか歩かないうち
クーがピョン！ピョン！と跳び出した。
嬉しい！嬉しい！と興奮してガウガウが始まった。
（やったー！そうそう）


トレーナーは低い位置にリードを持ち
リードを少し緩めると力強く一気に引き戻した。
「キャイーン」何？クーが振り返る。
そしてクーに「シット」を掛け、クーを座らせるとおやつを与えてクーを褒めた。

その後、アイコンタクトをしながらの散歩の練習。
びっくりしたことにおやつの量が半端じゃない。
数歩歩くごとに、ドッグフードが一粒ずつ魔法みたいに滑らかに彼女の手のひらから出てくる。

ご褒美をあげるやり方はしつけの本にもあったし
自転車やオートバイに慣れさせるために使ってみたらどうかと、獣医さんからも教えていただいてはいたのだが
百聞は一見にしかず・・ってこういうことを言うのだろう。

信号機のところで私がやったご褒美のやり方は
「シット」をしたら「オリコウ」と言って餌をやる方法だった。
クーは「餌は貰ったからおしまい！」であとはウロウロしてしまうので
いつしかおやつ作戦は頓挫したのだが
いくつ貰えるか分からなければ、ずーっと餌をくれる人に注目しているのだ。
食い意地のはったヤツにだけ使える有効な方法だ。

歩き出してから何分もしないうちに
クーは餌につられながらしっかりアイコンタクトをして
楽しそうに歩き出した。

おまけに私だといい加減で誤魔化すのに
トレーナーさんが出す手信号、コマンドは確実に理解して動いている。
ふん！やれば出来るんじゃない！なんてヤツ！

私が使ったことのない「カム」という言葉にも一回でしっかり反応している。
小気味が良いとはこのことだ。

クーは「１＋１＝２だよ」と教えた瞬間、
「じゃあ｛２＋２＝４｝で｛７＋６＝１３｝だね、分かったよ全部」
と目をきらきらさせて言う利発な子供みたいだ。

トレーナーさんが目配せするように私を見た
「結さん、この犬、いくらでも訓練が入ります」

そういわれたときの私の気持ちをなんと言えば良いのだろう。
子供の才能のためには海外留学をさせたほうがいいのに
親の側の手元不如意と心意気不足で十分に教育させられない状況にいるような
誇らしくも情けない複雑な気持ちとでもいえば良いのか・・・