書評「ガリラヤに生きたイエス」
清水和恵
新発寒教会の読書会は小説、エッセー、ノンフィクション、神学書等ジャンルを
超えて今、一番読みたい本を読むことにしている。
昨年の11月まで読んでいたのが「ガリラヤに生きたイエス」~いのちの尊厳と人権回復
(山口雅弘著、ヨベル出版社)である。
これは教会員のリクエストで選本されたが、毎回刺激的で楽しい時を過ごすことができた。
著者の山口雅弘さんからは、若い頃から多くを教えられた。こんな思い出がある。
山口さんが北海道で牧師をされていた頃、学生たちにこう語った。
「聖書に書いてあることは本当にあったと思うかい?聖書はね、神話や物語が書かれてあるんだよ・・・。」
驚いた!
そのようなことを言う牧師に出会ったことがなかったから衝撃は大きかった。
「聖書に書いてあることは、みな正しくてそのとおりにあったと素直に読まなければならない」は、
よく耳にした。だが山口さんは、聖書に対して「なぜ、どうして?」の問いや
自分の考えを大事にしつつ聖書を歴史的に批判的に(否定的にではなく)想像力をもって
読むことの豊かさを示してくださった。
その聖書への向き合い方や読み解きは、本書において随所に発揮されていると思う。
本書はガリラヤのイエスの生き方の核心に迫ることを念頭に主な関心事を3点あげている。
その第一はイエスの「歴史的実像」を探究し、なぜローマ帝国の極刑である「晒し柱」(十字架)
の死に至ったか。第2はイエスの死後、どのような変遷を経て迫害されていたキリスト教が4世紀末に
ローマ帝国の「国教」として成立したか。さらに「迫害」する宗教に変質したか。
第3は、いのちの尊厳と人権の回復を明示し、イエスの生き方の核心に立ち戻り、
キリスト教の在り方を問い直すことである。
本書は好評で版を重ね、ガリラヤに生きたイエスとその時代の人々と出会う旅への
ガイドブックである。読者はきっとイエスに対する新しい視野を広げるだけでなく、
これからの教会とキリスト教の在り方について深い示唆を与えられるだろう。
「道しるべ」46号より転載 2024/2/1