「Letters」

精神科医からの医療に関する時事報告

発達精神医学の時代 その3

2009-07-03 16:18:29 | 日記
「精神医学」巻頭言Vol.51 :312-313.2009
発達精神医学の時代 その3
-成人自閉症スペクトラムの専門外来から見えてくるもの-

さて縁あって四半世紀ぶりに東大に異動して、また自閉症と向き合う日常が戻ってきた。それ以前から、自閉症と診断された当事者の自伝の類が評判になっていた。当初、あの自閉症の子どもたちが自伝を書くように成長するという事実が自分にはまったく理解できなかった。実際カナー自身も自分が最初に記載した11人の子どもたちの25年後を報告しているが、ほとんどは重い知的障害を伴っていた。きっと自伝の著者はマスコミの受け狙いで自己愛の強い患者であり、過去を誇張して書いているのだろうと決めつけていた。しかし、ある男の子を自閉症と診断した後で、そのお母さんから自分自身もアスペルガー症候群だと思うという証拠を示す大部のメモを渡されて、自分の時代遅れを痛感させられることになったのである1)。

つづく


1)加藤進昌編集:アスペルガー症候群をめぐって―症例を中心に―。臨床精神医学特大号、34(9),2005.