憲ちゃんとの帰り道、僕たちの前に小学校低学年の女の子が歩いていました。
僕たちが歩いているところから、女の子の斜め右前に道があって、ライトバンがゆっくりと歩くくらいの速さで僕たちの歩いている道に交差するところが見えました。
女の子もライトバンもこのままだと丁度交差点でぶつかってしまう速度です。
でも、見通しの悪くないところですからぶつかるなんて絶対ありえないのです。
あ、あ?
でも、よそ見している女の子とよそ見運転しているライトバンはぶつかってしまったのです。
ぶつかったというか、ライトバンが女の子をはねてしまったのです。
はねるところを僕は見てしまいました。
歩くくらいスピードのライトバンの前面が女の子のランドセルにぶつかり、女の子はうつぶせに倒れてしまいました。
軽くぶつかった感じですからドンという音もしませんでした。
運転手さんは若いお兄さんで慌てて降りてきます。
慌てて駆け寄ってきます。僕たちも駆け寄ります。
女の子は5秒くらい伏せっていましたが、直ぐに立ち上がりました。怪我はないようです。
運転手のお兄さんが僕たち子どもに「女の子が急に飛び出してきたからブブレーキが間に合わなかったよ。」と言い訳を始めます。
憲ちゃんは「女の子は急に飛び出したんじゃなくて普通に歩いていたし、お兄さんはわき見運転していた!僕たちはそれをみていた!」と言い返します。
それは本当のことなので僕も憲ちゃんと一緒に証言しました。
僕は女の子に「大丈夫かい?一応お父さんやお母さんに知らせてくるから、動いちゃいけないよ、救急車呼んであげるから。」
というと、お兄さんは「でも、女の子大丈夫そうだよ。知らせなくてもよさそうだよ。ほら、立っているじゃない!救急車なんて必要ないよ。」と泣きそうです。
女の子が何ともなかったようなので、その場を早く逃げたいのです。
それでも僕らは「いや、これは事故だし、けがはなくても、頭打ったかもしれない。救急車呼ばないと!」と譲りません。
その間に当の本人の女の子はなんでもないように走って帰って行きました。
僕は女の子が心配だったし、誤魔化して逃げようとするお兄さんが許せなかったので、警察を呼んで救急車を呼びたかったのでした。
お兄さんが突然言いだしました。
「僕たち、お小遣いあげるから黙っててよ!」
え?それは卑怯と言うもんです、許せないことです。お兄さんも必死です。女の子をはねたんです。謝ることもなく誤魔化そうとしているんです。
「ほら、5000円あげるから!」
え? 僕は殆ど5000円なんて見たことがありません。びっくりしました。大金です。
憲ちゃんは黙ったままです。しばらく黙っていました。
「分かりました。黙ってるよ。はい5000円ちょうだい!」
え?え~? え~~~?
憲ちゃんは嬉しそうにお札を受け取り、お兄さんは逃げるようにライトバンに飛び乗り凄いスピードで走って行きました。
憲ちゃんは5000円をポケットにしまい込み走って帰っていきました。
僕は口止め料が欲しいなんて思いません。そりゃ卑怯ってもんです。
お兄さんも憲ちゃんも相当にマヌケな奴らです。憲ちゃんはやっぱり憲ちゃんなのでした。