将棋ソフト生活

将棋ソフト・コンピュータ将棋の話題

1990年代に一時代を築いた金沢将棋

2010-08-10 20:48:53 | 将棋ソフト列伝
金沢将棋は1990年代に勇名を誇った将棋ソフトです。

市販版の「金沢将棋」は、かつては将棋ゲームソフトとして代表格の1つでした。
現在は2000円程度の安い価格帯のソフトとして販売されることが多いようです。


「金沢将棋」の前身ソフトとして「極(きわめ)」があります。
コンピュータ将棋選手権における両者の成績をみてみましょう。

<金沢将棋の旧名称「極(きわめ)」>
1991年 準優勝
1992年 優勝
1993年 優勝
1994年 優勝

<「金沢将棋」として出場>

1996年 優勝
1997年 準優勝
1998年 準優勝
1999年 優勝


「極」の開発者は同じ金沢氏なので、両ソフトの成績は「金沢将棋」の成績として合算するのが通例です。
1990年代、コンピュータ将棋界の王者として君臨していたのがよくわかります。

ちなみに、前回ご紹介したIS将棋は、金沢将棋と入れ替わるように2000年代から玉座に輝き続けることになります。


金沢将棋は2001年の準優勝を最後に上位で見かけることはなくなってしまいました。
2002年以降は、決勝に進むことがなかなかできず、できたとしても下位にとどまります。
そして、2007年以降は出場していない状態です。

2000代になってから、コンピュータ将棋の開発競争についていくが困難になったのかも知れません。


ちなみに、コンピュータ将棋の表舞台からは去りましたが、ゲームタイトルとしては健在です。市販の将棋ゲームソフトとしては次々と新製品が出ています。
1990年代に一世を風靡したのでブランド力があるからでしょう。

金沢将棋の最新ゲームソフトでは、「アマチュア4段の腕前」とありました。

アマチュア段位は将棋倶楽部24のレーティング段位より若干劣るというのが一般的な見解ですから、おそらく将棋倶楽部24で言えば1700~2200(2段~4段)あたりに相当するのではないでしょうか。

現在、最強クラスの将棋ソフトである「劇指」や「YSS(AI将棋)」は、少なく見積もってもレーティング2800以上なので、将棋ソフトとしての実力はかなり開いていると言わざるをえません。

ただし、将棋倶楽部24で2段以下の棋力の方にとっては、金沢将棋で充分楽しめるし、棋力向上の練習になると思います。

これからも将棋ソフトの伝説的ブランド名として後世に残っていってほしいと思います。


↓以下のソフトは、2009年7月に発売された金沢将棋の最新版です。
2000円ちょっとの低価格です。

本格的シリーズ 金沢将棋3D ~厳選20戦法~

ジャパンドリームのIS将棋と棚瀬将棋(東大将棋)

2010-08-10 03:07:26 | 将棋ソフト列伝
今回は、かつて最強を誇ったIS将棋、その後継である棚瀬将棋についてご紹介します。
市販版は「東大将棋」というタイトルです。


IS将棋の開発者は東大の学生さんたちです。
(だから「東大将棋」となったわけですね)

コンピュータ将棋選手権に1997年初出場(このときは予選落ち)。

翌年から
1998年 優勝
1999年 5位
2000年 優勝
2001年 優勝
2002年 準優勝
2003年 優勝
2004年 3位

まさに1990年代末から2000年代の初頭、IS将棋がコンピュータ将棋界を席巻していたわけです。
2005年以降は、学生さんたちが就職などをしたこともあって、開発が終了となりました。


その後、IS将棋の開発者だった棚瀬さんが、プログラムを書きなおして「棚瀬将棋」を開発。
2007年 2008年ともに準優勝という好成績を収めています。
棚瀬将棋は「新・東大将棋」というタイトルで市販されています。



IS将棋はひとつのジャパンドリームと言えると思います。
コンピュータ将棋選手権を制覇して有名になり、商品化の話が多数舞い込んできて、人気ソフトとなる。
プログラム好きの学生たちにとって、自分たちの開発したソフトが売れまくるというのは、まさに夢だったと思います。


ちょうど2000年前後、将棋ゲームソフトの流行があったのも幸いでした。
全国2000万人の将棋ファンが「対局相手」に飢えていたところに、将棋ソフトが対局相手として不足がないほど強くなったからです。

現在は、ネットゲーム(将棋倶楽部24やヤフー将棋)が主流になって、将棋ファンはネットを通して対人で指すことが多いため、将棋ゲームが売れなくなったと聞いたことがあります。

ですから、将棋ゲームソフトのブームのときに、IS将棋(東大将棋)はその先端を走っていたと言えるでしょう。
そういった時機をつかんだことも含めて、若いプログラマーの成功例と言えます。現在の野心あふれるプログラマーたちを勇気づける話ではないでしょうか。


ところで、東大のHPの中に棚瀬さんのインタビュー記事がありました。

インタビューの中で、棚瀬将棋のアルゴリズムについて興味深い話がありました。

コンピュータ将棋を開発するときに、プロ棋士の指し手との一致率を見るそうです。
それぞれの局面でプロと同じ手を指せるソフトは強いという仮定を立てて、どのような評価関数なら一致するかを研究するわけですね。

強いソフトを作る秘訣の一端が見えた気がします。


ついにトップレベルに躍り出たGPS将棋

2010-08-08 21:13:46 | 将棋ソフト列伝
今回は、GPS将棋についてご紹介します。

GPS将棋は市販されているソフトがないので知名度はないかも知れませんが、2009年のコンピュータ将棋選手権で優勝して今では最強クラスの将棋ソフトです。

2001年にコンピュータ将棋選手権に初参加(ただし前身となったソフト)。
2003年にはGPSとして出場。
その後は、予選落ちの年も多く、決勝に残った年も好成績が収められませんでした。

しかし、とうとう2009年になって初優勝。
次の2010年大会も3位という好成績ですから、ついにトップレベルの将棋ソフトの仲間入りをしたといえるでしょう。



GPS将棋は、東京大学大学院の有志が開発しているソフトです。
開発リーダーは准教授の田中さんです。
大学院で週に一回「ゲームプログラミングセミナー」というのがあって、ゲームプログラミングをテーマに集まっているそうです。
Game Programming Seminar だから、GPSというソフト名なわけですね。

GPSの公式サイトはこちら → GPS将棋

それにしても、東京大学はコンピュータ将棋に縁が深いですね。
前に紹介した最強ソフトの「激指」も東京大学ですし、今後紹介する予定の強豪ソフトでも東京大学関係のものがあります。
論理ゲームにおけるプログラム化ですから、最高学府の秀才たちの強みが発揮されやすいのかも知れません。


ところで、上記の公式サイトにアルゴリズムについて興味深いことが書いてありました。
「形に関する特徴を評価関数に多数取り入れた」ということです。
その結果、「じっくり」とした好手が指せるようになったとのこと。

将棋で、攻めを急がず「じっと」受ける手とか、攻めの誘いに乗らず局面を下手に動かさない「じっと」した手があります。こういう人間らしい手が指せるということでしょう。
コンピュータ将棋の進歩はとどまるところがないという感じですね。


ちなみに、GPS将棋を商品化してもライセンス料を支払う必要はないということですが、「無保証」だそうです。仮に商品化しても開発者からのサポートはなし。共同開発も考えていないそうです。
開発者の方々は忙しそうです。





将棋界に多大な貢献をした柿木将棋 

2010-08-06 16:58:42 | 将棋ソフト列伝
柿木将棋は古参の将棋ソフトです。

市販ゲームとしては、1995年前後にスーパーファミコンやプレイステーション用のソフトが発売されました。その後も順調にバージョンを重ねて、最新版は「柿木将棋8」です。歴史も知名度もある将棋ソフトといえるでしょう。

コンピュータ将棋としての柿木将棋は、1990年の第一回コンピュータ将棋選手権から出場しています。
今から20年も昔のことで、当時出場していたソフトには、ファミコンソフトの「内藤九段の将棋秘伝」があるくらいです。前回のYSSと同様、コンピュータ将棋の歴史とともにあった将棋ソフトですね。

そのように最古参で知名度も高い「柿木将棋」ですが、現在の棋力は「中堅」といったところです。
2000年以降は、コンピュータ将棋選手権で予選落ちと決勝進出を繰り返している状態です。また、決勝大会に進出できても上位に食い込むのは難しい状況です。

しかし、将棋ソフト全体のレベルが急激に上がっているということを考えれば、決勝大会に進出する実力があるというだけで、十分な棋力を備えていると言えるでしょう。


さて、ここからが本題ですが、柿木将棋といえば何と言っても「棋譜データベース」です。
柿木将棋が用いている棋譜形式を公開したことで、どのような棋譜であっても再現できるようにしました。

この結果、何が起きたかといえば、アマチュア将棋ファンおよびプロ棋士は、パソコンで将棋の勉強をすることが主流になったわけです。

・プロ棋戦の棋譜を集めて、柿木将棋で再現して研究する。
・将棋倶楽部24で棋譜を集めて、柿木将棋で再現して勉強する。
・詰将棋の棋譜を集めて、柿木将棋で練習する。

・大量の棋譜を分類してデータベース化する。

こういう人が増えたので、結果的に柿木将棋の棋譜形式(柿木形式)が将棋界のスタンダードになりました。

たとえば、順位戦や名人戦が中継される「名人戦棋譜速報」などにおいても、柿木形式です。
ネットで中継される多くのプロ棋戦(ほとんどすべて)の棋譜が柿木形式になっています。
そして何より、将棋倶楽部24の棋譜も柿木形式です。

はっきり言ってしまえば、将棋の研究=柿木将棋となったわけです。

ちなみに、柿木将棋を買わなくても棋譜再現やデータベース化が可能です。柿木将棋では、フリーソフトとしてKifu for win/mac(棋譜の再現)およびKifu Base(棋譜データベース)が公開されています。

柿木将棋公式サイト(Kifu for win/macの無料ダウンロードも可能) → 柿木将棋ソフトウェア

ただし、フリーソフトは市販の柿木将棋よりも機能は制限されています。
たとえば、棋譜データーベースで保存できる棋譜数が柿木将棋を買えば10万局ですが、フリーソフトでは1000局まで。ただし、研究熱心な将棋ファンでもなければフリーソフトで充分かも知れません。


それにしても、棋譜の再現とデータベース化は、ものすごいインパクトだったと思います。
プロ棋士はもちろんですが、多くの将棋ファンが柿木将棋を用いて将棋の研究を行って、棋力を向上させたはずです。
柿木将棋が現代の将棋界に果たした貢献は圧倒的です。


柿木将棋 8

将棋ソフトの古参にして強豪 YSS (AI将棋)

2010-08-05 15:18:45 | 将棋ソフト列伝
将棋ファンでなくとも「AI将棋」という将棋ソフト名は聞いたことがあると思います。

2001年から発売され、かなり強いということで話題になり、「将棋ゲームといえばAI将棋」というイメージを持っている方も多かったと思います。

AI将棋に搭載されている思考エンジンがYSSです。

YSSは世界コンピュータ将棋選手権の第2回(1991年)から出場している古参のソフトです。
そのため、将棋選手権以降のコンピュータ将棋の歴史とともにあったといえるソフトです。

優勝は3回、準優勝は4回。
2004年、2007年という比較的最近の大会でも優勝していますので、現在でも第一線の強豪といえます。

ここ数年は、将棋ソフトの進化が進んで強豪がひしめいています。古参のソフトの多くは第一線から消えていますので、YSSのような古参ソフトが優勝クラスにとどまっているというのはうれしいかぎりです。

YSS開発者のサイトはこちら → YSSと彩のページ

このサイトは昔からコンピュータ将棋の情報を提供していて本当にすばらしいです。
たとえば、YSSの将棋倶楽部24でのレーティング ページでは、YSSが将棋倶楽部24で年ごとに強くなっていく様子がわかります。

2001年には将棋倶楽部24で1800程度だったレーティングが、右肩上がりで徐々に上がっていって、2007年には2700台まで到達しています。将棋倶楽部24でソフト指しが禁止になった影響かどうかわかりませんが、データは2007年までです。もし2010年の今やったことしたら、2800を超えているでしょう。

上記の開発者のサイトでは、アルゴリズムも詳しく解説しています。
(本の抜粋という形のようですが)
どのように指し手を生成するか、評価関数を作るか、探索アルゴリズムを作るか。
将棋ソフトを自分で作りたいプログラマーを導くような内容になっていますので、このサイト(+本)を読んでコンピュータ将棋の世界に入った方もいることでしょう。


YSSとAI将棋には、これからも将棋ソフトの歴史の証人として第一線でがんばってもらいたいですね。



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