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誰も知らない、ものがたり。

短編小説「The Phantom City」 22

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。


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 コロニーへと到着したカヲリはいつものようにチャージスポットでもある駐輪場にバイクを停めて内部へと入った。

 そしてお決まりの3段階のクリーンセキュリティールームを通過して、無機質な白色照明が並ぶ細い通路を10メートルほど歩く。

 そして突き当たりの扉が開き、コロニー内の地上街区へと出たカヲリの目の前に突然、丸っこいドローン型のAIコーディネートロボットが姿を現した。

『フォー!お待ちしておりましたー!カヲリ、お元気ですカ?』

「わっ!」

カヲリは少なからず緊張しながらコロニー内部へと脚を踏み入れたとたん、突然勢いよく目の前に飛び出してきたロボットに驚き、思わず声が出た。

 声の主は、前回コロニーへと来た際に買物を手伝ってくれたマルコだった。

 そして、クルクルとはしゃぐようにカヲリの周りを飛ぶその姿を見ながら言った。

「もうマルコ、驚かさないでよ!」

『申しワケございません!ワタクシとしたことがAIロボットなのに、ついはしゃいで声が大きくなってしまいました!イヤーこれはやはりワタクシにいよいよ本当に情緒が備わったということなのでしょうか!あー嬉しいのです、ワタクシはいま嬉しいのです!!』

 マルコはカヲリの周囲を飛び回りつづけながら言った。

「あら、そんなに歓迎して貰えて嬉しいけど、今日は買物する予定はないのよ」

 ようやくカヲリの顔の前で空中静止したマルコがそれに応える。

『ええ、そうでしょうとも、存じ上げておりますよ!本日は、ケンに特別なご用事があっていらしたんですよ、ネッ!ウフフフフフ!』

 ケンの名前が出て、思わずカヲリは反射的に身構えた。

 愛嬌のあるマルコといえど、コロニーのマザーAIとつながるノアのロボットであることに変わりはない。もしケンが手紙に書いていたようなことが事実だとしたら、これからケンとコロニーを出て「Quiet World」と呼ばれるその場所に行こうという計画について知られていたら、自身にもどのような危険が迫るか判らない。

『ああ、すみませんビックリしないでください、カヲリ!照れないでください、カヲリ!ワタクシはお二人の見方ですから!ワタクシは引き続き、お二人の間をとりもつ完璧なコーディネートを、正式にケンから依頼され、そして遂行するためにこうしてお迎えにあがったのですから!』

 意味が良く飲み込めずにカヲリは聞く。

「ケンから依頼・・・?」

『もー、カヲリ、わかってるくせに、照れ屋さん!キュービットですよ!愛のキューピット!!』

 自らのその言葉に再びテンションが上がったのか、マルコはその場で高速で回転する。「言ってしまいましたー!フォー!」という声とキュイーンという高音域の回転音と共に起きた風で、きょとんとその場に立ちつくしているカヲリの髪の毛がなびく。

『さあさ!王子様がお待ちかねですよー!!まいりましょう、噴水前へ!ウフフフフ!』

 なるほど、こちらの動きを怪しまれないように、そういう話になっているのかと何となくこの状況を呑み込むカヲリ。

 動きだしたマルコの後を追って歩き出した。

 歩きながら、周りを伺うように見渡すカヲリ。きっと街のあちこちにカメラがあって、外の住人に対してはより厳しい監視の目を向けているのだろう。しかし、このように一台のコーディネートロボットがつきっきりとなれば、その監視のタスクはマルコに大きく委ねられることになるのだろう。

 今はある程度話を合わせた方がよさそうだ。

 ・・・それにしてもマルコ、さっきの会話は周りにいた他の住民たちに丸聞こえだぞ、と内心でつっこみながら、およそ監視の役割に不適な風変わりなAIロボットのマルコの様子が何だか可笑しくて笑ってしまうのだった。

 

・・・つづく


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主題歌 『The Phantom City』
作詞・作曲 : shishy  

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