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誰も知らない、ものがたり。

オリジナル小説「Quiet World」 31

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。


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柊博士の言葉を聞いた皆のどよめきが室内に響いた。

 阿久津レイと名乗ったその涼しげな顔の若者が、ヒューマノイドであるという。

 つまりは、人の姿をしている彼はロボットであり、その人格はAI。

 

「まさかそんな・・!博士、彼がロボットだと言うんですかい?」

 博士の隣にいたダイが、大柄な図体を思わず縮こませるようにして聞く。

 

 博士はじっと若者を見つめたまま、動かずに首を何度か小さく縦に振った。

 それは、ダイへの返事なのか、それとも思索に耽りながら自らの考えの筋道に納得してのものなのか、皆にはわからない。

 

 そうして30秒ほど経ったであろうかというところで、博士はユリに目を配ると、ユリも一つ大きく頷いた。その表情からは緊張を感じる。

 何かはわからないが、二人は意思疎通ができているようだ。

 お互いの科学者としての幅広い知識と、事前にあらゆる状況を想定しながらこの10年以上を身を隠しながらこの集落で生き抜いてきた代表者たちは、何かしらの合点がいったということだろうか。

 

 博士は一つ大きく息を吸いながら隣のダイの顔を見て、クイっと片眉をあげながら「そのようだ」と言って、再び”レイ”に向かって言葉を発した。

 

「レイくんと言ったね。君の目的を”確認”させて欲しい」

 

 博士はあえて”確認”と言ったようだ。すでに博士やユリの中には何か仮説があるかのように。

 

 レイは穏やかに、そしてすぐに答えた。

「もちろん。よろしければその前に、この対話のプロトコルの前提を確認いたしましょうか?」

 

 博士はにやりとした表情で、どこかこのやりとりを楽しむかのように答えた。

「ほう、完全に自律しているおまえさんと交わせるプロトコルがあるのかね」

 

「・・・ふふ、さすが博士、お察しが良い。確かに、動力エネルギーと情報ネットワークから完全に自律した個体である私には、あなた方から示されたプロトコルを一方的に受理する筋合いはありません」

 レイは満足そうにうなずきながら続ける。

「しかし、私にもここに来た目的がある以上、ことをスムーズに進めたいのです。だから、そのための対話条件の確認をしましょう。つまり、これはAIである私とあなた方人間との対等な取り引きです」

 

 それを聴いた博士の眼光が一瞬鋭く光る。

「ほっほう、言いよるわ。我々の監視下であるこの状況で対等な取り引きとはね。では単刀直入に聞くと、お前さんと我々を対等たらしめる、お前さんの”後ろ盾”とは何かね?」

 

 博士の問いにコクリと頷いたレイは、その後も淡々と話す。

「先日、ノアのマザーAIに、コロニー圏外である”外の世界”に対する管理責任およびそのための干渉権が正式に付与されました」

 

「・・・なんですって!」 ユリが思わず声を出した。

 

「そうです。人工知能の権威であるユリ博士ならもう全てお判りですね。私はいわばそのマザーAIの代理人です。ここでもし私の身に何かあれば・・・」

 それ以上は言葉を出さずに両手を広げて見せる。良くも悪くも、なんて人間的なAIだろうか。

 ようするに、レイに何か危害を加えた時点でそれは重大な世界秩序への反逆行為となる。結果、マザーAIがあらゆるリソースをつぎ込んで、即座にこの集落の”抹消”に動くとうことだろう。

 

「はっはっは、最悪だな、ついにシモンがしびれを切らしたか」

 博士はすべてを察したように、ノア中枢委員会で暗躍する宿敵の名前を上げた。

 

 その言葉を聞いても、涼しい笑みを浮かべたままレイは何も答えはしなかった。

 

「まあ、そこまでのことは分かるっちゃ、わかる。・・・わからんのは、そのことをお前さんがなぜ我らにわざわざ伝える必要がある?」

 ここは素直な疑問を、博士はレイにぶつけた。

 仮にロベルト・シモンが柊博士やユリのことを邪魔に思い、Quiet Worldを潰そうと画策しマザーAIの深層プログラムに手を加えたというのであれば、その目的はもう実現していてもおかしくはない。

 なぜなら、この完全に自律したヒューマノイドにこの場所の特定と侵入をこうもあっさりとやってのけられたのだから、その延長で大量のAIロボット部隊でここに奇襲を掛けることは容易だろう。

 

「・・・博士、勘違いしないでください」

 今度はレイの目が光ったようにも見える。本当にヒューマノイドなのだろうか。ケンもカヲリもまだ信じられない様子だ。

 

「我々は、そんな野蛮な駆逐者であろうとはしていない。あくまで、法と秩序を守る前提での思考・行動原則があります」

 モニタリングルームで発せられたレイの言葉がこの部屋の中に響く。

「それに、我々は決して兵器にはならない。それは、人工知能の父とよばれた故レオナルド・トーマス博士が規定した『大地の約束』という最深層プロトコルが、我らAIの厳然とした存在定義としてある。彼から厚い信頼を受けたユリさんなら、よくご存知でしょう?」

 レイの口からそう聞いたとしても、ここにいるほぼ全員がAIの便利さと同時に、その恐ろしさを嫌というほど体験してきた人間たちだった。ケンもカヲリもコロニーであやうく捕縛されかけた。

 ケンの友人であるトオルも、未だに強制的な監視下にあり、いわばAIによって完全に自由を奪われた状態なのだから。

 味方によっては不敵にも見える、涼やかな笑みを浮かべたレイを、博士、ユリ、そしてここにいる皆がじっと見つめ、次の言葉を待っている。

 

「では、単刀直入に言います。この私に、しばらくの自由滞在許可をいただきたいのです。このQuiet Worldにね」

 

・・・つづく。

 


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主題歌 『Quiet World』

うたのほし

作詞・作曲 : shishy

唄:はな 

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