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誰も知らない、ものがたり。

小説「Quiet World」 05

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。


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 博士が言った一階のガレージというのは、このラボの中であらゆるものを試作するための設備が揃えられたメカニックルームでもある。

 博士を慕う若き助手である、宝来(ほうらい)という名の30代半ばの細身の男性と、メカニック専門のアンドロイド型AIロボット一台が、よく籠もりっぱなしでいろんなモノを造っている場所だった。

 先ほど、博士に抱かれてガレージの中にカヲリとケンよりも先にうきうきしながら入っていったマルコ。

 続いてガレージに入った二人の目には、得体の知れない機械のモノにあるれる中で一際目立つ建築現場の重機のようなごついボディの二足歩行型ロボットが目に入り、思わずぎょっとした。

「ま、まさか、あのごっついロボットじゃないよね・・・」

「え・・・!うそ、なんか嫌だそんなの」とケンの言葉に反射的に思わず言ったカヲリ。

 心配をする二人をよそに、部屋の更に奥の方から博士とマルコの声が響いた。

「お!バッチリじゃないか!よかったなあ、マルコ!」

『チョ、ちょっとハカセ!なんなんですか、コレは!』

 カヲリとケンが声の上がった方を見ると、満足そうな笑顔を見せている博士の足元に、真っ白く光るようにピカピカの円形のお掃除ロボットのボディの上面に、半球のドーム型のフェイスモニターに怒った顔を映し出した新しいマルコがいた。

「何って、新しいピッカピカ新品のお掃除ロボットのボディじゃないか。似合っとるぞ!」

『キイーー!私は元々コーディネートロボットであって、お掃除ロボットではナイノです!ハカセ!』

 今までの旧型ボディとは段違いのスピードでその場でクルクルと回転するマルコ。同時にスイーーンという吸気音が微かに聞こえる。おそらく、超静音設計で今までのようなうるさい音は出ないのだろう。

「おお、マルコ、随分と見違えたな。ハハハ!」ケンがからかうように言った。

「何が不満なんだい?凄くいい動きしてるじゃ無いか。音も静かだし」

 奥から博士の助手でありメカニック担当の宝来が顔をだした。

『もう・・・ホウライさんまで・・・アナタも聞いてなかったのですか?ワタシはドローン型のコーディネートロボットで、もともと空を飛べる身体だったと言ったではアリマセンか〜・・・』

「おお、そうかすまんすまん、言い忘れとった。マルコ、動力系のスイッチングがあるのわかるじゃろ?1系統から2系統に切り換えてごらん」

『え?あ、ハ、ハイ・・・』

 その瞬間、マルコの顔を映すフェイスモニターが青緑色に発光し、ふわりとそのボディが音も無く浮かび上がる。

『・・・エ?エエエエ!?』

「マルコが浮いた!」カヲリも驚きの声を上げる。

 博士の顔の高さまで浮かび上がり、ピタリと空中で静止するマルコ。いままでのようなドローン型であればつきもののモーター音も全くしない。

『コ、コレは・・・!』

「そう、反重力装置さ。動力源は無限のエネルギーを生み出す電磁波発電装置。世界のどこまでも自由にとびまわれるぞ」宝来がそう言うと、博士がマルコに向かってニヤリとしながら親指を立てて見せた。

『ふぉ、フォオオーーー!!』

 興奮したマルコはモノがあふれるガレージ内を見事な体捌きで飛び回り、喜びを爆発させた。

「もちろん、メモリはDNAタイプで仮想メモリも記憶データ量もほぼ無尽蔵といってよいから、いかんなくその優秀なブレインプログラムを稼働させてよいぞ」

『ア、アリガトウゴザイマスー、ハカセ、ホウライさん!ワタシは今を持って完全に意志と身体機能の独立をナシエタノデス!また一つ、生命の定義に近づいたノデスー!!』

 マルコはピタリとハカセと宝来の目前の空中で姿勢を停めて言った。

「すっごいだろう。オマケにお前さんの好きな掃除もできるからな」

『ううう!ハカセ、ワタクシの新たな生きがいのコトも考えてくださっていたんですネ・・・!』

 ヒュンヒュンとその場で回転するマルコ。

「あら、良かったわ、またお掃除よろしくね!」とカヲリも笑顔でマルコに声を掛ける。

「じゃ、早速仕事してもらうとするかの。マルコ、あの重機ロボにジョイントしとくれ」

 そう言って博士は、さっきケンとカヲリが見て驚いた建築現場の重機のようなごついボディの二足歩行型ロボットを指さした。

『ハイ?』

 

 

 10分後、マルコの新型ボディが頭部にジョイントした重機ロボが、寒空の中で日の光を浴びていた。

 先ほどラボの周りの雪かきをしていた大人たちに交じり、一際大きなボディを動かして山のような雪を運んでいる。

「うわー、もの凄い勢いで雪をどけていくな」ケンが感心して声を上げた。

「いやあ、たすかるねえ、新入りさん!」先ほどの雪かきをしていた人も喜んでいる。

「さっすが、百式のパワーを余すこと無く使いおるのう。素晴らしいブレインプログラムだのう、マルコ!」博士は満足そうに仕事するマルコに声を掛ける。

『ウーーン、お褒めいただきありがたいのですが、この集落の雪の量を見渡すと、イササカげんなりいたします・・・』

「すごいわマルコ!」カヲリが手を振ると、マルコはそれに応えるように両腕で力こぶをつくるようなポーズで返す。

 役に立ちたいと思う心優しきロボットの顔が、どこか勇壮で誇らしいものにも見えて、ケンとカヲリは思わず目を合わせて笑った。お互いの顔を照らす日の光が眩しかった。

 

・・・つづく


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主題歌 『Quiet World』
作詞・作曲 : shishy  

 

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