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誰も知らない、ものがたり。

巡りの星 14


 「そんな・・・!じゃあ宇宙の消滅は、もう始まっているの?」
 慌てて問う私に、ヒカルははじめて、少しだけ焦りの色を隠せずに返す。
 「巡りの影響が宇宙にフィードバックされるまでまだ少し猶予があるみたいだけど、恐らくそんなに時間は残されていないでしょうね」

 私は安堵する間もなく、次の質問が頭をよぎる。
 「・・・で、どうすればいいの?」

 ようやく本題に入れることになり、ヒカルは一区切りつけるように息を深めに吸ってから、ふうと一気に吐いた。そして、小さく頷き、更に続ける。
 「まず、あなたが睡眠状態になること。そしたら私はあなたの深層意識に干渉を開始する。すると、あなたは夢の中で、巡りの補正を行うことになる。もちろん、その時はそれが夢と言うことも、私の存在も忘れてしまっているわ」

 私はヒカルの言葉に頷きつつ、先を促す。少し間を置いて、ヒカルは続ける。
 「開いてしまった時空間の穴というのは、この世界でいう、およそ3秒間程の空白。あなたの深層意識が量子テレポーテーション中に彷徨ってしまったために生じてしまったもの」

 その時、私は不意に、量子テレポーテーション中にただ歩きつづけていた自分のことを思い出した。そして、その道から逸れるように諭してきた、見知らぬ女性の声も。そして、その声は、今、自分の目の前にいるヒカルの声と、同じである事にも気づかされる。

 「あ・・・!」
 「・・・思い出したようね。そう、あなたはあの時、そのまま歩きつづけていたら、この次元から存在そのものが消えていた」
 私は再び、息を呑む。

 「でもそうなる直前に、何とかこの次元に戻ることができた。でも、少しだけ遅かった。そして、およそ3秒という時空の空白を生んでしまった」
 私はヒカルの話す内容に、少し釈然としない思いが湧く。
 「3秒間?」
 「そう。その3秒のズレによって生じた、巡り・・・いえ、歴史の変化を、あなたの深層意識がしっかり自分の体験として昇華しなければならない」
 
 やはり素直に飲み込めず、思わず聞き返す。
 「たった3秒間が、なんでこんな大ごとになるわけ?」

 その問いに、ヒカルは再び小さくひと息をついて、話し出す。 
 「・・・例えば、ある人が不慮の交通事故に合ったとする。でも、その人の直前の行動が3秒間でもズレていれば、事故に合うことは無かったはず」
 その話に私はようやく合点がいき、理解した旨を大きな頷きで返す。

 それを見て、ヒカルは少し満足そうにして、話を続ける。  
 「わかった?人は、奇跡のような一瞬一瞬の巡り合わせによって、生かされているの。そして、あらゆる人との縁を築いている。ほんの少しのズレで、人生は変わってしまう。そして、人の巡り合わせというのは、この世界の全てに連動している。つまり、それが“巡り”よ」

 およそのことは判った気がする。多分、自分の過去から今までの時間軸のどこかで、何かのタイミングがたった3秒ズレたことで、橋爪部長や、アサダさんとの関係性が劇的に変わってしまったということだろう。
 そのように思いを巡らせていた私の目を見て、ヒカルは、私がおよその事情を飲み込んだ様子を、どうやら感じ取ったようだ。

 「そう、だからあなたには、自分の歴史を知らずに変えることになった3秒のズレ・・・巡りの大きな変化の瞬間を、夢の中で体験してもらう。その時、あなたがとる行動が、今のこの世界の巡りに見事符号すれば、世界は無事よ」

 その言葉の内容が理解できるのならば、聞くまでもないことだったが、聞かずには居られなかったので、恐る恐る、もう一つ質問をしてみる。

 「もし、違う行動をとってしまったら・・・?」
 
 一瞬、ヒカルの瞳がはじめて揺れて見えた。やはり、怖いのだろう。ヒカルはそれを悟られまいと、目を瞑って応える。
 「・・・ゲームオーバー。この宇宙は一度リセットされて、ゼロに戻る」


・・・つづく
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