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誰も知らない、ものがたり。

短編小説「The Phantom City」 17

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。


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ーーーーカヲリは読み終えたケンからの手紙をリビングのテーブルの上に置き、ソファに深々ともたれかかるようにその身体を沈めた。

 窓の外に目を向けると大分暗くなっていた。そして、大きなため息をつき、天井を見上げる。

 手紙に簡潔にまとめられた文章で書かれていたことは、にわかには信じがたい驚くべき内容だった。

 ノアという善意のテクノロジスト集団と思われていた組織の中に、とてつもなく悪意に満ちた存在が巣くっている可能性。宇宙災害を端に発した人口減少がこの世界の人間を残らずコントロールしようと企てられた人災かもしれない?コロニーという超監視社会へ抱いたケンの疑問・・・。

 正直、カヲリはそんなことを今さら聞かされたとして、じゃあ自分はどうしたら良いかなんて判らない。これまで直感的にコロニーへの移住を拒んでいた自分としては、その気持ちの後付けのような理由として、そのような陰謀論的な話も、コロニーに移り住んだ人たちよりかは多少なりとも受け入れることもできなくはない。

 でも、そうであったところで、今のこの静かな生活を捨てて、社会に仇をなす巨悪に立ち向かう、などというハードボイルドな小説みたいな熱意は正直今の自分の中にはきっと起こらないし、それほどまでに、外の世界の住人といえども自分のこの暮らしにすっかり馴れきってしまっていた。

 時折、近所の神社を掃除してお参りし、コロニーで買物をして、あとは自分の家で静かに読書や絵を描いたり、音楽を聴いたり。そして、たまにテレビを見たり。どんなに孤独な生活であっても、それが自分の選んだ暮らしだった。

 しかし、いつも頭の片隅に、万に一つ、いつか帰ってくるかも知れないと気に掛けていた父の事について書かれていたことが、カヲルの心を大きく揺り動かしていた。

 『ーーー その人は、本当にカヲリのお父さんかもしれない』

 そう書かれた文章を、もう一度食い入るように見つめた。半分以上諦めていたことに、突然明かりが灯され、人知れず鼓動が早まった。

 そして、手紙の最後の方にはこのように記されていた。

『ーーー 俺と一緒に、Quiet Worldにいってみないか?そのことを、君のお父さんかもしれないその人にも伝える。ひょっとしたら、そこで会えるかも知れない。この世界の真実を確かめに行こう。』

 Quiet Worldとは、自己免疫疾患の恐怖から開放された人々が住むという外の世界のコミュニティの事だと書かれていた。その場所は一体何処にあるのだろう?手紙にはそこまでの情報はなかった。

『ーーーただし、この旅はとても危険かもしれない。俺は今から1ヶ月かけて準備をする。カヲリがもし、その気になったら、1ヶ月後の9月16日、再びコロニーの噴水前で会おう  ケン』

 カヲリは何度もその最後の文章を見た。小さな文字でなるべく情報を詰め込んで整理された文章の流れを見る限り、ケンが自分をからかっているとはどうしても思えない。

 家族や周りの人たちを失ってからの全てが幻のように思えたこの暮らしに、急に変にくっきりとした輪郭が浮かび上がってきているようで、何やら恐ろしく感じた。

 今から1ヶ月後の自分は、果たしてどちらの道を選ぶのだろう。

 もしも、亡くなった母や兄弟たちが私の近くでこの手紙を一緒に観てくれていたら、なんて言うだろう。

 この世に残されたマイノリティとして、自分の心に絶えずさざ波のように寄せてくる諦めの気持ちと寂しさ。それが不意に知らされた絶望的な陰謀論と、血潮が熱くなるような希望と合わさって大きな渦となり、自分の中心を揺らし始めた。

 

・・・つづく


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主題歌 『The Phantom City』
作詞・作曲 : shishy  

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