サードウェイ(第三の道) ~白井信雄のサスティナブル・スタイル

地域の足もとから、持続可能な自立共生社会を目指して

環境新聞連載:「再生可能エネルギーと地域再生」より、29回目:まとめ(2)

2018年12月08日 | 再生可能エネルギーによる地域づくり

2030年あるいは2050年頃を見通す長い目でみたとき、再エによる地域再生は、ようやく全国各地で活発化したばかりの揺籃期にある。

2010年代に東日本大震災と原子力発電所の事故がおき、そこで得た気づきが原動力となり、地域・住民主導の再エネ事業が活発化した。中央の大資本が大規模メガソーラーの用地を求め、黒船のごとく、地域に迫ってきたことも動機となった。地域・市民主導の多くの事業が動き、多くの人々が意識を高め、人々の関係が形成された。

こうした2010年代の動きをしっかりと共有し、次の取り組みにつなげていかなければならない。それが本連載の趣旨であった。連載を閉じるにあたり、展望と提案をまとめる。

 

●再エネによる地域再生は何を目指すのか

再エネによる地域再生を進める全国各地の動きを調査する中で、筆者はボトムアップによる社会転換が動きだしていると感じた。各地の動きの先には、これまでの社会とは異なる代替え社会への転換が拓けていく。

筆者が考えた代替え社会を表わすキーワードが「自立・共生」である。これに対して、代替えをされるべき、これまでの成り行き社会は「依存・疎外」がキーワードとなる。この2つの状況を表に対比させた。

障がい者が発電事業に直接関わることが大事だとして、障がい者がサツマイモの空中栽培を行い、その残渣を利用したガス発電を行うことにこだわっている滋賀県湖南市。社会的感度のよい移住者たちが各々のノウハウとネットワークを活かして市民共同発電を立ち上げた長野県上田市。ローカル・ビジネスの起業型移住を構想・実践する一環で薪ボイラー事業を導入した岡山県西粟倉村。住民総出資で専門農協をつくり小水力発電事業を始めた岐阜県郡上市石徹白地区、等々。これらの取り組みに共通するキーワードが「自立・共生」である。

こうした代替え社会のビジョンを共有し、これまでの取り組みの意義を確認し、今後の取り組みの方向性を検討したらどうだろうか。

一方、成り行き社会を一気呵成に代替えしようとするのでは無理が生じる。これまでの社会を維持しつつも、それを補完する、「自立・共生」型の社会を並立させ、重層的な状態を作っていくことが現実解となるだろう。

  

●イノベーションの生成と普及、その先をどうするか

再エネによる地域再生は、まさにイノベーションである。しかし、イノベーションはある程度までは生成され、普及するが、それ以上に広がらないことがままある。再エネ関連条例を策定した地方自治体は20市町村程度に止まり、市民共同発電施設は地域内では極めて限定的に設置されているにすぎない(例外として、飯田市では全ての公共施設の屋根上に市民共同発電設備が設置されている)。

とりわけ、買取価格の低下や立地に伴う地域でのコンフリクト、電力会社の系統接続回避)等もあって,再エネの新規導入が減速する傾向にある。

では、どうしたらいいだろうか。筆者は「生成」、「普及」の次の段階として「波及」という段階を提示したい。「波及」とは、イノベーションの導入に関して異なる方法を持つアクターが参入したり、最初のイノベーションとは別のイノベーションが生成されることである。例えば、屋根貸しの太陽光発電の市民共同発電事業とは別に、木質バイオマスや小水力発電の事業が地域内で新たに生成されること、再エネ事業のために移住した若者が地域で別の活動を始めること等である。また、地域の再エネによる電気の地産地消を行うべく、地域新電力会社を立ち上げることも「波及」である。

こうした「波及」を進めることで、地域に常に活力と変化が生まれ、「自立・共生」型の代替え社会への展開が進んでいく。

 

●おわりに

再エネによる地域再生を契機とした、「自立・共生」をキーワードとする代替え社会への歩みは、途上段階にある。せっかくの動きを活かし、歩みを止めないようにしたい。

本特集で紹介した先進地は、他地域が参照するべき知恵や材料の宝庫である。かつて、イギリスの学者が「地方自治体は民主主義の学校」と言ったが、再エネによる地域再生の取組は「社会転換の学校」とも言うべき、意義を持つ。

 

(連載完了)

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