
2025/06/20 fry
2025/07/09 wed
前回の章
爽快な目覚め。
ゆっくり眠れたようだ。
久しぶりの坊主さんたちとの再会。
短かかったが、有意義な時間を過ごせた。
昨夜の黒縁メガネのホモ野郎を除けば、いい休日を送れたものである。
起きて早々腹が減っていた。
酔来軒のソース焼きそばにするか。
もしくは宝水産のマグロ丼のほうがいいか。
迷った時はどうしたらいいのか?
まずは酔来軒へ向かう。
注文はとりあえず焼きそばのみにする。
この変わった麺が妙に好きな俺。
格別に美味しい訳じゃないが、何故か癖になってしまう。
もちろんこれだけじゃ胃袋を満たされない。
帰り道にある宝水産へ寄る。
美味しいマグロを食べるなら、この店一択。
マグロ丼を頼み食べた。
普通の生活をしているだけなのだが、中々充実感を覚える。
やはり精神的安定はとても大切な事だ。
飲みの梯子プラス金の散財。
それをしないで付き合える人間だけ相手をしていけばいい。
金にタカる行為…、それはとても卑しいものだ。
俺が金を無かった頃、誰が何をしてくれた?
歌舞伎町時代、客である双子の片割れのゆかを思い出す。
彼女と喫茶店へ行き、金を出してもらったあの惨めさ。
あまりにも自身が情けなく泣いてしまった過去。
もう絶対にあんな惨めな思いをしてはいけない。
金よりも大切なものはたくさんある。
しかしこの現実で生きて生活していく為には、どうしても綺麗事抜きに金は必要。
要は遣い方次第なのだ。
別に俺は成功者でも何でもなく、ただの雇われ従業員の一人に過ぎない。
そんな俺が他人へ金をばら撒きながら豪遊?
へそが茶を沸かす。
いつから偉くなったのだ?
横浜に来てから地元川越の事を気にしなくなっていた。
ズタズタに鋭利な刃物で切り裂かれたイメージの心。
もう充分癒やされていたのだ、この横浜で……。
今一度自身を見直し、充実した人生を送りたい。
ジャンボ鶴田師匠も三沢光晴さんも、亡くなってしまった。
あんなに偉大だった先人たち。
その背中を見て俺は何を学んだのだ?
俺はまだこうして生きている。
ならば杭無き道を歩んでいきたい。
出勤すると名義の長谷川隆から、八月から早番へ移動と言われる。
遅番には坂本が移動してくるので、米原と組む。
彼ら早番が帰る時、坂本が笑いながら「岩上さん、あれから寿町にはもう行ってないんですか?」と聞かれた。
彼に言われるまですっかり忘れていたが、あのドヤ街へ行ったのなんて横浜へ来た初期の頃一回だけだ。
一年以上経つし、あの時は夜だったけど仕事終わりの昼間行ってみるのも面白いかもしれない。
この気ままな遅番生活も、あと一ヶ月後か。
夕方の五時出勤から夜中の三時までが、早番の出勤時間。
仕事だから仕方ないが、あのヤクザ客がひしめく時間帯へまた戻るのかと思うと少々憂鬱だった。
六月末から七月初旬に掛けて、同僚の平田は大好きなフィリピン旅行へと旅立つ。
彼が戻ってくるまで今日から約一週間、オーナーの下陰さんと組んでの仕事となる。
基本的に暇な遅番の時間帯とはいえ、キャッシャー業務ができない下陰さんがホール仕事になってしまう。
あの人を働かせる訳にいかないので、必然的に俺がキャッシャーとホールを兼ねて一人ですべてやるつもりだ。
でもそうなると仕事終わりのイタリーノは、できなくなるのか。
まああと一ヶ月あるから、リーノランチの機会はいくらでもあるだろう。
仕事明け、三大ドヤ街の一つである寿町へ行ってみる。
福富町から伊勢佐木モールのブックオフのところを通り過ぎて、真っ直ぐ進めば寿町だったよな。
前回来たのは肌寒くなった真夜中。
今回は夏手前の昼過ぎだから、まったく逆だ。
相変わらず寿町界隈は暇そうな老人が多い。
夜だとバイオハザードのような雰囲気だが、明るいとこうも違って見えるのか。
そういえば食堂が一軒あったよな。
行ってみよう。
『さなぎ食堂』と書かれた看板が見えてくる。
せっかくだから入ってみるか。
以前から気になっていたさなぎの食堂へ。
メニューを見ると、三百円から四百五十円と異様な安さ。
三百五十円の酢鶏定食を頼んでみた。
驚いたのが、テーブル席以外にも立ち食い席がある事。
何でも持ち帰りもできるみたいだ。
酢鶏定食が出てくる。
唐揚げの酢豚バージョンに、ご飯と味噌汁。
小皿に微妙なお新香が盛ってあった。
これでこの店は利益が出ているのか不思議だ。
食べ終わってから寿町内をブラブラサイクリングしてみる。
独特な空気は感じるが、昼だと健全で平和そうなところにしか見えない。
特に面白さも感じなかったので、マンションへ帰る事にした。
今日で六月も終わりか……。
帰ってからチッチとマゲの世話をしてから風呂に入る。
暑いのでエアコンを入れて横になっている内に、いつの間にか寝てしまった。
起きてから鳥と戯れる。
そういえばアンチポップで永井聡が今度私の店にも来てくれとか言っていたな。
彼女の店の場所は、どちらかといえば近所ではある。
横浜橋通商店街を出て真っ直ぐ大岡川方向へ進み、伊勢佐木モールを過ぎたら次の道を右に曲がってすぐ。
夜の八時を過ぎると部屋を出て、彼女の店『シュール』へ向かう。
今日はこのまま出勤しよう。
「いらっしゃーい」
ライブもできるステージがあるシュール店内はかなり広い。
永井聡の他に三十代前半の女性従業員がいた。
中々顔立ちの整った綺麗な子だ。
「岩上さん、この子は澄ちゃんと言って、週に二回ほどうちで働いているの」
簡単な挨拶を済ませ、グレンリベットは置いてないので適当なウイスキーをロックで注文する。
イタリーノ話で盛り上がっていると、カウンター席に座る年配の方も笑いながら加わってきた。
この辺の人々にとって、イタリーノは共通用語のようだ。
常連客である松尾という気さくな男性は、フェイスブックもしているようで繋がった。
「食べ物の話をしている内に、腹減ってきました。出勤前にどっか寄ろうかな……」
「どこ行くんです?」
「うーん、どうしよう…。まあ三時に行けばいいから、まだ三時間以上間があるんですけどね。もうちょい飲んできますよ」
話題はイタリーノからぽあろへ。
店の特色を話していると、永井が「澄ちゃん、今日はもう上がっていいから、岩上さんにぽあろへ連れてってもらったら?」と言ってきた。
「初対面の俺に澄ちゃん預けて大丈夫なんですか?」
「ゲンのところで話してて、岩上さんの人柄分かるからね。迷惑じゃなかったら」
「迷惑ではないですよ。もうちょいで十二時か…。ぽあろ、間に合うかな?」
会計を済ませ、タクシーで野毛へ行ってみる。
到着した時は日が明けてしまったが、水木は中へ入れてくれた。
店仕舞いの準備をしているところだったので、礼を言い簡単にできるメニューをお任せで注文する。
それでもホッケの刺身を出してくれ、一緒にいた澄ちゃんは大喜び。
ぽあろを出ると夜中の一時過ぎ。
「俺はまだ時間的に余裕あるからアンチポップで軽く飲んでくけど、澄ちゃんはどうするの?」
「うーん…、今日は帰ります」
「電車無いけど、近くなの?」
「弘明寺のほうです」
「え? 何駅か先だよね?」
「まあ駅間隔近いですし」
天然なのか知らないが、こんな綺麗な子が深夜一人で歩いてその距離を帰らせるなんてできないだろう。
俺との食事のあと、何か遭っても嫌だ。
タクシーを捕まえ三千円を手渡す。
「このくらいあればタクシー代足りる?」
「こんなに掛からないですよ」
律儀な彼女は千円札を一枚返そうとしてくる。
「別にいいから取っといて。お釣りももらっちゃっていいから」
「美味しいものご馳走になって、タクシー代まですみません……」
「気にしないで。またシュールへ飲みに行くね」
澄ちゃんを見送りアンチポップへ向かう。
もう七月か……。
横浜へ来て二度目の夏がやってくる。
仕事から真っ直ぐ帰り、昨夜の出来事を振り返る。
いきなり澄ちゃんを押し付けるような感じで俺に託したけど、永井聡はどういった真意があるのだろう?
不思議なのが結構綺麗な子なのに、いまいち俺の触手が湧かないところである。
一緒にいてこの子を口説こうとか、抱きたいといった感情が出てこないのだ。
まあ抱いてと言われたらもちろん抱くだろうが、何だか変わった子ではある。
ただ単に俺が年を取って性欲が落ちただけなのか?
それにしても暑い。
もう完全に夏だ。
鳥籠の中にある簡易プールの水温を指を入れチェックすると、ぬるま湯になっていた。
「ごめんな。おまえたちもこれじゃ嫌だよな?」
中の水を変えると、マゲがザブンと飛び込む。
この子たちも暑かったのだろう。
餌を入れ替えてから、何か食べに行こうと部屋を出る。
さて、何を食うか?
今回は横浜橋通商店街へ出ると右へ曲がり、私大通りへ向かう。
このまま真っ直ぐ行って、目に付いた店へ入ろう。
たまにはこんな行き当たりばったりのよう探し方もいい。
三吉橋橋の付近に蕎麦を発見。
暑いしここにしよう。
『小嶋屋』と書かれた蕎麦屋の暖簾を潜る。
麺類はうどん派の俺だが、メニューを見ると蕎麦しかないようだ。
天ぷら蕎麦もあるが、千七百五十円もするからきっと海老の天ぷらなのだろう。
俺は駅の立ち食い蕎麦にあるようなかき揚げの天ぷらうどんが好きなのだ。
海老など口に入れたくないので、これは却下。
もり、田舎、さらしなと色々な種類の蕎麦がある。
ご丁寧に説明書きがしてあった。
白めの標準的な蕎麦がもり。
黒めの太い麺が田舎蕎麦。
さらしなは蕎麦の実の芯を粉にして作ったものなのか。
この三つを合わせた三食蕎麦があったので、それを注文してみた。
まずもり蕎麦ご運ばれてくる。
次にさらしなが来て啜ってみるが、いまいち違いが分からない。
最後に田舎蕎麦。
麺が太いだけあって、その分茹で時間も掛かるのだろう。
これで千三百四十円なので、そこそこ高級志向なお店だ。
小嶋屋を出ると周囲をフラフラ歩く。
どうも蕎麦だと腹一杯になった気がしない。
帰り道横浜橋商店街でカールのチーズ味を二袋買って帰った。
気が付けば外食が多くなった俺。
暑さのせいか料理をする気分にならない。
以前大量に買った鰻は未だ冷凍したまま。
考えてみれば鰻などたまに食うから美味しいのであって、毎日毎日食べるようなものではないのだ。
平田がフィリピンから帰ってきたら、うな重を作って冷凍庫の鰻をどんどん処分していかなくては。
今日は何を食べようかな?
昨日が蕎麦だから、今度は洋食がいい。
この辺で洋食屋といえば……。
真っ先に思いつくのがトルーヴィル。
阪東橋駅からだと徒歩十分ぐらい、伊勢佐木長者駅だと五分ぐらいの位置にある洋食屋トルーヴィル。
今の職場の名義である長谷川隆が若い頃働いていたお店だ。
当時盛況で二店舗目を出したら失敗し、それで隆はクビになったと未だブツブツ言っている。
昔ながらのオーソドックスな洋食を食べに行こう。
部屋を出て横浜橋通商店街を横切る。
この辺りは閑散とした真金町。
横浜の住人の話では昔この辺は『青線』があったと言う。
赤線と青線は、戦後の日本における特定の地域区分を指す言葉。
赤線は、売春を事実上黙認していた地域であり、横浜だと黄金町駅が有名だ。
青線は、飲食店街を含む盛り場を指す。
秋葉原で共に裏ビデオ屋をやった長谷川昭夫との思い出が蘇る。
石原都知事の浄化作戦あとの歌舞伎町で裏ビデオの商売が厳しくなった二千五年。
他の場所でと長谷川昭雄は新天地に横浜選んだ。
結果一ヶ月の売上が一万二千円のみという大惨敗を期して、横浜から撤退する。
今になって分かるのが、その撤収する店はイタリーノのある中通りにあった。
確かにあそこじゃ、裏ビデオなんて売れる訳がない。
その時後片付けで俺は長谷川と一緒に横浜へ行った。
その時車から見た黄金町駅周辺の状況。
赤線の撤去に伴いズラリと並んでいた機動隊。
あれがもう約十年前になるのか。
昔を回想しながら歩いているとトルーヴィルが見えてきた。
ガランとした店内。
客はまだ誰もいない。
メニューを見て、生姜がたっぷり利いたポークジンジャーとクリームコロッケとエビフライのセットを注文する。
イタリーノと比べると、値段は若干高め。
「この辺のお近くに住んでいるんですか?」
暇なせいか店員のおばさんが話し掛けてきた。
「ええ、こっちに住み始めて一年半ほどですかね。横浜橋通商店街の逆側にいるんですよ。この辺は本当に住みやすくていい場所ですよね」
「うちはどうやってお知りになったんですか?」
「随分前になると思うんですけど、長谷川隆って覚えてませんか?」
「あー、隆ちゃん! あの子がどうしたの?」
「彼と今一緒の職場でして。それでここを紹介してもらったんですよ」
隆がここをクビになったとか、そういった面倒な事は知らない体で話す。
「あーら、そうだったのー。元気でやっているの?」
「ええ、元気に働いていますよ」
会話をしている内に料理ができる。
横浜へ来た初期に一度来ているが、この店は味付けが中々美味しい。
この辺りの洋食屋だとかなり上位にくるだろう。
フェイスブックでこの店の記事を上げると、インターコンチの森田が決まってコメントをしてきた。
だいたいが『今度飲みに行きましょう』といった内容ばかりでうんざるする。
もうあんな風に奢る事は無いから、これ以上付きまとわないでくれ。
このストレスをアンチポップのゲンに話してもいまいち伝わらないようで、笑いながらいなされてしまう。
「いや、あのねゲンさん…、俺、森田さんだけじゃないけど、約一ヶ月で飲み代百二十万使っているんですよ? その金額を何度も次は次はって、平気で奢られついてくる神経が理解できないんですよ」
「岩上さんの風評被害で森田ちゃんも大変だ」
笑いながら答えるゲン。
自分としてはかなり異常な行動だと説明しても、彼には伝わらないようだ。
「だからこのアンチポップを飲む主軸の店にして、やっと奢らない生活になってきているのに、フェイスブックでもしつこいじゃないですか」
価値観の違いに違和感を覚える。
「森田ちゃんも岩上さんの風評被害で可哀想」
実際身に降り掛かっていないから分からないものなのか。
被害的に言えば百二十万の金を失ったのは俺だ。
彼らはタカっただけに過ぎない。
それを嫌がった俺が、タカリ集団を避けるようになっただけの話なのだ。
それなのに未だフェイスブックでしつこくコメントをしてくる始末。
だからこそ男らしくないが、ここで愚痴をこぼしているのだ。
第一風評被害という言葉の意味合いすら間違っている。
そもそも風評被害とは、根拠のない噂や憶測によって、企業や個人が経済的、社会的な損害を被る現象を指すのである。
特に事件や事故、災害などが報道された際、事実とは異なる情報が広まり、本来無関係なものまで不当に評価が下がってしまう状況を言う。
根拠があり事実だから俺は真実を話している。
しつこくされるのが嫌だと愚痴っているだけなのだ。
ここで飲んでいても気分が良くない。
俺はチェックして永井聡のジュールへ向かった。
時刻を確認するとまだ夜の十一時過ぎ。
出勤にはまだ時間がある。
職場から離れるが若葉町へ向かいながらトボトボ歩く。
「いらっしゃいませ。あ、岩上さん、先日はご馳走様でした」
澄ちゃんが笑顔で出迎える。
「ごめんね、岩上さん。まだグレンリベット入ってないのよ」
「置いてあるウイスキーのロックでいいですよ」
「近々入れときます」
「実はさっきまでアンチポップにいたんですけど……」
ジュールへ着くなり永井へ経緯を話し、愚痴をこぼす俺。
「あー、それ分かるー! 岩上さんのコメント欄見て本当しつこいなあと思ってたし」
ようやく俺の意見に同調してくれる人がいた。
思い返すとあまりにもタカって来る人が多く、このような悩み事を考えている俺がおかしいのかと自分を勘ぐってしまったほどだ。
ついでに短い時間だったが、増山敦子との一連の騒動も話をしてみた。
彼女は冷静に言う。
「岩上さんはおかしくないですよ。人の彼女をそのあと連れ回して飲み歩く高橋さんや森田さんがおかしい。我慢できなくなって怒ってしまったところだけは、もう少し上手くやればと思うけど、本当におかしいのはスナックあいだのママでしょ? その彼女さんにしても、岩上さんへ怒りを抑えてなんて言うのがいまいち理解できないし……」
何だか少し救われた気がする。
横で澄ちゃんは、会話の内容が分からず不思議そうな顔で頷いていた。
この一件から俺は、出勤前飲む際アンチポップがメインだったのをシュールにしようと思った。
横浜であまり知り合いのいない俺にとって、考えや間隔が近い人間のほうがいい。
永井の話によると、元々ゲンは今のアンチポップを始める前までは、このシュールで働いていたらしい。
つまりゲンにとって永井聡は、過去世話になったオーナーという訳である。
「まあゲンのところもまだオープンしてそんな経っていないしね。岩上さんがあれだけよく行ってくれて、ゲンも凄い感謝してると思いますよ」
まあアンチポップではもう森田たちの話題はやめておこう。
それさえなければ居心地の良いバーなのだ。
「岩上さん、今日もこれから出勤?」
「ええ、いつも通り三時からですよ」
「うちの店さー、閉店が十二時なのよ。だから店閉めたらゲンのところで飲み直しませんか?」
アンチポップ、シュールと来て、またアンチポップか……。
考えてみれば、普通の店なら十二時には終わるんだよな。
西通りにあるうちの店の一本隣りの中通り。
利便性を考えると、やはりエイトセンターのアンチポップから出勤が近いしスムーズなんだよな。
彼女たちが店の閉店準備をしている間、外へ出てタバコを吸う。
途中携帯電話が鳴る。
名義の長谷川隆からだった。
「あ、岩ちゃん。あのさ、情報入ってさ、今日店休みにするから。これから出勤じゃなくゆっくり休んで。多分明日は問題なく営業するとは思う。また明日連絡するよ」
「分かりました」
突然降って湧いた休み。
横浜の特徴的な事。
それはケツモチのヤクザから入る情報がかなり正確だという事。
オーナーである下陰さんは、その時折流れてくる情報のおかげでゲーム屋時代から今まで警察に一度も店をやられていないようだ。
新宿歌舞伎町に比べるとスケールが小さいとはいえ、裏稼業をやる人間すればこれほど頼もしい事はない。
様々な組が群雄割拠でひしめき合う歌舞伎町よりも、横浜は〇〇会一本とまとまっているからこその現象なのだろう。
裏側でのヤクザと警察の癒着がそれだけうまくいっている繁華街福富町。
分かり易く表現すれば、ヤクザから金をもらい警察内部情報を裏で流している警察官がいるという事実。
次にどの店を検挙するという情報が事前に入れば、裏稼業側も店を閉めて交わせばいいだけだ。
マスコミが報道しないだけで、日本の裏側は昔から薄汚れている。
新宿歌舞伎町の浄化作戦時、ケツモチからこれ以上情報を流せないと言われた時を思い出す。
あの時、今の横浜ほどの正確な情報があったらなあ……。
「岩上さん、お待たせー」
今日の仕事が急に休みになった事を伝える。
俺は永井聡、澄ちゃんと共に再びアンチポップへ向かった。