岩上智一郎の作品部屋(小説・絵・漫画・料理等)

著書:新宿クレッシェンド
とりあえず過去執筆した作品、未完成も含めてここへ残しておく

闇 04(全日本プロレス編)

2024年07月21日 17時25分55秒 | 特殊記事

2024/07/21 sun

 

闇 03 - 岩上智一郎の作品部屋(小説・絵・漫画・料理等)

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怒りに込めた拳が、大沢の顔面に突き刺さる

身長190cmの大きな身体が吹っ飛んだ

十数名の警察官が俺に飛び掛かり、身体を拘束する

馬場社長のもう来なくていいと言う言葉

俺は全身の力が抜け、警察のされるがままでいた

 

気付けば牢屋の中にいる

ここは留置所というところだろうか?

全日本プロレスの合宿前、飲みに行ったのが軽はずみだったのか?

酒乱だと分かりながら大沢と飲んだのが失敗だったのか?

ヤクザ者にボコボコにされていた大沢など、放って帰っていれば……

いくら後悔したところでもう遅い

すべては無に帰してしまったのだ

 

言いようのない虚無感、絶望感に包まれ、俺は牢屋の中で項垂れていた

一人の警官が出ると命令する

夜中なのに目の前には祖父がいて、平謝りしていた

身元引受人として父親は来なかったらしい

代わりに祖父が来て俺は釈放された

 

何をしていいのかまったく分からなかった

レスラーになろうとしたこの一年間

すべてが一夜で無になり、存在価値すら無くなったのだ

死にたかった

どの面下げて生きていけばいいのか

 

部屋に先輩の坊之園智が来た

社会人になってから仲良くなった先輩で、俺は坊主さんと呼んでいた

泣きながら死にたいと伝える

坊主さんは「死んじゃ駄目だ! 生きろ! ジャイアント馬場から来なくていいって言われたかもしれないけど、明日全日本の合宿所へ行け」と何度も言われた

どうせ死のうとまで腹を括ったのだ

駄目元で全日本プロレスへ行ってみよう

そこに一筋の光も無かったが、俺にはそれしかなかった

 

東武東上線で川越市から池袋

山手線で渋谷へ

たまプラーザ駅への行き方が全然分からない

通行人に聞こうと話し掛けても、誰もが無視して相手にしてくれなかった

渋谷駅を出ると一定の距離を保ちながら列を作っていた一人が声を掛けてくる

「あなたの幸せの為に一分祈らせて下さい」

俺は胸倉を掴みながら「幸せ祈るなら、たまプラーザまでの行き方を教えろ!」と怒鳴りつけた

 

たまプラーザには一度渋谷駅を出て、別の線に乗り換えなくてはいけなかったようだ

俺は地図を頼りに全日本プロレスの合宿所へ向かう

玄関のチャイムを押す

しばらくして渕さんが出てきた

俺の顔を見るなり怪訝な表情で「何をしに来たんだ? 社長から来なくていいと言われたろ」と怒鳴られる

必死に弁解した

しかし門前払いだった

そこへ奥から一人の大男が出てくる

「いいじゃない。せっかく来たんだからとりあえず入れてあげようよ」

大男はあのジャンボ鶴田だった

 

不満そうな渕さんを横に俺が見るからと、練習できる格好になるよう指示される

他のレスラーがいる中、合宿所のリングに上がった

明らかにみんな俺より身体が大きい

圧倒される中、ジャンボ鶴田によるトレーニングが始まる

腕立て伏せ、腹筋、スクワット各100回✕10セット

もちろん休憩時間は無し

それ以外にも様々で過酷なトレーニングは続く

気付けば俺の足は痙攣して立つ事さえできなくなっていた

先輩レスラーの泉田さんが俺を担いでリングから降ろし、風呂場へ連れてってくれる

丹念にマッサージをしてくれ、再び動けるようにしてくれた

 

全員がトレーニングを終え、ちゃんこ鍋を作る準備に掛かっても、小橋建太さんだけは黙々トレーニングを続けている

秋山準さんが「今日は初日だからお客さん扱いだ。先に食え」と座らせてくれた

四人掛けテーブルには左にジャンボ鶴田さん、右に渕さん、そして対面には先程トレーニングを終えたばかりの小橋さんが座る

夢のような時間の中、俺はちゃんこ鍋を勧められた

ジャンボ鶴田さんがちゃんこ鍋にはこの味噌ダレを入れて食べるんだよと言いながらフーフーしている

帰り際、「まだ線も細いけど、力もあるし勿体ない。また来年になるけど、またプロテストからおいでよ」と言われた

誠心誠意頭を下げ、ジャンボ鶴田さんにお礼を伝える

この瞬間、心の底からこの人が俺の師匠なんだと固く誓う

 

夢のような一日を終え、地元川越に戻る

これまで応援してくれた大半の人は手のひら返しで罵倒された

仕方ない

すべて自身が招いた不徳なのだ

丁重に謝罪し、また茨の一年間を過ごす決意をした

 


ジャンボ鶴田師匠と接してみて、人間的な器の大きさを実感した

心の底から尊敬できる人だ

あのようになりたいが、自分では無理なのは理解できた

日々トレーニングして身体を大きく

そして親指の鍛錬

いつか編み出した打突を使う日が来るまで……

新聞紙一枚を広げ、右手で端を掴む

右手のみで新聞紙をグシャグシャ手の中に握っていくトレーニング

新聞紙一枚ならできた

二枚にすると、難易度は一気に上がる

幸い家では祖父が新聞を取っていたので量には困らない

親指立て伏せ

鉄の柱に親指を打ちつける

小石の入ったバケツに指を突き刺す

日々の鍛錬が俺の右の握力をより強力なものにしていく

 

ベンチプレスをするにしても、回数を決めずひたすら上げ下げを繰り返す

終わるのは腕がバーベルを持ち上げられなくなった時

台の下には汗が水溜りのように溜まった

家から5キロほど先にある伊佐沼へ走り、着くと腕立て伏せ、腹筋、スクワットを各500回

丹念にストレッチをしてから帰る

途中にある島忠で10kgのダンベルを買い、振りながら家へ戻る

最後は腕が持ち上がらないくらいの疲労

働いて食べてトレーニングだけの生活

それでも俺は幸せだった

 

常にオーバーワーク気味の俺

身体の疲れを癒やす為、近所にできたTBB総合整体へ行ってみる

メガネを掛けた先生の腕は良く、筋を痛めた俺の身体を治してくれた

俺の筋肉の質の良さを褒めてくれ、中々筋肉痛にならないと説明される

一回り年上の先生とは非常に気が合う

気付けば毎日のように整体へ足を運ぶ

毎回施術を受けるわけではなく、時にはお茶を飲みながら話をするだけ時もあった

ある日先生から自分の治しの施術も覚えてみないかと言われる

もちろん患者がいない時ではあるが、先生は自身の持つ技術を俺に金も取らず無償で伝授してくれた

 

全日本プロレス入りを潰した張本人である大沢は、何度も家に来て謝罪した

坊主さんや他の知り合いたちは、絶対に許してはいけないし、関わらないほうがいいとアドバイスされる

しかし土下座しながら何度も詫びる大沢を見て、俺は酒にもう飲まれるなと言い、また付き合いが復活した

 

TBB総合整体で高周波の機械を入れた

実験も兼ね先生からこれを使ったトレーニングを頼まれる

治療だけでなくトレーニングにも使えるようだ

実際に体験して感じたのが、通常の鍛錬では筋肉が付き辛い細部に部分までが鍛えられる

この科学的なトレーニングを非常に気に入り、日々の鍛錬の中に取り入れた

先生はそんな俺に対し一日500円の金しか取らなかった

本当に頭が上がらない

仕事といってもアルバイトのような形で色々な事をした

土木作業員を経て、軌道屋の仕事

電車の終電が無くなってからの時間帯がメインなので、目黒の寮に住む事になる

週末になると川越へ戻り、友達と酒を飲み、トレーニングをした

握力と親指の鍛錬だけは欠かさず毎日していたので、指三本でリンゴを潰せるまでになっている

一度握力を測ると96kgを記録した

 

着々と大きくなる身体

とにかく食べ、トレーニングに励む

しかしカロリー消費が凄いのか体重は中々上がらないでいた

去年の全日本プロレス合宿時で75kg

現在78kg

筋肉はつき見栄えは変わってきているものの、肝心の体重が増えない

だからといってトレーニング量を落とすわけにはいかなかった

 

唯一気が休まるのが坊主さんや知人と食事したり酒を飲んだりする時だった

ある日目黒から川越に行き、大沢らと飲んだ時

一度実家へ戻って荷物を取りに行くと言う大沢

帰りの電車を駅で待っていても、いつまで経っても来ない

この日は目黒の同僚も一緒に川越へ遊びに来ていたので、一時間以上経っても戻らない大沢に対し、非礼を詫びた

下手したらまた道端で誰かに絡み、喧嘩になっているのではないかと杞憂したのだ

終電が無くなりそうだったので、深夜に失礼とは思ったものの大沢の実家へ電話を掛ける

受話器から聞こえてきたのは大沢と母親の口論だった

彼の母親と話すと、酷い酔い方をした大沢がどこからか女を連れて実家に来て、この子を泊めると言い出し揉めている最中だったのだ

俺の全日本プロレスを潰し、散々土下座してきた大沢

あれは何だったのだと頭に血が上る

彼の実家へ向かい玄関を開けると、玄関先でまったく知らない変な女が立ち尽くしていて、大沢は母親と揉めている状況だった

「おい、おまえ…、どういうつもりなんだ?」

完全に酔った大沢へ凄みを利かせる

「関係ねえだろ」

面倒臭そうに吐き捨てる大沢を見て視野が狭くなる

気付けば大沢を外へ連れ出し、拳を思いきり叩き込んだ

そのまま倒れる大沢

唇は潰れ数本の歯も欠け、酷い出血をしていた

こんな馬鹿のせいで俺はすべてを失い、許したのにまた裏切られたのだ

彼の両親はただ黙って俺を見ているだけだった

 

「智一郎、おまえは甘過ぎる。だからあんな奴許す必要がないと言ったろ?」

坊主さんや仲のいい知人からは散々責められた

当たり前だ

自身の選択がすべてを台無しにしていたのである

もっと貪欲に身体の鍛錬を求めよう

もう二度とあんな目に遭わないように気を付けながら……

 

川越でいい仕事先が見つかり、目黒の軌道屋を辞めて地元へ戻る事にした

新たな職場は協同商事

西武新宿線本川越駅の一つ隣駅の南大塚から徒歩15分くらいのところにある

家から自転車だと約30分で行けるので、交通費節約と運動の為にもそれで通う事にした

有機野菜を扱い、これからビールの事業なども考えているようだ

俺は入間市にある小学校の給食センターの有機野菜食材管理を任されるようになった

 

もう少しでまたプロテストの時期がやってくる

あの屈辱から一年が経とうとしていた

体重もようやく85kgと去年より10kg増やす事に成功している

協同商事内で、野菜一箱10kgが50個積んであるカゴ車を高台に上げたいと言われるが、車内のフォークリフトはすべて使われていて、時間がない状況もあり、俺がカゴ車を押して坂道を上る事を決めた

純粋に500kgの重さである

渾身の力を入れ、カゴ車を押す

少しずつではあるが坂道を上がり始めた時だった

カゴ車を支える車輪の一つが壊れ、こちらに向かって倒れてくる

一瞬支えようとしたが、500kgの重さにはまったく意味がなかった

寸前で身を翻し避けようとした時、カゴ車の角が左足親指に当たる

思わず出る呻き声

プロテスト前に俺の左足親指の爪は粉々に割れ、その破片が突き刺さりめり込んだ

おびただしい出血

その状況を見た周りから悲鳴が聞こえる

俺は左足を両手で押さえ、必死に痛みを堪えるしかなかった

専務である奥さんは俺の状態を見て、「岩上君ごめんね、病院連れてってあげたいんだけど、これから帰って息子にご飯作らなきゃいけないから…」と信じられない言葉を吐く

俺は近くに住む従兄弟へ連絡し、迎えに来てもらった

今でこそコエドビールで協同商事は一躍有名になったが、この一件が現在なら物凄い問題になっているだろう

この時の子供が現在では取締役をしているのも因果なものである

 

続き ↓

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