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ジェシル 危機一発! 53

2020年01月13日 | ジェシル 危機一発!(全54話完結)
 ジェシルの首をつかんだオムルの手にゆっくりと力が加わって行く。指がジェシルの首に食い込んで行く。ジェシルは苦しそうの頭を仰け反らせた。
「ははは、良いぜ、その苦しそうな顔……」オムルは笑う。「美人の苦しむ顔ってのは、ぞくぞくするぜ……」
 不意に出入りの扉が乱暴に叩かれた。
「おい! どうした! 何かあったのか!」
 扉の向こう側から怒鳴り声がした。
「おい、ジェシル! お前、何をしやがったあ!」
 オムルがジェシルに向かって怒鳴る。ジェシルは仰け反らせていた頭を戻し、オムルに顔を向けた。
「……さあね、何をしたのかしらね……」ジェシルはそう言うと、にこりと笑顔になった。「でも、はっきりしているのは、あなたは終わりって事よ」
「くっ!」オムルは舌打ちをしながら、ジェシルの首にかけた指に力を込めた。「とにかく死んでもらうぜ!」
「きゃあああああっ! 助けてぇぇぇぇ!」突然ジェシルは悲鳴を上げた。「オムルに殺されるぅぅぅぅ!」
「おい、その声はジェシルか!」呼びかけてきた低い声はカルースのものだ。「ジェシル! 大丈夫か! おい、オムル! お前、何やってんだ! ここを開けろ!」
「……ジェシル……」オムルが怒りで震えている。「きさま……」
「いやぁぁぁ! やめてぇぇぇ! オムルゥゥゥ!」
 ジェシルは悲鳴を上げた。しかし、表情は平然としていた。
「オムル! 何やってんだ! ここを開けろ!」カルースが扉を叩きながら叫んでいる。「おい、体当たりだ! その間に、扉粉砕用の工具を取りに行ってくれ!」
「あらあら、カルースったら張り切っちゃって……」ジェシルはオムルに言う。「形勢逆転ね。……どうするの、オムル? さっきより、締め上げる力が弱まっているわよ」
「あれだけ殴ったのに、平気なのか?」
「平気じゃないけど、この制服、衝撃を多少は緩和してくれるから、少しは痛みに耐えられるのよ。あなたが現役の時には無かっただろうけどね」
「じゃあ、苦しそうなのは演技って事かい……」
「でも少しは痛いのよ」
「ふん、そうかい……」オムルは深く溜め息をついた。「……分かった、オレの負けだ……」
 オムルは言うと、左手を放した。ジェシルは大きく息を付いた。次いで、ジェシルの胸倉をつかんでいた右手を放した。
「きゃっ!」ジェシルは天井近くから床に落ちた。尻もちをついた。「……痛いじゃない! お尻に跡が残ったらどうするのよ!」
「そこは痛みが緩和されないのか?」
「なによ! 大きいからって言いたそうね!」
「言っちゃいないぜ。まあ、思うヤツらはいるかもしれないがな……」
 その時、出入り扉が破壊され、室内に転がってきた。それと一緒にカルースと保安部A班の屈強な連中が突入してきた。体当たりで扉を粉砕したらしい。少し遅れて、扉粉砕用の工具を抱えたA班の班長のジャコモが入ってきた。カルースは直立しているオムルを驚いた顔で見た。
「オムル…… お前、サイボーグ手術でも受けたのか?」
「まあな……」
 オムルはにやりと不敵に笑う。その気配に、立ち上がったジェシルは慌てて叫んだ。
「カルース、気を付けて! 違法サイボーグよ! 力も強いし、手足は伸縮自在って言ってたわ! それに、メルカトリーム熱線銃が効かないようなコーティングもしているって!」
「ははは、もう良いよ、ジェシル……」オムルは力なく笑った。「悪あがきはしないよ。オレの負けだからな……」
 保安部の一人が電磁拘束波をオムルに向けて発した。オムルは抵抗する事は無かった。
「……ジェシル」連行されようとしているオムルが言った。ジェシルはお尻をさすりながらオムルを見た。「一つ教えてくれないか……」
「なあに?」
「お前、どうやって保安部を呼んだんだ?」
「知りたい?」ジェシルはにやにや笑いながら言う。「どうしても、知りたいぃ?」
「いや、いいや……」
「何よう! 話させてよう!」
「仕方ないな、聞いてやるよ」
「あれよ……」
 ジェシルはオムルが立っていた背後の壁を指さした。三台並んでいる資料室の防犯用の監視カメラのうち、一番右側のカメラが溶けたようになっていた。
「あなたは、監視カメラの映像を誰もいない室内にしていたようだけど、そのうちの一台がいきなり壊れたら、保安部が確認のために出動してくるわ」
「じゃあ、あの外れた一発は……」
「そうよ、わざと外した振りをして、カメラを撃ったのよ。勝利を確信したあなたは振り返って確認しないだろうって思ってたら、その通りだったわ。あとは保安部が来るまで何とか持たせればよかった」
「オレがいきなりお前の首を締め上げるとは思わなかったのか?」
「え?」ジェシルは驚いた顔をした。「あ、そうか…… そう言う可能性もあったわよね……」
「やれやれ……」オムルは深い溜め息をついた。「ジェシル、お前さんの悪運の強さは半端ないな……」
「まだ言うの? わたしのは幸運よ!」
 オムルは保安部に連行されて行った。


つづく(次回、最終回)

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