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コーイチ物語 3 「秘密の物差し」 152

2020年10月11日 | コーイチ物語 3(全222話完結)
「……あのさ、ナナ……」タケルが言う。「話がある……」
 ナナの屋敷で食事(もちろんチトセの手作りだ)を済ませた後だった。タロウが今日の成果のまとめをしようとしていた時だ。
「何よ、タケル?」ナナがタケルを見る。「屋上の後、テルキさんに会ったの?」
「ああ……」
「なんだか浮かない顔ね」
「先輩は誘わない方が良いと思う」タケルの口調は重い。「支持者を信じていないんだ」
「え?」ナナが驚く。「でも、タロウさんもアツコさんも確かに支持者と話をしたのよ。アツコさんは支持者に散々振り回されたって言ってたし、タロウさんだって……」
「そうなんだけどさ……」タケルは言う。「でも、先輩は信じてないって言うよりも、関心が無いみたいなんだ。何だか、どうでも良いって感じでさ」
「そうなの……」ナナはがっかりしたようだ。「作戦に加わってくれたら、凄い戦力になるって思ったんだけどなぁ……」
「諦めてくれよ。あんまりしつこく誘うと勘繰られてしまいそうだよ。先輩は基本的には鋭い人だからね」
「分かったわ……」
 二人の話が終わったと見たタロウがすっと立ち上がった。
「どうしたんだい、タロウさん?」タケルが声をかける。「なんだか食事中もずっと黙っていたけど? 清掃中にイヤな事でもあったのかい?」
「タケルさん……」タロウはタケルを見つめる。「妙な噂を聞いたんだけど……」
「噂?」タケルは合点が行かない表情だ。「どんな噂だい?」
「……『ブラックタイマー』復活の情報源はアツコの側近だったタロウだという噂なんだけど……」タロウは静かに言う。「これを言ってたのは第三課の課長だった。たまたまトイレ前を掃除していたら聞こえて来たんだ……」
「タケル!」ナナが大きな声を出す。「第三課って、あなたの所属している課じゃないの! どう言う事なのよ!」
「タケルさん、どんな風に課長に話したんだい? ボクは仕事柄マスクをしていたし、目立たない性格だから、すぐ横を第三課の課長が通り過ぎても気付かれなかったけど……」
「いや、あの、その……」タケルは言葉に詰まる。「……課長と話しているうちにさ、情報源の話になってさ、最初は濁してたんだけどさ、ちょっとにおわせた言い方をしたかもなぁ…… あ、でも名前は出さなかったよ」
「如何にもタロウさんぽいって感じで話したんでしょ?」ナナが呆れたように言う。「どうしてあなたって、余分な尾ひれを付けたがるの……」
「課長がボクの名前を出したって事は、タケルさんもただじゃ済まないかも知れない……」タロウが腕組みをして考え込む。「いずれ、もっと詳しく聞かせろってなるかもしれない……」
「そうよ。ちょっと調べればタロウさんの顔は分かるわよ。マスクをしているとはいえ、タロウさんがパトロール内にいるなんて知られたら、どうするつもりなの?」
「それに、テルキさんは『ブラックタイマー』に潜入してたんだから、ボクの事はすぐに分かるんじゃないかな。すれ違っても気が付くと思う」
「テルキ先輩なら、分かっても知らん顔していると思うけど……」
「それは希望的観測でしょ?」ナナが言う。「気まぐれを起こして、大騒ぎにしちゃうかもしれないわ」
「まあ、可能性はない事も無いけど……」
「そうなると、過去の者は未来に行けないから、当然この時代の人が連れて来たって話になる」タロウが重い口調で言う。「真っ先に疑われるのはタケルさんだよ。どうして連れてきたって話になるよね」
「その時は、上手くごまかすよ……」
「また尾ひれを付けた話をするつもりなの? どう話すつもりなのよ!」
「過去に戻った際に偶然会ったとか……」
「あのねぇ、偶然会ったからって敵対するタイムパトロールに『ブラックタイマー』が復活するなんて話をするお馬鹿さんがいると思う?」
「だからさ、ボクが身分を隠して、タロウさんと仲良くなって、酔った勢いでタロウさんが話をしてくれたって事にすれば……」
「ボクは酒は飲まないよ」タロウが抗議する。「嘘のために性格を貶められたくないよ」
「そうよ」ナナがうなずく。「あなたの性格や人格はいくらでも貶められても構わないけどね」
「それに、その話じゃ、ボクがこの時代に来た理由が分からない」
「……ほら、チトセちゃんみたいに、ボクが戻ろうとした直前で乗り込んで来たって事にすれば……」
「じゃあ、どうしてすぐに報告しなかったのかって話になるわ」ナナが言う。「あなたがタロウさんをかくまっているって思われても仕方がないじゃない?」
「そうだよ。しかもボクはタイムパトロールで清掃係をしているんだよ。推薦してくれたのはナナさんだし、ナナさんにも疑惑の目が向けられてしまう」
「それは、ボクが無理矢理ナナにお願いしたことにすれば……」
「それじゃ、あなたがタロウさんをこの時代に連れて来て、かくまっているだけじゃなく、タイムパトロールでスパイ活動をさせているって思われてしまうわ」
「そんな話をでっち上げると、タケルさんが支持者って事になってしまうよ」タロウはため息をついた。「残念だけど、作戦は中止だ。アツコと逸子さんに伝えて来るよ。『ブラックタイマー』復活の証拠作りに積極的だったんだけどね……」
「タケル、どうするのよ?」
「本当、これからどうしよう…… タケルさん、考えてよ……」
 二人に詰め寄られたタケルは、困惑した表情をソファに座っているコーイチに向けた。大変な事になったなぁと思っていたコーイチだったが、タケルと視線が合った途端に、その困惑が移ったように同じような困惑の表情を作った。
「それは、その、あれだよ……」
 コーイチは思わず口を挟んでしまった。ナナとタロウがコーイチへ振り返る。
「何よ、コーイチさん?」
「何か良い手でも思いついたのかい、コーイチさん?」
 今度はコーイチが詰め寄られる。
 タケルは自分からコーイチに矛先が移ったので、ほっと一息ついた。……何とかしなきゃ…… 焦るコーイチだった。


つづく
 
  

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