お話

日々思いついた「お話」を思いついたまま書く

ジェシルと赤いゲート 74

2024年08月31日 | マスケード博士

「なんだ、そりゃあ! 宇宙パトロールの新兵器かあ?」
 コルンディは叫ぶ。傭兵たちは相変わらず動けない。
「コルンディ君……」マスケード博士が尻餅をついたままのコルンディに近づく。「兵器開発者の君にはそのように見えるのかも知れんが、これは神のなせる業なのだよ……」
「神、だとぉ……」
「そうだよ」ジャンセンはうなずく。「この二人は、この時代の神として、今ここにいるんだ。さっきからそう言っているじゃないか。素直に認めなよ」
「ふざけるな!」コルンディは立ち上がる。「何が神だ! オレは信じないぞ!」
 コルンディは言うと、上着の左内側に右手を入れ、ショルダーホルスターから熱線銃を抜き取り、銃口をジェシルたちに向ける。ジャンセンと博士は数歩後退するが、ジェシルとマーベラは無言のまま動かない。ジャンセンは、マーベラの仮面の細くくり貫かれた眼がまだ青白く光っているを見た。
「この銃はな、半径十フィートを消滅させる能力があるんだ!」コルンディは叫ぶ。「お前らは一瞬で跡形も残らない! 神だろうが何だろうが一瞬さ! ざあみやがれ!」
 コルンディは引き金を引いた。しかし、何も起きない。ジャンセンはやはりと言うようにうなずく。
「え? あれ?」コルンディは何度も引き金を引く。しかし反応はない。「何故だ! 何故なんだあ!」
「ひょっとして整備不良なんじゃないのかい?」慌てているコルンディを見ながら、ジャンセンが馬鹿にしたように言う。「道具は日頃の点検が必須だよ」
「うるさい! オレは兵器開発者だぞ! そんなヘマをするわけがない!」
「じゃあ、何故使えないんだよ?」ジャンセンが煽る。「考えられるのは、神の力さ。マーベラ…… 邪神デスゴンの力だよ」
「やかましい!」
 コルンディは銃を振り上げてジャンセンに突進する。銃で殴りつけるつもりのようだ。ジャンセンはコルンディの剣幕に怖じ気付き、しゃがみ込んで頭を抱える。
「……うわっ!」
 コルンディの驚いたような声が聞こえた。それもジャンセンよりもはるかに高い所からだ。ジャンセンが声のする方を見上げる。
 コルンディが逆さまになって宙に浮いていた。からだ全体を激しく動かしているが浮いたままだった。ジャンセンは呆気にとられてコルンディを見上げていた。
「……散々煽っておきながら、いざとなったら頭を抱えるなんて、相変わらず最低ね、ジャン」
 ジェシルが小馬鹿にしたような表情でジャンセンを見ている。
「ジェシル…… アーロンテイシアは離れたのかい?」
 ジャンセンはジェシルの皮肉が全く通用していないようだ。ジェシルは不満そうな顔をする。
「……まあ、わたしからアーロンテイシアは離れたけど、マーベラはまだデスゴンのようね……」
 マーベラは青白い光を湛えた目を浮いているコルンディに向けた。
 不意にコルンディは地面に落ちてきた。
「うわあああ!」
 コルンディは情けない悲鳴を上げる。地面に激突する寸前でコルンディは止まった。すると、再び宙へと浮き上がって行った。と、再び落ちてきた。また、地面寸前で止まる。そしてまた宙へと浮き上がる……
「グフグフグフ……」マーベラの仮面越しに不気味な笑い声が響く。「ライーゼ・クスレ! ライーゼ・クスレ!」
「……ジャン、何て言っているの?」ジェシルが不安そうな声でジャンセンに訊く。「……あんまり宜しくない言葉のようだけど」
「『苦しめ愚か者』みたいな意味かなぁ……」ジャンセンが浮き上がりと落下を繰り返し、その度に悲鳴を上げるすコルンディを見ながら答える。「邪神デスゴンが楽しんでいるんだよ」
「トラン君の事もあるから……?」
「そうかも知れない。マーベラの怒りと同調しているんだ……」
 コルンディが宙に戻った。コルンディは逆さまの宙づり状態でぐったりとしている。
 マーベラはジェシルに仮面を向けた。途端にジェシルは今までの表情を消し、マーベラの元へと歩み寄った。
「ジャンセン君、どうしたのだ?」博士が訊く。「再びアーロンテイシアになったようだが……」
「そうのようですね」ジャンセンは答える。「マーベラが、……デスゴンがアーロンテイシアを呼んだのです」
「何をする気だろう?」
「さあ…… 傭兵たちとコルンディを一掃してしまうつもりかもしれませんねぇ。何と言っても、神の怒りを買いまくった連中ですから……」
「しかし、それはあまりに残酷ではないかね」
「神の事は神にしか分かりませんよ。ぼくたちは傍観者でいるしかないのです」
 博士とジャンセンは向かい合って立つジェシルとマーベラを、アーロンテイシアとデスゴンを見ていた。

 

つづく


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