お話

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ジェシルと赤いゲート 72

2024年08月24日 | マスケード博士

 突然、強烈な風が一瞬コルンディと傭兵たちの間を吹き抜けた。
 ジェシルは背筋を伸ばして立ち、コルンディを見据える。
 マーベラもトランのからだを地面に静かに横たえると、同じように背筋を伸ばして立ち上がり、コルンディを見据える。
「おいおい、怒るなよ……」コルンディは苦笑する。「彼が飛び出して来るなんて想定外だぜ」
 しかし、二人は返事を返さない。黙ってコルンディを見据えている。
「悪かったよ!」コルンディは只ならぬ雰囲気に慌てる。「マーベラ、この償いは必ずさせてもらうから……」
 マーベラはゆっくりとコルンディの方へと歩を進める。ジェシルもそれに合わせる。二人は並んで歩き始めた。
「なんだよ! それ以上近付くと、二人とも撃っちまうぜ!」
 コルンディが声を荒げる。傭兵たちが銃口をジェシルとマーベラに向ける。ジェシルとマーベラの歩みが止まった。
「そうだ、それでいいんだよ」コルンディはほっとしたように言う。「オレだって脅したくはないんだぜ。オレはあくまでもジェシル一人が邪魔だったんだ」
 コルンディの言葉に、傭兵たちの銃口はジェシルに向いた。
「……悪いがな、ジェシル、改めて撃たせてもらうぜ」コルンディの右手が上がる。「傭兵諸君、ジェシルを苦しませないように出力を最大にして撃て。それと、マーベラ。弟のようには動くなよ……」
 ジェシルは瞬きもせず、コルンディを見つめている。マーベラも同様だ。
「……ブオーサ・マイメーラ……」
 と、突然、低く威圧的な声がジェシルの口から発せられた。
「……ブオーサ・マイメーラ……」
 ジェシルに呼応するように、マーベラも同じ声を発した。
「……あれは、ペトランの言葉だ……」
 呆然とした表情のままでジャンセンがつぶやく。
「おい、何を言ってんだ……?」コルンディは戸惑っている。しかし、横に並んでレーザーライフルを構える傭兵たちを見て落ち着いたようだ。残忍な笑みが顔に戻る。「まあ、どうでもいいや。ジェシル、お別れだな!」
 コルンディは上げていた右手を振り下ろした。それを合図に耳をつんざくような高音の発射音がする。レーザーが一斉にジェシルに向かう。最大出力のレーザーが、ジェシルの全身を青白く包んだ。満足そうな笑みを浮かべたコルンディは右手を上げた。レーザーが止まる。
「え……?」
 コルンディは間の抜けた表情になった。
 そこには全くの無傷のジェシルが、無表情で立っていたからだ。傭兵たちも互いに顔を見合わせながら戸惑っている。
「お前たち、最大出力で撃てと言ったじゃないか!」コルンディは傭兵たちを怒鳴る。「もう一度だ! 構えろ(傭兵たちは出力を確認し、銃口をジェシルに向ける。コルンディは右手を上げる)! 撃てぇぇぇ(コルンディは手を振り下ろす)!」
 一斉照射され、ジェシルは再び青白い光に包まれる。
 ジェシルはその光の中から進み出てきた。傷一つなかった。
「何だ、何だ、何だああ!」コルンディは叫ぶ。恐怖に顔を引き攣らせている。「撃て! 撃ち続けろお!」
 傭兵たちも改めて引き金を引き絞る。しかし、ジェシルは平然と進み出てくる。青白い光が突然止んだ。レーザーが尽きたのだ。傭兵は呆然とした様子で立っている。
「ブオーサ・マイメーラ!」
 突然、ジェシルが声を張った。
「ブオーサ・マイメーラ!」
 ジェシルの隣に立ったマーベラも声を張る。
「二人とも、何を言っていやがるんだあ! ふざけるんじゃないぜえ!」目の前で起きている現実を否定する様に、コルンディは叫ぶ。「どうせ宇宙パトロール支給のレーザー防御装置でも持っているんだろう?」
「そうじゃないよ」ジャンセンが割り込む。ジャンセンはトランの傍らに膝を付いている。「あなたは大変な事をしたんだ。二人の言葉は古代のペトラン語さ」
「そうなのか。ジャンセン君?」マスケードがよたよたとジャンセンの元へと駈け寄り、ジャンセンの横に座り込み、ジャンセンの顔を見つめる。「何と言っているのだね?」
「博士……」ジャンセンは並び立つジェシルとマーベラの後ろ姿を見ながら言う。「二人はこう言っています。『神は怒る』と……」
「何と……」マスケード博士は呆然とした表情でジェシルとマーベラを見る。「では、二人に再び神が宿ったと言うのか!」
「その様です……」と、ジャンセンのすぐ横を何かの塊が勢い良く通り過ぎた。ジャンセンは思わず尻餅をつく。「何だ? まるで蜂の集団みたいだ……」
 塊はマーベラの頭上に集まった。それらは徐々に形を作って行く。
「あれは!」ジャンセンは作られる過程を見て声を出す。「デスゴンの仮面だ……」
 出来上がった仮面はゆっくりとマーベラの顔の前に下りてきた。

 

つづく
 


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