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コーイチ物語 3 「秘密の物差し」 45

2020年04月22日 | コーイチ物語 3(全222話完結)
「……ところでお兄様、ご飯は食べました?」
 逸子がケーイチに言う。
「え? ご飯? たしか昨日食べたよ」ケーイチは真面目な顔で言う。「その前の日も食べたから、今日はいいや」
 ナナが笑い出した。ケーイチは訳が分からないと言った顔をしていたが、ナナにつられて笑い出した。
「お兄様、ナナさんがなぜ笑っているのか、分かります?」
 逸子がそう言うと、ケーイチは首を左右に振って見せた。それでも笑っている。
「分からないけどね、ナナさんがこんなに楽しそうなんだから良いんじゃないかな?」
「やっぱりコーイチさんのお兄様ですねぇ……」逸子が妙に感心している。「優しい所はそっくり……」
 ひとしきり笑うと、ケーイチは持って来た紙袋の中をがさごそと探った。中から幅五センチほどの白くて平べったいリストバンド状のものを三個取り出した。そのうちの二個を逸子とナナそれぞれに渡す。もらった二人はリストバンドとケーイチとを見比べている。
「ああ、これかい?」ケーイチは言いながら、自分の左手首に残ったリストバンドを付けた。付けた腕を自慢気に見せる。「こんな感じで付けてみて」
 二人は言われるままに、同じ様に左手首に付けた。
「上出来、上出来」ケーイチは二人を見てうなずく。「手の甲側に四角いボタンが二つ並んでいるだろう? 右側のボタンは第五段階までのレベル調節用だ。押すたびにレベルが上がるんだけど、六回目を押すと第一段階に戻ってしまうから、注意して。そして、左側は照射ボタンだ」
 どうだとばかりにケーイチが胸を張る。しかし、逸子とナナには何が何だか分からなかった。二人の様子を見て、ケーイチは気が付いたようだ。
「これは、ほら、ナナさんの時代に行った時、逸子さんが長官とかの机を粉砕したじゃないか? あれが再現できる装置だよ」
「ああ、そう言えば、それを作るって、朝出掛けて行きましたよね」逸子が言う。「出来上がったって事ですか?」
「そうだよ」ケーイチはあっさりと言う。「逸子さんには必要ないかなとも思ったけど、持っていて損はないだろうと思ってね」
「ありがとうございます」逸子は素直に礼を言った。「あの技って、結構大変なんですよね。助かります」
「そりゃあよかった」ケーイチはうなずく。「まあ、頭の中に設計図は出来ていたからね。大して時間は掛からなかったよ。ただね、二人の手首の太さが分からなかったから、それが大変だったね。一応、若い女性の平均値を元にしたんだけど、きつかったり、ゆるかったりはしてないかい?」
「ぴったりです!」
 ナナが言うと、逸子もうなずく。ケーイチは満足そうだ。
「……それで、使い方は?」ナナが言う。「なんとなくは分かりますけど……」
「ほう、さすがだねぇ」ケーイチは言う。「右のボタンで出力を調整して、左のボタンで照射って感じだね」ケーイチは左手をコーイチの座卓に向け、リストバンドの右ボタンを数回押す真似をして、それから左ボタンを押す真似をした。「こうやると、リストバンドの縁から震動波が出て、原子レベルで物質を揺らして粉砕するんだ」
「ケーイチさん……」ナナは驚いた表情になる。「そんな危険なものを、どうして……」
「え? だってコーイチを助けに行くんだろ? 必要になりそうだからさ」
「……そうでした」ナナは逸子に振り返った。「逸子さん、すみませんでした。何だか、わたし、すっかり楽しんじゃって……」
「良いのよ。わたしがわざとやったんだから」
「でも、どうして……?」
「まあ、言ってしまえば、仕切り直しね」
「仕切り直し?」
「ナナさんはタイムパトロールを辞めちゃったけどきつきつな精神状態じゃない? それで次に臨んだら、きっと大変な事になるって思ったの」
「そうだったんですか……」ナナはぺこりと頭を下げた。「そこまで心配して下さって、ありがとうございます」
「な~に言ってんのよ。わたしの可愛い妹じゃない! 気にしないでね!」
 ナナは、心身ともにリフレッシュし、自分の中に新たな闘志が湧き上がって来るのを感じていた。逸子はそんなナナを満足気に見ている。
「さあ、がんばりましょう!」逸子は言った。「コーイチさんを取り返し、ナナさんに紹介してあげたいわ!」


つづく


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