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日々思いついた「お話」を思いついたまま書く

ジェシルと赤いゲート 44

2024年07月12日 | ベランデューヌ
「じゃあ、デスゴンがどこに呼び出したのか、教えてもらおうか?」
 ジャンセンが長たちに問いかける。
「ヤツらが求めているベランデュームの未開拓の地とダームフェリアの境界区域ですじゃ」デールトッケが答える。「そして、時間は陽が昇りケーロイ鳥が鳴く時との事ですじゃ」
「それって……?」ジェシルがジャンセンに訊く。「早朝だと美容に響いちゃうわ……」
「なんだ、アーロンテイシアが憑いたと感心していたのになぁ……」ジャンセンは二人の言葉で言うと、がっかりしたようにため息をつく。「それなのに、何が美容だよ……」
「そんな事を言っても、急にいつもの感じに戻っちゃったんだもん!」ジェシルは口を尖らせて答える。「ケーロイ鳥が鳴く時って、何時なのよ?」
「心配するなよ」ジャンセンは苦笑する。「ぼくたちの時間で言うと、お昼のちょっと前だ」
「それはそれで、陽の光で日焼けが心配だわ……」
「ジェシル!」ジャンセンが声を荒げる。「いくら何でもそれは……」
「ははは、冗談よ」ジェシルは明るく笑う。「怒ったジャンの顔を見るのは子供の時以来だわ。そして、怒った時に両腕を上げる訳の分からない仕草、ちっとも変わらないわ」
「え……?」ジャンセンは両腕を上げたまま止まった。「相変わらず、性格が悪いよなぁ……」
「性格の話はともかく、腕を下ろしたら? みんな呆れているみたいよ」
 ジャンセンは呆然とした表情の長たちを見回す。そして、ぶつぶついいながら、ゆっくりと腕を下ろす。
「……それで、どうするんだ?」ジャンセンは下ろした腕を胸の前で組み、不貞腐れた顔をジェシルに向ける。「明後日まで待つのか?」
「ジャン、あなたが乱暴な口調になったって、ちっとも怖くないわよ」ジェシルは小馬鹿にし顔付きで言う。「むしろ滑稽だわ」
「ふん!」ジャンセンは鼻を鳴らす。「……とにかくだ、何か作戦を立てなければいけないと思うんだ」
「あら、わたしの腕を信じていないの?」ジェシルは不満そうな顔をする。「それに、いざって時は、きっとアーロンテイシアが守って、いや、戦ってくれるわ」
「……それって、アーロンテイシアを感じ取っているって事かい?」
 ジャンセンは興味深そうな顔をしている。……ころっと気分が変わるのは、子供の時と変わらないわね。ジェシルの口元が緩む。
「そうね、そんな気がするわ」ジェシルはうなずく。「もしもって時は、熱線銃も持っているし」
「それはダメだ!」ジャンセンが強く言う。「デスゴンが憑いた相手に何かあったら、歴史に影響が出るかもしれない!」
「大丈夫よ、パワーを最小にしておくから」ジェシルは腰の後ろに手を回し、挟んであった熱線銃をつかんで取り出し調整し、元に戻す。そしてにやりと笑う。「これで死なないわよ」
「……まあ、良いか……」ジャンセンは独り言のようにつぶやく。それからふと真顔になる。「……ぼくが作戦を立てなきゃって心配しているのは、デスゴンが約束した通りに行動するかって事なんだ」
「え?」ジェシルは驚く。「それって……」
「なんたって、デスゴンは禍神だからさ。何をしでかすか分からないだろう?」
「でも、一応神なんだし……」
「混乱と破壊が大好物な神なんだぜ」
「じゃあ、何? 今すぐにでもここへ来るって言うの?」
「無いとは言えない」ジャンセンが深刻な顔で答える。「ダームフェリアの連中を引き連れてくる可能性はある、いや、大いにある」
 ジャンセンの言葉にジェシルはイヤな顔をする。……何よ、根拠もないくせに断言しちゃって! ジェシルは内心むっとする。……でも、ジャンの言う事も否定できないわ。相手はすっかり禍神デスゴンだものね。
 と、突然、
「あはははは!」
 聾さんばかりの哄笑が周囲に響き渡った。


つづく

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