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後悔は、いつも遅すぎる、浮気した男の代償は、妻の笑顔だった

2021-02-15 13:00:00 | オリジナル小説

 「ねえっ、あなた ○○さんの旦那さん、最近、見かけたことある」

 妻から聞かれたのは夕食後のことだ、挨拶を交わす程度で親しいという訳ではない、いきなりだったので驚いた。

 「どうしたんだ、いや、最近見かけないな、そういえば」

 「浮気してるって、近所の人が言ってたのよ」

 「まさか、嘘だろ」

 浮気という言葉に内心ぎくりとする、まさか、ばれてないよなと思ってしまう、だが、妻は、あっけらかんとした調子で、近所の人が噂してたのよと言葉を続けた。
 話題を変えようと、俺は噂だろうと少しきつめに表情を変えることなく、確証もなしに、そんな事を言うんじゃないと妻に言った。

 「うーん、でも、皆知ってるみたい」

 佐野原(さのはら)の奥さんが話してたからね、その言葉におしゃべり好きの暇な奥様ってやつはと内心、嫌な気分になってしまった。
 しかし、近所の旦那が浮気、それを薄々、感づいている人間がいて話のネタにされているというのは正直、いい気分ではない、気をつけようと思ったのは浮気をしているのがほかならぬ自分だからだ。


 翌日、俺は会社に行く途中、噂の人物に会ったからだ、驚いたのは右足にサポーターを巻いていることだ。

 「どうしたんです」

 「駅の階段で脚を滑らせてしまってね、たいしたことはないんですよ」

 骨折はしていない、筋を痛めただけだからという、でも、この人確か車を持っていたはずじゃなかったか、電車なんか使うんだと思ってしまった。


 今日、○○さんに会ったよ、脚を怪我したみたいで、大変だなあというと妻は、ふーんっと素っ気ない返事を返してきた。

 「それ、自業自得ってやつじゃない」

 気になる言い方だ、しかも、妻の表情は冷たいというか、笑っているようだ。

 「嫌な態度だな」

 「だって、浮気だよ、駅の階段で脚を滑らしたって言ってるんでしょ、皆、分かっているわよ、嘘だって」

 俺は内心、むっとして、妻を睨みつけた、すると突き落とされたのよ、という言葉が返ってきた。
 
 俺の顔を見ながら奥さんを蔑ろにするからバチが当たったのよ、まるで自分は、いや、周りは知っているのよと言いたげな口ぶりだ。

 馬鹿馬鹿しい、当てずっぽうな、それこそ井戸端会議の女達が妄想を膨らまして、そんな事を言っているんだと思った。

 ところが、その後も続いた、脚を怪我したと思ったら、その数日後、○○の夫は顔に傷を負っていたのだ、偶然、出会ったとき、俺の顔をどこか罰が悪そうに見る相手に俺はどんな言葉をかければいいのか、迷った。

 「どうしたんです」

 きまりを悪そうに俺の顔を見る男は浮気の結果ですよと、ぼつりと呟いた。

 「不満なんてありません、ただ、少しだけ、相手から声をかけられて有頂天になったというか、馬鹿ですね、離婚ですよ」

 「えっ、確か、お子さんが」

 妻が引き取ります、自分は一人ですと呟く相手に思わず女性はと尋ねてしまった、浮気相手の女性はと聞いてしまったのだが、後悔した。
 笑われましたよと言われて俺は、えっとなった。

 「妻に捨てられた男なんてと、言われました」

 笑われたんです、何故でしょうねと言われて言葉に詰まる、力なく歩いて行く男の後ろ姿を見送りながら、俺はなんても言えない気分になった。


 その日、旦那さんに会ったよ、離婚するそうだよと妻に話すと何がと聞かれた。

 ○○さん、とこの夫婦、離婚するらしい、だが、返事は、ふーんと、それだけだ、まるで関心がないといわんばかりだ。
 妻に離婚を突きつけられて浮気相手の女性からも笑われて捨てられたと言うと、それでと妻は続きを促した。

 「貴方は何が言いたいの、他人の家庭の事が、そんなに気になるの」

 気にしていたのは、おまえ、近所のおばさん連中じゃないのかと言うと笑われた。

 「良かったじゃない、怪我と離婚程度で済んで」

 何だ、その言い方は、自分の妻なのに、この時ばかりは腹が立った。

 「浮気、するからでしょ」

 (まさか、おまえ)

 自分が浮気している事に気づいているのか、だが、それを聞いてしまったら駄目だ。

 「子供もいるのに奥さんを裏切って、ねえっ、もしかして、あなた」

 「馬鹿な事をいうんじゃない」

 えっ、何、馬鹿な事って、言われてはっとした。

 それから三日ほどが過ぎた。

 

 亡くなったみたいと言われて俺は聞き返した。

 離婚された男の人よと言われて、俺は驚いた。

 


 「○○さんのご主人、駅の階段で転んで」

 「打ち所が悪かったみたいで、意識が」

 それで、どうなったんですと俺は近所の奥さんに尋ねた。

 元、奥さんも旦那さんの家族も引き取りを拒否して、そのまま。


 「ところで、貴方の奥さん、あの駅をよく、利用するのよね」


 俺はその言葉に、えっと言葉を飲み込んだ、すると知らなかったのと奥さん達が自分を見ているに気づいた。

 (本当に知らなかったの)

 「まあ、昔から知らぬは亭主ばかりなりっていうしね」

 「本当ね」

 「仲良かったみたいだし」


 誰が、誰と仲かいいって、だが、聞く事ができない。


 俺は決心した、浮気相手と別れることを、だが。


 「別れましょう」


 その日、夕食が住むと妻から離婚届を突きつけられた、俺は拒否した、嫌だと。


 「俺よりも、おまえの方が浮気していたんじゃないのか、○○の亭主と」

 「何、言ってるの」

 自分が浮気しておいて、その言い分はないわね、妻の台詞にかっとなり、思わず両手を伸ばした。

 


 「ええ、悲鳴を聞いて、驚いて主人と一緒に見に行ったんです、ただ事じゃないって」

 「奥さんの首を両手で絞め殺そうとしていたんです」
 
 「以前から変だったんですよ、あたし達のおしゃべりに割り込んできて、浮気がどうとか」

 「奥さんに注意したんです、旦那さんのこと」


 俺は男の腕を振りほどいて、車に乗ると浮気相手の元に、だが、途中で。

 

 眠っていたのか、俺は目を開けると妻がにっこりと笑いかけてくる、よかった、ほっとしながら、ここはどこだと聞こうとして声が出ないことに気づいた、いや、それだけじゃない、起き上がろうとしても手が、体が、動かないのだ。

 「事故に遭ったのよ、覚えてないの」

 車でといわれて思い出した、浮気相手のところに行こうとしたのだ、だが、体が動かない、いや、それだけではない、感覚がないのだ。


 「ねえっ、こんな時だけど離婚、いいでしょう」

 俺の体が麻痺して、だが、リハビリを続ければいずれは治るだろう、だろうって、どういうことだ。

 「浮気していた貴方の面倒なんて」

 無理よと妻は笑った、いや、俺の両親もだ、あんなに尽くしてくれる嫁を裏切ってと反対に罵られた。

 違う、浮気していたのは俺だけじゃないんだと言いたくても声が出ない、筆談をして知らせようとしたが、駄目だった。


 「元、旦那さんですか、随分と、その想像というか、あるんですよ、自分が浮気をしているのは妻もしているからだと言って、ストレスのせいもあるか
もしれませんね」

 医者の言葉に俺は絶望した、だが、声がでない。


 「浮気なんてするからよ」

 ああ、そうだ、俺が馬鹿だった、だが、後悔して声を上げて泣くこともできなかった。
  



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