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現れた岩柱と鬼、その男は顔を隠していたらして、天狗の面で

2020-11-21 22:30:37 | 二次小説

 突然、現れたのは鎖で繋がれた鉄球と刀を持つ巨漢の男だ、襲いかかる大勢の鬼達を前にしても冷静だ、これが柱の力かと指図していた鬼は驚いた、それに、もう一人の男は元・柱だと名乗った。
 倒されていく仲間の骸を見ながら鬼は笑った、これは好機だと。
 
 現れた男を見て女は驚いた、もう、会うことはないと思っていたのだ、暗い夜だというのに姿が見える、不思議だった。
 悲鳴嶼さん、声に出すことはない、だが、胸の中で呼んだ。
 
 悲鳴嶼行冥は違和感を覚えた、鬼達を倒す手応えはある、だが、気になるのは数人の鬼の動きだ、何もせず少し離れた所から傍観者のように見ているだけだ、そして、何故か、その鬼達の顔、表情は。
 「柱の力量は、どれほどのものかと思ったが、たいしたものだ、感心したぞ」
 どういうことだ、自分の力量を確かめているのか、だとしても。
 「おい、いつまで眠っているつもりだ」
 地面に倒れている死んだ肉の塊に近づいた鬼が声をかける、すると死体はぶくぶくと膨れ上がった。

 手紙を持つ手がわずかに震えている事に気づいた、全て内緒にしていたのか、だが、恨まれても仕方がないという文面と文字は以前とは違う、ここ数年で産屋敷本人は人前にも滅多に出てこない、数えるほどだ。
 字が震えている、筆を取るのも不自由になってきたということか、書かれている文面を読み返す何度も、だ。
 藤の家に刀を預けたこと、処分したと嘘をつき、それを内緒にしていたこと、全ては自分の一存だと書かれている。
 使い手が亡くなり、抜くことができなくなった、棄ててしまえば、処分してしまえば良かったのだと鱗滝は思った、産屋敷が謝る事などないのだ、不満などない。
 いや、本当にそうか、あるとしたら一つ、刀を託した事だ。
 鬼舞辻無惨とは違う鬼が現れたと言うことは聞いていた、それが関係しているのだろうか、いや、そんな事よりも、使えない刀を渡して関係のない人間が巻き込まれたら、いや、気にしたところで仕方がない、恨むだと、何を、終わったことだ、昔の事だと鱗滝は手紙を握り潰した。
 
 
 切った筈の鬼が再生している、これではきりがない、焦りを覚えてしまう、そんな二人の心の内を察したのかもしれない、鬼達は笑った、柱といえどたいしたことはないと、一度死んだ鬼は柱の力を覚えた、後はそれを上回る鬼を生み出せば良いだけだ、そう思ったとき、かすかな音がした。
 かたかた、とだ。
 音、人には聞こえない、微かな音でも鬼は聞き取ることができる、だが、これは何の音だ、見守っていた鬼達は首を傾げるようにして、それが何なのか確かめようとした。
 「不快、これは、なんだ」
 背中、全身を包む空気は冷たい筈、夜なのだから、それがなんだ、温かい、いや、違う。
 
 手が、いや、柄が熱い、煉獄槇寿郎は刀を見た、もしかしてと思ったが、刀身は抜けない。
 だが、このとき気づいた、襲いかかってきた鬼達が動きを止めて、自分を見ていることに。
 そして悲鳴嶼も鬼達の様子に気づいた。
 月に雲がかかった、ほんの少しの間、戦いの場に静寂と闇が訪れた、だが、月が姿を現した、そのとき、光の下に鬼が現れた。
 悲鳴嶼は大きく息を吸った、呼吸を落ち着かせようとしてのことだ、そして槇寿郎も。
 鬼ではない、よく見ると顔は仮面、鬼の面をつけているのだ。
 「何故、抜かぬ」
 その言葉に反応したのは槇寿郎だ、手にしていた刀、鬼の面をつけた相手をじっと見た、死ぬぞと言われた気がした、わかっている、だが、抜けないのだ、どうしろというのだ。

 
 誰だ、こいつは、鬼、いや、人ではないのか、鬼の面をかぶった男、いや、女か、わからん、こいつは。
 突然、現れた存在は異種だ、自分達の仲間、鬼ではない、だが、人、ではない、では。
 「逃げろ」
 一人の鬼が叫んだ、その瞬間、炎が上がった。
 赤い、まるで太陽が燃えるような紅蓮の炎は鬼だけでなく、そこにいる全てのものを包み込み、燃え上がった。

 黒い消し炭のような塊は鬼の死体だろう、槇寿郎は地面に散乱した燃え残りがわずかな風で砂のように崩れていくのを、ただ、見ていた、そして握っていた柄が熱い事に気づき、はっとした、今まで見た事のない、すさまじい火が全てを燃やし尽くしたのだ。
 この刀か、それとも、あの鬼の面の。
 我に返り周りを見ると木の根元に女が体を預けている気を失っているようだ、良かったと思いながら巨漢の男が駆け寄ろうとするのを槇寿郎は止めた。
 「何故、ここに来た、お館様は知っているのか」
 男の足が止まった。
 「女一人、守れなくて、何が鬼殺隊だ、聞いて呆れる、貴様、それでも男か」
 そうだ、鬼殺隊、柱のくせに、自分の腹の中に怒りがふつふつと沸く、理不尽だと思いながらもだ、この男、岩柱を責めてどうなる訳でもないし、自分が責める理由などあってないようなものだ。
 柱と呼ばれる事に意味があったのかと今でも思う。
 
 その男は鬼殺隊らしいと聞かされたとき、自分はどんな顔をしていたのか思い出せない。
 だが、あの人は嬉しそうだった、こんな行き遅れといってもいい自分をと嬉しそうに笑うのだ、なら喜んで送り出すしかないだろう、言葉を喉の奥に飲み込んで笑うしかない。
 良かったと、それなのに死んだのだ。
 男は鬼殺隊ではなかったのか、腕の立つ柱と呼ばれるほどの人間では、なのに殺された、あの人は鬼に殺された。
 何故、守ってやれなかったのか、その男は水柱で顔を隠す為、面を。
 
 いつも、天狗の面をつけていたらしい。
 

 



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