読む、書くの雑多な日々、気まぐれな日常

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息子が帰ってくるらしいので(ノックス)マルコーさんと一緒に暮らすことになりました

2021-05-26 18:16:16 | 二次小説

ハーメルンとpixivにもアップしています、今回少し時間がかかってしまった。 

 

 

 マルコーさん、包むの上手ですねと言われて思わず隣を見る、自分は夢中になっていたらしい、皿の上並んだ餃子は最初の頃よりは綺麗な形になっているのが嬉しくなり、教え方が上手だからだよとマルコーは隣で小麦粉を練っている彼女に笑いかけた、今日は友人宅で餃子作っている。
 飲み屋に行くより安くつくし、酔ったらすぐに寝られるからというノックスの言葉に頷くが餃子の量は半端ではない。

 「マルコーさん、ノックスさんから聞きました」
 
 思わず手を止めて何をと尋ねると、聞いてないんですかと少し困った顔で見られた、仕方ないなあと小さな呟きにそういえばとマルコーは思い出した、頼みたいことがあると言われたのだ。


 「おおっ、美味そうだ」

 できあがった料理を前にして、嬉しそうな友人にマルコーは尋ねた、頼みたい事って何だと。

 「いや、この間、俺が言ったら、引き受けてくれたじゃねぇか」

 「何を、覚えがないんだが」
 
 もしかして自分は酔っていたかと呟きながら、まあいいかと話し始めた。

 「実はな、ネェちゃんを預かってくれ、おまえ、まだホテルだろ」

 こういうのは寝耳に水というのだろう、しかも友人は自分が断るとは思っていないようだ、一体どういうわけでと聞くと帰って来るんだよとノックスは一瞬、真顔になった、その言葉に家族かと尋ねる。
 確か奥さんは再婚して遠くで暮らしていると昔に聞いた事がある、もう、会う事もないようだ、だが、子供は尋ねてくるようだ。


 「確か息子さんだったな、子供ができたから結婚するといってたが」

 するとノックスは首を振った。

 「子供も結婚もなしになった」

 なんだか妙な言い方だし、表情からして、おかしいなとマルコーは思ってしまった。
 
 「まあ、騙されていたわけだ」

 妊娠も嘘だったというノックスは、更にショックな言葉を続けた、有り金持って逃げたんだ、それを聞いて二人は、えっと顔を見合わせた、気の毒という言葉では言い表せないというか、慰めようがない。

 「その人、本当に実の息子さんですか」

 驚くというよりは、別の意味もあるのだろう、女の言葉にノックスは正真正銘、俺の息子で女に騙されたのは二度目だと呆れたように呟いた。
 
 踏んだり蹴ったりではないかと思ったマルコーに放っておけねぇだろとオヤジとしてはと言われて納得した。

 「で、帰って来たらオヤジの家には若いネェちゃんがいるなんてこと、落ち込むだろうが」
 
 そう言われてしまうと確かに辛いだろうとむ思ってしまう、頼むぜと言われてしまっては断れないマルコーだった。

 


 目を開けて起き上がろうとすると頭がクラクラする、いや、視界が定まらないというか、ぐるぐると回っている気がする、ああ、まずい、これは自分の限界がきてしまったんだと思って体を横にして寝ようとしてはっとした。
 あれっ、自分は講義を受けていたはずではなかったかと思い出した。
 何故、ベッドで寝ているんだろうと、ここもしかして医務室、なんとなく学生時代の保健室を思い出した。

 「気分はどうだい」

 男の人の声に思わずマルコーさんと呼んでみる、疲れがたまっていたんじゃないかい、そう言われて思わずはいと答えてしまう。


 それって、きっとストレスだよ、我慢のしすぎじゃない、若くても女性なら更年期は珍しくないよ。
 医者と友人からも言われた言葉を思い出す、ああ、やっぱり若くないから、女性ホルモンが年々減少するから、メンタルも弱くなってしまうんだわ、仕事もだけど結婚失敗したのも原因ねと。

 「講義が終わっても机に突っ伏したままで、スカー君もおかしいと思ったらしい」

 思い出した、まさかと思うが、ここまで運んでくれたのはスカーさんと聞くとそうだよと言われて落ち込んだ。

 「持病とかあるのかね」
 
 すると、ストレスだろうとノックスの声がした。
 
 「あれだ、ストレス、自律神経失調症ってやつだ、女の場合、歳は関係ない、更年期だな」

 言葉がぐさぐさと心臓に突き刺さる、オッサンは本当に遠慮がない、思わずノックスさーんと呼びかける。

 「これでもガラスのハートなんです、もう少し優しく」

 「まあ、全然知らない場所で生活してるんだ、色々あるだろう、ネェちゃんは、よくやってるぜ、これでいいか」

 とってつけたような言い方だけど、やっているというのは褒めて、いや、慰めてもくれているんだろう、うん、全然知らない場所で生活するって楽しい事もあるけど、大変なんだと、この日、改めて実感した。
 
 「今夜はマルコーと一緒にホテルに泊まれ」

 「お任せします、ううっ、気持ち悪っ」

 「おおっ、寝とけ、世話は医者のマルコーがやってくれる、安心して任せろ」

 お世話をかけますマルコーさんと心の中で繰り返していつの間にか眠っていたらしい。 
 

 
 
 
 その日、ノックスはロイ・マスタングに頼みがあると呼び出された。
 話を切り出した途端、自分は軍酢になる木はないと答えが即答で返ってきた、予想通りの返事だとマスタングはがっくりとなった。
 それにしても、何故、この医者、オッサンは自分に対して遠慮なくずけずけと文句が言えるのだろうと思った、やはり医者という職業のせいだろうか。

 「まあ、ここで断ったら人でなしといわれそうだからな、代わりの医者が来るまでは引き受けるぜ」
 
 「本当か、ノックス先生」
 
 「だが、一日中、こっちにいると自宅の療養所にも支障がでる、年寄りの病人とかいるんだ、だから協力してもらうぜ、友人に」

 最近、入ってきた若手の医者がブリッグズに移動することになった、引き抜きといえば聞こえがいいが、オリヴィエ・アームストロングのごり押しというやつだ。
 若い医者はセントラルの給料よりも破格で引っこ抜かれた、代わりの医者の打診をしているが、すぐに来ると言う訳にはいかず、白羽の矢がノックスに当たったのだが、
だが、自分の仕事を放っておいてと言う訳にはいかない。


 

 それで私にも協力しろと、マルコーは友人の話を聞いている間、質問も反論もしなかった、無駄だとわかっていたからだ。

 「錬金術講座は、もう少し続けるみたいな事を上は言ってる、おまえ、すぐに帰らないとまずいか、駄目なら若い医者を派遣して」
 
 「おい、そこまでしなくても」

 半ば呆れたというか脱力した友人の顔を見てノックスは、条件をつけてきたぜと笑った。
 
 「古いがな、一軒家を借りてきた、そこから、おまえさんは通えばいい、自炊はできるし、勿論、家賃光熱費はだだ、大佐が出す、若い頃から、お互い軍に、こき使われたんだ、これぐらい安いもんだろと言ったら文句は言わなかったな」
 
 そんな事を言ったのか、大佐の顔が目に浮かぶようだとマルコーは思った、にっこり笑っていないことは確実だ。

 「炊事、洗濯、掃除はネェちゃんにやらせろ、体調よくなったみたいだが」

 自分の知らないところで話はどんどんと進んでいる、一人の方が気楽だと思ったが、一軒家となると持て余すだろうと思いながらマルコーは構わないかと思った。


 それから数日が過ぎた。

 「おまえさん、出てきたんじゃねぇか」

 友人の言葉にマルコーは一瞬、はっとなった、友人の視線が自分の腹に向いていてぎくりとした。
 出ているというのは、やはり、腹だなと思う、いや、自分でも少し自覚はあったのだ、ズボンのベルトが最近、すこーし、きついなと、今まではホテル住まいだったので少しでも節約しなければと思いながら、食事は簡単なものが多かったのだ、だが、生活環境が変わり、自炊となると体を動かすことも多くなり、食欲も増してきた、その反動だ。

 「少しぽっちゃりぐらい、いいじゃないですか、可愛いですよ」

 ノックスの言葉に隣でサンドイッチを食べていた彼女が手を休めてマルコーを見た。

 「あのなあ、ネェちゃん、それ、本気で言ってるか」

 「ぽっちゃり熊さん、いいじゃないですか、夢の国ではクマさんはモテモテです、永遠のアイドルですよ」

 「あのなぁ、おまえさんぐらいだよ、そんなこというのは」

 だから、マルコーのようなオッサンと一緒でもと感心してしまった。

 「ところで息子さんは、どうです」

 「ああ、家に来てから夜になると飲んでるぜ、愚痴に付き合わされるこっちはたまったもんじゃねぇが、そろそろ、仕事を手伝ってもらうつもりだ」

 「お医者さんですか」

 「とにかく仕事をさせる、いつまでも未練がましく、酒ばかり飲んでって訳にもいかんだろう」

 父親の顔で呟くノックスは頭が痛いといわんばかりだ。
 見合いはどうですと女がノックスを見た、身元のちゃんとした、結婚願望のある女性なら大丈夫ではと言うと。
 
 「理想が高すぎるんだ、若くて、美人でボイン、優しい女がいいとか」

 それは高すぎるというよりは高望みしすぎているのでは歳は幾つですというと、ネェちゃんと同じくらいくらい、見た目は老けてるかもなとと言われて、聞いていたマルコーの表情までが、んんっとなった。

 「洒落になりませんよ、オッサンが芸能人やアイドルに恋してるみたいですよ、現実を見た方がいいって教えないと」

 「ガキの頃から教えてるがな、全然だ、親のいうことなんて右から左の耳の穴、風が吹き抜けてるみたいなもんだ」

 困ったと呟くノックスの顔は疲れた顔で二人が同情したのも無理はない。
 
 


 「マルコーさん、ノックスさん、ちゃんと食べてますかね」

 夕飯の支度をしていた彼女の言葉に心配しているんだなとマルコーは思った。
 友人の息子が帰ってきて一週間が過ぎた、一度、挨拶に行こうと思って覗いた事があったが、飲み屋とデリバリー、弁当屋という食生活だった、見かねて簡単な料理を作って冷蔵庫に入れておいたが、あれから気になって自分は何度か様子を見に行っているのだ。
 
 「息子さんは自炊とかするんですか」
 「そこはノックスと似ているというか、そっくりだ、料理はできない」
 「じゃ、容姿とか、顔立ちはどうです、似ているんですか」

 どう答えていいのか迷ったのも無理もない、子供の頃、一度、会った事がある、少し小太りの少年だったが、ところが、大人になった彼は背は高く、中肉中背というより
は少し痩せ過ぎではないかと思ったぐらいだ、しかも、髪も髭も伸び放題だ、ふられたショックなのだろうかと思ったが、あれではスラムの住人と間違われても無理はない
と思ったぐらいだ。

 「掃除とかしてるんでしょうか、部屋の埃ぐらいじゃ死にませんが、洗濯物は」
 「週に一度、まとめて行ってるみたいだな」
 「シーツや枕とか干してるんでしょうか、今は暖かいから汗もかきますよ」

 ああ、そういうのは、あまりやっていないだろう、多分、自分も一人なら、そこまで気が回らないかもしれない、一度、掃除に行ってみましょうかという彼女に、そうだなとマルコーは頷いた。

 「そうしてくれたらありがたいが、行ってみるかい、一度会っておくのもいいかもしれない」

 

 その日は講義もないので、昼を食べると差し入れの常備菜と料理、掃除道具を持ってマルコーと彼女はノックスの家を訪れた、診療所のスペースは、一応の体裁は保っている、だが、住居スペースは清潔、片づいているとはいいがたい。
 窓を開けて部屋の埃を外に掃き出して、洗濯、掃除に取りかかって、その間にマルコーは台所で持ってきた料理の準備を始めた。

 「大物の洗濯は今日は無理ですね、明日、朝一でコインランドリーに行きます、診療所のベッドの敷布とかも、この際、まとめて洗った方がいいですよね」
 
 半日では無理だったかと思いながら診療室で患者を診ている友人をちらりと見る、医者の腕はいいのだが、夫婦生活が続かなかったのは、自分の自堕落な部分が問題だといっていたのを思い出した。
 今、自分は料理、食材の買い出しぐらいなものだ、それ以外のことは全部やってくれるのだ、彼女が不満や文句を言うことはない、凄く楽だと思ってしまう。
 
 「おお、綺麗になったじゃねぇか、すまねぇな、二人とも」
 「明日、来ますね、シーツとか洗濯します、ところで息子さんはお出かけですか」
 
 返事がすぐには返ってこない。

 「実は軍医募集の話を聞いて面接に行ったんだ」
 
 腕が確かなら受かるのではないだろうか、でも、父親が軍の建物内で働いているとなると、親子で同じ職場になる、気にする人はいる、そういうところはどうなのだろう。

 「受からなければいいんだがな」
 
 とノックスはぽつりと呟いた。 


 鋼の錬金術師 一  タッカーの協力と電車事故、何故、三人は呼ばれたか、キンブリーとスカー、そ してマルコー

2021-04-24 08:03:03 | 二次小説

 ハガレンの二次です、少しシリアス風味になっています。

 

 

自分は眠っていたのか、そう思ったのはベッドに寝ていることを確認したからだ、いや、死んだ筈ではなかったか、死刑になった筈だ、なのに何故生きている。
 
 「あれは人形、身代わりをたてたのだ」
 
 男の声がした。
 自分は処刑されたはずではなかったか、人間と動物を掛け合わせて合成獣を作った罪で、違法だからという理由で、だが、自分の中では正義だ、動物は良くて人間は何故、駄目なのか、人間も動物ではないか。
 
 「君の行為を悪だと決めつけたのは浅はかな連中の愚行だ、君は愛していた家族を、妻と娘を」
 
 男の目が大きく見開いた。
 
 「だからこそ、私は」
 
 「知っているよ、奥方のことを、君は違法な実験に踏み切った、娘のことにしてもだ」
 
 「誰だ、あんた」
 
 「君と同じだ、失いたくない故に違法と知っていても手を出した、見せてあげよう」
 
 ついて来いと言われて男はベッドから起き上がると部屋を出た、長い廊下、空気がひんやりとする、着いた先のドアを開けて中に入ると、そこには大きな水槽が、そして中に入っているのは大きな魚かと思ったが、ばしゃんと水音がした。
 
 「ああ、お客を連れてきたんだ、驚かないでくれ」
 
 水槽から顔を出したのは女の顔だ、よく見たまえと言われて男は近づいた、水音がし、しぶきが男の顔にかかったが、そんなことは気にならなかった、水の中から現れたのは鱗に包まれた魚のような半身は、まるで小説やや映画に出てくる人魚だ。
 
 「彼女は事故に遭って動けなくなった、足がね、ただ、それだけだと思っていたんだ、だが、年を追うごとに弱っていく、原因が分からない、どんなに金がかかっても、命が助かるなら何でも、たとえ、禁止されていることで、だが、道が見えた、石だ」
 
 「もしかして、賢者の石」
 
 「ああ、軍が大量の石を作る為に、人間を犠牲にしたことは知っているかい、随分と昔のことだけど」
 
 「少し前に、囚人をという話を聞いた」
 
 バンッッ、何かをたたきつける音がした。
 
 「駄目なんだよっ」
 
 男の心と気持ちがざわりと揺れた。
 
 「協力してくれ、ブリックスなら最適だ、扉を開く、石があれば、君の妻と娘を取り戻すこともできるんだ」
 
 そんなこと、死んだんだ、すると、笑われた、賢者の石については詳しくないんだねと、男の心が、気持ちがざわりと揺れた。
 
 「軍も間抜けだ、いや、わざとかな、あんなものを賢者の石だというのか」
 
 「どういう、ことだ」

 「ただ、彼女を助けたいだけなのに、君だってそうだろう、妻と子供を、ショウ・タッカー」
 
 男は頷いた、かけていた眼鏡を外して拭ったが、それが涙などとは思いたくもなかった。

 

 葬式なんてまっぴらだというのが祖母の口癖だった、大勢の人間に集まって貰って亡くなった自分のことを、あの人はいい人だった、いや、結構、意地の悪い人だったよとなんて笑い話や酒の肴にされて、とんでもない、体の血が凍りそうだ、だから自分が死んでも葬式だけはしてくれるなというのが遺言だった。
 だから葬式はしなかった、というか先立つものがなかったというのもある。
 
 そんなある日、祖母の友人だったという女性が尋ねてきた。
 
 「頑固なんだよ、まあ、無理もないけど、葬式なんていいんだよ、それよりも、あんたに話したかなと思ってね、若い頃、突然いなくなったんだよ、家出って噂がたったけど」
 
 「そうなんですか、初めてです、祖母とは、あまり会うこともなかったし」
 
 「初めての時は大学、その後も何度かね」
 
 旅行ではというと相手は首を振った。
 
 「春はね、神隠しみたいだと言ってた、亡くなる前にあたしを呼んでね、だから、自殺したんだ」
 
 でも、病院で(老衰)と言いかけた自分に老婦人は首を振った。
 
 「連れて行かれたら大変だって、あんたのことを心配してた、ひどく、一度、誘拐されたろう」
 
 子供の頃のことだし、よく覚えていないんです、その言葉に老婆は笑った、忘れた方がいいこともあると。
 
 

 

 「お久しぶりです、先生、お元気でしたか」
 
 振り返らなくても声でわかる、正直、このまま無視していきたいところだが、そういう訳にもいかず、ティム・マルコーは振り返ると変わりはないわよ短く挨拶を返した。
 
 「傷の男、貴方も元気そうですね、しかも相変わらずの仏頂面だ」
 
 大きなお世話だと思いながら口には出さず、スカーは完全無視を決め込んだ。
 
 「しかし、何故、おまえさんが、ここに」
 
 キンブリーは死んだ筈だ、そんな疑問が顔に出たのかもしれない、すると、こちらこそですよとキンブリーは笑った。
 
 「シン国の医療術の進歩も大変なものだ、驚きですね、先生の顔も元通りだ、いや、以前より若返ったんじゃないんですか」
 
 「なんだね、お世辞のつもりかね」
 
 「嘘ではないですよ、ところでここに来たのは」
 
 「何も知らされてはいないよ、ただ、軍からの命令で来ただけだ」
 
 キンブリーはマルコーを見ると、そうですかと頷いた。
 
 そのときドアが開いた、飛び込んで来た女性は息を切らしながら部屋の中を見回した。
 
 「た、大佐は」
 
 我々、三人だけですよというキンブリーに女性は顔を曇らせた。
 
 「実は捕獲していたホムンクルスが逃走しましたっ、見張りの隙を突いて」
 
 「そのホムンクルスは、どこへ」
 
 「エンヴィーは」
 
 女性の言葉に三人の表情が、えっとなった。
 
 「死んだ筈じゃなかったのか」
 
 スカーの言葉に不思議ではないでしょうとキンブリーが笑った、自分でさえ生き返ったのだ、ホムンクルスの彼が、そうなっても不思議はない。
 
 「どこに行ったのかわかりますか」
 
 女は迷った様子で大佐はと言いかけたが、観念したのか小さな声で呟いた。
 
 「ブリックスです」
 

 

 祖母の知り合いは小説好きで沢山の古い本を自分にくれたので、それをスーツケースに詰めると準備は整った、海外旅行は初めてなので緊張する、電車に乗って空港まで行くのに一時間以上はかかるので余裕をもっていかないと。
 母親は少し不安そうな顔になった、何かあったら連絡してねといって送り出してくれたが、一週間ぐらいなら、よほどのことがない限り連絡はしないよというと、仕方ないわねといいたげな顔で送り出してくれた、どこか不安そうなのは昨日、祖母のことを聞いたからだ。
 
 「おばあ、祖母が若い頃、家を出て帰ってこないなんてこと、よくあったんだって、教えて貰ったんだけど」
 
 「ああ、教えて貰ったのね、最初は驚いたけど、何度もあると慣れてきて、もしかして帰ってきたくなかったのと思ったわ」
 
 何故か、母の言葉をあっさりと受け止めてしまう自分がいた。
 
 「貴方のこと、誘拐されたときは凄く心配して」
 
 もう大人、いや、おばさんだよ、いい年なのに彼氏も、結婚もせずに。
 
 「結婚しろとか、言わないよね、祐子(ゆうこ)さん」
 
 「まあ、遠慮してるのよ、これでも」
 
 遠慮、それに気づいたのはいつだろうか、そんなことを考えてバスに乗って、駅まで行く、何事もなくそこまでは。
 
 だが、電車に乗ろうとしたとき、思い切り背中を押された。

 悲鳴が上がった。

 「落ちたっっ」
 「いや、飛び込んだんだ」
 「女の人だわ」
 
 だが、確認しても死体は見つからなかった。
 事故ではない、自殺でもない、見間違いだったということで一時間ほどの遅れで電車は運転を再開した。


 「ああ、よかった」

 線路を見下ろした笑みを浮かべたのは眼鏡をかけた一見、どこにでもいる平凡な容貌の男だ。

 「さて、ブリックスからセントラルまでは時間がかかる」

 男は線路に飛び降りた。
 
  
 
 


ヒロイン登場、まだ名乗りなし 「結膜炎、ですか」と聞かれたスカ ー、そしてキンブリーは人たらし、ということです  2 

2021-04-06 21:38:10 | 二次小説

 その女はスーツケースをを引いて歩いていた、後ろ姿だけなのに、思わず足を止めてスカーは見入ってしまった、似ていると思ってしまったのだ、兄の友人に。
 姿を見かけないと思っていたら旅行に出掛けていたなんてことは、当たり前で、だが、旅から帰ってくると色々な国の話をしてくれた、土産もだ、それは友人の弟だから気を遣ってくれるのだと思っていた。
 黒髪だったが、太陽の光に透けると薄い茶色、時には金色に光って見えたりしたこともあった、そういうのはイシュヴァールの人間にはいなくて珍しかった、だから彼女の後ろ姿を時折、じっと眺めてしまう事があった。
 そんな自分の視線に気づいているなど、あの頃は気づきかなかった。
 

 

 牢屋に放り込んだ二人のキメラはすぐに釈放された、枷をつけられたこともある、それだけではない、上から、この件は終わりといわれてしまったからだ、余計な介入をするなと他の上層部からも言われたらしく、自分とキンブリーを呼び出したマスタングは奥歯に何か挟まったような、もごもごとした口調で、この一件、ご苦労だったというのでスカーはそうかと呟き、キンブリーはやれやれと肩を竦めた。
 
 「もう少し、しっかりして頂かないと、上の方々には」
 
 キンブリーの言葉にマスタングは、ぎろりと睨んだ。
 
 「それは私に対する嫌みか」
 
 「おや、そんなつもりはありませんでしたが」
 
 むっとした顔のマスタングを見て、スカーは内心、まただと思った、この男の怒った顔もだが、二人のやりとりは見ていて気持ちのいいものではない、いや、キンブリーのような人間に本気で怒ったところで仕方ないだろうとスカーは思ってしまう。
 
 

 その日、少女の姿を見つけたスカーが迷ったのも無理はない、あれから一週間近くも過ぎているのだ。
 声をかけて、あの時は驚かせて悪かったと一言謝ろうと思ったが、こういう場合、どんなタイミングで声をかけたらいいのかわからない、それに少女は一人ではない、他の子供達も一緒だ。
 ええい、仕方ない、このまま通り過ぎてしまおうと思った、だが、少女の方が気づいた、多少の気まずさを感じて立ち去ろうとしたが、話しかけられて、できなかった
 
 「軍人さんだったんですね、あの時は、ごめんなさい」
 
 頭を下げられて、すぐには言葉が出てこない、だが、少女はすぐに子供達の方に向か
って行く、引き留める隙もない、自分のコミニュケーション能力のなさに内心、まずいと思いながらも、スカーは歩き出した。
 しばらくは街中を巡回してくれとマスタングに言われていたからだ、セントラルは大きな都市で人口も多い、その為、他民族の人間、旅行者たちがトラブルに巻き込まれることも少なくない、警察、軍も領分、管轄に関係なく協力しなければというのだ。
 これも仕事と割り切るしかない、そう思いながらスカーは巡回を始めた。
 
 
 少し休みたいと思い、通りを歩いていたスカーはカフェに入った、ゆっくりしたいの
で紅茶だ、できれば甘いケーキも一緒に頭脳労働者だからと自分に言い訳しながら運ばれてきたカップ、ミルクをたっぷりと入れた紅茶を一口啜った。
 近くの席の初老の男性が珈琲を飲んでいる、ふと思い出した、ある男のことを、ティム・マルコー、結晶の錬金術師という二つ名を持っている男は医療研究者であり生態系錬金術師だ、仕事の時はいつも珈琲を飲んでいた。
 デスワークで遅くまで仕事をするので眠気覚ましの為らしいが、紙コップに入った冷めてぬるくなった珈琲を何杯もだ、自分なら正直、御免被りたいところだ。
 食べる事に興味がない、無頓着なのかと思ったら自分で料理はするらしい、腕前もなかなかのもので研究所員に振る舞ったりすることもあり、以前、自分も一度、口にしたことがあったが、なかなかだったことを思い出す。
 料理が趣味といえば聞こえがいいが、友人は、それほど多くないようだし、年も年だ
付き合っている相手などいるのだろうか、老後が気にならないのだろうか、そんなことを考えていると、ふとカップが残り少なくなっていることに気づいた。
 お代わりをしようかと少し悩んだが、席を立ったのは、いつまでもだらだらしている
わけにはと思ったからだ。
 最近、遠方からの人間がセントラルに多く来ている、旅行者だけではなく、大道芸
人、サーカスや見世物の一座だ、トラブルが増えているのでといわれて、それは自分の仕事なのかとマスタングに軽く嫌みを返すと、相手は無言になった。
 もしかして、周り、いや、上から何か言われたのかもしれないと思っていた、勿論、それは自分の予想だが、あの時のキメラの二人が釈放されたことにも不満ではなく、疑問を持っていた。 
 
 「さて、見回りでもしますか」
 
 席を立ち、歩き出す、まだ、午後を少し過ぎたばかりだ、早めのティータイムという
のも悪くない、そんなことを思いながらゆったりとした足取りで歩いていると足が止まった、少し離れた先でも分かる、あの男は。
 体格のいい褐色の肌の男、スカーだ、だが、一人ではない、女がいたからだ。
 まさか、ナンパ、いや、それはないなと否定したというのも明らかに女性の顔は。
 
 キンブリーは近づきながらわざと大きな声で呼びかけた。
 
 「こんなところで何をしているんです、スカー君」
 
 振り返り、自分を見た女の顔は、わずかにほっとした顔つきだ。
 
 「ああ、失礼しました、彼は私の部下なんです、市内の安全と見回りを軍から命じら
れていて、決して怪しい者ではありません」
 
 胸ポケットから手帳を取り出して女性に見せる、笑顔も忘れずにだ、女性は慌てて首を振った。
 
 「いえ、実は私が困ってるのを見かねて、声をかけてくれたんです、でも、びっくり
して」
 
 キンブリーは首を振った。
 
 「無理もありません、たまに間違われることもあるんですよ、犯罪者の方に、ほら、
サングラスぐらい、取ったらどうです」
 
 言われて渋々という感じでスカーはサングラスを取った、素顔が見えたことで女は緊張から、ほっとした表情になったようだ、だが、スカーの顔を見て尋ねた。
 
 「結膜炎、なんですか」
 
 
 

 

 「換金ですか」
 
 この国の通貨を持っていないという女の言葉にキンブリーは相手をまじまじと見た、衣服などから見て、この国の人間に見えないこともない、だが、よく見ると顔立ちや肌の色からして明らかに、国外の人間だ。
 どちらからいらしたのでしょう、最近、規制に一部ですが、制限がかかり、厳しくなっているのですよ、よろしければ見せてもらえないでしょうかと言葉を続けた。
 自分が警察、軍、公安の人間だと手帳を出したので安心しているのだろう、女は肩に
提げていたバッグから財布を取り出し中から取りだし、貨幣と札をキンブリーに差し出した。
 
 (見たことがない、どこの国のものだ)
 
 チラリと隣にいるスカーを見ると、相変わらずの無表情だ、しかし。
 
 (知らないようですね、でも)
 
 目の前の女性が犯罪者、いや、後ろめたいことのある人間なのかと聞かれたら、自分の感というものに対して自身を持っていたキンブリーは迷った。
 
 「あ、あの、もしかして無理ですか」
 
 「いえ、そんなことはありません、ただ、最近は旅行者も多くて、換金所も大変混雑
しているんですよ、もし、よろしければ」
 
 キンブリーの提案に女は驚いた。


鋼の錬金術師1  色々な事情がありました  キンブリーはデスワーク、スカーは墓参りに行ったそ うです

2021-04-04 12:21:07 | 二次小説

 その日は快晴だった、気分がいいのでルドルフ・キンブリーは自宅をいつもより早く出るとカフェでモーニングを頼んだ、死んだ筈の自分が生き返り再び、政府の為、軍人として働いているというのは不思議な気分だが、賢者の石の生成だけでなく、管理も厳しくするべきではないのかという意見が出たせいだ。
 石の本質、そのものをよく知っている人間がいるのは心強いという意見があり、軍の中でのキンブリーの立場は決して悪くはない、志願して部下になりたいという人間もいるくらいだ、好きな人間を使っていい、部下にしても構わないと上から言われてるので待遇としては、そこそこだ、不満があるとすれば一つだけだ。
 
 「珈琲のお代わりはいかがです、キンブリーさん」
 
 顔なじみになったウェイターの言葉に頷くと、カップに並々と珈琲が注がれると、ゆっくりと飲み干したキンブリーは、ご馳走様と席を立った。
 今日はデスワークだ、一日、机の前で書類と向き合わなければいけないのは少しばかり退屈だが、生きて行く為には金を稼ぐ、給料を貰わなければならないのだ。
 ところが、そんな予想を裏切るようにマスタングに呼び出された、急いで街に出て事件を調べろと、しかも協力しろという、個人プレー、一人で動く方が身軽で楽だが、だが、それはマスタング自身もわかっているのだろう、向こうも、そう思っているだろうと皮肉めいた言葉を吐かれて、何故と聞くと、返ってきたのは予想外の言葉だった。
 
 「傷の男と、協力しろと、それ本気で言ってますか、一体どういうこと」
 「軍人では話を聞き出すことが難しいからだ」
 
 どういうことなのかわからない、詳しく説明を求めるとマスタングは首を振った、自分の顔を見るのが嫌なのか、それとも忙しすぎて、そこまで頭が回らないのか、どちらにしてもキンブリー自身、執務室の中でマスタングと話をするより手っ取り早く、現場に行った方がいいだろうと決断を下した。
  
 くそっ、撒かれた、まずいな、傷の男、スカーは内心焦っていた、相手が凶悪な犯罪者なら問答無用で遠慮なく敵対できるのだが、子供相手だと部が悪い、強面の自分が声をかけると怖がられるだけならいいのだが、警戒心を抱かせてしまった。
 スラムの子供相手なら少しは慣れているつもりだった、ところが相手は市井の普通の子供だ、着ている物からして決して裕福ではないと思えた、だが、自分が声をかけると、その子供のそばにいたもう一人の子供が逃げろと叫んだのだ、自分の様子から察したのかもしれない。
  
 少女は息を切らしながら狭い通りを抜けて建物の陰に身を隠した、あの大きな体の男が声をかけてきた理由は分かっている。
  
 それ、賢者の石じゃないのか、仲良しのスラムの子が教えてくれたが、信じられない、だってとても高価な物だという、普通の家、貴族だって変えない位だというのだ、それに賢者の石は願いを叶えたら・・・・・・。
 だったら違う、何故なら石はちゃんと、ここにあるのだから。
  
 「見つけたぜ、小娘」
  
 振り返ると、男が立っていた、一人ではない、二人だ、しかも大柄で着ている服もボロボロだ。
  
 「あっ、あのときの」
  
 「そうだ、怪我をしたくなけりゃ、死にたくなきゃ、それを寄越せ、首から提げているやつだ」
  
 少女はぷるぷると首を振った、いやだ、これは大事なものだ。
  
 「賢者の石はな、子供が持ってたって」
  
 「違う、違うもん」
  
 少女は首を振った、友人もそう言った、この泥棒もだ、だが、違うのだ。
  
 二人の男が、ゆっくりと近づいてくる、その時、おやおやと静かな声がした。
  
 「昼間から子供の拐かしですか、感心しませんね」
  
 「なんだ、貴様」
  
 男が不快そうに呟く、帽子、スーツ、全身白づくめ、いかにも金を持っていそうな風体だ、だが、警察ですという言葉に二人の男は、まさかという顔をした。
  
 「ずらかるぞ、その前に」
  
  突然、二人の男の体が大きくなった、服が破けて、体が変化した、全身毛だらけの獣、オオカミにだ。
  
  「キメラですか」
  
 構えるキンブリーだが、二人は子供に向かって手を伸ばした、その瞬間、一人の体が吹っ飛んだ。
  
 「遅いですよ、まったく」
  
 キンブリーの言葉に建物の奥から表れたのは褐色の肌の大男、自噴に声をかけてきた男だ、少女は逃げ道を探して、通りに出ようとした。
  
  
 「おおっと、捕まえたぞ」
  
 悲鳴と同時に自分の体が毛むくじゃらの男に抱きかかえられる。
  
 「じっとしてろ、欲しいのは」
  
 大きな手、指が首にかかった銀の鎖にかかり、引っ張ろうとした。
  
 たっ、助けて、ここに自分を助けてくれる人はいない、だが、それでも少女は声を出すことこそできなかったが、心の中で叫んだ。
  
  
 その悲鳴はあまりにも大きすぎて、キンブリーもスカーも驚いた。
  
  
 地面に放り出されて転がった少女は男が自分の腕を押さえて悲鳴を上げていることに驚いた、いや、それだけではない、不気味な音をたてて、もう一人の男の体が建物の壁にめり込んでいるのだ。
  
 今しかない、少女は脱兎のごとく逃げ出した。
  
 
 
 ありがとうね、自分の差し出したパンを食べながら水を飲む姿に少女は不思議に思った、黒っぽいシャツ、長いスカート、肩にかかるぐらいの髪は黒っぽいが、白も混じっている、それに光に透けてところどころ茶色や金色に光っている、大きなスーツケースを持って、まるで魔女か旅行者のようだ。
 それだけではない、お腹を空かせていた、丁度、持っていたパンを渡すと代金だと紙のお札や硬貨を見せられた、外国のお金は見たことないと相手は少し考え込むような顔をしてトランクを開けた。
 中には色々な物が入っていた、服だけではない、シャンプー、いい香りのする石鹸、シャンプー、女の子の好きそうな物、いや、それだけではない。
 小さな箱の中には綺麗な色々な石が入っていた、これはね、旅行中に物売りのおじいさんに騙されて買ったのよと、その人は笑った。
 
 「インド人、嘘つかないなんていうけど、あれは嘘よ、こっちは騙されて嘘をつかれまくりよ」
 
 聞いたことのない国の名前だ、それに騙されたというのに笑っている、なんだかおかしくなって、思わず自分も笑ってしまった。
 赤い石が綺麗だと思って、これが欲しいというとペンダントにしてあげようと言われて思わず頷いた、すると袋から取り出した細い鎖や道具で、石を細工してくれたのだ。
 その様子を見ながら、この人は外国、遠い国から来た人だと少女は思った、亡くなった祖母が以前話してくれたことを思い出した。
 自分は子供の頃、遠くの国からから来た不思議な人に会ったんだよと、色々なことを教えてくれた、とても不思議な人だったと。
 
 まったく、傷の男ともあろうものが、先ほどからブツブツと呟くのは自分の対する完全な嫌みだ、二人のキメラの男を牢屋にぶち込み尋問する、赤い石なら賢者の石というのが有名な一説である為、二人のキメラは街中で偶然、少女の首のネックレスを見て、そう思ったらしい、単純過ぎると思ったが、夜中に忍び込んだ時に失敗したことで、本物の賢者の石だと思ったという。
 
 「では、あなたたちの仲間はもう一人いたが今は怪我をして隠れているという訳ですか、どうして」
 「あの石だ、ガキが叫んだら腕が吹っ飛んだ、だから本物なんだろう」
 
 泥棒の言葉にキンブリーは首を振った、もし、石の力で男達が怪我をしたとしても、それは運が良かったか、一度だけ、代価交換が伴う。
 
 「その子供、本人が何かの力を持っているとは思えませんか」
 
 キンブリーの言葉にスカーは首を振った、少女から、そんな感じは受けなかったというのだ。
 
 「石を複数、持っていたか、誰かが助けたと言うこともあり得ますね、祖母がいたようですね、今は」
 「病院らしい」
 「そうですか、では貴方に任せますよ」
 
 キンブリーの言葉にスカーは、えっとなった、そんなことを言われるとは思わなかったのだろう。
 
 「子供は苦手なんです、それに汚名挽回するのにいいでしょう、私は忙しいんです」
 
 デスクワークでと言いかけてスカーは黙りこんだ。
 
 「そういえば休んでいたんでしたね、葬儀で、体を動かすには丁度いいんじゃありませんか」
 
 「ただの墓参りだ」
 
 「そうですか、確かお兄さんのご友人とか」
 
 何故、知っているとぎろりと睨みつけたが、そんな視線を気にすることもなくキンブリーは、ティータイムに行ってきますと職場を出た。
 
 
 
 あの人は兄の友人で、亡くなってから、もう、三年がたつ。
 墓に花を手向けて、それで終わらせるつもりだった、ところが、偶然、出会ってしまった。
 
 「あなた、スカーさんでしょう」
 
 亡くなった彼女の友人だという女性が自分を見て驚いた顔をした、是非とも渡したい物があるといって自宅に招かれた。
 
 「これ、お守り、あなたムンクでしょう、彼女がね、あなたに渡そうと思ってたらしいの、その、隠していたみたいで最近になって、あたしの元に届いたのよ」
 
 何故と思ったのも無理はない、隠すとは、どういうことだ、すると、彼女の旦那さんはとわずかに顔を曇らせてああいう人だったからと、言葉を濁す。
 
 「お兄さんもだけと、貴方の事を気にかけていて」
 
 意味が分からないとスカーは女を見たが、いいの、知らなくていいのよと女は笑った。
 
 
 兄の数少ない女性の友人は自分のことも気遣ってくれた、彼女は自分よりも歳は上だった筈だと思う、いい年だから嫁にはいかないのかというと兄は少し困った顔をした、彼女は家族がいなくて独り身だ。
 だから、結婚は難しいだろうと視線をそらしていた、だが、それが本当の理由は。
 
 
 「彼女のこと家族のことは、あまり知らないのだが、家族はいなくても親族ぐらいは」
 
 自分が聞くと女は、知らないのと不思議そうな顔をして、お兄さんは知っていた筈よと言った。
 
 「彼女は、この国の人じゃないの、遠い国の、だから、シン国に嫁いだの、その、お守りね」

 女は何か言いかけたが、小さく呟いた。

 「私もわからないのよ、あちらの言葉は」
 
 
 
 
 
 


最終回一応というか、最終回、結婚しましたということで

2021-04-03 09:23:01 | 二次小説

 先生の知り合いに会うんでしょ、ちゃんとした恰好で行かなきゃ駄目でしょ、セントラルのホテルの一室では自分がコーディネートしたというスーツを着た女にラストは化粧を施していた。
 
  「な、なんだか、仰々しすぎない、いや、こんなにびしっと決めなくても」
 
  するとラストは一喝した。
 
  「相手も医者よ、助手ですって紹介されて変な恰好だと恥をかくのは自分一人だけじゃないのよ、セントラルで開業しているんだからね」
  
  「え、偉い人なのね」
 
  少なくとも助手のあなたよりはね、その言葉に頷く女の姿を見るラストは、ふうっと息をついた、しばらくすると用意はできたかねと入ってきたマルコーも、いつものくたびれたスーツではない。
 久しぶりに友人に会うからなと、その台詞はどこかぎこちないと感じるのは気のせいだろうか。
 
  「そんなに緊張しなくていい」
  
  「い、いえ、先生の、しり、いえ、友人ですし」
  
  実際のところ、緊張しているのは自分の方だとマルコーは思った、こういうのを騙し討ち、卑怯ではないかと思うのだ、幾ら背中を押されたからといって、勿論、セントラルにいる友人に会いに行くというのは嘘ではない、だが、それだけでないのも事実だ、駄目だといえないところに自分の気の弱さがある。
 こういうのは思い切り、こっち側から切り出した方が女は嬉しいものなのよといわれて、自分と彼女は、そういう関係ではないと訂正しようとしたのだが、いや、傍から見たら完全に夫婦、できている関係といわれて言葉が出なかった。
 
 「好きって普段から言われているじゃない」
 
 「いや、あれは、恋愛とか、そういう意味ではなく」
 
 「自覚のない男って、これだから」
 
 呆れたような物言いで返されてマルコーは言葉を飲み込んだ。
 
 
 

 その日の午後、尋ねてきた友人姿を見てノックスは驚いた。
 
 「本当に来たのか、おまえさん、いや、手紙が来たときは驚いたが」
 
 「ああ、こんなこと頼める人間がいなくてな」
 
 その言葉に眼鏡をかけた医者は、マルコーと女を交互に見た、何か言いたげにだ。
 
 「まあ、茶でも入れるから、話はそれからだ」
 
 
 出されたお茶は渋かった、茶葉の入れすぎではないかと思ったが、まあ、男一人だというから、こんな物なのだろう。
 
 「とりあえず、俺の名前を書いといた、だが、その前に聞いていいか、あんた」
 
 ノックスは女を見ると真顔になった。
 
 「本気で、こいつと結婚、するのか」
 
 頭がフリーズしたのはいうまでもない。
 
 
 
 「いや、あそこで否定されたら、どうしようかと思ったよ、ははっ」
 
 最後の笑いが、少し力が抜けたように感じるのは気のせいではないはずだ。
 
 「首謀者はラストですね、で、先生も一緒になって直前まで黙っていて」
 
 「悪いと思ったんだ、だが、まあ、なんというか」
 
 途切れ途切れの言葉を聞いていると焦っているんだろうなあと思わず笑いたくなるが、それを我慢する。
 
 「役所に届けを出したし、帰りますか」
 
 「いや、今からだと帰るのは遅くなる、宿を取ってあるはずだ、そうだ、指輪でも」
 
 んーっと考え込むと美夜は一瞬、悩んだ、ブリックスは寒いし、金属のアクセサリーは冷たくありませんかと、その言葉にマルコーは、あっと思った。
 
 「それに恥ずかしくないですか、なんだか、結婚しました、夫婦ですって公言しているみたいで、それよりも」
 
 突然、自分の手を掴まれてマルコーは唖然とした。
 
 「こっちの方がいいですよ、冷たくないから」
 
 いや、指輪より恥ずかしいと思いながらマルコーは周りを見た、すれ違う人間に知り合いがいたらと思ったからだ。
 
 「恥ずかしく、ないかね」
 
 手を離そうと思っても何故かできず、隣を見たが。
 
 (なんだね、その)
 
 わずかに顔を下にして俯きかけた、その横顔は自分よりも、いや、ひどく恥ずかしそうな顔だ、それを見て何もいえなくなった、というか、楽しくなりマルコーは思わず笑いを漏らした。