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諸々の嗜好に対する思考と試行

殺人蚊(キラー・モスキート)前編

2005年10月05日 | 創作・架空
B級映画「殺人蚊(キラー・モスキート)」 1979年 アメリカ 粗筋(前編)

【農場】
アメリカのとある大農場の夏。
その片隅に設置された10台の古い雨水桶。
雨水の一杯に溜まったすべての桶の中で、大量の赤黒いボウフラがウヨウヨと蠢いている。
農場では飛行機を使い殺虫剤が散布されている。
農場主の家の近くでは、3歳になる長男のステファンと愛犬スピーキーが楽しそうに駆け回り遊んでいる。
家の中では農場主の妻が得意のミートパイを作っている。
雨水桶の置いてある農場の片隅にまで、わずかに漂い流れてくる農薬。
ボウフラが、まるで熱湯に落とされた大量の小エビの如く一斉に飛び跳ね、バシャバシャと水を飛ばす。

ある朝、納屋に置いてある農機具を取り出しにきた農場主は、裏庭の薄暗い藪の中でスピーキーが干乾びて死んでいるのを発見する。
昨日まではあんなに元気だったのに・・・
農場主は急いで獣医ロッドを呼び調べてもらうが死因は不明。
ロッドはスピーキーの亡骸を見て、全身の血を抜かれたようだと思った。
しかし外傷はなく、興味を持ったトッドは農場主に許可を得てスピーキーの遺骸を防疫ケースに入れて持ち帰った。

あの雨水桶にボウフラは一匹もいない。

母親の腰に抱きついて泣きじゃくるステファンの上腕部に止まっている一匹の蚊のかすかな羽音。

【動物病院】
農場から数キロはなれたところにあるロッドの動物病院。
車で農場から帰ってきたロッドは、今日が休診日であるのをいいことに、すぐさま解剖室に入り白衣とマスクを着用し、最後に手術用手袋をはめた。
防疫ケースから取り出され、解剖台の上に横たわる干乾びたスピーキー。
ロッドはピンセットとメスを持った。
「さあさあワンちゃん。パパと遊びまちょうねー」
軽口を叩きながら、ロッドのメスがスピーキーの胸から下腹部にかけてを切り裂く。
ミイラのようになったスピーキーの体内は、表皮と比べればまだ瑞々しかった。
胃を切開したロッドは、胃壁に点々と貼り付いている幾つかの黒く小さなものを見つけた。
手袋をした指でその小さなものを取り出してみる。
芥子粒のように小さいものだ。
「なんだこりゃ・・・」
呟きながら、続けてロッドは気道から肺にかけてを切開した。
ロッドは息を呑んだ。
ロッドがそこに見たものは、気道から肺の内部にまで、びっしりと溢れんばかりに詰め込まれた極めて小さな羽虫の塊だった。
茫然とするロッドは、ブルッと頭を一振りすると傍らにある電話に飛びついた。
州立大学の研究室にいるはずの幼馴染の昆虫学者メリッサ・シールズにコールするために。

【都市】
農場から百数十キロ離れた都市にある、古いオフィスビルの3階。
小さなIT企業に勤務する女性ロイニーがパソコン画面をにらみつつ一人残業している。
するとダクトだらけの天井の方から昆虫の羽音のようなかすかな物音がした。
不審げに上を見上げるロイニー。
しかしもう何も聞こえてこない。
再び仕事に熱中するロイニー。

翌朝、クライアントへのプレゼンの準備のために一番で出社してきた黒人男性社員ブローンは、フロアに倒れている赤黒く干乾びたミイラのような死体を発見する。
そしてそれは可哀想なロイニーのなれの果てだったのだ。

ブローンは彼の通報で駆けつけた刑事ヨハンソンに「一体全体、何が起こったんどよー」と噛み付く。
彼は興奮するとなぜか「だよー」が「どよー」になるのだ。
子供の頃からの癖だった。
ヨハンソンはそんなブローンの顔をまじまじと見つめ、困った顔で「・・・捜査中だ」と答えるだけだった。

【再び農場】
その農場では元気なステファンの声も、農場主やその妻の笑い声も聞こえてこない。
昨日刈り取った農作物が、家の前に積み上げられたまま放置されている
スピーキーが死んでしまったからではない。
もうすでに彼らは家の中で赤黒いミイラとなって死んでいる。

【再び都市】
オフィスビルでの事件から3日後。
刑事のヨハンソンは検死官から回ってきたロイニーの検死報告書を読んでいたが、その結論部分に我が目を疑った。
「遺体内部、特に気道から肺内部にかけて、微細な昆虫と思われるものの無数の死骸で満たされており、その他の状況も含めて考察するに、死因は失血死ではなく窒息死と思われる・・・」

【大学研究室】
「何よ、久しぶりに電話してきたと思ったら、突然「話がある。今から行く」ガチャンって!あなた昔からちっとも変わらないわね!何なのよまったく!」
両手を腰に当て脚を少し開いた格好で、昆虫学者のメリッサは研究室に訪れた刑事ヨハンソンに向かって怒鳴っていた。
「君こそ、その怒り方は昔のまんまだ」
苦笑いしながらヨハンソンはメリッサに言った。
メリッサは「しようがない人ね」と溜息ながらに言って、ヨハンソンを目の前の応接ソファに座るように促し、自分もテーブルを挟んだ向かいのソファに腰を下ろした。
「それで、そんな急ぎの用って何なの?事件なの?それともプライベート?刑事さん」
「事件だ」
「どんな事件なの?昆虫学者の私に話を聞いて解決するような事件なの?」
「いや、それはわからんが・・・とにかく訳が判らんのだ」
「詳しく話してみてちょうだい」
ヨハンソンは先日古いオフィスビルで起きた事件の経緯を話し、検死報告書のコピーをメリッサに手渡した。
「ふーん、で、なんなの?この気道や肺に微細な昆虫って?」
検死報告書に目を通しながらメリッサが聞いた。
「それがわからんから、ここに来たんだ」
「昆虫って言っても、種類はわかってるの?」
「検死官は蚊のようだと言ってる」
「その被害者、殺虫剤メーカーの蚊の培養室にでも入ったんじゃない?」
「いや違う。さっきも話したように被害者はIT企業のオフィスのフロアで死んでいたんだ」
「・・・冗談よ。で、私はその蚊らしきものを詳しく調べればいいのね」
「ああ、ああ、その通りだ。やってくれるのか。ここに遺体の体内から採取したサンプルがある」
「幼馴染でガキ大将だったあなたの頼みじゃ断れないわね。来週の頭にはある程度詳しいことが判ってると思うわ」
サンプルをメリッサに手渡しながら、ヨハンソンは満足げにうなずいた。
「そうそう、いいこと教えてあげましょうか。昨日ロッドから電話があったわ。珍しいことね何年も連絡がなかった幼馴染が突然2人も電話をかけてくるなんて」
「ロッドって、あの秀才ロッドか?今は死んだ親父さんの跡を継いで獣医をやってるそうだが」
「そうよ。なんだか彼も慌ててたわ。あなたほどじゃなかったけど。彼、今日これからここに来るのよ」
「あ、そうか・・・あ、じゃあ」
腰を上げようとするヨハンソンにメリッサが言った。
「三人で久しぶりに昔話に興じましょう」

【街のレストラン】
レストランのドアを開けて入ってきたロッドに手を上げ、メリッサは「ここよ」と声をかけた。
ロッドは汗を拭きながら、メリッサの向かいに座っている男を訝しげに見つめた。
「・・・ヨハンソン!ヨハンソンじゃないか!」
「久しぶりだなあ、ロッド」
ヨハンソンはロッドを眩しそうに見上げた。
ロッドはガキ大将だった頃のヨハンソンを思い出しながら言った。
「最後に合ったのは君がベトナムから引き上げてきた頃だったか?」
「そんなに前じゃない」
「・・・冗談だよ。いやしかし君が来てるとは驚いた。まったく驚いた」
二人のやり取りを、いたずらが見事に成功した子供のように嬉しそうに見ていたメリッサがロッドに席をすすめる。
しばらくの間三人はメリッサの提案どおりに昔話に興じた。
「・・・ところで、ロッド。あなたまで慌てて私のところに来るなんて」
「うん、ちょっと見当も付かないことがあってね」
ロッドは犬のスピーキーの件をかいつまんで話した。
「驚いたな」
メリッサと顔を見合わせながらヨハンソンが呟く。
「だろ?なんであんなに大量の虫が気道や肺に・・・」
「違うのよ。今日ヨハンソンが私のところに来たのも同じ件なの。もっとも不幸に会ったのはロッドの場合と違って人間だけど」
興奮するロッドの言葉を遮ってメリッサが言う。
「なんだって!?一体何が起こってるんどよー」
ロッドもまた興奮すると「だよー」が「どよー」になる癖の持ち主であった。

【再び都市】
蒸し暑い夏の午後、ヨハンソンは事件のあったオフィスビルにいた。
第一発見者のブローンは目ざとくヨハンソンを見つけると、小走りに駆け寄ってきて、まるでそれが自分の使命だと言わんばかりに、しつこいほど捜査の進展具合を聞き出そうとしていたが、ヨハンソンが煩げに手を払いながら「目下捜査中だ」と言うと「どうして教えてくれないんどよー」と興奮しつつも残念そうに引き下がった。

ヨハンソンは一階にあるビルの管理事務所に向かった。
管理事務所には初老の管理人と若い警備員らしき男がスターバックスのコーヒーとを飲みながら談笑している。
ヨハンソンはコツコツと軽く窓を叩いた。
初老の管理人がこちらを振り返り、手を伸ばして窓を開けた。
「お楽しみ中すまないが、話を聞かせてくれないか」
ヨハンソンは手早く警察手帳を見せた。
「で、なんだい?事件のことなら俺達には何にもわからないぜ」
「このビルには蚊がいるか?」
「蚊?蚊くらいなら今の季節どこにでもいるだろうよ」
「そんなんじゃない。もっと大量の蚊だ」
「そんなもの・・・ああ、そういえば去年の夏は蚊が大発生しやがったな」
「その話を詳しく聞かせてくれ」
「テナントからクレームがきたんでさあ。蚊が多くて困るから、なんとかしろってな」
「それでどうした?」
「どこでクソ野郎が大発生してるのか、このビルをくまなく探し回ったぜ。せっかくの気ままな管理人仕事を手放すわけにはいかねぇからな」
「で、発生源は見つかったのか」
「ああ。地下のエレベータ落下緩衝器に水が溜まって、そこで気持ち悪いくらいの大量のボウフラが浮かんでやがった」
「で、どうしたんだ?」
「すぐに殺虫剤を買ってきて、しこたま振りかけてやったよ」
「蚊はいなくなったか?」
「ああ、ばっちりだ。クレームもピタリと止んだよ」
「地下を見せてもらってもいいか?」
「いいとも。こっちだ」
管理人は懐中電灯を二つ持ち、こちらに出てきた。
そしてヨハンソンを階段下の扉に案内すると、鍵を開けた。
「さ、この下だ。これを使いな」
管理人はヨハンソンに懐中電灯をひとつ渡し、先に下りていった。
ヨハンソンは何となくただならぬ気配を感じ取り、辺りを確認しながらゆっくりと下りていく。
その時、下で管理人のくぐもった悲鳴が聞こえた。
慌てて走り出すヨハンソンだったが、湿った階段に足を滑らせ、転倒し気を失ってしまった。

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ここまでで、約45分。
超の付く低予算映画であり、肝心の蚊はほとんど出てこない。
笑っていいのか、深刻になればいいのか判らぬシーンが多く、続きを書く気力も半分失せている。

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