無明長夜もかくばかり…

食のこと、家族のこと、ペットのことや日々の雑感… 
手探りをしながら、書き綴っていきたいと思います。

The Sounds of Silence

2007-06-01 | 


残業中の事。
向かいに座る女性デザイナー・Kちゃんが
コンビニで夕食を買って戻ってきた。
こちらも仕事に気をとられていたのだが
飯を喰っているはずなのに、何も音がしない。
椅子から立ち上がって、Kちゃんの様子を伺うと
焼きうどんだか、焼きそばだか分からないが
なにやら汁無しの麺類を喰っているようなのだが
それを啜る音がしない。
啜るどころか、咀嚼する音すらしない。

「よく音を立てずに喰えるね」

オレが笑いながら言うと、彼女も笑って言う。

「熱い麺類なら音、立てますよ~」

そういえば、西巣鴨に事務所があったときも同じような事があった。
この時は、並んで座っていたもう一人の女性デザイナー・Rちゃんも一緒に
二人でやはりコンビニのパスタを、やはり無音で黙々と喰っていた。

まぁ若い女性だからねぇ…
あまりズバババと派手な音を立てられても
それはそれで引くかもしれないが
そんなに大人しく喰って、果たして旨いものなのか。

考えてみると、フレンチやイタリアンなどで
舌を火傷するような、アッツアツの料理というのは少ない。
ワインを呑み、会話を楽しみながら
時間をかけて喰う料理だから、
麺類のように、早く喰わないと伸びてしまうものは
相応しくないのかもしれない。

「クッチャクッチャ噛みやがって!口の中でウ○コになっちまうぞ!」

お下品な話だが、飯の上に直接オカズを乗せちゃう丼物が人気の国だ。
そもそも「早メシ早グソ芸のうち」などと言う忙しない国民性。

随分昔になるが、とあるラーメン屋で晩飯を喰っていたとき、
一人の欧米人女性が入ってきた。
注文したのはタンメンか何かだったと記憶しているが
レンゲでスープを飲みながら、まぁ見事なくらい無音で喰っていたっけ。

蕎麦を喰うことを「たぐる」という。
「手繰り寄せる」からきた言葉であろうが
文字通り、蕎麦を手繰るように喰うのが、いわば正式な喰い方だ。
ざる蕎麦を箸でつまみ、そば猪口のつゆに麺を浸ける。
この際、すべて麺をつゆに浸してはいけない。
持ち上げた麺の下3分の2ほどを汁に浸け、あとは勢いよく啜りこむ。
啜りこむ事によって、そばつゆが麺を伝って持ち上がってくる。
それが江戸っ子の「粋」な喰い方。

例えば洋食では、皿を持って直接口をつけてはいけないとされている。
スープを飲む際、皿の端に口をつけ、
僅かに残ったスープを啜りこめたら、なんと幸せなことか。
パスタを喰うとき、箸でつまんでズズズッと啜れたら…
しかしそれはマナー違反とされているから
少なくとも外食の際は絶対にしない。
家ではよくやるがね。

だからといって、蕎麦やうどん、ラーメンも
西洋のマナーに囚われる事は無い。
器を手に持ち、直接口をつけて汁を吸うのも
音を立てて麺をすするのも、日本の文化だ。
何も恥じる事は無い。

以前、あるラーメン屋で見た外国人男性。
ラーメンが大好きだという話を、店主としていて
出されたラーメンを、勢いよく音を立てて啜っていたっけ。
天晴れな粋なガイジンだ。

最近、コンビニで売っているざる蕎麦。
四角いブロックで仕切られた器に、塊で入っている。
「弁当」という、茹でたてではない性質上
こうなっているのは至極当然なのだが
なんか蕎麦の塊をつゆに浸し、
モソモソと喰う姿は、なまじ旨いだけになんとも情けない。

昨年、スペインに行った時の帰りの飛行機
久しぶりにありついたカップラーメン。
隣に座っていた、フランス人夫婦の手前
音を立てずに完食したオレは、もっと情けない…


嗚呼…無明長夜もかくばかり…



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