goo blog サービス終了のお知らせ 

作物病害 メモ帳 主に畑作物に寄生するネコブカビ類

作物の病害に関するメモ #コムギ #テンサイ #バレイショ #マメ類 #ソルガム #Polymyxa

Indian peanut clump virusとPeanut clump virusの類縁性についての研究結果の報告

2022-04-12 11:55:49 | 文献概要
(マメ科に感染するPolymyxa属菌と媒介するウイルスに関する文献リスト(5))
 
Title: Genome properties and relationships of Indian peanut clump virus
(Indian Peanut Clump Virusのゲノムの特性と類縁関係)
Author: Reddy D V R et al.
Journal: J. fen. Virol.  66: 2011-2016 (1985)
 
★コメント★
 この論文が書かれた時期には、まだIPCVとPCVの類縁関係や、Polymyxaで媒介される他のウイルスとの類縁関係がはっきりしていなかった。この論文では、IPCVはPCVと血清学的な関係は無いが、他の特性で似ているところがあることから、1系統と結論している。現在では、別種とされています。また、IPCVとPCVは、SBWMV、ジャガイモモップトップウイルスと科は同じで属が異なり、ビートえそ性葉脈黄化ウイルスとは科が異なります。
 
Summary
 Indian peanut clump virus(IPCV)のL株の棒状粒子から抽出したRNAは主に2つのsingle-strand種からなり、グリオキサールで変性させたサンプルのゲル電気泳動で推定した分子量はRNA-1が1.83×106、RNA-2が1.35×106であった。RNA-1とRNA-2は両者がPhaseolus vulgaris(インゲンマメ、品種Topcrop)の葉に病斑を生じるために必要だった。核酸のハイブリダイゼーションテストによって、IPCVの3株の間に強い塩基配列の相動性が検出された。これらのインド株と西アフリカのpeanut clump virus(PCV)の間の相動性は強くはなかった。これらの結果と、症状、粒子サイズ、自然の拡散状況からインド株は、PCVの系統と考えるのが良いと思われた。しかし、免疫捕捉電顕法ではインドの3株の間、インドの3株と西アフリカ株の間に関連が検出できなかった。PCVは典型的なfurovirusグループの特性を持つが、4株とbeet necrotic yellow vein、potato mop-top、soil borne wheat mosaic virusとの間に血清学的な関連は検出されなかった。
 
Introduction
 インドのPunjab州で見つけられたPeanut clump症状のウイルスは、西アフリカのウイルスとは血清学的な類縁性が無いため、Indian peanut clump virusと命名した。さらにPunjab州のウイルスは、BapatlaとHyderabadのウイルスとは血清学的な類縁性が少ないか無かった。この論文ではインドの2種のRNAが感染に必要であるか、抗原性(antigenic)の関係の欠如にもかかわらずインド株と西アフリカ株に類縁性があるかを記述した。また、これらのウイルスと棒状の粒子で土壌生息性のネコブカビ類がベクターの他のウイルスとの特性の比較を行った。
 
Methods
Sources and propagation of virus isolates
Purification of IPCV particles
Preparation of virus RNA
Electrophoresis of glyoxalated IPCV RNA for mol. wt. determination
Electrophoresis of IPCV RNA for infectivity assay
Treatment of virus RNA with proteinase K
Infectivity assay
immunosorbent electron microscopy (ISEM)
Preparation of complementary DNA and hybridization with RNA
 
Results
Size and infectivity of IPCV RNA species
 Dundeeで栽培した場合、N. benthamianaにはIPCV-B、H、Lともに全身モザイク症状を示した。N. clevelandiiは、IPCV-Lのみ強いモザイク症状を示したが他の2株はほぼ無病徴の全身感染であった。両種ともに計数できる局部病斑はできなかったが、全身感染した葉はウイルスの純化の材料にできた。インゲンマメでは局部えそ病斑、アカザには局部退緑斑が形成された。インゲンマメにおけるIPCV-Lはより個別の病斑となり感染性の量的な測定に向いていた。IPCV-LのRNA 5µg/mlはインゲンマメの葉の半分に約25個の病斑を形成した。抽出したRNAは、等量のRNAを含むウイルス粒子の0.5%の感染性を示した。
 glyoxalate(グリオキサル酸)で処理したIPCV-LのRNAはアガロースゲルによる電気泳動で2本の主バンドを形成し、それぞれ1.83×106と1.35×106mol.wt.と推定された。これらの値は未変性の場合の値より低いが2粒子の長さの比とはほぼ一致していた。250nmの粒子は大きい方のRNA(RNA-1)を含み、184nmは小さいほうのRNA-2を含むと推察された。
 電気泳動で分離したIPCV-LのRNA-1と2をインゲンマメに接種したところ、少数の病斑が形成されたが、両者を混合して接種すると非常に増加した。このことは両RNAはIPCVの異なるゲノムでありインゲンマメに病斑を形成するためには、両者が必要であることが推察された。
 
Sequence homology between RNA preparations from IPCV strains and PCV
 IPCV-LのRNAおよびcDNAを用いたハイブリダイゼーションの試験を実施し、結果はTable 2に示された。IPCVの3株は明らかに本質的な共通の配列を持っており、IPCV-HとBはLに比べてより近縁であると思われた。IPCVの3株はPCV-WAとも配列を共有しているが、IPCVの3株同士よりも広範ではない。さらに、IPCV-Lとpepper ringspot tobravirusとは相動性は無かった。
 
Serological relationships of isolates
 Table3に、ISEM(immunosorbent electron microscopy 免疫捕捉電子顕微鏡法)で調査した、インド株、西アフリカ株、形態が似る他のウイルスの間の血清学的な類縁関係を示した。その結果、ジャガイモモップトップウイルスとSBWMV(コムギ萎縮ウイルス)の間にのみ関連が見られた。
 
Discussion
 核酸のハイブリダイゼーションテストの結果は、血清学的に関係が見られなかったIPCVの3株で塩基配列相動性が高く、PCV西アフリカ株との間も高かった。IPCVとPCVはラッカセイに同じような病気を起こし、同様な粒子の形態をもち、同様な実験上の宿主範囲(アカザ属、タバコ属)を持ち、土壌伝染、種子伝染性であった。血清学的な関係は無いが、著者らはIPCVの3株をPCVの系統であると判断した。
 棒状ウイルスの中でPCVはSBWMVと類縁性が高い。SBWMVはPolymyxaを媒介者とするが、恐らくPCVもそう考えられる。SBWMVは、コムギの全身感染に必要でポリアデニル化していないssRNAを2種の粒子に含んでいる。さらにSBWMVのRNA1の翻訳物は大きなポリペプチド、RNA2はウイルス粒子タンパク質を生じる。インドのPCVはコムギに感染する。両ウイルスは粒子の長さは異なる。Shirako&Brakke(1984)は、SBWMVは新しい糸状菌が媒介する棒状のウイルスグループの基準となるメンバーで、暫定的にfurovirusと命名された。PCVはそのグループの候補メンバーである。他の可能性のあるメンバーとして、ジャガイモモップトップウイルス、ビートえそ性葉脈黄化ウイルスがあり、ツボカビ類が媒介者でdsRNAを有するtobacco stunt virusは異なる。

インドでもピーナッツ・クランプ病と同様の症状のウイルス病が発生したが、ウイルスはピーナッツクランプウイルスとは血清学的な関係はなかった

2022-02-17 16:02:38 | 文献概要
マメ科に感染するPolymyxa属菌と媒介するウイルスに関する文献リスト(4)

Title: The occurrence of Indian peanut clump, a soil-borne virus disease of groundnuts (Arachis hypogaea) in India
(ラッカセイ(Arachis hypogaea)の土壌伝染性ウイルス病のIndian peanut clump病のインドでの発生)
Author: Reddy D V R et al.
Journal: Ann. appl. Biol. 102: 305-310 (1983)

★ラッカセイが茂み状になり強い生育抑制を起こすclump diseaseの病原として、PCVが知られていたが、インドでは別のウイルスであるIPCVが病原であることを示した。

Summary
 インドのPunjab州の砂質土のラッカセイ(Arachis hypogaea)に小さい暗い緑の葉をつけ、ひどく生育阻害がある病害が発見された。この病害は圃場にパッチ状に発生し、同じ位置の引き続き栽培されたラッカセイに再度現れた。生育初期に感染した植物では、成熟した莢を着生しなかった。汚染圃場から採取した土に播種すると、典型的な症状を示す植物が生育した。Phaseolus vulgaris cv. Local(インゲンマメ)とChenopodium quinoa(キヌア)は、診断に適した宿主であることを見出した。この病害は、酢酸ウラニル染色で、直径約24nm、主に長さ約249と184nmの棒状の粒子のウイルスに起因することが示された。Indian peanut clump virus(IPCV)と命名されたこのウイルスは、西アフリカから報告されたpeanut clump virus(PCV)と、ラッカセイの症状、粒子の形状、土壌伝染性の点で似ていた。しかし、microprecipitin(微量沈降反応)、ELISA、immunosorbent electron microscopy(免疫捕捉電子顕微鏡観察)で試験したPCVの2系統とtobacco rattle (PRNとCAM系統)、pea early browning virusと血清学的な関係はなかった。

Introduction
 激しい生育抑制が特徴のラッカセイの病害は、最初にインドのPunjab州で1977年に観察された。この病害の発生は、砂土と砂壌土に限られていた。Punjab州のSangrurでは、調査したすべてのラッカセイ畑にこの病害が存在し、他にも砂質土壌での栽培で被害が発生していた。本病原ウイルスは、西アフリカで発生しているPCVとは血清学的に異なるため、Indian peanut clump virus(IPCV)と命名した。

Materials and Methods
・Virus culture
・Host range
・Physical properties
・Soil transmission
・Electron microscopy
・Serology

Results
・Symptoms in groundnut
 圃場では図1のようにいつもパッチ状に病気が生じた。典型的な症状は2~3週令の苗に現れた。植物体は生育抑制があり、新しい四枚葉(quadrifoliates)に退緑したリングを伴うモザイク症状が現れた。その後、感染葉は暗緑色になり光に透かすとわずかに斑点が見えた。開花しても子房柄(peg)は、通常のサイズの莢にはならなかった。根は暗色になり外層ははがれ落ち、ピンク色の内層が現れた。汁液接種では、根の症状は無いがそれ以外のすべての症状が再現された。
・Host range
 局部えそ病斑(necrotic local lesions)、Canavalia ensiformis(タチナタマメ)、Cassia obtusifolia(エビスグサ)、Vicia faba(ソラマメ)。
 局部退緑病斑(chlorotic local lesions)、Chenopodium quinoa(キヌア)、Cyamopsis tetragonoloba(クラスタマメ)、Vigna unguiculate(ササゲ)。
 全身葉脈えそ(systemic veinal necrosis)、Phaseolus vulgaris(インゲンマメ)。
 全身モザイク(systemic mosaic symptoms)、Capsicum annuum(トウガラシ)、Cassia occidentalis(ハブソウ)、Crotalaria juncea(緑肥クロタラリアの一種)、Nicotiana clevelandii(和名不明)、N. hybrid(和名不明)、N. benthamiana(ベンサミアナタバコ)。
 未感染、Cajanus cajan cv.Sharada(キマメ、品種Sharada)、Datura stramonium(シロバナヨウシュチョウセンアサガオ)、Glycine max(ダイズ、品種Bragg)、Nicotiana rustica(マルバタバコ)、N. tabacum(タバコ、品種White Burley)、Pisum sativum(エンドウ、品種Bonneville)、Vigna radiata(リョクトウ)。
・Physical properties
 失活する温度は60~65℃、希釈限界は10-3~10-4。25~30℃の室温で20日以上活性を保った。
・Soil transmission
 10~25cmの深さの土壌を採集し、160粒のラッカセイを播種したところ72の苗に典型的な症状が生じた。発病植物の葉の汁液からはELISA法によってIPCVが検出された。
・Electron microscopy
 切片にはウイルス様粒子がヘリンボーン(矢筈模様)状に観察された。
 圃場感染または汁液接種のラッカセイ、N. hybrid、N. clevelandiiの葉の汁液中の棒状の粒子の密度は非常に低かった。ISEM法では他の方法に比べ100~700倍の粒子が観察された。粒子のサイズは酢酸ウラニル中で直径24±2nm、長さ249±8nmと184±4nm。
・Serology
 微量沈降反応ではIPCVの抗血清はN. hybridの健全汁液とは反応せず、罹病葉では力価が64倍であった。PCVアフリカ株、TRV、PEBVの抗血清とN. hybridの健全葉と罹病葉汁液は反応しなかった。ELISAによるテストでも同様の結果となった。

Discussion
 この論文では55年前に記録されたインドにおけるclump diseaseが、ウイルスによって起こることを示した。この病害は西アフリカのPCVと症状、土壌病害、ウイルス粒子において似ていた。しかし、血清学的な反応は異なった。さらに宿主範囲も異なった。PCVと比べて壊れたIPCVのウイルス粒子が多く観察されたことなどから、粒子は不安定な性質であることが示された。
 調査からIPCVはインドに広く分布し、ラッカセイの経済的損失を招いているとみられた。インド各地のIPCVの特性調査、媒介者の確認、粒子の分離、化学的特性調査、外国産およびインドの抵抗性遺伝子源の大規模スクリーニングが進行中である。


peanut clump virus (PCV)はPolymyxa graminisによって媒介され、イネ科植物が重要な役割を持つ可能性

2021-04-20 22:25:00 | 文献概要
マメ科に感染するPolymyxa属菌と媒介するウイルスに関する文献リスト(3)

Title: Further properties of peanut clump virus and studies on its natural transmission(ピーナッツクランプウイルスの詳細とその自然伝搬の研究)
Author: J C Thouvenel and Fauquet
Journal: Ann. appl. Biol. 97:99-107 (1981)

★ポイント★
  
peanut clump virus (PCV)がPolymyxa graminisによって媒介されることを推察したことを報告した論文。
PCVはラッカセイに感染するが、ラッカセイの根にはベクターのPolymyxa graminisの休眠胞子が観察されない。また、ラッカセイの根を接種源にしても他の植物に感染させることができていない。このことは、ラッカセイはウイルスにとっては好適な宿主だが、P. graminisにとっては適していない可能性を示している。また、PCVのライフサイクルを考えた場合、自然界で生活環が完結しているのはイネ科植物であり、イネ科植物が感染源として重要であることを示している。

要旨
PCV粒子の純化物は1.00のA260/A280値(光散乱の補正後)を持つ。それらは、183Sと224Sの沈降係数を持つ棒状粒子で、塩化セシウムによる1.32g/mlの密度である。PCVは、8科に属する36種の植物に感染する。PCVとbarley stripe mosaic(大麦斑葉モザイクウイルス)、beet necrotic yellow vein(ビートえそ性葉脈黄化ウイルス)、Nicotiana velutina mosaic(和名不明)、tobacco mosaic viruses(タバコモザイクウイルス)とは血清関係が無い。
 PCVはラッカセイにおいて2世代にわたり種子伝染するが、great milletモロコシ属和名不明(Sorghum arundinaceum)、Phaseolus mungo(インゲンマメ属)、Nicotiana benthamianaでは種子伝染しない。
 ラッカセイ、great millet、コムギはクランプ病が発生しているラッカセイ圃場の土に栽培すると感染する。土壌の感染性は、乾燥条件25℃、3ヵ月間は保たれる。ラッカセイの苗は洗浄した自然感染したS.a.の根を混合した滅菌土壌で栽培すると感染したが、自然感染したラッカセイや茎を加えたり、汁液接種したラッカセイを同時に栽培したりしても感染しなかった。作物中のまばらなPCVの分布はラッカセイへの土壌の感染性と、Polymyxa graminisの休眠胞子が捕捉用のS.a.の苗の根には検出されるが、ラッカセイにはされないことが関連している。
 PCVはS.a.の根に強く関係し乾燥に強い媒介者によって伝搬されることが示された。これらの理由から、P. graminisはPCVの媒介者と考えられた。

・この論文では、純化したPCV粒子のin vitro特性、宿主域、土壌からと種子でのウイルスの伝搬を記述した。

材料と方法の概要
 PCVはアカザ葉で増殖させ、純化したものを用いた。無病徴感染は、アカザかラッカセイへの戻し接種で確認した。その他、ウイルス濃度、吸光スペクトル、平衡沈降、超遠心の調査方法を記載。

結果の概要
Properties of purified PCV
 Density in caesium chloride 1.32±0.01
 Analytical ultracentrifugation 沈降係数183S、224S、330S
 UV absorption spectrum 最大270nm、最小249nm、Amax/Amin=1.32

Host range(汁液接種による)
アカザの粗汁液では阻害物質のために、接種が不成功になることがあるので、純化ウイルスを用いた。結果はTable 1で、以下の科に属する種が含まれる。Aizoaceae(ハマミズナ科 ツルナ属を含む)、Amaranthaceae(ヒユ科 ケイトウ属、センニチコウ属の種を含む)、Chenopodiaceae(アカザ科だがヒユ科に統合された フダンソウ属、アカザ属)、Cucurbitaceae(ウリ科 キュウリ属、カボチャ属)、Gramineae(イネ科 =Poaceae スズメノチャヒキ属、モロコシ属、コムギ属)、Leguminosae(マメ科=Fabaceae ラッカセイ属、タヌキマメ属、レンリソウ属、シナガワハギ属、Scrophulariaceae(ゴマノハグサ科、表に記載のある2種は現在では科が移動になり、オオバコ科キンギョソウ属、アゼナ科ツルウリクサ属)、Solanaceae(ナス科、タバコ属、ペチュニア属、ホオズキ属)。
 ラッカセイ品種については、調査した品種は感染率にばらつきはあるものの、すべての品種で感染した。すべての場合で接種葉は無病徴だが、クランプ状になり退緑斑、眼紋斑の全身症状が若い葉で観察された。

Serological tests
純化PCVとビートえそ性葉脈黄化ウイルス、Nicotiana velutina mosaic、タバコモザイクウイルスの抗体とはmicro-precipitin techniqueでは反応が無かった。PCV抗体とタバコモザイクウイルス、オオムギ斑葉モザイクウイルスとも反応が無かった。

Seed transmission
 本病が広範囲に離れた地点で見られることから、種子伝染の可能性が示唆され、過去の報告でも伝搬するとされている。本研究でも罹病植物から採取された種子の苗を調査したところ、19.2%がPCVに感染していた。Sorghum arundinaceum、Phaseolus mungo、Nicotiana benthamianaは種子伝染しなかった。

Soil transmission
 ラッカセイ、great millet、コムギは、汚染土壌に播種した場合にPCVに感染し、病徴は、ラッカセイ、コムギに生じた。25℃乾燥状態で3ヵ月経過した汚染土壌にラッカセイを播種した場合は、8%に病徴が生じた。
 圃場から採取したラッカセイとgreat milletの根を染色して検鏡したところ、great milletの根のみからplasmodiophoromyceteのものと思われる休眠胞子塊が観察された。他のステージの観察からは、exit tubeを伴う遊走子のうになる多核の変形体が観察され、Polymyxa graminisと考えられた。
 P. graminisの休眠胞子は、Sorghum cernuum、Triticum aestivum、T. durumや他のイネ科植物に観察され、PCVに感染した。しかし、ラッカセイには観察されなかった。
 発生地の中心部の汚染土壌に栽培した植物は周辺部に比べて、本病によく感染しP. graminisも観察された。
 感染したgreat milletからラッカセイとgreat milletにはPCVは伝搬したが、ラッカセイからラッカセイとgreat milletには伝搬しなかった。PCVに感染したgreat milletの根を乾燥し25℃で2年間保存後にgreat milletに接種した場合は、根にP. graminisは観察されたが、PCVには感染しなかった。

考察の概要
・完全な抵抗性品種は無かったが、他の品種に比べて感染しにくい品種は存在した。
・他の棒状ウイルスと血清学的な関連はない。
・伝搬試験の結果、PCVの自然条件下でのベクターは、Polymyxa graminisであることが示された。
・P. graminisはラッカセイの根に観察されないが、P. graminisが感染後に生育しない可能性が考えられる。PCVに感染したラッカセイが他の植物への感染源にならないことは、これを支持する。
・PCVは、環境条件によっては2年間で感染性を失うこともあるが、条件によっては持続する。
・P. graminisは低温で活性が高いにも関わらず、Clump病は30℃以下ではあまり進行しない。
・PCVはhordeivirusとtobamovirusの中間的なものであるかもしれない。


peanut clump diseaseの病原ウイルスpeanut clump virusの性質 [マメ科に感染するPolymyxa属菌と媒介するウイルスに関する文献リスト(2)]

2021-04-20 22:23:53 | 文献概要
マメ科に感染するPolymyxa属菌と媒介するウイルスに関する文献リスト(2)

Title: Some properties of peanut clump, a newly discovered virus
Author: J C Thouvenel, M Dollet and Fauquet
Journal: Ann. appl. Biol. 84:311-320 (1976)

★コメント★
PCVに関する記載はThouvenelら1974が最初だが、入手できなかった。おそらく英文ではこれが最初。

要旨
Upper Voltaにおけるpeanut clump diseaseをもたらす汁液接種可能な土壌伝染性ウイルスについて記述した。それは主にアカザ科の種に感染し、アカザで増殖した。感染能の喪失はアカザの汁液で、64℃10分や10×-5で起こり、10×-4では感染した。純化法を記載した。粒子は棒状で190と245nmの長さが主であった。このウイルスは以下のウイルスと血清学的に無関係であった。tobacco rattle、pea early-browning、soil-borne wheat mosaic viruses、テンサイそう根病と関係するウイルス。

概要
1969年夏、Upper Volta(現在のブルキナファソ)のSariaにある農業試験場のラッカセイに病徴が観察された(Germani and Dhery, 1973)。症状は、セネガルで記載されたように’clump(茂み)’になる。同じ場所で栽培すると再び発病が見られ、土壌消毒によって軽減されることから、土壌伝染性病害であり、peanut clump virus(PCV)による病害であるとされている。この論文では、PCVの宿主範囲、純化、特性について記載した。
汁液接種による感染は、ラッカセイからラッカセイは容易だった。C,amaranticolor(アカザ)はラッカセイおよびC.a.の汁液による接種は容易だったが、恐らく阻害物質のためC.a.からラッカセイは伝搬しなかった。宿主範囲の調査には、C.a.の汁液を用いた。

宿主:ラッカセイ(Arachis hypogaea)7~10日後に新葉にモットル(不整形な斑点)、退緑斑点が生じるが、消えて葉は濃い緑色になり生育は止まる。アカザ(Chenopodium amaranticolor)、キヌア(C.quinoa)、シロザ(C.album)接種葉に黄化斑点、のちにリングスポットとなり葉脈にいたる。6~8日後には接種葉はしおれる。全身病徴はない。和名不明(C.ackenii)接種葉のみに病徴。ケアリタソウ(C.ambrosioidesまたは Dysphania ambrosioides)無病徴・接種葉のみ感染。和名不明(C.botrysまたはDysphania botrys)無病徴。和名不明(C.hybridum)接種葉のみ病徴。ミナトアカザ(C.murale 英名nettle-leaved goosefoot)接種葉のみ病徴。ヒロハアカザ(C.opuliforum)接種葉のみ病徴。和名不明、英名manyseed goosefoot(C.polyspermum  Syn. Lipandra polysperma )接種葉に無病徴、全身感染し弱いモットル。和名不明、英名red goosefoot( Oxybasis rubra  Syn. C.rubrum)接種葉のみ病徴。羽毛ケイトウ(ヒユ科Celosia argentea cv.plumosa)幼苗に接種1ヵ月後に全身にモットル、湾曲症状。
(メモ) アカザ科Chenopodiaceaeとヒユ科Amaranthaceaeは、ヒユ科 Amaranthaceaeとして一つの科に統合された。アカザ属Chenopodiumは、アカザ亜科Chenopodioideae、Chenopodieae連に属する。Lipandra属は、アカザ亜科、Atripliceae連に属する。
参照サイト http://lab.agr.hokudai.ac.jp/ikushu/gelab/spinach/Spinach_phylogeny.html

その他、ウイルスの諸性質については省略
伝搬:ワタアブラムシ、マメアブラムシでは伝搬しなかった。1苗に20頭のアブラムシを使用した。汚染土壌にラッカセイを栽培すると病徴が見られ、ウイルスも分離された。根には多くの線虫、Pythium属菌が観察されたが、伝搬については調査中。

考察では、PCVと他の類似の棒状ウイルスとの差異を述べ、ピーナッツクランプ病の病原であり、新種であることを述べている。

 この研究では、宿主域の調査では罹病したラッカセイが無かったので、アカザC. amaranticolorの汁液を用いた。ChenopodiaceaeとAmaranthaceae以外の植物に感染しなかったのは、アカザに含まれる阻害物質が原因の可能性がある。アカザからラッカセイへの伝搬に成功していないが、PCVがピーナッツクランプの病原体である強力な証拠がある。ウイルスは汁液接種した罹病ラッカセイからは回収されるが、健全植物からは回収されない。同様に電顕によって罹病植物の汁液にのみウイルス様の粒子が観察された。さらにアカザから抽出したウイルスを用いたPCVの抗体は罹病ラッカセイの粗汁液に特異的に反応した。
 190と245nmの2種の粒子の存在は、土壌での伝搬と同様にPCVやtobravirusesと、未分類の数種のウイルスとの類似性が指摘された。


複数の植物病害に対する生物的防除のための植物生育促進根圏細菌の選抜と評価

2020-12-03 23:25:39 | 文献概要
複数の植物病害に対する生物的防除のための植物生育促進根圏細菌の選抜と評価 
 
生物的防除剤の実用化のためには、広いスペクトラムを持つ菌株を使用することが望ましい。そのため、複数の病原菌に対して効果を持つ菌株を選抜した。植物の生育促進効果についても調査し、関連する二次代謝産物の産生を直接化学分析によって検出せず、antiSMASHによって検出した。 
 
Selection and Assessment of Plant Growth-Promoting Rhizobacteria for Biological Control of Multiple plant Diseases 
Ke Liu. ら 
Phytopathology 107(8): 928-936 (2017) 
 
【要旨】 
 研究では植物病害抑制効果について広いスペクトラムを持つ植物生育促進根圏細菌(PGPR)の選抜をin vitroと植物を利用して行うことを計画した。最初の選抜ではin vitroにおいて8種の病原に対して、196菌株のうち28菌株が抑制した。2次選抜では、これらの28菌株は6属の病原に対して広いスペクトラムの拮抗活性を示し、24菌株は植物生育促進に関与するとされている5種のtraits、すなわち窒素固定能、リン酸可溶化、インドール-3-酢酸(IAA、オーキシン)産生、シデロフォア生産、バイオフィルム形成を生じさせた。さらなる選抜では、28菌株のPGPRは植物を使用して複数の植物病害すなわちXanthomonas axonopodisによるトマトbacterial spot、Pseudomonas syringaeによるトマトのbacterial speck、Rizoctonia solaniによるトウガラシの苗立枯病、Pythium ultimumによるキュウリの苗立枯病に対する生物防除効果を試験した。28菌株のうち5菌株が有意に3病害に対して発病を抑制した。他の19菌株は2種の病害に対して効果があった。観察された広いスペクトラムの生物防除能力を理解するために、antiSMASHを用いて選抜された菌株の二次代謝物クラスターを推測した。bacillibactin、bacilysin、microcinなどの二次代謝物をコードしている遺伝子クラスターがそれぞれの菌株に検出された。結論として、選抜されたPGPR菌株は複数の植物病害に対する広いスペクトラムの生物防除活性を示した。 
 
【考察】 
いくつかのPGPR菌株は広いスペクトラムの拮抗作用を示し、また複数の植物生育促進に関与する物質生産をin vitroで示した。これまでにもそのような菌株の報告はあったが、それらはすべてPseudomonasで抗糸状菌活性のみの調査であった。いくつかのPGPR菌株は、複数の植物に複数の病害に対して生物防除ができた。また、これまでに報告された菌株は、機作が全身誘導抵抗性(induced systemic resistance)であったが、今回は拮抗作用であり、拮抗作用によっても複数の病害に効果があることが示された。 
 いくつかの菌株は、根圏でも葉面でも生存できることが示された。根圏と葉面では環境が異なっており、それぞれの定着性パターンの比較が必要である。 
 将来的には、複数のPGPR菌株を組み合わせ、1菌株での効果との比較をする必要がある。 
 
★感想★ 
作物の病害防除法の一つとしての生物的防除の弱点の一つは、有効な対象病害、病原の範囲の狭さである。その解決策として、広い拮抗作用と植物生育促進効果を持つ菌株の探索と利用の可能性を調査している。この方法は、複数の菌株を組合せる方法よりも、製品化がしやすく商品価値が高いと思われる。また、本論文で選抜された細菌は、Bachillus属菌で、芽胞を作るため保存性にも優れると考えられる。