作物病害 メモ帳 主に畑作物に寄生するネコブカビ類

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peanut clump virus (PCV)はPolymyxa graminisによって媒介され、イネ科植物が重要な役割を持つ可能性

2021-04-20 22:25:00 | 文献概要
マメ科に感染するPolymyxa属菌と媒介するウイルスに関する文献リスト(3)

Title: Further properties of peanut clump virus and studies on its natural transmission(ピーナッツクランプウイルスの詳細とその自然伝搬の研究)
Author: J C Thouvenel and Fauquet
Journal: Ann. appl. Biol. 97:99-107 (1981)

★ポイント★
  
peanut clump virus (PCV)がPolymyxa graminisによって媒介されることを推察したことを報告した論文。
PCVはラッカセイに感染するが、ラッカセイの根にはベクターのPolymyxa graminisの休眠胞子が観察されない。また、ラッカセイの根を接種源にしても他の植物に感染させることができていない。このことは、ラッカセイはウイルスにとっては好適な宿主だが、P. graminisにとっては適していない可能性を示している。また、PCVのライフサイクルを考えた場合、自然界で生活環が完結しているのはイネ科植物であり、イネ科植物が感染源として重要であることを示している。

要旨
PCV粒子の純化物は1.00のA260/A280値(光散乱の補正後)を持つ。それらは、183Sと224Sの沈降係数を持つ棒状粒子で、塩化セシウムによる1.32g/mlの密度である。PCVは、8科に属する36種の植物に感染する。PCVとbarley stripe mosaic(大麦斑葉モザイクウイルス)、beet necrotic yellow vein(ビートえそ性葉脈黄化ウイルス)、Nicotiana velutina mosaic(和名不明)、tobacco mosaic viruses(タバコモザイクウイルス)とは血清関係が無い。
 PCVはラッカセイにおいて2世代にわたり種子伝染するが、great milletモロコシ属和名不明(Sorghum arundinaceum)、Phaseolus mungo(インゲンマメ属)、Nicotiana benthamianaでは種子伝染しない。
 ラッカセイ、great millet、コムギはクランプ病が発生しているラッカセイ圃場の土に栽培すると感染する。土壌の感染性は、乾燥条件25℃、3ヵ月間は保たれる。ラッカセイの苗は洗浄した自然感染したS.a.の根を混合した滅菌土壌で栽培すると感染したが、自然感染したラッカセイや茎を加えたり、汁液接種したラッカセイを同時に栽培したりしても感染しなかった。作物中のまばらなPCVの分布はラッカセイへの土壌の感染性と、Polymyxa graminisの休眠胞子が捕捉用のS.a.の苗の根には検出されるが、ラッカセイにはされないことが関連している。
 PCVはS.a.の根に強く関係し乾燥に強い媒介者によって伝搬されることが示された。これらの理由から、P. graminisはPCVの媒介者と考えられた。

・この論文では、純化したPCV粒子のin vitro特性、宿主域、土壌からと種子でのウイルスの伝搬を記述した。

材料と方法の概要
 PCVはアカザ葉で増殖させ、純化したものを用いた。無病徴感染は、アカザかラッカセイへの戻し接種で確認した。その他、ウイルス濃度、吸光スペクトル、平衡沈降、超遠心の調査方法を記載。

結果の概要
Properties of purified PCV
 Density in caesium chloride 1.32±0.01
 Analytical ultracentrifugation 沈降係数183S、224S、330S
 UV absorption spectrum 最大270nm、最小249nm、Amax/Amin=1.32

Host range(汁液接種による)
アカザの粗汁液では阻害物質のために、接種が不成功になることがあるので、純化ウイルスを用いた。結果はTable 1で、以下の科に属する種が含まれる。Aizoaceae(ハマミズナ科 ツルナ属を含む)、Amaranthaceae(ヒユ科 ケイトウ属、センニチコウ属の種を含む)、Chenopodiaceae(アカザ科だがヒユ科に統合された フダンソウ属、アカザ属)、Cucurbitaceae(ウリ科 キュウリ属、カボチャ属)、Gramineae(イネ科 =Poaceae スズメノチャヒキ属、モロコシ属、コムギ属)、Leguminosae(マメ科=Fabaceae ラッカセイ属、タヌキマメ属、レンリソウ属、シナガワハギ属、Scrophulariaceae(ゴマノハグサ科、表に記載のある2種は現在では科が移動になり、オオバコ科キンギョソウ属、アゼナ科ツルウリクサ属)、Solanaceae(ナス科、タバコ属、ペチュニア属、ホオズキ属)。
 ラッカセイ品種については、調査した品種は感染率にばらつきはあるものの、すべての品種で感染した。すべての場合で接種葉は無病徴だが、クランプ状になり退緑斑、眼紋斑の全身症状が若い葉で観察された。

Serological tests
純化PCVとビートえそ性葉脈黄化ウイルス、Nicotiana velutina mosaic、タバコモザイクウイルスの抗体とはmicro-precipitin techniqueでは反応が無かった。PCV抗体とタバコモザイクウイルス、オオムギ斑葉モザイクウイルスとも反応が無かった。

Seed transmission
 本病が広範囲に離れた地点で見られることから、種子伝染の可能性が示唆され、過去の報告でも伝搬するとされている。本研究でも罹病植物から採取された種子の苗を調査したところ、19.2%がPCVに感染していた。Sorghum arundinaceum、Phaseolus mungo、Nicotiana benthamianaは種子伝染しなかった。

Soil transmission
 ラッカセイ、great millet、コムギは、汚染土壌に播種した場合にPCVに感染し、病徴は、ラッカセイ、コムギに生じた。25℃乾燥状態で3ヵ月経過した汚染土壌にラッカセイを播種した場合は、8%に病徴が生じた。
 圃場から採取したラッカセイとgreat milletの根を染色して検鏡したところ、great milletの根のみからplasmodiophoromyceteのものと思われる休眠胞子塊が観察された。他のステージの観察からは、exit tubeを伴う遊走子のうになる多核の変形体が観察され、Polymyxa graminisと考えられた。
 P. graminisの休眠胞子は、Sorghum cernuum、Triticum aestivum、T. durumや他のイネ科植物に観察され、PCVに感染した。しかし、ラッカセイには観察されなかった。
 発生地の中心部の汚染土壌に栽培した植物は周辺部に比べて、本病によく感染しP. graminisも観察された。
 感染したgreat milletからラッカセイとgreat milletにはPCVは伝搬したが、ラッカセイからラッカセイとgreat milletには伝搬しなかった。PCVに感染したgreat milletの根を乾燥し25℃で2年間保存後にgreat milletに接種した場合は、根にP. graminisは観察されたが、PCVには感染しなかった。

考察の概要
・完全な抵抗性品種は無かったが、他の品種に比べて感染しにくい品種は存在した。
・他の棒状ウイルスと血清学的な関連はない。
・伝搬試験の結果、PCVの自然条件下でのベクターは、Polymyxa graminisであることが示された。
・P. graminisはラッカセイの根に観察されないが、P. graminisが感染後に生育しない可能性が考えられる。PCVに感染したラッカセイが他の植物への感染源にならないことは、これを支持する。
・PCVは、環境条件によっては2年間で感染性を失うこともあるが、条件によっては持続する。
・P. graminisは低温で活性が高いにも関わらず、Clump病は30℃以下ではあまり進行しない。
・PCVはhordeivirusとtobamovirusの中間的なものであるかもしれない。



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