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作物病害 メモ帳 主に畑作物に寄生するネコブカビ類

作物の病害に関するメモ #コムギ #テンサイ #バレイショ #マメ類 #ソルガム #Polymyxa

マメ科植物のウイルス病 ― Polymyxa graminisが媒介していると思われるピーナッツクランプ病、ダイズ縮葉モザイク病、ソラマメえそモザイク病の類似点、相違点(1)

2023-06-27 22:44:49 | 文献概要

0.はじめに
 植物に寄生する原生動物であるPolymyxa属には、P. graminisとP. betaeの2種があり、それぞれ主にイネ科とヒユ科(主にアカザ亜科)に感染し、植物病原ウイルスを媒介する。これらの概要は玉田・近藤(2014)にまとめられている。Polymyxaには、マメ科植物に感染するタイプがあり、ピーナッツクランプ病を媒介するものが良く知られているが、わが国での本病の発生の報告は無いと思われる。しかし、農林水産省は本病の病原ウイルスのうちIndian peanut clump virusが日本に侵入した場合には、宿主であるラッカセイ、トウモロコシ、コムギが広く栽培されていることから経済的な被害が想定されるとしている(農林水産省横浜防疫所 2020)。一方、近年、日本でマメ科植物のダイズとソラマメに発生したウイルス病の媒介にPolymyxaが関与している可能性が示されている(Kuroda et al. 2010、冨高ら 2014)。そのため、ピーナッツクランプ病とダイズやソラマメの病害の類似点、相違点について、Polymyxaの関与を中心に文献調査を行った。

 

1.ピーナッツクランプ病
 ピーナッツクランプ病は、1967年頃に西アフリカ(Thouvenelら1976、(Thouvenelら1974が最初の報告だがフランス語のために未読))、1977年にインド(Reddyら1979)で発生が報告され、それらの地域で発生しているウイルス病である。
西アフリカとインド亜大陸で発生しているピーナッツクランプ病の病原ウイルスは異なり、西アフリカのものはPeanut clump virus(PCV)(Thouvenelら 1976)、インド亜大陸のものはIndian peanut clump virus(IPCV)(Reddyら 1983)で、この2種でPecluvirus属を構成している。このあたりのウイルスの分類や性質については、玉田・近藤(2014)に詳しい。

 

1-1 PCVによるピーナッツクランプ病
 PCVは土壌(Thouvenel et al. 1976)および種子伝染(Thouvenel and Fauquet 1981)する。PCVはラッカセイ以外にgreat millet(S. arundinaceum)、コムギにも土壌伝染した(Thouvenel and Fauquet 1981)。
発生土壌に栽培されたSorghum cernuum (S. bicolor(ソルガム)のシノニム)、パンコムギ、デュラムコムギなどイネ科作物もPCVに感染し、感染植物の根にはP. graminisの休眠胞子が観察されたが、 ラッカセイの根には観察されなかった(Thouvenel and Fauquet 1981)。さらに発生土壌で栽培したgreat milletの根を洗浄したのち滅菌土壌に移植し、同じ土壌にラッカセイまたはgreat milletを播種した場合、両者ともPCVに感染した。逆に発生土壌で栽培したラッカセイを移植した土壌に、ラッカセイまたはgreat milletを播種した場合は両者とも感染しなかった。PCVに感染したgreat milletの根にはP. graminisが観察された。また、汁液接種したラッカセイを植えたコンテナに健全ラッカセイを栽培しても、健全ラッカセイはPCVに感染しなかった。さらにPCVに感染したラッカセイの葉を混合した土壌にラッカセイを栽培しても感染しなかった。これらの結果から、ラッカセイではウイルスを保毒したP. graminisはウイルスを伝搬するが、P. graminis自身は十分な生育ができず、休眠胞子が生成されない可能性があると考察している。ウイルスに関してもDieryckら(2009)は、PCVを含むpecluvirusは、本来ラッカセイのウイルスではなく、イネ科のウイルスでありラッカセイには日和見感染をしていると考えている。


 結局、Thouvenel and Fauquet (1981)の論文ではラッカセイの根にP. graminisが観察されておらず、ラッカセイに感染したP. graminisによる接種試験もできないため、ラッカセイへのPCV感染に対するP. graminisの関与は十分には証明されていない。現在では分子生物学的な手法によるP. graminisの検出が可能なので、そういった方法によってラッカセイから検出できるかもしれないし、私は把握していないが、それらの方法で検出した研究結果が発表されている可能性もある。直接的な証明にはならないが、ラッカセイ根へのP. graminis遊走子の着生の観察も行ってみたいところである。
 そもそもP. graminisがウイルスを媒介することをきちんと証明できている病害はそれほど多くはないらしい(Dieryckら2011)。P. graminisの遊走子を接種源としてウイルス伝搬を再現できたのはBarley yellow mosaic virusとsoilborne wheat mosaic virusのみとのことである。そのほかいろいろな方法、レベルでベクターとウイルスの関係が調べられているとのこと。

 

 

 


保存中の高温はインド由来のPolymyxa graminisの休眠胞子の感染ポテンシャルにとって好ましい

2022-07-03 12:00:19 | 文献概要

[マメ科に感染するPolymyxa属菌と媒介するウイルスに関する文献リスト(9)]

High temperature during storage favours infection potential of resting spores of

Polymyxa graminis of Indian origin

A LEGREVE, B VANPEE, P DELFOSSE and H MARAITE

Ann. appl. Biol. 134: 163-169 (1999)

 

☆ひとことメモ☆

 Polymyxa属菌は多くの土壌ウイルスを媒介しますが(少なくとも21種)、この媒介者であるPolymyxa属菌は、休眠胞子の状態で、土壌中で宿主が無い状態でも数年以上生存できます。そのため輪作などの耕種的手法による防除効果があまり期待できません。殺菌剤も土壌消毒をするタイプのものはありますが、土壌全体に処理する必要があるためコストがかかります。この論文では、土壌中のPolymyxaの検出感度を上げることに加え、生態的な防除法を開発するうえで基礎的なデータとなる休眠胞子の発芽に焦点をあて、捕捉植物を用いたバイオアッセイによる方法で保存中の温度による胞子の発芽への影響を調べています。その結果、熱帯地域で分離されたPolymyxaの休眠胞子は、低温より高温で保存したほうが発芽しやすくなることが明らかになりました。

 

summary

Indian peanut clump virus (IPCV) の伝搬に関与するPolymyxa graminisの休眠胞子塊の感染ポテンシャルを、種々の濃度の懸濁液を捕捉植物にさらし、感染した植物数を測定することにより評価した。風乾した接種源を30℃で保存した場合は、15℃や20℃で保存した休眠胞子塊よりも感染ポテンシャルが増大した。対照的に、休眠胞子塊を-20℃や凍結乾燥した場合は、感染ポテンシャルは減少した。これらの結果は、IPCVの伝搬に関与しているP.graminisは熱帯地域の環境に適応していることを裏付けた。保存温度のIndian peanut clump virusの発生生態への影響と、土壌中の媒介者の感染ポテンシャルの評価について論じられた。

 

イントロダクション

Polymyxa graminis Ledinghamは、インドと西アフリカのクランプ病の原因であるIndian peanut clump virus(IPCV)とPeanut clump virus(PCV)の土壌中の媒介者と考えられている。この絶対寄生性の根部内部寄生者は、イネ科の10種のウイルスの媒介者である。この種は形態的にはPolymyxa betaeと同じであるが、P. betaeはテンサイのウイルスの媒介者であり、宿主域が異なる。クランプ病の分布と重要性はここ20年で増加している。クランプ病の拡がりの理由はウイルスと媒介者の拡散と生存に関する研究によって調べることができる。PolymyxaはPlasmodiophorales(ネコブカビ目)に属し、宿主植物の根に形成され根が分解されたのちに土壌中に放出されるsporosori(休眠胞子塊)で土壌中に生存する。Polymyxaの胞子は堅い細胞壁を持ち微生物による分解、酵素処理、乾燥やその他の不利な条件に高い耐性を持っている。それらの(宿主植物不在条件下であっても)土壌中で長い持続性を示すことは、Polymyxaが伝搬するウイルスに起因する病害の発生生態において重要な役割を演じている。ウイルスのいくらかは媒介者の中で15年以上生存できる。クランプ病に関与するP.graminisは、発芽に特異的な刺激を必要とすることが示されている。インドにおいて、雨期の後に生育するラッカセイのクランプ病は、イネ科の作物に十分感染する感染源があったとしても無視できる。広い範囲の温度においてIPCVの汁液接種は病害を引き起こすことができる。雨期の後のシーズンの環境条件は媒介者によるラッカセイの感染を引き起こす傾向にはないと考えられ、ラッカセイはP.graminisの偶然の宿主であると考えられた。制御された条件において、PCVとIPCVの汚染土壌のP.graminisの感染ポテンシャルを評価しようとの試みは、捕捉植物の感染率が非常に低かったために、失敗した。さらに、P.graminisの単休眠胞子塊系統の作出の成功率はかなり低い。そのために休眠胞子の発芽を制御している因子の知識はP.graminisの検出、定量、増殖のために有用で、発生生態の研究や防除戦略の開発に必要である。

 ウイルス病の発生生態において重要であるにもかかわらず、休眠胞子塊の成熟と休眠胞子の発芽に関する実験は少ない。数人の著者がネコブカビ類の休眠胞子の発芽力と感染力への特異的な条件や処理について報告している。Plasmodiophora brassicae(根こぶ病菌)の胞子を希釈懸濁液にして4℃で維持した場合、発芽能力が減少した。Spongospora subterraneanについては、保存時間が増加するに従い土壌の感染力は減少した。Beemster & De Heij (1987)は、ウオーターバス中40℃30分処理は、P.betaeの休眠胞子の発芽を刺激したと報告した。Tuitert(1993)は、汚染土壌の保存状態がP.betaeのテンサイへの感染に与える効果を比較し、湿潤な土壌処理に比べて乾燥処理では感染性が低下し、室温の乾燥条件下で保存した土壌中の休眠胞子の発芽は湿潤で冷涼な条件で保存したものに比べて遅れた。IPCVの汚染地域では、ピーナッツクランプ病が最も厳しい7月から10月の雨季の前の、4月から6月の夏季の間は非常な干ばつと気温にさらされる。西アフリカのPCVの場合も同様に、干ばつは媒介者の発生生態に重要な役割を果たしていると思われる。象牙海岸では、Thouvenel & Fauquet(1980)が観察したように、P.graminisの増殖に最も適しているのは12月と7月で、乾燥した風が優勢なことによる気候条件の時である。P.graminisの感染ポテンシャルに及ぼす熱と干ばつの影響と、それらがこの病気の発生生態(epidemiology)をいかに調節しているか究明することは重要である。本論文では、IPCV発生地域から得られたP.graminisの休眠胞子塊の感染ポテンシャルに及ぼす保存温度の影響を決定するために行われた実験を報告する。

 

材料と方法

graminis strains 単休眠胞子塊分離系統11-1と11-20はインドのIPCV発生地域のソルガム根から分離され、ソルガムで増殖された、室温で乾燥した。

Storage conditions and preparation of the inoculum Exp 1では、11-20を室温と40℃で静置した。部分純化した休眠胞子塊の懸濁液を用いた。Exp 2では、11-20を2か月間室温で風乾したのち、20℃と45℃のインキュベーターに置いた。Exp 3では11-1を室温で15日間静置したのち、凍結乾燥後に室温保存、15℃、30℃、37℃、45℃、-20℃で75日間保存したのち、接種源として使用した。

Assessment of infection potential of sporosori 休眠胞子塊の感染ポテンシャルの測定は、Beemster & De Heij(1987)のP. betaeの検出方法に準じ、感染個体率によった。捕捉植物を休眠胞子塊懸濁液に浸し、27℃暗黒下で24-72時間遊走子に感染させた。この苗を砂耕栽培で25-30℃、5週間以上栽培後に顕微鏡で寄生を調査した。同様にMaraite, Goffart & Bastin(1988)の感染ポテンシャルを調査する方法も用いた。

Calculations and statistical analyses ペトリ皿中でのバイオアッセイでは、50%が感染する休眠胞子塊の濃度で感染ポテンシャルを示した。これは、休眠胞子塊の濃度と感染率から計算された。culture tube bioassayでは、最確値法で求めた感染単位で示した。

結果

Expt 1 I1-20系統を室温で12日間保存したのちに、植物根を休眠胞子塊の懸濁液に浸した場合は、24時間処理が最も感染率が高くなり、それ以降は低下した。休眠胞子塊濃度は高い方が感染率が高くなった。また、追加で25日間、40℃で保存した場合は、室温保存よりも高い感染率を示した。

Expt 2 この試験では同系統を8日目の苗に40時間接触させた。45℃で50日保存した休眠胞子塊は20℃の場合よりも感染ポテンシャルが高くなった。

 同じバッチの休眠胞子塊を20℃または45℃で35日間置いたものを5週間検定植物の根に接触させた。この場合も45℃の感染ポテンシャルが高くなった。

Expt 3 I1-1系統について30℃、37℃、45℃で75日間保存した休眠胞子塊を40時間検定植物に処理した場合は、15℃、-20℃よりも感染率が高くなった。-20℃は15℃よりも感染率が低くなった。凍結乾燥したのちに20℃で保存した場合は、さらに感染率が低くなった。

考察

 保存条件に関わらず検定植物をP. graminisの休眠胞子塊に24時間接触させた場合に確実で十分な感染が示された。このことから乾燥した休眠胞子塊の発芽プロセスと一次遊走子による根細胞への感染(少なくとも根細胞への着生)には24時間以下の湿潤条件が必要であった。これはTuitert(1993)が、検定植物は湿潤な汚染土壌に12―24時間暴露されることによりP. betaeの感染が生ずると報告していることと一致している。検定植物のソルガムへのP. graminisの短時間の接種にもかかわらず、感染した検定植物の割合は接種源の量に比較してかなり低かった。Tuitert &Bollen(1993)は同様に、P. betaeの接種源用の休眠胞子塊について感染性の休眠胞子の割合の低さを報告している。これは以下のように説明される、休眠胞子の成熟期によっては発芽する休眠胞子の割合が低いことや、遊走子による感染の効率が低いことなどである。一方で休眠胞子の発芽は3日以上の湿潤条件で広まる。感染ポテンシャルは植物が5週間休眠胞子にさらされると明らかに高くなった。これは、休眠胞子の発芽が時間とともに広がることを示している。休眠胞子の休眠状態あるいは成熟度合いは感染根の同じバッチ内においても異なっていた。Chen et al.(1998)らの、オオムギ根内のP. graminisの休眠胞子の発達の微細構造の研究では、休眠胞子塊のそれぞれの休眠胞子が異なるステージにあることは珍しいことではないと報告している。休眠が内因性か外因性の事象のどちらによって制御されているのかは分かっていない。しかし休眠胞子のageのような因子は、休眠胞子の成熟に影響することが報告されている。Macfarlane(1970)はPlasmodiophora brassicaeの休眠胞子において、損傷を受けていないこぶの若いものより腐敗した古いものの方がより早く発芽することを報告している。Expt 1の結果から、同じバッチの休眠胞子塊の25日間隔の調査で、追加で25日間室温で保存した場合は、感染ポテンシャルがやや減少した。この減少が活力(vitality)の喪失によるものか、休眠の増大によるものかをはっきりさせるために、さらなる実験が必要である。対照的に45℃で25日間の保存は、休眠胞子塊の感染ポテンシャルを増加させた。

 保存中の熱処理による感染ポテンシャルの増加は単純な休眠胞子の成熟の同期よりは成熟した胞子の割合の増加の結果と思われる。実際、熱処理の効果はExpt2において長い捕捉期間であっても明らかであった。インドのP. graminis分離株の休眠の打破と発芽の効果は、このPolymyxaの熱帯起源と関連付けることができた。われわれはすでにソルガム根由来のインドからのP. graminis系統は発達するために23℃以上の温度が必要で、27-30℃が最適であることを示している。これらの系統が分離されたエリアは半乾燥熱帯にあり、そこは日中の地温の平均が年間を通じて変化し(18℃~36℃)、雨期の前の3ヵ月は比較的高くなっている(26℃~36℃)。この時期の最も日が照る時間帯には、恐らく地温は45℃(40-50℃)に達している。病気が起こるのは主にこの暑く乾燥する時期の後の雨季に播種されたときで、一方雨季のあとの比較的低い気温(18-26℃)の潅漑で生育している時は無視できる程度の発生となる。クランプ病の発生生態はベクターの生態的な要求と関連している。高い保存温度は本当に熱帯分離株に対する特異的な効果なのか?Polymyxaの温帯分離株の休眠胞子の発芽に対する、比較的高い温度での保存の影響についてはほとんど知られていない。Beemster &De Heij(1987)は、土壌のウオーターバス中での40℃30分処理が、P. betaeの休眠胞子の発芽を刺激することを報告している。Tuitert(1993)は、5℃または-18℃で42週間保存した保毒休眠胞子を48時間捕捉植物のテンサイに接種すると、そう根病ウイルスに感染したことを示した。ベルギーのbarley yellow mosaic virus(オオムギ縞萎縮ウイルス)を保毒しているP. graminisの感染ポテンシャルについて、試験前に汚染土壌を4℃または18℃で保存し、60℃の乾熱処理20時間を実施またはしない場合において、有意な差が無いことが観察された。以前の研究において、フランスで分離されオオムギで増殖したP. graminisの保存温度による発芽への影響の調査では、休眠胞子を1週間にわたって、-18℃、22℃、37℃、50℃保存し、96時間植物に接種した場合に、すべての植物は感染した。これらのすべてのデータは、インドのP. graminis分離株と同様に、より涼しい地域のP. graminisやP. betae分離株は、それらが生育に必要な温度を越えてインキュベートしても、発芽が可能であることを示した。しかし、インド株とは対照的に、これらのP. graminisとP. betae株は低温で保存した後でも捕捉植物に感染可能であった。熱帯から分離されたP. graminisの低温と凍結乾燥への感受性を示唆している。種々の地域からの多数のPolymyxa分離株について、このような見地からの研究の必要性がある。乾燥状態での保存は、生存に対して土壌中の微生物の影響を最小化した。温度は、休眠胞子のタンパク質や脂質、酵素の触媒作用の立体配座の変化を誘導することが示されている。一方、Ciafardini & Marotta(1988、1989)とChen et al.(1988)は、P. betaeとP. graminisの休眠胞子の成熟中の細胞壁には形態的な変化が起こることを明らかにし、それは休眠胞子の発芽に影響を与えると推察した。これらの変化は温度によって影響を受ける。休眠胞子の生理的、形態的な変化についてはこの研究の範囲を越えているが、Polymyxa sppの休眠胞子の休眠と発芽の間に生じるプロセスを理解するために研究することが必要である。

 熱帯土壌のP. graminisとIPCVの感染ポテンシャルの評価に関連して、われわれが得た結果は、1か月間30℃の土壌の培養によって捕捉法は改善されうることを示した。インドにおける先の測定では、IPCV汚染土壌の連続した希釈物で栽培した捕捉植物のソルガムを用いて、室温(約25℃)で保存したサンプルより38℃で6週間保存したものの方が高い水準で検出されることが示された。今後の測定は、土壌中のウイルスとベクターの感染ポテンシャルの定量方法を改良し、土壌の感染ポテンシャルの測定における暖かい温度での土壌の保存の効果を確認する。

 

 

 


総説 二つのピーナッツクランプ病の病原ウイルス、媒介生物、防除法などについての概説

2022-04-19 21:00:48 | 文献概要

[マメ科に感染するPolymyxa属菌と媒介するウイルスに関する文献リスト(8)]
Title: Seed, soil and vegetative transmission contribute to the spread of pecluviruses in Western Africa and the Indian sub-continent
Author: B. Dieryck, G. Otto, D. Doucet, A. Legrève, P. Delfosse, C. Bragard
Journal: Virus Research 141 (2009) 184–189

★ひとこと★
 ピーナッツクランプ病に関する総説である。西アフリカやインドでラッカセイに発生しているピーナッツクランプ病(日本では発生していないとされている)の本来の宿主はラッカセイではなくイネ科植物であり、ラッカセイには日和見感染をしていると推察している。この病害は土壌伝染の他に種子伝染もするため拡散しやすく持続的な病害である。汚染種子の使用や農業機械の利用による汚染圃場の拡大を防ぐことが必要である。
 
Summary
 peanut clump と sugarcane red leaf mottle diseasesは、Pecluviurs属に属するウイルスが病原である。Indian peanut clump virusはインド亜大陸で、Peanut clump virusは西アフリカで発生している。これらのウイルスの特徴は、種子と土壌で伝染することである。どちらの方法も長期間の持続と圃場への拡がりに貢献している。
pearl millet(トウジンビエ)の種子伝染のデータ、植物中のウイルス移行、RNA-1の部分的なシークエンスによるウイルスの多様性が示された。この研究が強調するのは、pecluvirusがソルガムとpearl milletに感染する穀類のウイルスでもあり、これらの作物の栽培とウイルスの分布との相関である。pecluvirusとそのベクターのPolymyxa graminisの防除の方法として、ウイルスの伝搬経路を考慮することを提案した。

Introduction
Peanut clump とsugarcane red leaf mottleは、西アフリカとインド亜大陸で発生している地域特有の病害である。アフリカで発生しているPeanut clump virusとインドで発生しているIndian peanut clump virusは近縁種でPecluviurs属に所属する。clumpもred leaf mottle病も1920年代から知られており、原因となるウイルスについてはここ30年で詳しく特徴が調べられている。
Peanut clump 病は、多様な症状のため、たびたびGroundnut rosette assistor virusやGroundnut rosette virusによるgroundnut rosette病と混同された。濃い緑色を伴うクランプ(茂み)症状から、退緑斑、すじ、葉脈黄化、モットル(まだら)、明るいモザイクなどの症状が生じるが、植物の生育に伴い減少することもしないこともある。ウイルスはたびたび無病徴の植物にも存在する。microprecipitation(微量沈降試験)、ISEM(免疫捕捉電子顕微鏡法)、DAS-ELISA法を用いたウイルスの検出と同定のためにモノクローナルとポリクローナル抗体が開発された。この方法によって、アフリカとインドにおいて異なる血清型や血清グループが区別された。pecluvirusの宿主範囲はラッカセイとサトウキビ以外に広く存在する。さらに、穀類の種子伝染は、土壌中の伝染源の増大における重要性において、原生動物伝搬性の土壌伝染性ウイルスのユニークな特徴となっている。clump病はベクターのPolymyxa graminisの長期間の生存と宿主植物の抵抗性の欠如を別にすれば、生産者にとって深刻なことにはなっていない。最近の報告や調査ではこの病害の経済的な重要性は局地的に残っていることを強調している。
 この研究では、ウイルスの多様性、宿主植物における伝搬と移行に関するデータと新しい知見に基づいて、流行を助長する条件に関して種子と土壌伝染の役割を分析した。病害の拡散を防ぐシンプルな手段を提案した。

2. Pecluviruses
 peanut clump virusesは、Pecluvirus属に属しているが、かつては広義のFurovirusに属すると考えられていた。pecluvirusを他のウイルスと識別する基準は種子伝染、高いコートプロテインの多様性、読み過ごしタンパク質の欠如である。pecluvirusesのゲノムは分節しており、二つのpositive-sense(プラス鎖)、一本鎖のRNAから構成されている。RNA-1は6000 nt長でhelicaseとpolymeraseの機能をコードし、さらに恐らく種子伝染に関与する、転写後のジーンサイレンシングサプレッサーとして働く小型のシステインリッチタンパク質もコードする。P15タンパク質は、サブゲノムRNAによって発現される。RNA-2は4200n長で、コートプロテイン遺伝子、P. graminisによる伝搬に関与していると考えられているP39タンパク質、ウイルスの細胞間移行に関与しているtriple gene block(TGB)などのような構造タンパク質と非構造タンパク質をコードしている。P39は開始コドンの読みすごしによって発現され、サブゲノムRNAはTGBタンパク質の発現のために産生される。
 どちらのRNAも非翻訳領域が配置されている。3’末端の非翻訳領域はT-RNA様の構造を形成し、どちらのRNAにも保存されている。これは、複製を含むウイルスの機能に関与し、先端の「valylatability」の多様化によって示されている。2種のclump virusはコートプロテイン遺伝子の違いによって区別される。コートプロテインの知られている配列には高い多様性があり、それはいくつかの血清型による識別によっても確認されている。

3. Soil-borne transmission by Polymyxa graminis
 IPCVとPCVはPlasmodiophorales(ネコブカビ目)に分類される根への内部寄生性の絶対寄生性生物である。P.graminisは、Benyvirus、Bymovirus、Furovirus、Pecluvirus属の少なくとも15種のウイルスを伝搬する。P.graminisの5種の分化型が、ベルギー、カナダ、コロンビア、中国、フランス、ドイツ、インド、パキスタン、セネガル、英国の分離株のITS領域の塩基配列によって識別されている。これらの分化型は特徴的な生態的な特性と地理的な分布によっても特徴付けられている。
 pecluvirusesを媒介する分化型は、P.graminis f. sp. tropicalisとP.graminis f. sp. subtropicalisで、pearl millet、ソルガム、サトウキビの根に重い感染を引き起こす。これらの単子葉植物の種はベクターと保持するウイルスの増殖に良く適応しており、それらの作物がPCVやIPCV汚染土壌で栽培されると、ウイルスの感染源が増加する。対照的にラッカセイはそのような増殖をサポートしておらず、Polymyxaにとって不十分な宿主になっている。感染したときに多くのpearl milletやソルガム品種が無症状なのは、他のPolymyxa媒介ウイルスのようにはイノキュラムの増強が明らかではないことを意味している。
土壌中のP.graminis休眠胞子の生存能力は、汚染土壌のウイルスの生存を確実にし、宿主植物が存在しない土壌での長期間の感染源の持続を許している。さらに耕うんや灌漑による拡散と同様に、土壌中での生存能力がpeanut clump病の圃場での拡散に貢献している。これはBeet necrotic yellow vein virusを含む他のPolymyxa媒介ウイルスにも明らかで、好適な条件下では、長い期間をかけて土壌中の感染源を蓄積させていく。P.graminisのイノキュラムポテンシャルは、適温(23-30℃)、土壌水分、適した宿主(pearl millet、ソルガム)との組み合わせにより増加する。
P.graminisによるウイルスの獲得と伝搬についてはほとんど分かっていない。ウイルスフリーのP.graminis f sp. tropicalisを種子感染したpearl milletに接種し、制御環境下でPCV-Niの獲得と伝搬を証明した。

4. Seed transmission and vegetative propagation
 いくつかのマメ科のウイルスを含む例外があるが、植物ウイルスの種子伝染はまれである。イネ科のウイルスの種子伝染については、Barley stripe masaic virusを除けば、種子伝染率はやや低い。IPCVとPCVは種子で伝搬される。伝搬率は感染時のラッカセイの品種、感染の状況、齢によって異なる。伝搬率は土壌中からの伝搬では24%以下で、種子を通じては50%を超える。種子を通した伝搬は、植物の生育シーズンの前半に感染した場合に比べて、後半に感染した植物の場合は低い。イネ科の作物(pearl millet, finger millet, foxtail millet, トウモロコシ、コムギ)は、2%未満とかなり低く、伝搬を証明するのは難しい。それでも低率であってもウイルスの拡散に意味のある貢献がある。興味深いことに、ソルガム品種は根から芽へのウイルスの移動に抵抗性を示す。今まで、ソルガムでは種子伝染は証明されていない。
 12系統のpearl milletのPCVの種子伝染を、自然条件と制御条件下で評価したところ、16208の種子のうちわずか127(0.8%)がPCV-Nで陽性だった。この研究は以前にIPCVで示されたことを、PCVのpearl milletにおける種子伝染でも確認した。調査した品種の伝搬率の大きな変異が明らかにされ、種子伝染における抵抗性の選抜の余地が示唆された。これらの結果は、Pea seed-borne mosaic virusやBSMVを含む種子伝染性ウイルスから得られたことと同様であった。とりわけpearl millet品種BCP-16のPCVへの種子伝染抵抗性は、IPCVに対しても確認されれば、両ウイルスに対する種子伝染を阻止することができるpearl milletの育種に利用できるだろう。植物内のウイルスの分布の研究が示したのは、観察された抵抗性は他のイネ科の植物のといくぶん似ており、植物内の長期間のウイルスの移動に影響し、とりわけ花序が作られる成長点の頂部への移行に影響していることである。PCVは種子伝染で苗の根端部の92.8%から検出され、ウイルスの拡散への役割への懸念を高めた。種子伝染率の0~4.3%という範囲が記録され、系統による差は有意であった。
 種子伝染した植物において、PCVは有意な伝搬率の変化なしに次の世代に伝搬させる。これは、ウイルスの感染源は、P.graminisが存在しなくても、種子内のストックとして数シーズンのあいだ低レベルではあるが維持されることを示唆している。pearl milletの品種ICMH9804の8の花序から得られた1600の苗の試験により、花序の中の種子の位置によって伝搬率に有意な違いがあることが認められた。種子伝染率は花序の上部2/3が1.2%と1.0%、下部の1/3はわずか0.1%で有意に異なり、花序の構造が種子中のウイルスの分布に影響している可能性が推察された。

5 Virus distribution
 Peanut clump viruses(PCV)は、西アフリカとインド亜大陸に広く分布している。IPCVは、パキスタンとインドの4州で発生しており、少なくとも3の異なる血清型が存在している。IPCVは西アフリカの9の国でも発生しており、5の血清型が存在する。もっぱらこの病害は地域に特有で、通常、ラッカセイやサトウキビ圃場で部分的なパッチ状に発生している。
 pecluvirusの利用できるRNA-1とRNA-2の塩基配列に基づいた系統発生学的解析によれば、クラスターは地理的な起源になっている。IPCVの血清型または系統は、クラスターになっている。西アフリカにおいては、二つのはっきりとしたクラスターが見られる。一つのグループは主にマリの系統からなり、ニジェール系統の注目すべき例外を含んでいる。二つめは、RNA-1のP-15とRNA-2のシークエンスを統合して解析したときに明らかとなる、セネガルとブルキナファソで収集された系統からなる。
 pearl milletとソルガムが生育している地域とpeanut clumpが見いだされる地域の地図を重ね合わせると、明瞭な合致が明らかになる。そのようなデータはアフリカやインドにおいて長期間にわたりこれらのイネ科植物とウイルスが結びついているとの考え方を支持する。流行が生じるためには、ベクターのP.graminisが存在し、若い植物から植物への分散が促進される十分な水分が圃場に存在するか、病原を高率でコンタミをしているラッカセイの種子を用いるかを含む、好適な条件が同時に生じる必要がある。ウイルスとベクターにとって好適な宿主の相対的な寄与については、Delfosse(2000)とLegreve et al.(1996、2000)で強調されており、Fig. 5に要約されている。

6 Disease management
 IPCVとPCVの情報はここ30年でかなり増加している。今、明らかになったことはpecluvirusesはラッカセイのウイルスではなく、イネ科のウイルスでありラッカセイには日和見感染をしていると考えらることである。これらのウイルスの防除が難しいのは、種子でも土壌でも伝搬でき、切断されたサトウキビ茎(さし木用)やイネ科雑草の地下茎で無性的に増殖できるためである。それぞれの宿主植物に対する両方法の伝搬の機作を正確に理解することは、病害の正確な管理と防除に導くものである。機械による整地や灌漑の増加は、pecluvirusesの伝染病の進展に寄与する因子であり、P.graminisとウイルスによる圃場における病害の影響と拡がりを強める。そのため、すでに発生している圃場では、それらの使用は制限するべきである。もしコストのかかる種子の健全化プログラムを設立するなら、代わりに種子伝染に対して抵抗性のpearl milletの育成、ラッカセイの種子やサトウキビの挿し木用の茎の生産を病害が発生していない地域で行うことなどがこの病害の進展や拡散を軽減すると考えられる。pearl milletのP.graminisに対する抵抗性のスクリーニングは、品種による違いを示し、Legreveら2000で報告されたソルガムの場合と同様であった。花序の下部1/3からpearl milletの種子を採種するという農家に対するシンプルなアドバイスと、PCV汚染区画からのラッカセイの種子の採種を避けることは有益である。
 病害の拡散を防ぐそれらの方法は理想的には、Delfosse 2000で提案されているように代替作物と組み合わせるべきである。それにはおとり作物の栽培とPolymyxaの宿主以外のヒマワリやカラシナなどによる適切な輪作を含む。イネ科植物による長期の休閑栽培の土壌中のイノキュラムの増大への寄与は、病害の循環におけるその正確な役割の評価のために研究されなければならない


Indian peanut clump virusもPCVと同様にPolymyxa graminisによって媒介されることが明らかとなった

2022-04-12 22:45:45 | 文献概要

(マメ科に感染するPolymyxa属菌と媒介するウイルスに関する文献リスト(6))

Title: Studies on transmission of Indian peanut clump virus disease by Polymyxa graminis
(Polymyxa graminisによるIndian peanut clump virusの伝搬の研究)
Author: A S Ratna et al.
Journal: Ann. app. Biol. 118: 71-78 (1991)

★コメント★
 peanut clump病は、初めpeanut clump virusを病原とするものが発見されたが、のちにインド方面の同病は別種のウイルスによるものであることが報告された。そのIndian peanut clump virusもPCVと同様にPolymyxa graminisによって媒介されることを観察結果から示した。分子生物学的手法で種の識別ができなかった時代には、P.graminisとP.betaeが別種とされることに異論もあったが、現在は別種ということで落ち着いている。

summary
 plasmodiophoromycete(ネコブカビ綱、現在はPhytomyxea綱とするのが主流)に属するPolymyxa graminisは、Indian peanut clump virus(IPCV)汚染圃場から採集されたSorghum bicolor(ソルガム)、S. sudanense(スーダングラス)、Pennisetum glaucum(トウジンビエ)、Triticum aestivum(コムギ)、Cyperus rotundus(ハマスゲ)、Eleucine coracana(シコクビエ(Eleusineの表記もあり、はっきりしないが両者とも英名はFinger Millet))、Zea mays(トウモロコシ)、Tridax procumbens(コトブキギク)、Arachis hypogaea(ラッカセイ)の根に観察された。あらかじめ乾燥させた圃場土で栽培しIPCVに感染したS. bicolor、S. sudanense、P. glaucum、T. aestivumの根にはP. graminisの休眠胞子塊が観察された。3年間室温で保存したIPCV汚染土壌A.  hypogaea、T. aestivum、S. bicolorにウイルスを伝搬した。IPCVに感染し休眠胞子塊を含むP. glaucumとS. bicolorの根抽出物と、乾燥根片を滅菌土壌に混合すると、ウルルスをA. hypogaeaとT. aestivumに伝搬させた。根抽出物に含まれていた第一次遊走子は、おそらく休眠胞子塊から生じた。P. graminisの接種源としての休眠胞子塊を含むS. sudanenseの根の細片は、単子葉にも双子葉植物にも感染することが示された。根への豊富な休眠胞子塊の生成は、単子葉植物のみで認められた。概ね、双子葉植物においては、わずかな根にのみ休眠胞子塊が見られた。インドから分離されたP. graminisは、広い宿主域を持ち双子葉植物にも感染できる温帯の土壌からの分離株と明らかに異なっている。

 ラッカセイのclump病のうちインドで発生しているものは西アフリカで発生しているものとは血清型が異なり、Reddyら(1983)などによりIndian PCV(IPCV)と命名されている。両者とも土壌及び種子で伝搬する。この論文では、IPCVがP. graminisで伝搬される可能性とP. graminisの宿主域についての研究を報告した。


Materials and Methodsの概要
・ 土壌中のP. graminisの検出: 25~30℃の温室でSorghum bicolor(ソルガム)、S. sudanense(スーダングラス)、P. glaucum(トウジンビエ)、T. aestivum(コムギ)を4―6週間栽培し、酸性フクシンで根を染色して休眠胞子塊を観察した。
・ P. graminisの宿主域: 接種源として汚染土壌または感染したスーダングラスの乾燥根を用いた。出芽後4―12日は毎日、その後は1週間ごとに根を採集し検鏡した。
・ 風乾した土壌によるIPCVの伝搬: 3年間室温で保存した風乾土壌(Bapatla(B-IPCV)、Hyderabad(H-IPCV))にS. bicolor、T. aestivum、A. hypogaeaを4週間栽培し、DAC-ELISAによって葉のウイルスを検出した。
・ 乾燥根によるH-IPCVの伝搬: H-IPCV汚染土壌に栽培したP. glaucumの乾燥根を滅菌土壌に混合し、T. aestivumとA. hypogaeaの幼苗を移植し4週間25―30℃で栽培した。葉のウイルスをDAC-ELISAで調査した。
・ 根抽出物によるウイルスの伝搬: S. bicolorとP. glaucumの乾燥根からの抽出物はカイネチンとストレプトマイシンで処理後にチーズクロスでろ過したのち、根が2―3cmに伸長したT. aestivumとA. hypogaeaをろ液に2日間浸した。ろ液中の第一次遊走子の有無を確認し滅菌砂に移植し30℃で栽培した。4週間後に葉のH-IPCVをDAC-ELISAで調査した。

Results
・ P. graminisの感染: 温室内の栽培で4種の植物の根にP. graminisの感染が観察され、P. graminisの感染があった個体の葉から抗体によってウイルスが検出された。発芽6~7日後のP. glaucumとS. sudanenseの根には変形体が観察された。いくつかの変形体は7日以内に遊走子のうに分化し、発芽8~9日後にはexit tubeが形成された。休眠胞子塊は、11日後以降に形成された。
・ 圃場から採集されたCyperus rotundus、Eleucine coracana、S. bicolor、S. sudanense、P. glaucum、T. aestivumの根には、P. graminisの休眠胞子が存在した。ラッカセイに関しては、6週未満の個体のみにごくわずか観察されただけであった。
・ 双子葉植物に関しては、病土を詰めたポット栽培で、17種に中~少量の休眠胞子塊が観察された。7種の単子葉植物には、多量の休眠胞子塊が観察された。
・ IPCVが感染したスーダングラスの根を混合した滅菌土に栽培した6種の単子葉植物には、休眠胞子塊が一般的に認められるが、双子葉植物については試験した12種のうち8種にまれに見られた。

・ 風乾したIPCV汚染土壌に栽培した32%のラッカセイ、40%のS. bicolor、80%のT. aestivumの葉にウイルスが検出され、感染個体の根にはP. graminisの休眠胞子塊が観察された。IPCVに感染したP. glaucumの根を接種源に用いた場合、T. aestivumとラッカセイに高率にウイルスが感染した。汁液接種でも高率に伝搬した。
・ 根抽出物の中を観察すると、遊走子は2本の長さの異なるムチタイプの鞭毛を持ち、回転するような典型的なP. graminisの泳ぎ方をした。

Discussion
以上の結果からP. graminisはラッカセイに感染し、IPCVの媒介者であることが示された。過去の研究でラッカセイへのP. glaucumの観察が失敗したのは、若い細根にのみ休眠胞子塊が存在し、それらの根は引き抜くときに容易に脱落するからと考えられた。
一般的な雑草がIPCVの宿主になることから、連作は効果的な防除法とは考えられない。
P. graminisも双子葉植物に感染することから、P. graminisとP. betaeの分類について、再度検討する必要がある。


Polymyxa属菌には、生育適温の異なる3グループがある

2022-04-12 22:45:45 | 文献概要

(マメ科に感染するPolymyxa属菌と媒介するウイルスに関する文献リスト(7))

Title: Differences in temperature requirements between Polymyxa sp. of Indian origin and Polymyxa graminis and Polymyxa betae from temperate areas.
(インド起源のPolymyxa sp.とPolymyxa graminisと温帯のPolymyxa betaeの温度要求性の差異)
Author: Legreve A., Delfosse P. et al.
Journal: European Journal of Plant Pathology 104: 195-205 (1998)

★ひとこと★
Polymyxa属には、生育適温の異なる3グループがあり、この研究で詳しく調査された。それぞれのグループの生態を明らかにすることは分類上の意義の他に、防除にもつながる情報となる可能性がある。Polymyxa属菌は、宿主が無くとも土壌中で何年も生存することができるが、絶対寄生性のため一度発芽したあとは、宿主が無ければ短期間で死滅する。そのため、宿主が無い状態で発芽させることができれば、密度を減らすことができる可能性がある。発芽に適した温度条件を明らかにすることは、発芽促進物質の探索と同様に重要である。
 
Summary
 インドで得られた3株のPolymyxa sp.の単休眠胞子塊分離系統の温度要求性が15-18、19-22、23-26、27-30℃(昼-夜の温度)で調査され、ベルギー、カナダ、フランスのP. graminis3株、ベルギー、トルコのP. betae2株と比較された。インド株は宿主植物としてソルガムを用い、温帯のP. graminisとP. betaeはそれぞれオオムギとテンサイで増殖された。インドのPolymyxa sp.の休眠胞子の発芽、変形体、遊走子のう、休眠胞子の生育の最適温度は27-30℃であった。感染の進行は27-30より23-26℃でゆっくりだった。19-22℃では、感染はわずかであった。19℃以下では、感染は生じなかった。対照的に温帯のP. graminisのオオムギへの感染は15-18℃が最適で、19-22℃では感染は少なく、生育は着実なものではなかった。22℃以上では感染はわずかであった。P. betaeの菌株は15-18から27-30℃で着実な感染を示した。ベルギー株の変形体の形成と休眠胞子の検出は19-22℃に比べて23-26℃でわずかに促進したが、27-30℃ではあきらかに抑制された。トルコのP. betaeの菌株の生育はほぼ27-30℃でも、それより低い温度と同様に多かった。これらの結果は、インドのPolymyxa sp.と温帯のP. graminis、P. betaeを区別する事例を増加させた。

Introduction
 ピーナッツクランプ病は、西アフリカでpeanut clump virus (PCV) 、インドでIndian PCVによって起こされ、P. graminisによって媒介されることが示されている。Polymyxa属菌は、最初にコムギに感染することが報告されたP. graminisとテンサイへの感染が報告されたP. betaeを含む。これらの種は異なる宿主範囲によって識別され、P. graminisは単子葉植物、P. betaeは双子葉植物に感染するとされている。それらは温帯において、経済的な重要な植物ウイルスを伝搬するとされている。PCVとIPCVを伝搬するPolymyxa sp.株は、以下の3点で注目される。1.単子葉植物から検出される分離株は、ラッカセイに両ウイルスを伝搬させる。2.それらの分離株の宿主域は単子葉植物と双子葉植物の両者を含む。3.それらの分離株は熱帯から分離され、温帯域から分離されたPolymyxaとは温度要求性が異なると考えられる
 IPCV-Polymyxaの生態的を明確にするため、これまで広範には調査されていない
温度要求性の調査を開始した。インドで分離されたIPCV-Polymyxaのソルガム上での15~30℃での生育をベルギー、カナダ、フランスのオオムギで生育させたP. graminis、ベルギーとトルコで分離されたP. betaeをテンサイで生育させ、比較した。
 Polymyxaは、絶対寄生性のため植物を用いてのみ土壌から分離できる。そのため、他の寄生性の土壌微生物の感染を防ぐために、単休眠胞子塊分離株を用いた。

Methods
Isolation of Polymyxa from IPCV-infested soil
 サンプル土壌と滅菌した砂を混合し、ソルガム、オオムギ、コムギを栽培した。夜20昼25℃または夜25昼30℃で生育させ、pH7.2のHoagland液を潅水した。感染の調査は、根をコットンブルーで染色して実体顕微鏡で行った。

Production of IPCV-Polymyxa single cystosorus strains
 単休眠胞子塊系統の作成は、根こぶ病の単胞子接種の方法を利用した。感染ソルガム根磨砕液から懸濁液を調製し、寒天上に塗布したのち、マイクロスピアで拾い上げた。滅菌砂を入れたチューブ上に休眠胞子塊を置き苗を移植、または苗の根に直接付着させて移植した。25~30℃で10週間栽培し、Polymyxaの感染と他の微生物のコンタミネーションの有無を調査した。調査した残りの根は乾燥して保存された。

P. graminis and P. betae strains
 P. graminisの3菌株、P. betaeの2菌株をそれぞれオオムギ、テンサイで増殖して使用した。

Multiplication of Polymyxa spp. strains
 多量のそれぞれの菌株の増殖は、automatic immersion system(AIS)Fig.1で行った。P. graminisは15-20℃、P. betaeは20-25℃、IPCV-Polymyxaは25-30℃で栽培した。

Temperature requirements
 調査は15-18℃、19-22℃、23-26℃、27-30℃(昼-夜)で行った。1本のチューブに2500個の休眠胞子塊を接種した。接種後15、25、35、56、56日後に調査した。IPCV-Polymyxaにはソルガム、P. betaeにはテンサイ、P. graminisにはオオムギを宿主に使用した。

Results
Isolation of Polymyxa from IPCV-infested soil
 IPCVに汚染した土壌に栽培した場合に休眠胞子塊が観察されたのは、植物にソルガムを用いて25-30℃で3ヵ月栽培した場合のみだった。20-25℃やコムギ、テンサイを用いた場合には感染していなかった。

Production and multiplication of IPCV-Polymyxa single cystosorus strains
 単休眠胞子塊接種したソルガムのうち、感染が確認されたのは316個体のうち3個体であった。

Effect of temperature
 IPCV-Polymyxa菌株は、概ね23℃以上で生育した。27-30℃では移植後15日で80%が感染した。この時期ではPolymyxaの3ステージ(変形体、遊走子のう、休眠胞子)のいずれも観察されたが、遊走子のうが最も多かった。25日目では、変形体よりも遊走子のう、休眠胞子塊が増加した。35日目でも休眠胞子塊は増加していた。その後、変形体と遊走子のうはわずかになり、休眠胞子が主になった。46日目では皮層の分解が起こったが、容器が小さいことが関係している可能性がある。23-26℃では、感染の進行は27-30℃より緩慢で、15日目に10%、25日目に38%の感染個体率だった。56日目には、菌株により67-83%となった。この温度では、休眠胞子塊は菌株により25-35日後に観察された。19-22℃では、IPCV-Polymyxaは56日目に休眠胞子塊がわずか1個体に観察された。15-18℃では、ソルガムには感染は観察されなかった。30-35℃ではまばらな感染で、10-15では感染が無かった。
 IPCV-Polymyxaとは対照的に、ベルギー、カナダ、フランスからのP. graminisは主に23℃以下で生育した。15-18℃では19-22℃に比べて生育が早く感染程度も高かった。23-26℃では感染はまばらで、27-30では感染は認められなかった。
 P. betaeのテンサイへの感染は、15から30℃で生じた。接種15日後には、19-22℃、23-26℃では休眠胞子塊が観察された。35日目には、23-26℃で100%、19-22℃で78%、15-18℃で70%の個体に休眠胞子塊の状態での強い寄生が観察された。27-30℃では、25日目に16%の植物に変形体が観察されたが、56日目でも感染程度は低く休眠胞子塊は観察されなかった。ただし、トルコ株は27-30℃でも休眠胞子塊が見られ、高い感染程度に達した。


Discussion
 IPCV-Polymyxaの豊富な生育には23℃以上が必要で、27-30℃で最も早い。23-26℃で遅れたが最終的な感染程度は、23-30℃と同程度だった。この系統は25-30℃で分離されていることから、高温に適応していると考えられた。ラッカセイのクランプ病は雨期の25-30℃で高い発病程度になっており、乾季の低温期には無視できるほどの発病となっている。25-30℃では、ウイルス、菌ともにコムギに検出され、ラッカセイにはIPCVに感染した。IPCVの汁液接種では15℃でも30℃でもクランプ症状が発現することから低温はウイルスの複製を制限しないが菌への伝搬を制限すると考えられた。
 P. betaeについてはIPCV-PolymyxaやP. graminisより広い範囲で生育した。その中でも分離地により差異が見られた。
 IPCV-Polymyxaの単休眠胞子塊系統の作成成功率は、1%以下と低かった。これは、多くの休眠胞子塊が発芽しないか、感染に成功しないかということを示している。Polymyxaの成熟や発芽のメカニズムは不明だが、発芽に及ぼす刺激に関する知識は防除法の策定に役立つはずである。
 開発されたautomatic immersion system(AIS)は、各地から分離されたPolymyxaを増殖させるのに優れたシステムである。休眠胞子塊の生産と活性のあるPolymyxaの維持、また遊走子の接種源を生産できる可能性もある。他の遊走子形成菌や水生菌にも適応すると考えられる