作物病害 メモ帳 主に畑作物に寄生するネコブカビ類

作物の病害に関するメモ #コムギ #テンサイ #バレイショ #マメ類 #ソルガム #Polymyxa

Polymyxa属菌には、生育適温の異なる3グループがある

2022-04-12 22:45:45 | 文献概要

(マメ科に感染するPolymyxa属菌と媒介するウイルスに関する文献リスト(7))

Title: Differences in temperature requirements between Polymyxa sp. of Indian origin and Polymyxa graminis and Polymyxa betae from temperate areas.
(インド起源のPolymyxa sp.とPolymyxa graminisと温帯のPolymyxa betaeの温度要求性の差異)
Author: Legreve A., Delfosse P. et al.
Journal: European Journal of Plant Pathology 104: 195-205 (1998)

★ひとこと★
Polymyxa属には、生育適温の異なる3グループがあり、この研究で詳しく調査された。それぞれのグループの生態を明らかにすることは分類上の意義の他に、防除にもつながる情報となる可能性がある。Polymyxa属菌は、宿主が無くとも土壌中で何年も生存することができるが、絶対寄生性のため一度発芽したあとは、宿主が無ければ短期間で死滅する。そのため、宿主が無い状態で発芽させることができれば、密度を減らすことができる可能性がある。発芽に適した温度条件を明らかにすることは、発芽促進物質の探索と同様に重要である。
 
Summary
 インドで得られた3株のPolymyxa sp.の単休眠胞子塊分離系統の温度要求性が15-18、19-22、23-26、27-30℃(昼-夜の温度)で調査され、ベルギー、カナダ、フランスのP. graminis3株、ベルギー、トルコのP. betae2株と比較された。インド株は宿主植物としてソルガムを用い、温帯のP. graminisとP. betaeはそれぞれオオムギとテンサイで増殖された。インドのPolymyxa sp.の休眠胞子の発芽、変形体、遊走子のう、休眠胞子の生育の最適温度は27-30℃であった。感染の進行は27-30より23-26℃でゆっくりだった。19-22℃では、感染はわずかであった。19℃以下では、感染は生じなかった。対照的に温帯のP. graminisのオオムギへの感染は15-18℃が最適で、19-22℃では感染は少なく、生育は着実なものではなかった。22℃以上では感染はわずかであった。P. betaeの菌株は15-18から27-30℃で着実な感染を示した。ベルギー株の変形体の形成と休眠胞子の検出は19-22℃に比べて23-26℃でわずかに促進したが、27-30℃ではあきらかに抑制された。トルコのP. betaeの菌株の生育はほぼ27-30℃でも、それより低い温度と同様に多かった。これらの結果は、インドのPolymyxa sp.と温帯のP. graminis、P. betaeを区別する事例を増加させた。

Introduction
 ピーナッツクランプ病は、西アフリカでpeanut clump virus (PCV) 、インドでIndian PCVによって起こされ、P. graminisによって媒介されることが示されている。Polymyxa属菌は、最初にコムギに感染することが報告されたP. graminisとテンサイへの感染が報告されたP. betaeを含む。これらの種は異なる宿主範囲によって識別され、P. graminisは単子葉植物、P. betaeは双子葉植物に感染するとされている。それらは温帯において、経済的な重要な植物ウイルスを伝搬するとされている。PCVとIPCVを伝搬するPolymyxa sp.株は、以下の3点で注目される。1.単子葉植物から検出される分離株は、ラッカセイに両ウイルスを伝搬させる。2.それらの分離株の宿主域は単子葉植物と双子葉植物の両者を含む。3.それらの分離株は熱帯から分離され、温帯域から分離されたPolymyxaとは温度要求性が異なると考えられる
 IPCV-Polymyxaの生態的を明確にするため、これまで広範には調査されていない
温度要求性の調査を開始した。インドで分離されたIPCV-Polymyxaのソルガム上での15~30℃での生育をベルギー、カナダ、フランスのオオムギで生育させたP. graminis、ベルギーとトルコで分離されたP. betaeをテンサイで生育させ、比較した。
 Polymyxaは、絶対寄生性のため植物を用いてのみ土壌から分離できる。そのため、他の寄生性の土壌微生物の感染を防ぐために、単休眠胞子塊分離株を用いた。

Methods
Isolation of Polymyxa from IPCV-infested soil
 サンプル土壌と滅菌した砂を混合し、ソルガム、オオムギ、コムギを栽培した。夜20昼25℃または夜25昼30℃で生育させ、pH7.2のHoagland液を潅水した。感染の調査は、根をコットンブルーで染色して実体顕微鏡で行った。

Production of IPCV-Polymyxa single cystosorus strains
 単休眠胞子塊系統の作成は、根こぶ病の単胞子接種の方法を利用した。感染ソルガム根磨砕液から懸濁液を調製し、寒天上に塗布したのち、マイクロスピアで拾い上げた。滅菌砂を入れたチューブ上に休眠胞子塊を置き苗を移植、または苗の根に直接付着させて移植した。25~30℃で10週間栽培し、Polymyxaの感染と他の微生物のコンタミネーションの有無を調査した。調査した残りの根は乾燥して保存された。

P. graminis and P. betae strains
 P. graminisの3菌株、P. betaeの2菌株をそれぞれオオムギ、テンサイで増殖して使用した。

Multiplication of Polymyxa spp. strains
 多量のそれぞれの菌株の増殖は、automatic immersion system(AIS)Fig.1で行った。P. graminisは15-20℃、P. betaeは20-25℃、IPCV-Polymyxaは25-30℃で栽培した。

Temperature requirements
 調査は15-18℃、19-22℃、23-26℃、27-30℃(昼-夜)で行った。1本のチューブに2500個の休眠胞子塊を接種した。接種後15、25、35、56、56日後に調査した。IPCV-Polymyxaにはソルガム、P. betaeにはテンサイ、P. graminisにはオオムギを宿主に使用した。

Results
Isolation of Polymyxa from IPCV-infested soil
 IPCVに汚染した土壌に栽培した場合に休眠胞子塊が観察されたのは、植物にソルガムを用いて25-30℃で3ヵ月栽培した場合のみだった。20-25℃やコムギ、テンサイを用いた場合には感染していなかった。

Production and multiplication of IPCV-Polymyxa single cystosorus strains
 単休眠胞子塊接種したソルガムのうち、感染が確認されたのは316個体のうち3個体であった。

Effect of temperature
 IPCV-Polymyxa菌株は、概ね23℃以上で生育した。27-30℃では移植後15日で80%が感染した。この時期ではPolymyxaの3ステージ(変形体、遊走子のう、休眠胞子)のいずれも観察されたが、遊走子のうが最も多かった。25日目では、変形体よりも遊走子のう、休眠胞子塊が増加した。35日目でも休眠胞子塊は増加していた。その後、変形体と遊走子のうはわずかになり、休眠胞子が主になった。46日目では皮層の分解が起こったが、容器が小さいことが関係している可能性がある。23-26℃では、感染の進行は27-30℃より緩慢で、15日目に10%、25日目に38%の感染個体率だった。56日目には、菌株により67-83%となった。この温度では、休眠胞子塊は菌株により25-35日後に観察された。19-22℃では、IPCV-Polymyxaは56日目に休眠胞子塊がわずか1個体に観察された。15-18℃では、ソルガムには感染は観察されなかった。30-35℃ではまばらな感染で、10-15では感染が無かった。
 IPCV-Polymyxaとは対照的に、ベルギー、カナダ、フランスからのP. graminisは主に23℃以下で生育した。15-18℃では19-22℃に比べて生育が早く感染程度も高かった。23-26℃では感染はまばらで、27-30では感染は認められなかった。
 P. betaeのテンサイへの感染は、15から30℃で生じた。接種15日後には、19-22℃、23-26℃では休眠胞子塊が観察された。35日目には、23-26℃で100%、19-22℃で78%、15-18℃で70%の個体に休眠胞子塊の状態での強い寄生が観察された。27-30℃では、25日目に16%の植物に変形体が観察されたが、56日目でも感染程度は低く休眠胞子塊は観察されなかった。ただし、トルコ株は27-30℃でも休眠胞子塊が見られ、高い感染程度に達した。


Discussion
 IPCV-Polymyxaの豊富な生育には23℃以上が必要で、27-30℃で最も早い。23-26℃で遅れたが最終的な感染程度は、23-30℃と同程度だった。この系統は25-30℃で分離されていることから、高温に適応していると考えられた。ラッカセイのクランプ病は雨期の25-30℃で高い発病程度になっており、乾季の低温期には無視できるほどの発病となっている。25-30℃では、ウイルス、菌ともにコムギに検出され、ラッカセイにはIPCVに感染した。IPCVの汁液接種では15℃でも30℃でもクランプ症状が発現することから低温はウイルスの複製を制限しないが菌への伝搬を制限すると考えられた。
 P. betaeについてはIPCV-PolymyxaやP. graminisより広い範囲で生育した。その中でも分離地により差異が見られた。
 IPCV-Polymyxaの単休眠胞子塊系統の作成成功率は、1%以下と低かった。これは、多くの休眠胞子塊が発芽しないか、感染に成功しないかということを示している。Polymyxaの成熟や発芽のメカニズムは不明だが、発芽に及ぼす刺激に関する知識は防除法の策定に役立つはずである。
 開発されたautomatic immersion system(AIS)は、各地から分離されたPolymyxaを増殖させるのに優れたシステムである。休眠胞子塊の生産と活性のあるPolymyxaの維持、また遊走子の接種源を生産できる可能性もある。他の遊走子形成菌や水生菌にも適応すると考えられる



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