作物病害 メモ帳 主に畑作物に寄生するネコブカビ類

作物の病害に関するメモ #コムギ #テンサイ #バレイショ #マメ類 #ソルガム #Polymyxa

マメ科植物のウイルス病 ― Polymyxa graminisが媒介していると思われるピーナッツクランプ病、ダイズ縮葉モザイク病、ソラマメえそモザイク病の類似点、相違点(1)

2023-06-27 22:44:49 | 文献概要

0.はじめに
 植物に寄生する原生動物であるPolymyxa属には、P. graminisとP. betaeの2種があり、それぞれ主にイネ科とヒユ科(主にアカザ亜科)に感染し、植物病原ウイルスを媒介する。これらの概要は玉田・近藤(2014)にまとめられている。Polymyxaには、マメ科植物に感染するタイプがあり、ピーナッツクランプ病を媒介するものが良く知られているが、わが国での本病の発生の報告は無いと思われる。しかし、農林水産省は本病の病原ウイルスのうちIndian peanut clump virusが日本に侵入した場合には、宿主であるラッカセイ、トウモロコシ、コムギが広く栽培されていることから経済的な被害が想定されるとしている(農林水産省横浜防疫所 2020)。一方、近年、日本でマメ科植物のダイズとソラマメに発生したウイルス病の媒介にPolymyxaが関与している可能性が示されている(Kuroda et al. 2010、冨高ら 2014)。そのため、ピーナッツクランプ病とダイズやソラマメの病害の類似点、相違点について、Polymyxaの関与を中心に文献調査を行った。

 

1.ピーナッツクランプ病
 ピーナッツクランプ病は、1967年頃に西アフリカ(Thouvenelら1976、(Thouvenelら1974が最初の報告だがフランス語のために未読))、1977年にインド(Reddyら1979)で発生が報告され、それらの地域で発生しているウイルス病である。
西アフリカとインド亜大陸で発生しているピーナッツクランプ病の病原ウイルスは異なり、西アフリカのものはPeanut clump virus(PCV)(Thouvenelら 1976)、インド亜大陸のものはIndian peanut clump virus(IPCV)(Reddyら 1983)で、この2種でPecluvirus属を構成している。このあたりのウイルスの分類や性質については、玉田・近藤(2014)に詳しい。

 

1-1 PCVによるピーナッツクランプ病
 PCVは土壌(Thouvenel et al. 1976)および種子伝染(Thouvenel and Fauquet 1981)する。PCVはラッカセイ以外にgreat millet(S. arundinaceum)、コムギにも土壌伝染した(Thouvenel and Fauquet 1981)。
発生土壌に栽培されたSorghum cernuum (S. bicolor(ソルガム)のシノニム)、パンコムギ、デュラムコムギなどイネ科作物もPCVに感染し、感染植物の根にはP. graminisの休眠胞子が観察されたが、 ラッカセイの根には観察されなかった(Thouvenel and Fauquet 1981)。さらに発生土壌で栽培したgreat milletの根を洗浄したのち滅菌土壌に移植し、同じ土壌にラッカセイまたはgreat milletを播種した場合、両者ともPCVに感染した。逆に発生土壌で栽培したラッカセイを移植した土壌に、ラッカセイまたはgreat milletを播種した場合は両者とも感染しなかった。PCVに感染したgreat milletの根にはP. graminisが観察された。また、汁液接種したラッカセイを植えたコンテナに健全ラッカセイを栽培しても、健全ラッカセイはPCVに感染しなかった。さらにPCVに感染したラッカセイの葉を混合した土壌にラッカセイを栽培しても感染しなかった。これらの結果から、ラッカセイではウイルスを保毒したP. graminisはウイルスを伝搬するが、P. graminis自身は十分な生育ができず、休眠胞子が生成されない可能性があると考察している。ウイルスに関してもDieryckら(2009)は、PCVを含むpecluvirusは、本来ラッカセイのウイルスではなく、イネ科のウイルスでありラッカセイには日和見感染をしていると考えている。


 結局、Thouvenel and Fauquet (1981)の論文ではラッカセイの根にP. graminisが観察されておらず、ラッカセイに感染したP. graminisによる接種試験もできないため、ラッカセイへのPCV感染に対するP. graminisの関与は十分には証明されていない。現在では分子生物学的な手法によるP. graminisの検出が可能なので、そういった方法によってラッカセイから検出できるかもしれないし、私は把握していないが、それらの方法で検出した研究結果が発表されている可能性もある。直接的な証明にはならないが、ラッカセイ根へのP. graminis遊走子の着生の観察も行ってみたいところである。
 そもそもP. graminisがウイルスを媒介することをきちんと証明できている病害はそれほど多くはないらしい(Dieryckら2011)。P. graminisの遊走子を接種源としてウイルス伝搬を再現できたのはBarley yellow mosaic virusとsoilborne wheat mosaic virusのみとのことである。そのほかいろいろな方法、レベルでベクターとウイルスの関係が調べられているとのこと。