作物病害 メモ帳 主に畑作物に寄生するネコブカビ類

作物の病害に関するメモ #コムギ #テンサイ #バレイショ #マメ類 #ソルガム #Polymyxa

総説 二つのピーナッツクランプ病の病原ウイルス、媒介生物、防除法などについての概説

2022-04-19 21:00:48 | 文献概要

[マメ科に感染するPolymyxa属菌と媒介するウイルスに関する文献リスト(8)]
Title: Seed, soil and vegetative transmission contribute to the spread of pecluviruses in Western Africa and the Indian sub-continent
Author: B. Dieryck, G. Otto, D. Doucet, A. Legrève, P. Delfosse, C. Bragard
Journal: Virus Research 141 (2009) 184–189

★ひとこと★
 ピーナッツクランプ病に関する総説である。西アフリカやインドでラッカセイに発生しているピーナッツクランプ病(日本では発生していないとされている)の本来の宿主はラッカセイではなくイネ科植物であり、ラッカセイには日和見感染をしていると推察している。この病害は土壌伝染の他に種子伝染もするため拡散しやすく持続的な病害である。汚染種子の使用や農業機械の利用による汚染圃場の拡大を防ぐことが必要である。
 
Summary
 peanut clump と sugarcane red leaf mottle diseasesは、Pecluviurs属に属するウイルスが病原である。Indian peanut clump virusはインド亜大陸で、Peanut clump virusは西アフリカで発生している。これらのウイルスの特徴は、種子と土壌で伝染することである。どちらの方法も長期間の持続と圃場への拡がりに貢献している。
pearl millet(トウジンビエ)の種子伝染のデータ、植物中のウイルス移行、RNA-1の部分的なシークエンスによるウイルスの多様性が示された。この研究が強調するのは、pecluvirusがソルガムとpearl milletに感染する穀類のウイルスでもあり、これらの作物の栽培とウイルスの分布との相関である。pecluvirusとそのベクターのPolymyxa graminisの防除の方法として、ウイルスの伝搬経路を考慮することを提案した。

Introduction
Peanut clump とsugarcane red leaf mottleは、西アフリカとインド亜大陸で発生している地域特有の病害である。アフリカで発生しているPeanut clump virusとインドで発生しているIndian peanut clump virusは近縁種でPecluviurs属に所属する。clumpもred leaf mottle病も1920年代から知られており、原因となるウイルスについてはここ30年で詳しく特徴が調べられている。
Peanut clump 病は、多様な症状のため、たびたびGroundnut rosette assistor virusやGroundnut rosette virusによるgroundnut rosette病と混同された。濃い緑色を伴うクランプ(茂み)症状から、退緑斑、すじ、葉脈黄化、モットル(まだら)、明るいモザイクなどの症状が生じるが、植物の生育に伴い減少することもしないこともある。ウイルスはたびたび無病徴の植物にも存在する。microprecipitation(微量沈降試験)、ISEM(免疫捕捉電子顕微鏡法)、DAS-ELISA法を用いたウイルスの検出と同定のためにモノクローナルとポリクローナル抗体が開発された。この方法によって、アフリカとインドにおいて異なる血清型や血清グループが区別された。pecluvirusの宿主範囲はラッカセイとサトウキビ以外に広く存在する。さらに、穀類の種子伝染は、土壌中の伝染源の増大における重要性において、原生動物伝搬性の土壌伝染性ウイルスのユニークな特徴となっている。clump病はベクターのPolymyxa graminisの長期間の生存と宿主植物の抵抗性の欠如を別にすれば、生産者にとって深刻なことにはなっていない。最近の報告や調査ではこの病害の経済的な重要性は局地的に残っていることを強調している。
 この研究では、ウイルスの多様性、宿主植物における伝搬と移行に関するデータと新しい知見に基づいて、流行を助長する条件に関して種子と土壌伝染の役割を分析した。病害の拡散を防ぐシンプルな手段を提案した。

2. Pecluviruses
 peanut clump virusesは、Pecluvirus属に属しているが、かつては広義のFurovirusに属すると考えられていた。pecluvirusを他のウイルスと識別する基準は種子伝染、高いコートプロテインの多様性、読み過ごしタンパク質の欠如である。pecluvirusesのゲノムは分節しており、二つのpositive-sense(プラス鎖)、一本鎖のRNAから構成されている。RNA-1は6000 nt長でhelicaseとpolymeraseの機能をコードし、さらに恐らく種子伝染に関与する、転写後のジーンサイレンシングサプレッサーとして働く小型のシステインリッチタンパク質もコードする。P15タンパク質は、サブゲノムRNAによって発現される。RNA-2は4200n長で、コートプロテイン遺伝子、P. graminisによる伝搬に関与していると考えられているP39タンパク質、ウイルスの細胞間移行に関与しているtriple gene block(TGB)などのような構造タンパク質と非構造タンパク質をコードしている。P39は開始コドンの読みすごしによって発現され、サブゲノムRNAはTGBタンパク質の発現のために産生される。
 どちらのRNAも非翻訳領域が配置されている。3’末端の非翻訳領域はT-RNA様の構造を形成し、どちらのRNAにも保存されている。これは、複製を含むウイルスの機能に関与し、先端の「valylatability」の多様化によって示されている。2種のclump virusはコートプロテイン遺伝子の違いによって区別される。コートプロテインの知られている配列には高い多様性があり、それはいくつかの血清型による識別によっても確認されている。

3. Soil-borne transmission by Polymyxa graminis
 IPCVとPCVはPlasmodiophorales(ネコブカビ目)に分類される根への内部寄生性の絶対寄生性生物である。P.graminisは、Benyvirus、Bymovirus、Furovirus、Pecluvirus属の少なくとも15種のウイルスを伝搬する。P.graminisの5種の分化型が、ベルギー、カナダ、コロンビア、中国、フランス、ドイツ、インド、パキスタン、セネガル、英国の分離株のITS領域の塩基配列によって識別されている。これらの分化型は特徴的な生態的な特性と地理的な分布によっても特徴付けられている。
 pecluvirusesを媒介する分化型は、P.graminis f. sp. tropicalisとP.graminis f. sp. subtropicalisで、pearl millet、ソルガム、サトウキビの根に重い感染を引き起こす。これらの単子葉植物の種はベクターと保持するウイルスの増殖に良く適応しており、それらの作物がPCVやIPCV汚染土壌で栽培されると、ウイルスの感染源が増加する。対照的にラッカセイはそのような増殖をサポートしておらず、Polymyxaにとって不十分な宿主になっている。感染したときに多くのpearl milletやソルガム品種が無症状なのは、他のPolymyxa媒介ウイルスのようにはイノキュラムの増強が明らかではないことを意味している。
土壌中のP.graminis休眠胞子の生存能力は、汚染土壌のウイルスの生存を確実にし、宿主植物が存在しない土壌での長期間の感染源の持続を許している。さらに耕うんや灌漑による拡散と同様に、土壌中での生存能力がpeanut clump病の圃場での拡散に貢献している。これはBeet necrotic yellow vein virusを含む他のPolymyxa媒介ウイルスにも明らかで、好適な条件下では、長い期間をかけて土壌中の感染源を蓄積させていく。P.graminisのイノキュラムポテンシャルは、適温(23-30℃)、土壌水分、適した宿主(pearl millet、ソルガム)との組み合わせにより増加する。
P.graminisによるウイルスの獲得と伝搬についてはほとんど分かっていない。ウイルスフリーのP.graminis f sp. tropicalisを種子感染したpearl milletに接種し、制御環境下でPCV-Niの獲得と伝搬を証明した。

4. Seed transmission and vegetative propagation
 いくつかのマメ科のウイルスを含む例外があるが、植物ウイルスの種子伝染はまれである。イネ科のウイルスの種子伝染については、Barley stripe masaic virusを除けば、種子伝染率はやや低い。IPCVとPCVは種子で伝搬される。伝搬率は感染時のラッカセイの品種、感染の状況、齢によって異なる。伝搬率は土壌中からの伝搬では24%以下で、種子を通じては50%を超える。種子を通した伝搬は、植物の生育シーズンの前半に感染した場合に比べて、後半に感染した植物の場合は低い。イネ科の作物(pearl millet, finger millet, foxtail millet, トウモロコシ、コムギ)は、2%未満とかなり低く、伝搬を証明するのは難しい。それでも低率であってもウイルスの拡散に意味のある貢献がある。興味深いことに、ソルガム品種は根から芽へのウイルスの移動に抵抗性を示す。今まで、ソルガムでは種子伝染は証明されていない。
 12系統のpearl milletのPCVの種子伝染を、自然条件と制御条件下で評価したところ、16208の種子のうちわずか127(0.8%)がPCV-Nで陽性だった。この研究は以前にIPCVで示されたことを、PCVのpearl milletにおける種子伝染でも確認した。調査した品種の伝搬率の大きな変異が明らかにされ、種子伝染における抵抗性の選抜の余地が示唆された。これらの結果は、Pea seed-borne mosaic virusやBSMVを含む種子伝染性ウイルスから得られたことと同様であった。とりわけpearl millet品種BCP-16のPCVへの種子伝染抵抗性は、IPCVに対しても確認されれば、両ウイルスに対する種子伝染を阻止することができるpearl milletの育種に利用できるだろう。植物内のウイルスの分布の研究が示したのは、観察された抵抗性は他のイネ科の植物のといくぶん似ており、植物内の長期間のウイルスの移動に影響し、とりわけ花序が作られる成長点の頂部への移行に影響していることである。PCVは種子伝染で苗の根端部の92.8%から検出され、ウイルスの拡散への役割への懸念を高めた。種子伝染率の0~4.3%という範囲が記録され、系統による差は有意であった。
 種子伝染した植物において、PCVは有意な伝搬率の変化なしに次の世代に伝搬させる。これは、ウイルスの感染源は、P.graminisが存在しなくても、種子内のストックとして数シーズンのあいだ低レベルではあるが維持されることを示唆している。pearl milletの品種ICMH9804の8の花序から得られた1600の苗の試験により、花序の中の種子の位置によって伝搬率に有意な違いがあることが認められた。種子伝染率は花序の上部2/3が1.2%と1.0%、下部の1/3はわずか0.1%で有意に異なり、花序の構造が種子中のウイルスの分布に影響している可能性が推察された。

5 Virus distribution
 Peanut clump viruses(PCV)は、西アフリカとインド亜大陸に広く分布している。IPCVは、パキスタンとインドの4州で発生しており、少なくとも3の異なる血清型が存在している。IPCVは西アフリカの9の国でも発生しており、5の血清型が存在する。もっぱらこの病害は地域に特有で、通常、ラッカセイやサトウキビ圃場で部分的なパッチ状に発生している。
 pecluvirusの利用できるRNA-1とRNA-2の塩基配列に基づいた系統発生学的解析によれば、クラスターは地理的な起源になっている。IPCVの血清型または系統は、クラスターになっている。西アフリカにおいては、二つのはっきりとしたクラスターが見られる。一つのグループは主にマリの系統からなり、ニジェール系統の注目すべき例外を含んでいる。二つめは、RNA-1のP-15とRNA-2のシークエンスを統合して解析したときに明らかとなる、セネガルとブルキナファソで収集された系統からなる。
 pearl milletとソルガムが生育している地域とpeanut clumpが見いだされる地域の地図を重ね合わせると、明瞭な合致が明らかになる。そのようなデータはアフリカやインドにおいて長期間にわたりこれらのイネ科植物とウイルスが結びついているとの考え方を支持する。流行が生じるためには、ベクターのP.graminisが存在し、若い植物から植物への分散が促進される十分な水分が圃場に存在するか、病原を高率でコンタミをしているラッカセイの種子を用いるかを含む、好適な条件が同時に生じる必要がある。ウイルスとベクターにとって好適な宿主の相対的な寄与については、Delfosse(2000)とLegreve et al.(1996、2000)で強調されており、Fig. 5に要約されている。

6 Disease management
 IPCVとPCVの情報はここ30年でかなり増加している。今、明らかになったことはpecluvirusesはラッカセイのウイルスではなく、イネ科のウイルスでありラッカセイには日和見感染をしていると考えらることである。これらのウイルスの防除が難しいのは、種子でも土壌でも伝搬でき、切断されたサトウキビ茎(さし木用)やイネ科雑草の地下茎で無性的に増殖できるためである。それぞれの宿主植物に対する両方法の伝搬の機作を正確に理解することは、病害の正確な管理と防除に導くものである。機械による整地や灌漑の増加は、pecluvirusesの伝染病の進展に寄与する因子であり、P.graminisとウイルスによる圃場における病害の影響と拡がりを強める。そのため、すでに発生している圃場では、それらの使用は制限するべきである。もしコストのかかる種子の健全化プログラムを設立するなら、代わりに種子伝染に対して抵抗性のpearl milletの育成、ラッカセイの種子やサトウキビの挿し木用の茎の生産を病害が発生していない地域で行うことなどがこの病害の進展や拡散を軽減すると考えられる。pearl milletのP.graminisに対する抵抗性のスクリーニングは、品種による違いを示し、Legreveら2000で報告されたソルガムの場合と同様であった。花序の下部1/3からpearl milletの種子を採種するという農家に対するシンプルなアドバイスと、PCV汚染区画からのラッカセイの種子の採種を避けることは有益である。
 病害の拡散を防ぐそれらの方法は理想的には、Delfosse 2000で提案されているように代替作物と組み合わせるべきである。それにはおとり作物の栽培とPolymyxaの宿主以外のヒマワリやカラシナなどによる適切な輪作を含む。イネ科植物による長期の休閑栽培の土壌中のイノキュラムの増大への寄与は、病害の循環におけるその正確な役割の評価のために研究されなければならない



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